疾患概要
定義
皮膚がんは、皮膚組織から発生する悪性腫瘍の総称です。主要な病型として基底細胞癌(最多)、有棘細胞癌、悪性黒色腫(メラノーマ)があります。基底細胞癌は転移能が低く予後良好ですが、有棘細胞癌と悪性黒色腫は転移能があり、早期発見・早期治療が重要です。皮膚がんは目で見えるがんとして早期発見が可能な一方で、見過ごされやすく進行してから発見されることも多い疾患です。紫外線曝露が主要な原因であり、予防可能ながんとしての側面も持ちます。
疫学
日本における皮膚がんの年間発症者数は約25,000人で、そのうち基底細胞癌が約45%、有棘細胞癌が約35%、悪性黒色腫が約15%を占めます。高齢者に多く、特に70歳以上で急激に増加します。男女比は基底細胞癌と有棘細胞癌では男性にやや多く、悪性黒色腫では女性にやや多い傾向があります。欧米人に比べ日本人では発症率は低いものの、近年の紫外線曝露量増加、高齢化、ライフスタイルの変化により患者数は増加傾向にあります。好発部位は顔面・頭頸部が最多で、日光曝露との関連が強く示唆されています。
原因
皮膚がんの最大の原因は紫外線(UV-A、UV-B)曝露です。累積的な紫外線曝露によりDNA損傷が蓄積し、がん化が促進されます。その他の危険因子として高齢、色白の皮膚、家族歴、免疫抑制状態(臓器移植後、HIV感染など)、慢性炎症(慢性潰瘍、熱傷瘢痕)、化学物質曝露(ヒ素、タール)、放射線曝露があります。悪性黒色腫では異常なほくろ(異形成母斑)、巨大色素性母斑、家族性異形成母斑症候群が特に重要な危険因子です。HPV感染は特定の有棘細胞癌(生殖器、爪周囲)と関連があります。
病態生理
皮膚がんの発生は多段階発癌理論により説明されます。紫外線によりp53遺伝子変異が蓄積し、DNA修復機能が低下します。基底細胞癌は基底細胞から発生し、局所浸潤性は高いが転移能は極めて低い特徴があります。有棘細胞癌は有棘細胞から発生し、前癌病変(日光角化症、ボーエン病)を経て癌化することが多く、進行するとリンパ節転移や遠隔転移を起こします。悪性黒色腫はメラノサイトから発生し、早期から転移傾向が強く、腫瘍の厚さ(Breslow厚)が予後に大きく影響します。腫瘍の進行により血管新生、リンパ管侵襲が促進され、転移が成立します。
症状・診断・治療
症状
基底細胞癌では真珠様光沢を帯びた結節で、中央部が潰瘍化し堤防状に隆起したrodent ulcerが特徴的です。有棘細胞癌では角化を伴う結節や潰瘍として出現し、急速に増大します。悪性黒色腫ではABCDE rule(Asymmetry:非対称性、Border:境界不整、Color:色調不均一、Diameter:直径6mm以上、Evolving:経時的変化)が診断の手がかりとなります。既存のほくろの変化(色調変化、大きさの増大、形の変化、出血、掻痒感)も重要な症状です。進行例ではリンパ節腫脹、遠隔転移による症状(呼吸困難、骨痛、神経症状など)が出現します。
診断
診断は視診、ダーモスコピー、病理組織検査により行われます。ダーモスコピーは皮膚表面を拡大観察する非侵襲的検査で、悪性黒色腫の診断精度向上に有用です。確定診断は病理組織検査により行い、切除生検またはpunch生検を実施します。センチネルリンパ節生検は悪性黒色腫の病期決定に重要です。画像検査ではCT、MRI、PET-CTにより転移の有無を評価します。腫瘍マーカーとしてS-100、LDH(悪性黒色腫)、SCC抗原(有棘細胞癌)が病勢評価に用いられます。遺伝子検査ではBRAF変異、c-Kit変異の検索により分子標的治療の適応を決定します。
治療
治療の基本は外科的切除です。基底細胞癌では辺縁5-10mmでの完全切除により治癒が期待できます。有棘細胞癌では辺縁10-20mmでの切除と所属リンパ節郭清を考慮します。悪性黒色腫ではBreslow厚に応じた切除範囲(in situ:5mm、≤1mm:10mm、1-2mm:10-20mm、>2mm:20mm)を設定します。センチネルリンパ節転移陽性例ではリンパ節郭清を行います。切除不能例や転移例には化学療法(ダカルバジン、ニムスチンなど)、分子標的治療薬(ベムラフェニブ、イピリムマブなど)、免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブ、ペムブロリズマブ)、放射線治療を組み合わせて治療します。
看護アセスメント・介入
よくある看護診断・問題
- 不安:がん診断と予後への恐怖
- ボディイメージの混乱:手術による外見の変化に関連した自己イメージの変化
- 知識不足:疾患・治療・予防に関する情報不足
ゴードン機能的健康パターン
健康知覚・健康管理パターンでは患者の皮膚がんに対する理解度、紫外線対策の実践状況、定期的な皮膚観察の習慣を評価します。家族歴、既往歴、職業歴、生活環境を詳細に聴取し、危険因子を特定します。自己概念・自己認識パターンでは手術による外見の変化が自尊心や社会生活に与える影響を評価し、ボディイメージの変化への適応状況を把握します。対処・ストレス耐性パターンではがん診断による心理的衝撃、将来への不安、治療に対する恐怖を評価し、効果的な対処方法を検討します。
ヘンダーソン14基本的ニード
清潔で健康な皮膚を維持し、衣服で身体を守るでは紫外線防護の具体的方法、適切なスキンケア、皮膚観察の方法について指導します。日焼け止めの正しい使用法、保護衣類の選択、屋外活動時の注意点が重要です。学習するでは皮膚がんの早期発見方法、セルフチェックの手技、危険信号の認識について教育します。身だしなみを整えるでは手術後の整容に関する支援、かつらや化粧品の使用方法について相談に応じます。
看護計画・介入の内容
- 心理的支援・疾患受容促進:がん告知による心理的衝撃への共感的対応、段階的な疾患説明と理解促進、希望の維持と前向きな治療参加の支援、家族の心理的支援と協力体制構築
- 治療支援・副作用管理:手術前後のケア、化学療法・分子標的治療の副作用観察と対処、放射線治療時の皮膚ケア、疼痛管理と症状緩和
- 予防教育・早期発見支援:紫外線防護の具体的方法指導、皮膚セルフチェック法の教育、定期受診の重要性説明、家族・高リスク者への検診推奨
よくある疑問・Q&A
Q: 皮膚がんは治る病気ですか?予後はどのくらいですか?
A: 皮膚がんの予後は病型と進行度により大きく異なります。基底細胞癌は転移がほとんどなく、適切な治療によりほぼ100%治癒が期待できます。有棘細胞癌は早期発見すれば5年生存率は95%以上ですが、リンパ節転移があると70-80%に低下します。悪性黒色腫は腫瘍の厚さにより予後が決まり、早期(Stage I)では5年生存率95%以上ですが、転移例(Stage IV)では20-25%まで低下します。早期発見・早期治療が最も重要で、定期的な皮膚観察により多くの症例で良好な予後が期待できます。
Q: 紫外線対策はどの程度必要ですか?日常生活で気をつけることはありますか?
A: 紫外線対策は皮膚がん予防の最も重要な方法です。日焼け止めはSPF30以上、PA+++以上を選び、2時間おきに塗り直してください。UVAは窓ガラスを透過するため、屋内でも注意が必要です。外出時は帽子、長袖、サングラスを着用し、午前10時から午後2時の紫外線が強い時間帯は可能な限り屋外活動を避けます。日陰の活用も効果的ですが、反射光もあるため日焼け止めは必須です。人工的な紫外線(日焼けサロン、殺菌灯)も避けてください。適度なビタミンD合成は必要ですが、短時間の日光浴で十分です。
Q: ほくろの変化をどうやって見分ければよいですか?受診の目安は?
A: ABCDE ruleを覚えてセルフチェックを行ってください。A(非対称性):左右の形が違う、B(境界不整):輪郭がギザギザ、C(色調不均一):黒、茶、赤など複数の色、D(直径):6mm以上、E(経時的変化):大きさ、形、色の変化があるほくろは要注意です。その他、出血、掻痒感、痛みがあるほくろも受診が必要です。月1回程度の全身皮膚観察を習慣化し、変化があれば早期に皮膚科受診してください。写真撮影により変化を客観的に記録することも有効です。
Q: 家族に皮膚がんの人がいます。遺伝しますか?予防法はありますか?
A: 皮膚がんには遺伝的素因があり、家族歴がある場合は発症リスクが高くなります。特に悪性黒色腫では家族性症例が約10%を占め、CDKN2A遺伝子変異などが関与します。しかし、遺伝的素因があっても必ず発症するわけではありません。予防には紫外線対策の徹底が最も重要で、年2回程度の皮膚科検診により早期発見が可能です。異形成母斑(普通と異なるほくろ)が多い場合は3-6ヶ月ごとの検診をお勧めします。遺伝カウンセリングにより個別のリスク評価と適切な管理方針を相談できます。
まとめ
皮膚がんは目で見える部位に発生するがんとして、早期発見により良好な予後が期待できる一方で、進行例では生命に関わる重篤な疾患です。紫外線曝露という明確な危険因子があることから、予防可能ながんとしての側面も重要な特徴です。
看護の要点は早期発見の支援と予防教育の徹底です。皮膚セルフチェック法の指導により、患者さん自身が皮膚の変化を早期に発見できるよう支援することが重要です。特にABCDE ruleを用いたほくろの評価方法は、悪性黒色腫の早期発見に有効です。
紫外線防護教育では、日焼け止めの適切な使用方法、保護衣類の選択、生活習慣の改善など、具体的で実践可能な方法を指導することが大切です。予防の重要性を強調しつつ、過度な恐怖心を抱かせないよう配慮した教育が必要です。
心理的支援では、がん診断による衝撃、治療への不安、外見の変化への心配などに共感的に対応し、患者さんが前向きに治療に取り組めるよう支援することが重要です。早期発見による良好な予後という希望的な情報も適切に提供します。
治療支援では、手術前後のケア、化学療法や分子標的治療の副作用管理、放射線治療時の皮膚ケアなど、個別性のある包括的なケアを提供することが求められます。
実習では患者さんの疾患に対する理解度と心理的反応を詳細にアセスメントし、その人らしい生活の継続を支援する看護計画を立案することが重要です。また、家族への教育も含めた包括的なアプローチにより、患者さんが皮膚がんと上手に付き合いながら充実した人生を送れるよう支援していきましょう。皮膚がんは多くの場合予防と早期発見により克服可能な疾患であることを忘れずに、希望を持った看護を提供することが重要です。
この記事の執筆者

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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