【ヘンダーソン】心不全 入院3日目(0005)

ヘンダーソン

事例の要約

慢性心不全の急性増悪により緊急入院となった72歳男性の事例である。入院3日目において、薬物療法と水分・塩分制限により症状の改善を認めており、今後は再発予防に向けた生活指導と退院支援を要する事例である。

この事例で勉強できること

心不全のアセスメント

今回の情報

基本情報

基本情報について、A氏は72歳の男性で、身長165cm、体重68kg(入院時)である。妻との二人暮らしで、近所に長男家族が在住しており、キーパーソンは妻である。職業は元電気工事士として40年間勤務し、5年前に退職している。性格は穏やかであるが、病気に関してはやや心配性な面がある。感染症の既往はなく、薬剤や食物に対するアレルギーもない。認知機能は正常で、日常生活に支障をきたすような認知機能の低下は認めていない。

病名

慢性心不全の急性増悪

既往歴と治療状況

10年前に慢性心不全と診断され、以降外来で経過観察されていた。治療開始当初は塩分制限や水分制限を遵守していたが、症状が安定していたことで次第に制限が緩くなっていた。その他の既往歴は特記事項がない。

入院から現在までの情報

入院の契機は1週間前からの両下肢浮腫の増悪と起座呼吸である。体重が1週間で5kg急増し、夜間の呼吸困難が強くなり眠れない状態となったため救急受診となった。心エコー検査では左室駆出率35%と低下しており、中等度の僧帽弁閉鎖不全を認めた。胸部レントゲンでは、心胸郭比65%、両側肺うっ血像、胸水貯留を認めた。

入院後の治療として、フロセミドの静注(20mg×2回/日)による積極的な利尿を開始し、心不全の基本治療としてβ遮断薬(カルベジロール10mg/日)とACE阻害薬(エナラプリル5mg/日)の内服を継続している。塩分制限(6g/日)、水分制限(1000mL/日)を徹底し、入院3日目で体重は2kg減少、呼吸困難感は軽減している。尿量は2000-2500mL/日と良好な利尿が得られている。起座呼吸は改善し、1-2枕での臥床が可能となっている。両下肢の浮腫は残存しているものの、圧痕の改善が認められている。入院3日目からは理学療法士による病室でのベッドサイドリハビリを開始している。

バイタルサイン

来院時のバイタルサインは、血圧148/92mmHg、脈拍92回/分と頻脈を認め、呼吸数24回/分と頻呼吸であった。SpO2は室内気で94%と軽度の低酸素血症を認めた。体温は36.7度であった。

現在(入院3日目)のバイタルサインは、血圧130/75mmHg、脈拍78回/分、呼吸数18回/分、SpO2は室内気で96%と改善を認めている。体温は36.5度で経過している。意識レベルは清明である。

食事と嚥下状態

入院前は妻が食事を全面的に管理していたが、以前から甘いものや塩辛いものを好む傾向があり、妻の目を盗んで間食やインスタント食品を摂取することがあった。嚥下機能に問題はない。飲酒は日本酒を2合/日摂取していたが、今回の入院を機に禁酒を決意している。喫煙歴はない。現在は心不全食(塩分6g/日制限)が提供され、水分制限(1000mL/日)も実施している。食事摂取量は7-8割程度である。

排泄

入院前は自立しており、1日6-7回程度の排尿があった。便通は1日1回で規則的であった。下剤の使用はなかった。現在は利尿剤の使用により尿量が2000-2500mL/日と増加しており、夜間も2-3回のトイレ歩行がある。便通は入院後2日目にあり、性状は普通便であった。下剤の使用は不要である。

睡眠

入院前は1週間ほど前から呼吸困難感により夜間の睡眠が妨げられており、起座位での睡眠を強いられていた。眠剤の使用はなかった。現在は呼吸困難感が改善し、1-2個の枕を使用して仰臥位での睡眠が可能となっている。入眠は良好で、眠剤は使用していない。ただし、夜間の排尿のため2-3回程度の覚醒がある。

視力・聴力・知覚・コミュニケーション・信仰

視力は軽度の老眼があり、新聞を読む際には老眼鏡を使用している。遠方視力は問題なく、日常生活に支障はない。聴力は正常で、普通の会話音量でのコミュニケーションが可能である。

知覚に関しては、四肢の感覚障害はなく、温度覚・痛覚ともに正常である。

コミュニケーションは良好で、言語理解力も表現力も問題ない。穏やかな性格で、医療者とのコミュニケーションも円滑である。

信仰は特になく、宗教上の制限や希望は認めていない。

動作状況

入院前の動作状況として、歩行は自立しており補助具は使用していなかったが、呼吸困難感により連続歩行距離は50m程度に制限されていた。移乗動作は自立していた。排泄動作は自立しており、トイレまでの移動も問題なく行えていた。入浴は自宅での一般浴を自立して行っており、介助は不要であった。衣類の着脱も自立していた。転倒歴はない。

現在の動作状況は、病棟内の歩行は見守りで行っており、トイレまでの移動時には看護師が付き添っている。これは心不全による活動制限のためである。ベッドからの起き上がりや移乗動作は自立しているが、動作時の息切れに注意が必要である。排泄動作は自立している。入浴は現在未実施であり、清拭で対応している。衣類の着脱は時間をかければ自立して行えるが、上着の着脱時に軽度の息切れがみられる。病棟内での転倒は発生していない。

内服中の薬
  • カルベジロール 5mg 1錠 朝食後
  • エナラプリル 2.5mg 1錠 朝食後
  • フロセミド 20mg 1錠 朝食後
  • スピロノラクトン 25mg 1錠 朝食後
  • フロセミド 20mg 静注 朝・夕(医師の指示で投与中)

服薬状況について、入院前は妻が薬の管理を行っており、内服の確認も妻が行っていた。自宅での内服コンプライアンスは良好であった。入院中は看護師管理とし、配薬カートを使用して看護師が内服の確認を行っている。内服の拒否はなく、確実に内服できている。今後も心不全の再発予防のため継続した服薬管理が必要な状態である。

検査データ
検査項目基準値入院時入院3日目
WBC4.0-8.0×10³/μL9.27.8
RBC4.2-5.5×10⁶/μL4.54.4
Hb13.0-17.0 g/dL12.512.3
Ht40.0-50.0 %38.537.8
Plt15.0-35.0×10⁴/μL22.523.1
TP6.7-8.3 g/dL6.26.8
Alb3.8-5.2 g/dL2.83.1
AST13-33 IU/L2825
ALT8-42 IU/L3230
LDH119-229 IU/L245215
γ-GTP10-47 IU/L5552
BUN8-20 mg/dL2824
Cre0.6-1.1 mg/dL0.90.8
Na138-146 mEq/L135140
K3.6-4.9 mEq/L4.24.0
Cl99-109 mEq/L96102
BNP<18.4 pg/mL850650
CRP<0.14 mg/dL0.850.42
BS70-109 mg/dL11598
HbA1c4.6-6.2 %6.56.5
今後の治療方針と医師の指示

心不全の安定化を目標に、現在の薬物療法を継続しながら、心不全の増悪兆候がないか慎重に観察を続ける。利尿剤の静注は症状の改善に応じて漸減していく予定である。水分制限(1000mL/日)と塩分制限(6g/日)は継続とし、管理栄養士による食事指導を実施予定である。また、理学療法士によるリハビリテーションを段階的に進め、活動範囲の拡大を図っていく。心不全手帳を用いた自己管理指導を実施し、退院後の生活管理についても指導を行う。地域包括支援センターと連携し、退院後の生活支援体制の整備を進めていく方針である。医師からは、バイタルサインの継続的な観察、体重の毎日の測定、尿量の測定、心不全症状の観察が指示されている。

本人と家族の想いと言動

A氏は「息苦しさが良くなってきて、少し楽になった」と症状の改善を実感している。また、「今回の入院を機に、きちんと管理していきたい」と、治療や生活改善に対して前向きな姿勢を示している。一方で、「また症状が悪くなるのではないか」という不安も口にしている。妻は「長男家族の支援も得られそうなので、頑張って夫の療養を支えていきたい」と協力的な姿勢を示している。ただし、塩分制限食の調理に対する不安も表出しており、「具体的な調理方法を教えてほしい」と希望している。長男家族も定期的な訪問を約束しており、家族による支援体制は整いつつある。

この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり

看護の攻略部屋wiki

看護学生をお助け | 看護過程の見本 | 完全無料でコピー&ペースト(コピペ)OK


コメント

タイトルとURLをコピーしました