【ヘンダーソン】脳梗塞 左片麻痺(0003)

ヘンダーソン

事例の要約

85歳の男性A氏は、突然の左半身麻痺と言語障害により発症から2時間以内にrt-PA療法を実施し、その後リハビリテーションを行っている右中大脳動脈領域の脳梗塞の事例。介入は入院7日目である。

この事例で勉強できること

脳梗塞後・左半身麻痺・言語障害・転倒転落のアセスメント

今回の情報

基本情報

A氏は身長165cm、体重58kgの85歳男性である。元高校数学教師で、温厚で几帳面な性格の持ち主である。家族構成は82歳の妻、45歳の長男、42歳の長男の妻、中学生と小学生の孫2人との3世代同居である。キーパーソンは妻であり、発症前から服薬管理を担当するなど、夫の健康管理に積極的に関わっている。

病名

右中大脳動脈領域の脳梗塞

既往歴と治療状況

高血圧(罹患期間15年):アムロジピン5mg/日を内服
糖尿病(罹患期間10年):メトホルミン500mg/日を内服
いずれも妻が服薬管理を行い、継続的に治療中である。

入院までの経緯

A氏は庭の手入れをしている最中に突然の左半身の脱力感と言語障害を自覚した。家族により救急要請され、搬送時の意識レベルはJCSⅠ-2、左上下肢の麻痺が顕著であった。救急搬送後のMRI検査で右中大脳動脈領域の脳梗塞と診断され、発症から2時間以内であったため、直ちに血栓溶解療法(rt-PA療法)が開始された。発症前は、趣味の盆栽の手入れと散歩(1日4000歩程度)を日課とし、週に1回は地域の将棋サークルに参加するなど活動的な生活を送っていた。また、地域の学習支援ボランティアとしても活動していた。

入院から現在までの情報

入院後、rt-PA療法を実施し、現在は抗凝固療法(クロピドグレル75mg/日)を継続している。言語機能は徐々に改善し、発語明瞭度は3/5まで回復したが、左半身の麻痺は残存している(ブルンストロームテスト:上肢Ⅲ、手指Ⅲ、下肢Ⅳ)。嚥下機能の低下(MWST:3点)により、現在はとろみ食を摂取している。排泄はポータブルトイレを使用しているが、移乗時には介助を要する。また、環境の変化による不眠を訴えることが多く、夜間の不穏も時折見られ、睡眠時間は4-5時間程度で断続的である。日中は1~2回/日の個別リハビリテーションを意欲的に実施している。現在のFIMは運動項目45点、認知項目25点である。

バイタルサイン

入院時のバイタルサインは血圧178/98mmHg、脈拍88回/分、体温36.8℃、SpO2 96%であった。現在(入院7日目)は血圧142/82mmHg、脈拍72回/分、体温36.7℃、SpO2 97%と安定している。

食事と嚥下状態・喫煙と飲酒

入院前は常食を自力で摂取し、食事量も良好であった。現在は嚥下機能の低下(MWST:3点)により、誤嚥予防のためとろみ食を摂取している。食事時は体幹を30度挙上し、頸部を軽度屈曲位にして、ゆっくりと摂取するよう促している。水分摂取時はとろみ剤を使用し、食事量は7-8割程度である。

喫煙歴は20歳から60歳まで1日20本程度あったが、定年退職を機に禁煙し、現在は喫煙していない。飲酒は機会飲酒程度で、将棋サークル後の懇親会で缶ビール1本程度を飲む習慣があったが、入院後は禁酒している。

排泄

入院前はトイレまで自力歩行し、排泄は自立していた。現在は左半身麻痺により、ポータブルトイレを使用しているが、移乗時には介助を要する。排尿は日中6-7回、夜間2-3回程度で、排便は1日1回の規則的な排泄パターンを維持している。下剤の使用は現在のところ必要としていない。

睡眠

入院前は21時から翌朝6時まで良眠できており、日中の活動も活発であった。現在は環境の変化による不眠を訴えることが多く、夜間の不穏も時折見られる。睡眠時間は4-5時間程度で断続的であり、特に夜間のトイレ介助の際に覚醒してしまうことが多い。眠剤等の使用は、本人と相談の上、現在は使用していない状況である。

視力・聴力・知覚・コミュニケーション・信仰

視力は軽度の老眼があり、新聞を読む際は老眼鏡を使用している。聴力は左右ともに会話に支障のない程度である。知覚については、左半身の感覚鈍麻があり、特に左上肢の表在感覚と深部感覚の低下が顕著である。温冷覚も左半身で低下が認められる。
コミュニケーションについては、脳梗塞発症直後は失語症状が認められたが、現在は発語明瞭度3/5まで改善している。簡単な日常会話は可能で、質問への応答も概ね問題なく行えるが、複雑な内容を話す際は時間を要する。声量は十分で、表情も豊かである。理解力は保たれており、医療者の指示も適切に理解できている。
信仰は仏教で、自宅には仏壇があり、毎朝神棚に向かって拝むことを日課としていた。入院中も枕元に小さな仏像を置き、心の安寧を得ている。

動作状況

入院前は自立歩行が可能で、1日4000歩程度の散歩を日課としていた。現在は左半身麻痺(ブルンストロームテスト:上肢Ⅲ、手指Ⅲ、下肢Ⅳ)により、歩行は平行棒内での介助歩行を行っている段階である。移乗動作は看護師の見守りと軽介助を要し、特にポータブルトイレへの移乗時は安全確保のため介助を必要としている。
排尿・排便動作は左手の麻痺により下衣の上げ下ろしに介助を要する。入浴は週3回、シャワー浴を実施しているが、バランス低下のため看護師2名で介助を行っている。衣類の着脱は、上衣は前開きのものを使用し、麻痺側から着て健側から脱ぐよう指導しているが、ボタンの掛け外しには介助を要する。下衣の着脱は全介助を必要としている。
転倒歴については、入院前は特になく、入院後も病棟スタッフの見守りと介助により、現在まで転倒の既往はない。ベッド柵やナースコールを適切に使用し、安全な療養環境の確保に努めている。

認知力

脳梗塞発症前は日常生活や地域でのボランティア活動など、認知機能は良好であった。入院後の認知機能評価では、MMSE 26点、HDS-R 25点であり、軽度の認知機能低下が認められる。主に見当識と記憶の項目で減点が見られるが、これは環境の変化や睡眠障害の影響も考えられる。時間の見当識は時折曖昧になることがあるが、人物の認識や場所の理解は保たれており、医療者の指示理解も良好である。FIMの認知項目は25点であり、コミュニケーション、社会的認知ともに日常生活に支障のない程度が保たれている。

内服中の薬

アムロジピン5mg(降圧剤):1回1錠 1日1回 朝食後
メトホルミン500mg(糖尿病薬):1回1錠 1日1回 朝食後
クロピドグレル75mg(抗血小板薬):1回1錠 1日1回 朝食後
※内服管理は妻が行っている。入院中は看護師管理。

検査データ
検査項目基準値入院時現在(入院7日目)
TP6.5-8.2g/dL5.8g/dL6.2g/dL
ALB3.8-5.2g/dL3.2g/dL3.4g/dL
BUN8-20mg/dL25mg/dL22mg/dL
Cr0.6-1.1mg/dL1.2mg/dL1.0mg/dL
Na135-145mEq/L140mEq/L138mEq/L
K3.5-5.0mEq/L4.2mEq/L4.0mEq/L
血糖値70-110mg/dL165mg/dL132mg/dL
HbA1c4.6-6.2%7.2%6.8%
WBC4,000-9,000/μL9,800/μL7,200/μL
RBC400-550万/μL420万/μL415万/μL
Hb13-17g/dL13.2g/dL13.0g/dL
PLT15-35万/μL22.5万/μL21.8万/μL
AST10-40U/L45U/L32U/L
ALT5-45U/L48U/L35U/L
CRP0.3mg/dL以下2.8mg/dL0.8mg/dL
今後の治療方針と医師の指示

現在、抗凝固療法(クロピドグレル75mg/日)を継続しながら、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士による包括的なリハビリテーションを実施している。主な治療目標は、左半身の麻痺の改善、嚥下機能の回復、そして自宅退院に向けた日常生活動作の向上である。

病棟内のADLは看護師の見守りと介助のもと許可されており、平行棒内での歩行訓練もPTの指導のもと実施可能である。食事は誤嚥予防のため、とろみ食とし、水分にはとろみ剤を使用している。摂取時は30度のギャッジアップを必要とする。リハビリテーションは理学療法士、作業療法士、言語聴覚士による介入を1~2回/日実施し、離床時間の拡大を図っている。

バイタルサインの測定は1日3回(朝・昼・夕)とし、血圧160/90mmHg以上、SpO2 95%以下での報告指示がある。頓用薬として、発熱時(38℃以上)にはカロナール(200)1錠、不眠時にはレンドルミン(0.25)1錠(深夜0時まで)、血圧180/100mmHg以上の場合はアダラートCR(10)1錠の使用が指示されている。検査は1週間毎の血液検査と週2回の朝食前血糖値測定を行う。

転倒・転落予防のためベッド柵3点使用とし、シャワー浴は看護師2名での介助により実施可能である。退院に向けて週1回の担当者カンファレンスを開催し、ケアマネージャーと連携しながら介護保険サービスの調整を進めている。また、基礎疾患である高血圧と糖尿病の管理を継続し、再発予防に努める方針である。

本人と家族の想いと言動

A氏は「こんな状態では家族に迷惑をかけるばかりだ」と自身の状態を気にかけており、特に夜間のトイレ介助を申し訳なく思っている。リハビリテーションには意欲的に取り組んでいるが、左半身の麻痺による動作制限に対するストレスを感じており、「早く家に帰って盆栽の世話がしたい」と自宅での生活への思いを語っている。
妻は「私たち家族がいるから心配しないで」と声をかけ、介護への参加意思を示しており、医療者の指導を熱心に聞き、介助方法の習得に意欲的である。長男家族も「父のことは家族で支えていきたい」と話すなど、家族全体でA氏の回復を支援する姿勢が見られる。

この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり

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