【疾患解説】アルツハイマー型認知症

疾患解説

疾患概要

定義

アルツハイマー型認知症は、脳内にアミロイドβ蛋白とタウ蛋白が異常に蓄積することで神経細胞が変性・脱落し、進行性の認知機能障害をきたす疾患ですね。認知症の中で最も頻度が高く、全認知症の約60-70%を占めています。

疫学

65歳以上の高齢者では年齢とともに有病率が上昇し、85歳以上では約30%の方が発症します。女性の方が男性よりもやや多く発症する傾向があり、これは女性の方が長寿であることと関連していると考えられています。日本では現在約600万人の認知症患者さんがいると推計されており、そのうち約400万人がアルツハイマー型認知症とされています。

原因

主な原因はアミロイドβ蛋白の異常蓄積です。正常な状態では分解・排出されるアミロイドβ蛋白が、何らかの原因で脳内に蓄積し、老人斑を形成します。その結果、神経細胞内でタウ蛋白が異常にリン酸化され、神経原線維変化が起こり、神経細胞の死滅につながります。遺伝的要因(家族性アルツハイマー病は全体の5%程度)、生活習慣病、頭部外傷、教育歴なども関連要因として挙げられています。

病態生理

病態の進行は段階的に起こります。まず海馬から病変が始まり、記憶に関する機能が最初に障害されます。その後、頭頂葉、側頭葉、前頭葉へと病変が広がり、言語機能、視空間認知機能、実行機能などが順次障害されていきます。脳の萎縮は全体的に進行しますが、特に側頭葉内側部の萎縮が特徴的です。神経伝達物質では、アセチルコリンの減少が記憶・学習機能の低下に大きく関与しています。

症状・診断・治療

症状

初期症状としてもの忘れが最も多く見られます。ただし、単なる加齢による忘れっぽさとは異なり、体験したこと自体を忘れてしまう(例:食事をしたこと自体を忘れる)のが特徴です。進行とともに、時間や場所の見当識障害、判断力の低下、言語機能の障害(失語)、日常生活動作の障害(失行)、物や人の認識ができなくなる(失認)などが現れます。また、不安、抑うつ、興奮、徘徊、妄想などの行動・心理症状(BPSD)も重要な症状として現れることが多いですね。

診断

診断は主に臨床症状と神経心理学的検査に基づいて行われます。長谷川式認知症スケール(HDS-R)やMini-Mental State Examination(MMSE)などの認知機能検査が広く使用されています。画像検査では、MRIで海馬の萎縮や脳全体の萎縮を確認し、SPECTやPETで脳血流や糖代謝の低下を評価します。近年では、アミロイドPETやタウPETによる病理学的診断も可能になってきています。除外診断として、甲状腺機能低下症、ビタミンB12欠乏症、正常圧水頭症などの治療可能な認知症の鑑別も重要です。

治療

現在のところ根本的な治療法はありませんが、症状の進行を遅らせる治療が行われています。コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)は軽度から中等度に効果があり、NMDA受容体拮抗薬(メマンチン)は中等度から重度に使用されます。最近では、アミロイドβに対する抗体薬(アデュカヌマブ)も承認されましたが、効果については議論が続いています。薬物療法と併せて、非薬物療法として回想法、音楽療法、運動療法なども重要な治療選択肢です。

看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

・記憶障害に関連した混乱
・見当識障害に関連した転倒リスク状態
・認知機能低下に関連したセルフケア不足
・コミュニケーション障害に関連した社会的孤立
・家族の介護負担に関連した家族機能の変調
・徘徊行動に関連した身体損傷リスク状態
・睡眠パターンの混乱
・栄養摂取不足のリスク状態
・皮膚統合性障害のリスク状態

ゴードンのポイント

健康知覚・健康管理パターンでは、病識の欠如により服薬管理や安全管理が困難になります。患者さん自身が症状を認識できないため、家族や介護者との連携が不可欠ですね。栄養・代謝パターンでは、食事の仕方を忘れる、食べ物を認識できない、嚥下機能の低下などにより栄養状態の悪化が起こりやすくなります。活動・運動パターンでは、ADLの低下が段階的に進行し、初期では複雑な動作(買い物、料理など)から、進行期では基本的なADL(入浴、更衣など)まで影響を受けます。認知・知覚パターンは最も重要な評価項目で、記憶障害、見当識障害、判断力低下、失語・

ヘンダーソンのポイント

コミュニケーションのニードでは、言語理解力や表現力の低下により、患者さんの思いや要求を正確に把握することが困難になります。非言語的コミュニケーション(表情、ジェスチャー、タッチング)を積極的に活用し、患者さんのペースに合わせた関わりが重要です。安全で清潔な環境で生活するニードでは、判断力低下により様々な危険を認識できなくなるため、環境整備と見守りが不可欠です。特に転倒、誤嚥、徘徊、火の不始末などのリスクが高くなります。学習のニードは従来の意味での学習は困難ですが、残存機能を活用した生活技能の維持や、馴染みのある活動を通じた認知刺激は可能です。

看護計画・介入の内容

・患者さんの生活歴や趣味を把握し、個別性を重視したケアプランを立案する
・見当識訓練として、カレンダーや時計を見やすい場所に設置し、日時の確認を促す
・転倒予防のため、履き慣れた靴の着用、段差の解消、手すりの設置を行う
・規則正しい生活リズムを保持し、昼夜逆転を予防する
・馴染みのある環境づくりを心がけ、頻繁な環境変化を避ける
・コミュニケーションの際は、ゆっくりと簡潔に話し、一度に複数の指示を与えない
・残存機能を活用し、できることは患者さん自身に行ってもらう
・BPSDに対しては、原因を探り、環境調整や関わり方の工夫で対応する
・家族への教育・支援を行い、介護負担の軽減を図る
・多職種との連携により、包括的なケアを提供する

よくある疑問・Q&A

Q: アルツハイマー型認知症と正常な老化による物忘れの違いは? A: 正常な老化では「人の名前が思い出せない」「昨日の夕食のメニューを忘れる」といった部分的な忘れが多いのに対し、アルツハイマー型認知症では「人と会ったこと自体を忘れる」「食事をしたこと自体を忘れる」といった体験そのものを忘れてしまうのが特徴です。また、日常生活への影響の程度も大きく異なります。

Q: 患者さんが同じことを何度も聞いてきたときの対応は? A: イライラせず、毎回初めて聞かれたかのように丁寧に答えることが大切です。「さっき説明しましたよ」などの指摘は患者さんを混乱させ、不安を増強させる可能性があります。患者さんの気持ちに寄り添い、安心感を与える対応を心がけましょう。

Q: 徘徊行動への対応で注意すべきことは? A: まず徘徊の原因を探ることが重要です。トイレに行きたい、家に帰りたい、何かを探しているなど、必ず理由があります。無理に止めるのではなく、一緒に歩きながら気持ちを聞き、別の活動に誘導するなどの工夫が効果的です。安全確保のため、センサーマットの使用や見守り体制の強化も検討しましょう。

Q: 家族にはどのような支援が必要? A: 疾患について正しい理解を得られるよう教育を行い、介護技術の指導も重要です。また、家族の精神的負担は非常に大きいため、定期的な相談の場を設け、介護サービスの活用や家族会への参加を勧めることも大切ですね。レスパイトケアの重要性も伝えましょう。

Q: 服薬管理で注意すべき点は? A: 認知機能低下により、服薬の必要性の理解、薬の識別、服薬タイミングの把握が困難になります。一包化や服薬カレンダーの使用、家族による管理、訪問看護による確認などの工夫が必要です。副作用の観察も重要で、特に消化器症状や行動変化に注意しましょう。

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この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり

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