【卵巣嚢腫】疾患解説と看護の要点

産婦人科

疾患概要

定義

卵巣嚢腫は、卵巣内に液体や半固形物が貯留して形成される袋状の病変です。卵巣に発生する腫瘍の中でも最も頻度が高く、良性腫瘍に分類されます。内容物や発生部位により複数の種類に分けられ、それぞれ異なる特徴を持っています。

疫学

卵巣嚢腫は20〜40代の女性に最も多く発症し、全女性の約5〜10%に認められます。特に生殖年齢の女性では、機能性嚢腫(卵胞嚢腫、黄体嚢腫)の頻度が高くなります。また、閉経後の女性では悪性の可能性も考慮する必要があります。日本では年間約3万人が卵巣嚢腫の手術を受けており、婦人科疾患の中でも代表的な疾患の一つです。

原因

卵巣嚢腫の原因は種類によって異なります。機能性嚢腫は正常な月経周期の過程で卵胞や黄体が過度に発達することで生じます。皮様嚢腫(デルモイド嚢腫)は胚細胞由来で、先天的要因が関与します。チョコレート嚢胞は子宮内膜症が卵巣に及ぶことで形成され、漿液性嚢胞腺腫や粘液性嚢胞腺腫は卵巣表面の上皮細胞から発生します。

病態生理

卵巣嚢腫は発生機序により大きく機能性と器質性に分けられます。機能性嚢腫はホルモンの影響で一時的に形成され、多くは2〜3ヶ月で自然消退します。一方、器質性嚢腫は持続的に増大し、茎捻転破裂などの合併症を起こす可能性があります。特に皮様嚢腫は毛髪や歯などの組織を含むため、炎症や感染を起こしやすく、チョコレート嚢胞は月経のたびに内容物が増加し、強い癒着を形成する特徴があります。


症状・診断・治療

症状

多くの卵巣嚢腫は無症状で経過し、健康診断や他の検査で偶然発見されることが多いです。症状が現れる場合は、下腹部の鈍痛や圧迫感、腹部膨満感が主な訴えとなります。嚢腫が大きくなると膀胱や直腸を圧迫し、頻尿や便秘を引き起こすことがあります。茎捻転を起こした場合は激烈な下腹部痛と嘔吐を伴い、緊急手術が必要となります。また、破裂した場合は腹腔内出血により腹膜刺激症状を呈します。

診断

診断には経腹超音波検査経腟超音波検査が最も重要です。嚢腫の大きさ、内容物の性状、血流の有無を詳細に評価できます。CT検査MRI検査では、より詳細な内部構造の把握や悪性との鑑別が可能です。血液検査では腫瘍マーカー(CA125、CA19-9、CEAなど)を測定し、悪性の可能性を評価します。特にチョコレート嚢胞ではCA125の上昇が特徴的です。

治療

治療方針は嚢腫の種類、大きさ、患者の年齢、妊娠希望の有無により決定されます。直径5cm未満の機能性嚢腫では経過観察が基本となり、多くは自然消退します。直径5cm以上や症状を伴う場合、器質性嚢腫では手術適応となります。手術は腹腔鏡下手術が第一選択で、嚢腫摘出術または患側卵巣摘出術が行われます。妊娠可能年齢では卵巣機能温存を重視し、可能な限り正常卵巣組織を残します。


看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

  • 疼痛:嚢腫による圧迫や炎症に関連した急性疼痛
  • 不安:手術や妊孕性への影響に対する不安
  • 知識不足:疾患や治療に関する知識不足

ゴードン機能的健康パターン

健康知覚-健康管理パターンでは、患者の疾患に対する理解度と治療への取り組み姿勢を評価します。特に若い女性では将来の妊娠への不安が強く、適切な情報提供が重要です。活動-運動パターンでは、嚢腫の大きさによる日常生活動作への影響を評価し、必要に応じて活動制限の指導を行います。認知-知覚パターンでは疼痛の程度と性状を詳細に評価し、茎捻転などの合併症の早期発見に努める必要があります。

ヘンダーソン14基本的ニード

安全なニードでは、茎捻転や破裂などの合併症のリスクアセスメントが重要です。患者には激しい運動や腹圧のかかる動作を避けるよう指導します。学習のニードでは、疾患の理解促進と症状観察の方法を教育し、異常時の対応について指導します。特に性的ニードに関しては、妊孕性への影響について正確な情報を提供し、心理的サポートを行うことが大切です。

看護計画・介入の内容

  • 疼痛管理:鎮痛薬の適切な使用と非薬物的疼痛緩和法(体位の工夫、温罨法など)の指導
  • 症状観察:腹痛の性状変化、発熱、嘔吐などの合併症症状の早期発見と報告
  • 心理的支援:妊孕性への不安に対する傾聴と正確な情報提供、必要に応じて専門医との面談調整

よくある疑問・Q&A

Q: 卵巣嚢腫があると妊娠できなくなりますか? A: 多くの場合、卵巣嚢腫があっても妊娠は可能です。ただし、両側の卵巣に大きな嚢腫がある場合や、手術で卵巣組織を多く切除した場合は妊孕性に影響する可能性があります。医師と相談して最適な治療方針を決定することが大切です。

Q: 手術後の回復期間はどのくらいですか? A: 腹腔鏡下手術の場合、入院期間は3〜5日程度で、日常生活への復帰は約1週間、完全な回復まで約1ヶ月程度です。開腹手術の場合はもう少し長くなります。個人差があるため、医師の指示に従って徐々に活動を再開しましょう。

Q: 再発の可能性はありますか? A: 機能性嚢腫は再発の可能性がありますが、多くは自然消退します。皮様嚢腫やチョコレート嚢胞は完全摘出できれば同じ場所での再発は稀ですが、反対側の卵巣に新たに発生する可能性はあります。定期的な検診が重要です。

Q: 日常生活で注意すべきことはありますか? A: 激しい運動や重いものを持つなど、腹圧がかかる動作は茎捻転のリスクを高めるため注意が必要です。また、急激な腹痛や発熱、嘔吐などの症状が現れた場合は、すぐに医療機関を受診してください。


まとめ

卵巣嚢腫は生殖年齢の女性に最も多い良性疾患であり、多くは無症状で経過します。しかし、茎捻転や破裂などの合併症は緊急事態となるため、看護師は患者の症状変化を注意深く観察する必要があります。

患者の多くは将来の妊娠への不安を抱えているため、正確な情報提供と心理的支援が重要な看護の役割となります。また、卵巣機能温存を重視した治療が行われることが多いため、患者が前向きに治療に取り組めるよう支援することが大切です。

実習では、患者の年齢や背景を考慮した個別性のある看護を心がけ、特に疼痛アセスメントと合併症の早期発見に努めましょう。定期的な検診の重要性についても患者教育に含めることで、疾患の早期発見と適切な管理につながります。


この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり


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