【変形性膝関節症】疾患解説と看護の要点

疾患解説

疾患概要

定義

変形性膝関節症(Knee Osteoarthritis:膝OA)とは、膝関節の軟骨の変性・摩耗により関節の破壊と変形が進行する慢性疾患です。関節軟骨の減少、骨棘形成、関節裂隙の狭小化、軟骨下骨の硬化などの構造的変化を特徴とし、疼痛、機能障害、QOL低下を引き起こします。一次性(原因不明)と二次性(外傷、感染、先天異常などが原因)に分類され、約90%は一次性です。

疫学

変形性膝関節症は最も頻度の高い関節疾患で、日本では潜在患者を含めると約3000万人が罹患していると推定されています。50歳以降で急激に増加し、60歳以上では男性約40%、女性約60%に認められ、女性に多いのが特徴です。高齢化社会の進展により患者数は増加の一途をたどり、要介護の原因としても重要な疾患です。

症状を有する患者は約800万人とされ、このうち手術適応となる重症例は約200万人と推定されています。地域差もあり、農村部や山間部では重労働により発症率が高い傾向があります。また、肥満の増加、運動不足、生活様式の変化により、比較的若い世代での発症も増加傾向にあります。

原因

変形性膝関節症の原因は多因子性で、加齢、性別(女性)、遺伝的要因、肥満、膝への負担などが複合的に関与します。加齢により軟骨の水分含有量が減少し、軟骨マトリックスの質的変化が生じて軟骨の弾性が低下します。

肥満は最も重要な修正可能な危険因子で、体重1kg増加につき膝OAリスクが約15%増加するとされています。歩行時には体重の3-4倍の負荷が膝関節にかかるため、肥満により関節への負担が著しく増加します。

機械的要因として、O脚・X脚変形、膝の外傷歴、半月板損傷、靱帯損傷、重労働、スポーツ歴などがあります。生物学的要因では、女性ホルモン(エストロゲン)の減少、遺伝的素因、骨密度低下、筋力低下などが関与します。代謝的要因として、糖尿病、痛風、偽痛風なども発症に関係します。

病態生理

変形性膝関節症の病態は軟骨破壊と修復のバランス異常から始まります。正常な関節軟骨は軟骨細胞とマトリックス(コラーゲン、プロテオグリカン)から構成され、荷重に対するクッション機能を果たします。

疾患初期には軟骨の表面線維化と軟化が起こり、進行すると軟骨の亀裂、剥離、完全欠損に至ります。軟骨下骨では硬化像が見られ、関節辺縁には骨棘が形成されます。関節包の線維化により関節可動域が制限され、滑膜炎により関節水腫が生じます。

疼痛の機序は複雑で、軟骨には神経がないため、関節包、靱帯、軟骨下骨、滑膜の侵害受容器刺激が関与します。炎症性サイトカイン(IL-1β、TNF-α)の産生により軟骨破壊が促進され、機械的ストレス生化学的因子が相互作用して病態が進行します。

筋力低下(特に大腿四頭筋)は疼痛による廃用と疼痛回避のために生じ、関節の安定性低下により症状がさらに悪化する悪循環を形成します。


症状・診断・治療

症状

変形性膝関節症の症状は緩徐に進行し、疼痛、機能障害、変形が主要な症状です。疼痛は最も重要な症状で、初期には動作開始時痛(起立時、歩き始め)が特徴的です。進行すると荷重時痛(歩行時、階段昇降時)が出現し、末期には安静時痛夜間痛も認められます。

機能障害では、階段昇降困難(特に下り)、正座困難、しゃがみ込み困難、長時間歩行困難などが段階的に出現します。朝のこわばりは30分以内の短時間で改善するのが特徴で、関節リウマチとの鑑別点となります。

関節可動域制限では、特に屈曲制限が問題となり、正座やしゃがみ込みができなくなります。関節水腫により膝の腫脹感や重だるさを訴えることもあります。変形では内反変形(O脚)が最も多く、歩行時の動揺や不安定感を生じます。

日常生活への影響として、和式生活の困難、入浴時の浴槽出入り困難、公共交通機関利用の困難、買い物や家事の制限などが現れ、QOL の著しい低下を招きます。

診断

診断は症状、身体所見、画像診断を総合して行います。問診では疼痛の部位、性状、出現条件、日常生活への影響を詳しく聴取します。身体所見では、圧痛部位、関節可動域、変形の程度、筋力低下、歩行状態を評価します。

単純X線検査が基本的な画像診断で、立位荷重位での撮影が重要です。関節裂隙狭小化、骨棘形成、軟骨下骨硬化、変形などの所見により、Kellgren-Lawrence分類(Grade 0-4)で重症度を評価します。

MRI検査では軟骨の詳細な評価、半月板損傷、骨髄浮腫、滑膜炎の評価が可能です。関節液検査では炎症の程度を評価し、他疾患(関節リウマチ、感染性関節炎、痛風)との鑑別を行います。

機能評価として、WOMAC(Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index)やJKOM(Japanese Knee Osteoarthritis Measure)を用いて、疼痛、こわばり、日常生活機能を定量的に評価します。

治療

治療は保存的治療手術的治療に大別され、段階的なアプローチが基本です。保存的治療には、①生活指導、②理学療法、③薬物療法、④装具療法があります。

生活指導では、減量(BMI25未満が目標)、適度な運動、関節に負担をかける動作の回避、生活環境の改善(手すり設置、洋式生活への変更)を行います。理学療法では、大腿四頭筋強化訓練、関節可動域訓練、有酸素運動を中心とした運動療法が最も重要です。

薬物療法では、外用薬(NSAIDs外用剤)、内服薬(アセトアミノフェン、NSAIDs)、関節内注射(ヒアルロン酸ナトリウム、ステロイド)を病期と症状に応じて選択します。装具療法では、足底板、膝装具、杖の使用により関節への負担を軽減します。

手術的治療では、関節鏡視下手術(軟骨片除去、半月板切除)、高位脛骨骨切り術(HTO)、人工膝関節置換術(TKA)があります。TKAは末期関節症に対する確立された治療法で、疼痛改善と機能回復に優れた効果があります。


看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

  • 慢性疼痛(関節軟骨の破壊・炎症に関連した)
  • 歩行障害(疼痛と可動域制限に関連した)
  • 活動耐性低下(疼痛による活動制限に関連した)
  • セルフケア不足(膝関節機能障害に関連した)
  • 社会的孤立リスク(活動制限による外出困難に関連した)

ゴードン機能的健康パターン

健康知覚・健康管理パターンでは疾患に対する理解と自己管理への取り組み状況を評価します。症状の進行度、疼痛に対する対処方法、運動療法の実践状況、体重管理への意識、治療に対する理解度を詳しく聴取し、効果的な自己管理支援策を検討しましょう。

活動・運動パターンでは機能障害の程度と日常生活への影響を詳細に評価します。歩行距離、階段昇降能力、しゃがみ込み・正座の可否、起立・着座動作、家事動作の制限程度を具体的に把握し、残存機能を活用した生活指導を検討します。

栄養・代謝パターンでは体重管理と栄養状態の評価が重要です。BMI、体重変化、食事内容、運動量とのバランス、減量への取り組み状況を評価し、関節への負担軽減と全身状態の改善を図る栄養計画を立案します。

ヘンダーソン14基本的ニード

身体を動かすニードでは関節機能と移動能力の詳細な評価が最重要です。関節可動域、筋力、歩行パターン、バランス能力、転倒リスクを系統的に評価し、安全で効果的な活動支援を行います。

身体の清潔と身だしなみのニードでは、膝関節機能障害による制限を考慮したケア方法が必要です。入浴方法、更衣動作、足部ケアなどで困難な動作を特定し、代替方法や福祉用具の活用を提案します。

学習のニードでは疾患理解と自己管理能力の向上を図ります。関節の構造と機能、症状の進行、運動療法の方法、体重管理の重要性、日常生活の工夫について継続的な教育を行います。

看護計画・介入の内容

  • 疼痛管理:疼痛アセスメント、薬物療法の管理、非薬物療法(温熱療法、マッサージ)、活動調整
  • 機能訓練支援:関節可動域訓練、筋力強化訓練、歩行訓練、日常生活動作訓練
  • 体重管理支援:食事指導、運動指導、体重測定、モチベーション維持支援
  • 生活環境整備:住環境の評価、福祉用具の導入、動作方法の指導、転倒予防対策
  • 心理的支援:慢性疾患受容の支援、QOL向上への取り組み、社会参加の促進
  • 家族支援:介護方法の指導、家族の負担軽減、サポート体制の構築

よくある疑問・Q&A

Q: 膝が痛いときは安静にしていた方が良いですか?

A: 完全な安静は逆効果です。安静により筋力低下と関節拘縮が進行し、症状が悪化する可能性があります。疼痛の程度に応じた適度な運動が重要で、水中ウォーキング、大腿四頭筋強化訓練、関節可動域訓練などは継続しましょう。ただし、強い炎症がある場合は一時的に安静にし、炎症が治まったら徐々に運動を再開することが大切です。

Q: 体重減量はどの程度効果がありますか?

A: 体重減量は最も効果的な治療法の一つです。体重1kg減量により膝への負担は歩行時に3-4kg軽減されます。5-10%の体重減量で疼痛の著明な改善が期待でき、病気の進行も抑制されます。BMI25未満を目標とし、急激な減量ではなく月1-2kgの緩やかな減量が推奨されます。栄養バランスを保ちながら、運動療法と組み合わせることが重要です。

Q: どのような運動が効果的ですか?

A: 大腿四頭筋強化訓練が最も重要です。仰向けで膝を伸ばしたまま足を上げる運動、椅子からの立ち上がり訓練、スクワットなどが効果的です。有酸素運動では、水中ウォーキング、平地歩行、サイクリングがお勧めです。1日30分、週3回以上の運動が目標ですが、痛みの程度に応じて調整しましょう。階段昇降や深いスクワットなど膝に負担の大きい運動は避けることが大切です。

Q: 人工膝関節手術はいつ頃考えるべきですか?

A: 保存的治療で十分な効果が得られない場合に検討されます。目安として、①日常生活に支障を来たす強い疼痛、②歩行距離の著明な制限、③夜間痛、④QOLの著しい低下、⑤画像上の高度な関節破壊などがあります。年齢だけで判断するのではなく、症状の程度、活動レベル、全身状態を総合的に評価して決定します。一般的には60歳以上で検討されることが多いです。

Q: 関節注射は安全ですか?

A: 適切に実施されれば安全性の高い治療です。ヒアルロン酸注射は関節軟骨の保護と疼痛軽減効果があり、副作用も少ないです。ステロイド注射は強い抗炎症効果がありますが、年2-3回までの制限があります。感染が最も重篤な合併症ですが、無菌操作により予防可能です。注射後の疼痛増強や発熱があれば速やかに受診することが重要です。


まとめ

変形性膝関節症は関節軟骨の変性・破壊による慢性進行性疾患であり、高齢化社会において患者数が急増している重要な疾患です。看護師として重要なのは、疼痛の適切な評価と管理機能維持・改善のための支援生活の質向上への包括的なアプローチです。

特に個別性を重視した疼痛管理効果的な運動療法の継続支援体重管理と生活習慣改善の指導住環境整備と福祉用具の活用心理社会的支援が看護の要点となります。変形性膝関節症は治癒困難な慢性疾患であるため、疾患と上手に付き合いながら最適なQOLを維持することが治療目標となります。

実習では関節機能の評価技術疼痛アセスメント運動指導の実践生活指導の方法などを学ぶ機会があると思います。また、患者の価値観や生活背景を理解し、実現可能で継続可能なケアプランを患者と一緒に立案する能力を養ってください。

変形性膝関節症では自己管理が治療成功の鍵となるため、患者のエンパワーメントを支援する看護が特に重要です。多職種と連携し、医学的治療から生活支援まで包括的なケアを提供することで、患者が疾患と共に充実した生活を送れるよう、専門的で継続的な支援を行っていきましょう。


この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり


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