【イレウス】疾患解説と看護の要点

消化器

疾患概要

定義

イレウス(腸閉塞)とは、何らかの原因により腸管内容物の肛門方向への移送が阻害される状態の総称です。機械的イレウス(腸管の物理的閉塞)と機能的イレウス(腸管運動の麻痺)に大別され、さらに機械的イレウスは単純性イレウス(血行障害なし)と複雑性イレウス(血行障害あり)に分類されます。複雑性イレウスは腸管壊死から腹膜炎、敗血症へと進展する可能性があり、緊急手術を要する危険な状態です。

疫学

イレウスは消化器外科領域で最も頻度の高い急性疾患の一つで、年間約10万人が発症しています。機械的イレウスが約80%を占め、そのうち癒着性イレウスが最も多く(約60%)、次いで大腸がんによる閉塞が続きます。年齢分布では高齢者に多く、特に70歳以上で急増します。男女差はありませんが、癒着性イレウスは腹部手術既往のある患者に圧倒的に多く見られます。

原因

機械的イレウスの原因として、癒着(術後癒着が最多)、腫瘍(大腸がん、小腸腫瘍)、ヘルニア(鼠径ヘルニア嵌頓、内ヘルニア)、腸重積胆石イレウス異物などがあります。特に腹部手術既往のある患者では、術後癒着によるイレウスが高率に発生します。

機能的イレウス麻痺性イレウスとも呼ばれ、腹膜炎、腹部手術後、電解質異常(低K血症)、薬剤性(抗コリン薬、麻薬)、内分泌疾患(糖尿病性ケトアシドーシス)、脊髄損傷などが原因となります。

病態生理

腸管閉塞により閉塞部位より口側の腸管に内容物が貯留し、腸管内圧が上昇します。腸管は反射的に蠕動を亢進させようとしますが、閉塞が持続すると徐々に蠕動は減弱し、最終的には麻痺状態となります。

腸管内に大量の消化液が分泌・貯留し(約8-10L/日)、体液・電解質の大量喪失が起こります。頻回な嘔吐により脱水、電解質異常(低Na、低K、低Cl血症)、代謝性アルカローシスが進行します。

複雑性イレウスでは腸管血流が障害され、腸管壁の浮腫、出血、壊死が進行します。腸管壁の透過性が亢進し、細菌やエンドトキシンが腹腔内へ移行することで腹膜炎を発症し、さらに全身循環に入ると敗血症、SIRS、多臓器不全へと進展します。


症状・診断・治療

症状

イレウスの4大症状は、腹痛嘔吐腹部膨満排ガス・排便停止です。

腹痛は間欠的な疝痛が特徴的で、腸蠕動の亢進に伴って周期的に増強します。小腸閉塞では臍周囲痛、大腸閉塞では下腹部痛が多く見られます。複雑性イレウスでは持続的な激痛となり、腸管壊死が疑われます。

嘔吐は閉塞部位により性状が異なり、上部小腸閉塞では胃液様、下部小腸閉塞では黄色胆汁様、大腸閉塞では糞便様となります。高位閉塞ほど早期から頻回に出現します。

腹部膨満は閉塞部位より口側の腸管拡張により生じ、打診で鼓音を呈します。排ガス・排便停止は閉塞部位より肛門側の腸内容物が排出された後に起こります。

全身症状として脱水症状(口渇、皮膚弾力性低下、頻脈、血圧低下)、電解質異常による症状が現れ、重篤例では循環不全、意識障害を来します。

診断

腹部X線検査が最も重要な診断法で、鏡面像(niveau)と腸管拡張がイレウスの典型的所見です。小腸イレウスでは中央に鏡面像、大腸イレウスでは辺縁に鏡面像が見られます。

腹部CT検査により閉塞部位の同定、原因の特定、複雑性イレウスの判定が可能です。腸管壁の造影不良腹水貯留は腸管壊死を示唆する重要な所見です。

血液検査では脱水による血液濃縮(Hct上昇)、電解質異常、炎症反応(WBC、CRP上昇)、腎機能障害(BUN、Cr上昇)を認めます。複雑性イレウスでは乳酸値上昇が重要な指標となります。

理学所見では腹部膨満、圧痛、腸蠕動音の亢進(初期)または減弱・消失(後期)を認めます。筋性防御Blumberg徴候陽性は腹膜炎併発を示唆します。

治療

単純性イレウスでは保存的治療が第一選択で、絶食経鼻胃管による減圧輸液による脱水・電解質異常の補正を行います。癒着性イレウスでは約70-80%が保存的治療で改善します。

イレウス管(ロングチューブ)による小腸内減圧は、閉塞部位の特定と減圧効果を期待して使用されます。挿入後は透視下で先端を閉塞部位まで進めていきます。

複雑性イレウスや保存的治療無効例では緊急手術が必要です。手術は癒着剥離、腸切除・吻合、人工肛門造設などが行われ、原因に応じて術式を選択します。

機能的イレウスでは原因疾患の治療が最優先で、電解質補正、薬剤中止、炎症制御などを行います。腸管運動改善薬(ネオスチグミン、モサプリド)が使用されることもあります。


看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

  • 急性疼痛(腸管内圧上昇による間欠的疝痛)
  • 体液量不足(嘔吐、腸管内貯留による脱水)
  • 栄養摂取消費バランス異常(絶食、嘔吐による栄養・エネルギー不足)

ゴードン機能的健康パターン

栄養代謝パターンが最も重要なアセスメント領域です。絶食期間の長期化により栄養状態が悪化するため、体重変化、血清アルブミン値、総蛋白値を継続的に評価します。脱水の程度、電解質バランス(特にNa、K、Cl)、酸塩基平衡の監視が重要で、皮膚弾力性、粘膜の湿潤度、尿量、バイタルサインの変化を注意深く観察します。

排泄パターンでは、排ガス・排便の有無と性状、腹部膨満の程度、腸蠕動音の変化を継続的に観察し、病態の改善や悪化を評価します。経鼻胃管やイレウス管からの排液量、性状、色調の記録も重要です。

活動・運動パターンでは、腹痛や全身状態により活動制限が生じますが、長期臥床による合併症予防のため、可能な範囲での離床や体位変換を促進します。

ヘンダーソン14基本的ニード

食べる・飲むニードは完全に障害され、絶食が基本となります。口渇感や空腹感に対する精神的支援が重要で、口腔ケアにより口腔内の清潔と湿潤を保持します。経口摂取再開時は、少量の水分から段階的に進めていきます。

正常に排泄するニードでは、排ガス・排便の再開が治療効果の重要な指標となります。腹部症状の変化と合わせて継続的に観察し、医師への報告を適切に行います。

苦痛を避けるニードでは、間欠的な疝痛に対する適切な疼痛管理が必要です。痛みの性質や周期性を詳細に観察し、持続痛への変化は腸管壊死を疑う重要な所見として緊急に報告します。

看護計画・介入の内容

  • 症状観察:4大症状(腹痛、嘔吐、腹部膨満、排ガス・排便停止)の継続的評価、バイタルサイン監視、腹部所見の観察、排液量・性状の記録
  • 脱水・電解質管理:輸液管理、水分出納バランス、電解質データの評価、脱水症状の観察、体重測定
  • チューブ管理:経鼻胃管・イレウス管の適切な固定と管理、開通性の確認、排液量の測定、挿入部位の皮膚ケア、患者の苦痛軽減

よくある疑問・Q&A

Q: なぜイレウスでは絶食が必要なのですか?

A: 食事摂取により腸管内容物が増加し、既に拡張している腸管への負担がさらに増大するためです。また、嘔吐のリスクが高まり、誤嚥性肺炎の危険性も増します。絶食により腸管を安静にし、減圧効果を高めることで、閉塞の解除を促進できます。腸管内容物が減少すれば、癒着による軽度の閉塞では自然に改善することも多いのです。

Q: 経鼻胃管とイレウス管の違いは何ですか?

A: 経鼻胃管は胃内容物の排出を目的とした短いチューブで、主に上部消化管の減圧に使用されます。一方、イレウス管(ロングチューブ)は小腸深部まで挿入する長いチューブで、先端にバルーンがついており、小腸内の減圧と閉塞部位の診断が可能です。イレウス管は透視下で段階的に進めていき、閉塞部位を越えることで治療効果も期待できます。

Q: 排ガスがあったら改善のサインですか?

A: はい、排ガスの再開は重要な改善指標です。イレウスでは腸管運動が低下し排ガスが停止しますが、閉塞が解除されると腸管運動が回復し、まず排ガスから始まります。続いて排便が見られるようになり、これらの症状と合わせて腹部膨満の改善、腸蠕動音の正常化が確認できれば、経口摂取の再開が検討されます。

Q: どのような症状があると緊急手術になりますか?

A: 複雑性イレウスを疑う症状が出現した場合です。具体的には、間欠的疝痛から持続的な激痛への変化、発熱頻脈血圧低下腹部の筋性防御血液検査での乳酸値上昇などが挙げられます。これらは腸管壊死や腹膜炎の徴候で、数時間で生命に危険が及ぶ可能性があるため、緊急手術の適応となります。

Q: 術後のイレウス予防にはどのような看護が重要ですか?

A: 早期離床腸管運動の促進が最も重要です。術後は痛みや創部保護のため臥床しがちですが、可能な限り早期に離床し、歩行を促進します。また、ガム咀嚼腹部マッサージにより腸管運動を刺激し、適切な水分・電解質管理により腸管機能の回復を支援します。癒着防止のためには術後の炎症を最小限に抑えることも大切です。


まとめ

イレウスは緊急性と重篤性を併せ持つ疾患で、特に複雑性イレウスでは数時間で生命に危険が及ぶ可能性があります。看護の要点は4大症状の継続的な観察全身状態の変化を見逃さないことです。特に疼痛の性質変化(間欠痛→持続痛)は腸管壊死の重要な指標であり、迅速な報告と対応が患者の生命予後を左右します。

脱水・電解質管理栄養管理は長期にわたる治療において患者の回復力に直結する重要な要素です。絶食期間の長期化による患者の身体的・精神的苦痛への配慮も欠かせません。

実習では、腹部症状の微細な変化を敏感に察知し、根拠に基づいた優先度の高い看護を実践することが求められます。患者の訴えに真摯に耳を傾け、客観的なアセスメント主観的な症状を総合的に判断し、チーム医療の中で適切な情報共有を行うことで、患者の安全と回復を支援しましょう。


この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり


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