【脳腫瘍】疾患解説と看護のポイント

疾患解説

疾患概要

定義

脳腫瘍とは、頭蓋骨の内部にある脳や脳を覆う髄膜、下垂体など頭部に生じた腫瘍の総称です。大きく分けて、脳内の細胞から発生する一次性脳腫瘍と、他の臓器がんが脳に転移する二次性脳腫瘍に分類されます。一次性脳腫瘍は、さらに良性と悪性に分けられ、悪性腫瘍は脳癌(グリオーマなど)と呼ばれます。

疫学

脳腫瘍の発症頻度は人口10万人あたり10~15人程度で、比較的稀な疾患です。一次性脳腫瘍の中では髄膜腫が最も多く、次にグリオーマ(グリオブラストーマやアストロサイトーマなど)が多いです。年齢分布は二峰性を示し、小児では脳幹グリオーマや髄芽腫が、成人では髄膜腫やグリオーマが多い傾向にあります。性別による大きな差異はありませんが、髄膜腫は女性にやや多いという報告もあります。

原因

脳腫瘍の発症原因は不明な場合が多いですが、いくつかの危険因子が知られています。遺伝的素因として、神経線維腫症1型や2型、フォン・ヒッペル・リンダウ病などの遺伝性疾患が関連しています。環境要因としては、電磁場への長期曝露、過去の頭部外傷、免疫不全状態などが挙げられます。また、他臓器のがんからの転移も二次性脳腫瘍の主な原因であり、肺がんや乳がんからの転移が多いです。


病態生理

脳腫瘍が発症するメカニズムは、脳の細胞に遺伝子異常が生じ、異常な細胞増殖が起こることです。腫瘍が成長するにつれて、周囲の脳組織を圧迫し、脳浮腫を引き起こします。脳は頭蓋骨で囲まれた閉鎖空間であるため、内圧が上昇し、これが 頭蓋内圧亢進 をもたらします。頭蓋内圧が上昇すると、脳血流が低下し、神経細胞の虚血と機能障害が進行します。腫瘍の場所によって、脳脊髄液の流路が閉塞されると水頭症を生じることもあります。さらに腫瘍が脳神経や脳幹を圧迫する場合は、神経脱落症状として特定の神経症状が出現します。悪性腫瘍では浸潤性の増殖と転移のリスクがあり、病態がより急速に進行する傾向にあります。


症状・診断・治療

症状

脳腫瘍の症状は腫瘍の大きさ、位置、性質によって大きく異なります。最も一般的な症状は 頭痛 で、朝方に強く、しばしば嘔吐を伴う頭蓋内圧亢進の頭痛です。この頭痛は通常の緊張型頭痛と異なり、進行性で反復的な特徴があります。次に多いのは 嘔吐 で、特に朝食後や起床時に見られやすいです。視覚障害として視力低下や視野狭窄、複視なども起こります。神経脱落症状として、片麻痺や感覚障害、言語障害、失調、けいれん発作なども腫瘍の部位に応じて出現します。認知機能の低下や性格変化、意識障害などの精神神経症状も見られることがあります。小児では、これらに加えて成長障害や発達遅滞が問題になることもあります。

診断

脳腫瘍の診断は、臨床症状の評価と神経学的診察から始まります。MRI検査 は脳腫瘍の診断の中心であり、腫瘍の位置、大きさ、形状、周囲の浮腫の程度を詳細に把握できます。造影剤を使用することで、血液脳関門の破綻の有無も評価できます。CT検査は骨の破壊や石灰化の有無を評価するのに有用で、緊急時の頭蓋内出血の評価にも使用されます。確定診断には病理組織診断が必要であり、腫瘍の生検や手術により採取した組織の組織学的検査が行われます。WHO分類により、腫瘍の悪性度グレード(グレード1~4)が判定されます。さらに、功能画像検査(fMRIやPET)により、腫瘍周囲の脳機能の分布を把握することも重要です。

治療

脳腫瘍の治療方針は、腫瘍の種類、大きさ、位置、患者の全身状態、年齢などを総合的に判断して決定されます。良性腫瘍で無症状の場合は、定期的な画像検査による経過観察が選択されることもあります。手術治療は主要な治療法で、腫瘍の全摘出を目指しますが、脳の重要な機能領域に接近している場合は部分摘出に留まることもあります。放射線治療は、手術では完全に摘出できない場合や手術不可能な場合に行われ、外部放射線照射や定位放射線治療が用いられます。化学療法は、悪性度の高い腫瘍や進行性の腫瘍に対して行われ、テモゾロミドなどの脳腫瘍に対する化学療法薬が使用されます。また、頭蓋内圧亢進に対する対症療法として、ステロイド薬や利尿薬、抗けいれん薬などが投与されます。


看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

  • 脳脊髄液循環障害による頭蓋内圧亢進に関連した頭痛と嘔吐
  • 腫瘍による脳組織圧迫に関連した神経脱落症状(運動麻痺、感覚障害、言語障害など)
  • けいれん発作のリスク
  • 認知機能障害や性格変化に関連した日常生活動作の自立度低下
  • 治療に伴う副作用(放射線の晩期障害、化学療法の有害事象)への対応
  • 予後に対する不安と心理的サポート

ゴードン機能的健康パターン

知覚・認知パターン 頭痛や視覚障害の有無と程度を継続的に評価することが重要です。起床時や朝方の頭痛悪化、嘔吐を伴う頭痛は脳腫瘍特有の症状であり、詳細な経過記録が治療効果判定に役立ちます。

活動・運動パターン 麻痺や失調の程度を評価し、転倒・転落のリスク管理が必須です。特に術後や放射線治療中は、バランス感覚や筋力の変化に注意が必要です。

自己知覚・自己概念パターン 神経脱落症状や認知機能障害による自己イメージの変化や、予後不良な場合の絶望感への心理的対応が求められます。

排泄パターン ステロイド使用時の便秘や利尿薬使用時の脱水に配慮が必要です。

栄養・代謝パターン 嘔吐により栄養摂取が低下する場合が多く、栄養管理と経口摂取の工夫が重要です。

ヘンダーソン14基本的ニード

正常な呼吸のニード 腫瘍が脳幹を圧迫する場合、呼吸中枢への影響を常に監視する必要があります。術後は特に呼吸管理が重要です。

食べたり飲んだりするニード 嘔吐により経口摂取が困難な場合が多く、栄養管理と嘔吐予防が重要です。

排泄のニード ステロイド薬による便秘、利尿薬による頻尿と脱水に対応します。

清潔・衛生のニード 麻痺がある場合の入浴や身体清潔の援助、感染予防(特に手術後)が重要です。

身体の安全のニード 転倒・転落予防、発作予防、頭部外傷予防が最優先です。

感覚・快適性のニード 頭痛やその他の痛みのコントロール、環境の調整(騒音軽減、照度調整)が患者の快適性向上に役立ちます。

精神的・心理的なニード 患者と家族の不安軽減、予後に関する情報提供と心理的支援が極めて重要です。

看護計画・介入の内容

  • 神経学的検査(瞳孔反応、意識レベル、運動感覚機能、脳神経機能)を定期的に実施し、患者の状態変化を早期に察知する
  • 頭蓋内圧亢進の症状(頭痛、嘔吐、意識障害、瞳孔散大)を継続的にモニタリングし、異常時は直ちに医師に報告する
  • 転倒・転落予防として、ベッド周囲の環境整備、適切な照明確保、必要時にはサイドレール装着やベッド柵設置を行う
  • けいれん発作予防として、抗けいれん薬の服用状況を確認し、発作時の対応体制(気道確保、体位保持)を整える
  • 麻痺や感覚障害がある場合は、関節拘縮予防のための受動的・自動的運動、体位変換を定期的に実施する
  • 栄養摂取の工夫として、嘔吐予防の食事時間の設定、食事内容の工夫、経管栄養の管理などを行う
  • 疼痛管理として、頭痛の性質、発生時間、程度を詳細に評価し、薬物・非薬物療法を組み合わせて対応する
  • 放射線治療や化学療法を受ける患者に対して、副作用についての事前説明と対症療法を行う
  • 患者・家族の心理的不安に対して、傾聴と共感的対応を行い、必要に応じて医療ソーシャルワーカーやカウンセラーの紹介を行う
  • 退院後の生活指導として、症状悪化時の対応方法、定期検査の重要性、服薬管理などを説明する

よくある疑問・Q&A

Q: 脳腫瘍の患者に見られる朝方の頭痛はなぜ起こるのですか?

A: 夜間、患者は仰臥位で休んでいます。この時、脳腫瘍によって脳脊髄液の流路が圧迫されている場合、液体の移動が制限され、頭蓋内圧がさらに上昇します。また、夜間に脳の代謝産物が蓄積され、朝方にそれが脳脊髄液の圧上昇として顕在化します。これが起床時の強い頭痛と嘔吐につながるのです。

Q: 脳腫瘍患者の運動麻痺に対して、看護師はどのような運動療法を行うべきですか?

A: 麻痺の程度によって対応が異なります。完全麻痺の場合は、関節拘縮予防のため医学的根拠に基づいた受動的運動を1日2~3回、各関節を通常の可動域内で動かします。部分的な機能が残っている場合は、患者の努力による自動的運動を促進し、理学療法士と協働して段階的なリハビリテーションを行います。重要なのは、早期から介入を開始し、患者のモチベーション維持と機能回復の可能性を支援することです。

Q: 抗けいれん薬を服用している患者への看護で注意すべき点は何ですか?

A: 抗けいれん薬の血中濃度を適切に保つため、定時服用の確実な実施が最優先です。飲み忘れやしばしば嘔吐がある患者では、服用状況の確認と適切な対応が重要です。また、抗けいれん薬は眠気やふらつき、集中力低下などの副作用をもたらすため、患者の安全確保(転倒予防)と適応状況の観察が不可欠です。定期的な血液検査で血中濃度と肝機能をモニタリングする必要もあります。

Q: 脳腫瘍患者に対する放射線治療中、看護師はどのようなケアを提供すべきですか?

A: 放射線治療中は、皮膚障害、脱毛、疲労、認知機能の変化などの副作用が生じる可能性があります。皮膚障害予防のため、放射線照射部位の皮膚を清潔に保ち、刺激の少ないケアを心がけます。脱毛に対しては、患者の心理的負担を軽減するため、ウィッグの提供などの支援が有効です。疲労に対しては、十分な休息と栄養摂取、定期的な活動と休息のバランスを支援します。認知機能の変化に対しては、患者と家族に対して、これが一時的な可能性があることを説明し、過度な心配を軽減することが重要です。


まとめ

脳腫瘍は、脳内の腫瘍増殖に伴う 頭蓋内圧亢進神経脱落症状 が主要な病態です。看護の中心は、患者の神経学的変化を敏感に察知し、早期に異常を医師に報告することにあります。頭痛、嘔吐、けいれんなどの症状は腫瘍の進行を示す重要な信号であり、単なる対症療法に留まらず、その背景にある病態変化を理解することが重要です。

転倒・転落予防、栄養管理、疼痛コントロール、そして心理的サポートは、脳腫瘍患者の生活の質を維持するための基本的な看護介入です。特に、予後不良な場合が多い脳腫瘍では、患者と家族の心理的負担が極めて大きくなります。治療中だけでなく、終末期ケアや緩和ケアの局面でも、患者の尊厳を守り、家族の悲嘆を支える看護が求められます。

実習では、担当患者の腫瘍の位置と性質から予想される症状を理解し、実際の患者の状態と照らし合わせることで、病態と臨床症状の関連性を深く学ぶことができます。腫瘍位置と神経脱落症状の関係、頭蓋内圧亢進の症候群、そして治療に伴う変化を追うことで、脳の構造と機能、そして疾患による変化を包括的に理解できるようになります。


免責事項

本記事は教育・学習目的の情報提供です。

・一般的な医学知識の解説であり、個別の患者への診断・治療の根拠ではありません

・実際の看護実践は、患者の個別性を考慮し、指導者の指導のもと行ってください

・記事の情報は公開時点のものであり、最新の医学的知見と異なる場合があります

・本記事を課題としてそのまま提出しないでください

・正確な情報提供に努めていますが、内容の完全性・正確性を保証するものではありません

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