【ヘンダーソン】アルツハイマー型認知症 入院7日目(0007)

ヘンダーソン

事例の要約

アルツハイマー型認知症と診断され5年が経過した83歳女性が、自宅で転倒し入院となった事例である。30年間小学校教諭として勤務していた患者は、夫の他界後に認知症症状が急速に進行し、長男夫婦との同居を機に医療機関を受診していた。入院後は環境の変化により見当識障害が悪化し、教師時代の記憶と現実が混在した発言が増加。さらに誤嚥性肺炎を合併し、食事摂取量が著しく低下している。長男の妻が献身的にケアを続けているものの、介護負担が限界に近づいており、今後の療養方針の検討が必要な状況である。20XX年1月15日入院、介入7日目の事例である。

この事例で勉強できること

アルツハイマー型認知症のアセスメント

今回の情報

基本情報

A氏は83歳の女性で、身長148cm、体重42kg。30年間小学校教諭として勤務し、退職後は趣味の園芸を楽しんでいた。現在は長男夫婦と3人暮らしで、キーパーソンは同居している長男の妻である。夫は2年前に他界している。温厚で几帳面な性格であり、教師時代は生徒思いで信望が厚かった。感染症の既往はなく、花粉症のアレルギーがある。認知機能については、HDS-Rの点数が3年前22点、2年前18点、1年前15点、直近(20XX年1月)では12点と進行性の低下を示している。

病名

アルツハイマー型認知症、誤嚥性肺炎、パーキンソニズム

既往歴と治療状況

5年前にアルツハイマー型認知症と診断され、ドネペジルの内服を開始している。認知症の進行に伴いBPSDが出現し、2年前からクエチアピンの投与が開始された。また、1年前からパーキンソニズムに対してレボドパ・カルビドパ配合錠による治療が行われている。高血圧症に対して降圧薬を内服中である。

入院から現在までの情報

20XX年1月15日、自宅で転倒し救急搬送された。入院後は環境の変化により見当識障害が増悪し、「ここは学校?」「授業の準備をしないと」などの発言が頻回にみられるようになった。入院3日目より発熱と呼吸状態の悪化を認め、誤嚥性肺炎と診断された。抗生剤投与が開始されたが、食事摂取量は著しく低下し、拒否的な態度もみられている。入院7日目の現在も誤嚥性肺炎の治療を継続中である。

バイタルサイン

来院時は体温36.8℃、脈拍78回/分・整、血圧142/88mmHg、呼吸数18回/分、SpO2 96%(室内気)であった。現在(入院7日目)は体温37.8℃、脈拍92回/分・整、血圧136/82mmHg、呼吸数24回/分、SpO2 93%(酸素2L/分 経鼻カニューレ)である。呼吸音は両側下肺野で湿性ラ音を聴取している。

食事と嚥下状態

入院前は長男の妻が準備した食事を自力で摂取していたが、食事の途中で忘れてしまうことや、むせ込みが時々みられていた。嚥下機能の低下により、食形態は常食から一口大に変更されていた。現在は認知機能低下と誤嚥性肺炎の影響により、全介助での食事摂取となっている。食事形態はミキサー食で、とろみ剤を使用し、一回量を少なくして時間をかけて摂取している。摂取量は3割程度で、拒否がみられることもある。喫煙歴、飲酒歴はない。

排泄

入院前は日中のトイレ動作は自立していたが、夜間は失禁がみられることがあった。現在はベッド上での安静が必要であり、オムツを使用している。排便コントロールは良好で、下剤の使用はない。

睡眠

入院前は夕方からの帰宅願望や夜間の不穏があり、「家に帰りたい」「主人が待っているの」との訴えが強く、不眠がみられていた。クエチアピンの内服により、不穏は若干改善していた。現在は日中の覚醒が悪く、夜間も環境の変化により睡眠リズムが乱れている。眠剤は使用していない。

視力・聴力・知覚・コミュニケーション・信仰

視力は軽度の老眼があり、読書時には眼鏡を使用している。聴力は年齢相応で、普通の会話は可能である。知覚に関して、温痛覚や触覚に異常はない。コミュニケーションについては、簡単な質問への応答は可能だが、内容の一貫性を欠くことが多い。特に教師時代の長期記憶は保たれており、その時期の話をすると表情が明るくなる。信仰は特にない。

動作状況

入院前は室内での歩行は自立していたが、パーキンソニズムの影響で小刻み歩行がみられ、屋外では杖を使用していた。移乗動作は自立していたものの、動作が緩慢で見守りを要していた。排泄は日中であれば自力でトイレまで移動し、動作も可能であった。入浴は長男の妻の介助のもと、週3回自宅の浴室で行っていた。更衣は自立していたが、着る順番を間違えることがあり、見守りを要していた。転倒歴については、今回の入院の3ヶ月前に自宅で転倒し、右膝を打撲している。現在は誤嚥性肺炎の治療のため、ベッド上での安静が必要な状態である。

内服中の薬

・ドネペジル錠5mg 1回1錠 1日1回 朝食後
・クエチアピン錠25mg 1回1錠 1日1回 夕食後
・レボドパ・カルビドパ配合錠 1回1錠 1日3回 毎食後
・アムロジピン錠5mg 1回1錠 1日1回 朝食後
・セフトリアキソン注射用1g 1回1g 1日2回 点滴静注(肺炎治療のため)

服薬管理について、当初は本人が管理していたが、内服忘れや重複服用があったため、入院前は長男の妻が管理していた。現在は看護師管理となっており、内服時は看護師が確実に服用できているか確認している。

検査データ
検査項目基準値入院時(1/15)現在(1/22)
WBC3300-8600/μL1250010800
RBC386-492×10⁴/μL389382
Hb11.6-14.8g/dL10.810.2
Ht35.1-44.4%32.531.8
Plt15.8-34.8×10⁴/μL22.524.2
TP6.6-8.1g/dL6.25.8
Alb4.1-5.1g/dL3.22.8
AST13-30U/L2825
ALT7-23U/L1816
BUN8-20mg/dL2628
Cre0.46-0.79mg/dL0.680.72
Na138-145mEq/L140138
K3.6-4.8mEq/L4.24.0
Cl101-108mEq/L104102
CRP0-0.14mg/dL3.82.6
血糖73-109mg/dL98102
今後の治療方針と医師の指示

今後の治療方針として、誤嚥性肺炎に対する抗生剤治療を継続しながら、安全な経口摂取の確立を目指している。医師からは、誤嚥予防のため30度以上のギャッジアップを保持すること、食事は必ずとろみ剤を使用し、一回量を少なくして時間をかけて摂取すること、SpO2が90%以下となった場合は酸素流量を3L/分まで調整可能との指示が出ている。また、認知機能維持と生活リズム調整のため、日中の覚醒を促し、リハビリテーション科と連携してベッドサイドでの運動を実施することとなっている。退院後の療養環境について、介護保険サービスの利用拡大や施設入所も含めた検討が必要との見解が示されており、来週に多職種カンファレンスを予定している。

本人と家族の想いと言動

本人と家族の想いについて、A氏本人は「ここは学校?」「授業の準備をしないと」といった発言が多く、現状を十分に理解できていない様子である。時折、「家に帰りたい」「主人が待っているの」と不安な様子を見せる一方で、教師時代の思い出を語る際は表情が明るくなる。家族については、長男の妻が「できるだけ家で看たいのですが、夜も眠れず体力的に厳しくなってきました」と介護の限界を訴えている。また、「認知症が進んでしまって、どう接していいのか分からなくなることがあります」と不安を口にしており、今後の療養方針について具体的な助言を求めている。長男は仕事が忙しく、平日の面会は難しい状況だが、週末は必ず来院し、母の状態を心配している。

この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり

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