【尿路感染症】疾患解説と看護のポイント

疾患解説

疾患概要

定義

尿路感染症(UTI: Urinary Tract Infection)とは、腎臓、尿管、膀胱、尿道といった尿路に細菌などの病原微生物が感染し、炎症を引き起こす疾患の総称です。感染部位により、上部尿路感染症(腎盂腎炎、腎膿瘍など)と下部尿路感染症(膀胱炎、尿道炎など)に分類されます。また、基礎疾患や尿路の異常がない単純性尿路感染症と、糖尿病、尿路結石、神経因性膀胱などの基礎疾患を伴う複雑性尿路感染症に分けられます。尿路感染症は非常に頻度の高い感染症であり、特に女性に多く見られます。

疫学

尿路感染症は、細菌感染症の中で呼吸器感染症に次いで2番目に多い疾患です。女性では約半数が生涯に少なくとも1回は膀胱炎を経験するとされ、男性に比べて発症率が約30倍高いです。これは女性の尿道が短く、肛門と尿道口が近いという解剖学的特徴によるものです。年齢別では、若年女性では性交渉との関連が強く、閉経後女性では女性ホルモンの低下による膣内環境の変化が発症に関与します。高齢者では男女ともに発症率が上昇し、特に施設入所者や留置カテーテル使用者で高頻度に見られます。小児では、先天的な尿路奇形を伴うことが多く、腎機能障害のリスクが高いため注意が必要です。

原因

尿路感染症の原因菌として最も多いのは大腸菌で、全体の約70〜80%を占めます。大腸菌は腸管内の常在菌ですが、尿道口から尿路に侵入して感染を引き起こします。その他の原因菌として、クレブシエラ、プロテウス、エンテロコッカス、ブドウ球菌などがあります。複雑性尿路感染症では、緑膿菌やセラチアなどの抗菌薬に耐性を持つ菌が検出されることもあります。

感染経路は主に上行性感染です。会陰部や肛門周囲の細菌が尿道口から侵入し、尿道を上行して膀胱に達します。さらに膀胱から尿管を逆行して腎盂に達すると、腎盂腎炎を引き起こします。

尿路感染症のリスク因子として、以下が挙げられます。

  • 女性であること:尿道が短く、肛門と尿道口が近い
  • 性交渉:機械的刺激により細菌が尿道に押し込まれる
  • 妊娠:ホルモン変化や子宮による尿管圧迫
  • 閉経:エストロゲン低下による膣内環境の変化
  • 排尿障害:神経因性膀胱、前立腺肥大など
  • 尿路結石や腫瘍:尿流の停滞や組織損傷
  • 糖尿病:免疫機能低下、尿中糖による細菌増殖
  • 留置カテーテル:細菌侵入の経路となる
  • 免疫抑制状態:悪性腫瘍、ステロイド使用など
  • 不適切な排尿習慣:排尿を我慢する、水分摂取不足

病態生理

正常な尿路では、いくつかの防御機構により感染を防いでいます。定期的な排尿により細菌を物理的に洗い流し、尿の酸性pH高浸透圧が細菌の増殖を抑制します。また、尿路上皮のバリア機能膀胱粘膜の抗菌物質、免疫グロブリンA(IgA)などが感染防御に働いています。

しかし、これらの防御機構が破綻すると、細菌が尿路に侵入し増殖します。

下部尿路感染症(膀胱炎)では、細菌が尿道から膀胱に侵入し、膀胱粘膜に付着します。細菌は線毛などの付着因子を持ち、膀胱壁にしっかりと付着して排尿による洗い流しを免れます。付着した細菌は増殖し、膀胱粘膜に炎症を引き起こします。炎症により膀胱粘膜が充血・浮腫し、知覚神経が刺激されることで、頻尿、排尿痛、残尿感などの症状が出現します。通常、膀胱炎は膀胱内に限局し、全身症状は伴いません。

上部尿路感染症(腎盂腎炎)では、膀胱内の細菌が尿管を逆行して腎盂に達します。特に膀胱尿管逆流がある場合や、尿路結石などで尿流が停滞している場合に起こりやすくなります。腎盂に達した細菌は腎実質に侵入し、炎症を引き起こします。腎盂腎炎では、発熱、腰背部痛、全身倦怠感などの全身症状が出現します。炎症が腎実質深くまで及ぶと、膿瘍形成や敗血症に至ることもあり、重症化すると生命に関わります。

複雑性尿路感染症では、基礎疾患や尿路の構造的異常により、感染が遷延化・再発しやすくなります。尿流の停滞は細菌の増殖を助長し、免疫機能の低下は感染のコントロールを困難にします。また、抗菌薬への耐性菌が出現しやすく、治療に難渋することがあります。

カテーテル関連尿路感染症は、留置カテーテルを使用している患者に高頻度で発生します。カテーテル表面に細菌が付着してバイオフィルムを形成し、抗菌薬が効きにくくなります。また、カテーテルは尿道の自然な防御機構を破壊し、細菌の侵入経路となります。

妊娠中の尿路感染症は、無症候性細菌尿であっても治療が必要です。なぜなら、放置すると腎盂腎炎に進展し、早産や低出生体重児のリスクが高まるためです。


症状・診断・治療

症状

尿路感染症の症状は、感染部位により大きく異なります。

膀胱炎(下部尿路感染症)の典型的な症状は以下の通りです。

  • 頻尿:1〜2時間ごとにトイレに行きたくなる
  • 排尿痛:特に排尿の最後に焼けるような痛みを感じる
  • 残尿感:排尿後もすっきりせず、まだ尿が残っている感じがする
  • 尿混濁:尿が白く濁る
  • 血尿:尿に血が混じる、特に排尿の最後に見られることが多い
  • 下腹部不快感:膀胱部に重苦しさや痛みを感じる

膀胱炎では通常、発熱や全身症状はありません。もし発熱がある場合は、腎盂腎炎への進展を疑う必要があります。

腎盂腎炎(上部尿路感染症)の症状は以下の通りです。

  • 高熱:38℃以上の発熱、悪寒戦慄を伴うことが多い
  • 腰背部痛:肋骨脊椎角(CVA)に叩打痛がある
  • 全身倦怠感:強い疲労感、脱力感
  • 悪心・嘔吐:食欲不振を伴う
  • 膀胱炎症状:頻尿、排尿痛などを伴うこともあるが、ない場合もある

腎盂腎炎は重症化すると、敗血症敗血症性ショックに至ることがあり、早急な治療が必要です。

高齢者の尿路感染症では、典型的な症状を呈さないことがあります。発熱がなく、意識障害、食欲低下、活動性の低下、転倒などが唯一の症状として現れることがあり、注意が必要です。

小児の尿路感染症でも症状が非特異的で、発熱のみ、不機嫌、哺乳不良、嘔吐などが見られます。

診断

診断は、症状、尿検査、尿培養により行われます。

尿検査は診断の基本です。尿検査では以下の項目を確認します。

  • 白血球(膿尿):尿中に白血球が増加する(5個/HPF以上)
  • 細菌尿:尿中に細菌が検出される
  • 亜硝酸塩陽性:細菌が尿中の硝酸塩を亜硝酸塩に還元する
  • 白血球エステラーゼ陽性:白血球由来の酵素を検出
  • 血尿:膀胱炎では見られることが多い
  • 蛋白尿:腎盂腎炎で見られることがある

尿検査で膿尿と細菌尿が確認されれば、尿路感染症の診断がほぼ確定します。

尿培養検査は、原因菌の同定と薬剤感受性試験のために重要です。尿中細菌数が10^5 CFU/ml以上であれば、有意な細菌尿と判断します。ただし、症状がある場合や男性の場合は、より少ない菌数でも診断されることがあります。尿培養の結果が出るまで2〜3日かかるため、通常は尿検査の結果をもとに経験的に抗菌薬を開始し、培養結果が出てから必要に応じて変更します。

採尿方法は正確な診断に重要です。中間尿を採取し、外陰部や会陰部の常在菌の混入を避けます。女性では外陰部を清拭してから採尿し、男性では包皮を翻転させて清拭します。

血液検査では、腎盂腎炎の場合、白血球数の増加、CRPの上昇などの炎症反応が見られます。また、血液培養を行い、菌血症や敗血症の有無を確認します。

画像検査は、複雑性尿路感染症や再発性の場合、腎盂腎炎で改善が見られない場合に行われます。超音波検査やCTで、尿路結石、水腎症、腎膿瘍、尿路奇形などの構造的異常を評価します。

治療

治療の基本は抗菌薬療法です。ただし、感染の種類や重症度により治療方針が異なります。

急性単純性膀胱炎の治療は、外来での経口抗菌薬投与が基本です。第一選択薬として、ST合剤、ホスホマイシン、セフェム系抗菌薬などが使用されます。通常3〜7日間の投与で改善します。症状は抗菌薬開始後1〜2日で軽快し始めますが、細菌を完全に除菌するため、処方された期間は必ず服用を継続することが重要です。

急性単純性腎盂腎炎は、重症度により入院治療が必要です。軽症から中等症では経口抗菌薬で治療可能ですが、高熱や全身状態不良の場合は入院して点滴による抗菌薬投与を行います。セフェム系やニューキノロン系の抗菌薬が使用され、治療期間は10〜14日間程度です。発熱は通常2〜3日で解熱しますが、改善が見られない場合は、膿瘍形成や薬剤耐性菌の可能性を考え、画像検査や抗菌薬の変更を検討します。

複雑性尿路感染症では、基礎疾患の治療が重要です。尿路結石や閉塞があれば、その除去や解除を行います。前立腺肥大による排尿障害があれば、α遮断薬や手術的治療を検討します。抗菌薬は、尿培養の結果に基づいて選択し、耐性菌に注意しながら治療します。

カテーテル関連尿路感染症では、可能であればカテーテルを抜去することが最も効果的です。カテーテルの継続が必要な場合は、カテーテルを交換してから抗菌薬治療を開始します。

妊娠中の尿路感染症は、無症候性細菌尿であっても治療が必要です。妊婦に使用できる抗菌薬(ペニシリン系、セフェム系、ホスホマイシンなど)を選択し、治療後は再発予防のため定期的な尿検査を行います。

支持療法も重要です。

  • 水分摂取の促進:1日2L以上の水分を摂取し、排尿により細菌を洗い流す
  • 適切な排尿習慣:排尿を我慢せず、定期的にトイレに行く
  • 安静と休息:特に腎盂腎炎では安静が必要
  • 鎮痛薬:排尿痛や腰背部痛に対して使用
  • 解熱薬:発熱に対して使用

再発予防として、再発を繰り返す場合は、低用量の抗菌薬を長期間(6ヶ月〜1年)予防投与することがあります。また、クランベリージュースの摂取や乳酸菌製剤が再発予防に有効とされていますが、効果には個人差があります。


看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

  • 急性疼痛:尿路の炎症に関連した排尿痛、腰背部痛
  • 排尿障害:頻尿、残尿感、排尿困難に関連した排尿パターンの変化
  • 感染リスク:留置カテーテル、尿流停滞、免疫機能低下に関連した再発または悪化の可能性

ゴードン機能的健康パターン

健康知覚-健康管理パターン

尿路感染症の既往歴、再発の頻度、予防方法についての理解度を確認します。排尿習慣、水分摂取習慣、外陰部の清潔習慣、性交後の排尿習慣などを評価し、感染のリスク因子を把握します。また、抗菌薬の服薬状況、完了までの継続の重要性についての理解も確認します。

栄養-代謝パターン

水分摂取量が十分かを評価します。尿路感染症の予防と治療には、1日2L以上の水分摂取が推奨されます。しかし、腎盂腎炎で悪心・嘔吐がある場合は、経口摂取が困難になるため、点滴による水分補給が必要です。また、クランベリージュースなどの予防効果のある飲料について情報提供します。

排泄パターン

排尿回数、排尿量、排尿痛の有無と程度、尿の性状(色調、混濁、臭い)を詳しく観察します。頻尿、残尿感、排尿困難の程度を評価し、症状の改善を確認します。排尿を我慢する習慣がないか、適切なタイミングでトイレに行けているかも確認します。

活動-運動パターン

腎盂腎炎では全身倦怠感が強く、活動能力が低下します。安静の必要性と活動可能な範囲を評価します。また、外陰部の清潔保持のための動作が自立して行えるか、セルフケア能力を確認します。

睡眠-休息パターン

頻尿により夜間に何度もトイレに起きるため、睡眠が障害されます。睡眠の質と量を評価し、必要に応じて環境調整や薬物療法を検討します。

認知-知覚パターン

排尿痛、腰背部痛、下腹部痛など、疼痛の部位、性質、程度を評価します。疼痛により日常生活にどの程度影響が出ているかを確認します。また、尿路感染症の予防方法、治療の必要性についての理解度を評価します。

自己知覚-自己概念パターン

尿路感染症は再発しやすく、患者さんは「また感染してしまった」という自責の念や無力感を抱くことがあります。また、性交渉との関連や外陰部の清潔に関する話題は、羞恥心を伴うため、患者さんの心理状態に配慮した関わりが必要です。

役割-関係パターン

頻尿や排尿痛により、仕事や学業、日常生活に支障をきたすことがあります。社会生活への影響の程度を評価し、必要に応じて休養や診断書の必要性を検討します。

性-生殖パターン

性交渉との関連、性交後の排尿習慣、避妊方法(殺精子剤やペッサリーは尿路感染症のリスクを高める)について、羞恥心に配慮しながら確認します。妊娠の有無も重要で、妊婦では治療方針が異なります。

ヘンダーソン14基本的ニード

正常に呼吸する

重症の腎盂腎炎で敗血症に至った場合、呼吸状態が悪化することがあります。呼吸数、呼吸音、SpO2を観察し、異常の早期発見に努めます。

適切に飲食する

水分摂取の促進が治療の基本です。1日2L以上を目標に、こまめな水分摂取を促します。腎盂腎炎で悪心・嘔吐がある場合は、経口摂取が困難なため、点滴による水分補給を行います。

あらゆる排泄経路から排泄する

排尿状況の観察が最も重要です。排尿回数、排尿量、排尿痛の有無、尿の性状を詳しく観察します。排尿を我慢せず、適切なタイミングでトイレに行くよう指導します。治療により症状が改善しているかを評価します。

身体の位置を動かし、またよい姿勢を保持する

腎盂腎炎では安静が必要ですが、長期臥床による合併症を予防するため、状態に応じて適度な体位変換や離床を促します。

睡眠をとり休息する

頻尿により睡眠が障害されるため、就寝前のカフェイン摂取を避ける、就寝前にトイレに行くなどの工夫を提案します。疼痛により眠れない場合は、鎮痛薬の使用を検討します。

適当な衣類を選び、着脱する

通気性の良い綿素材の下着を選び、締め付けの強いものは避けるよう指導します。

体温を正常範囲に維持する

腎盂腎炎では高熱が出るため、定期的な体温測定を行います。解熱薬の使用、クーリング、水分補給により体温管理を行います。

身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する

外陰部の清潔保持が感染予防に重要です。正しい清拭方法(前から後ろへ)を指導します。また、入浴やシャワーにより全身の清潔を保ちます。

危険を回避し、他者を傷害しないようにする

高熱によるふらつき、転倒のリスクに注意します。また、抗菌薬の副作用(アレルギー、消化器症状など)の出現に注意します。

自分の感情、欲求、恐怖、あるいは”気分”を表現して他者とコミュニケーションをもつ

排尿に関する症状や外陰部の清潔についての相談は、羞恥心を伴います。患者さんがリラックスして話せる雰囲気を作り、プライバシーに配慮します。

看護計画・介入の内容

  • 疼痛管理:排尿痛、腰背部痛、下腹部痛の程度を定期的に評価する。鎮痛薬を適切なタイミングで投与し、効果を確認する。温罨法が有効な場合もあるため、患者の希望に応じて実施する
  • 排尿状況の観察:排尿回数、排尿量、排尿痛の有無、尿の性状(色調、混濁、血尿、臭い)を詳しく観察し、記録する。症状の改善を評価し、治療効果を判断する。排尿時の痛みの程度を10段階スケールなどで評価する
  • 水分摂取の促進:1日2L以上の水分摂取を目標に、こまめな水分補給を促す。水、お茶、クランベリージュースなど、適切な飲料を勧める。カフェインやアルコールは膀胱を刺激するため、控えるよう指導する。水分摂取量と尿量を記録し、バランスを評価する
  • 適切な排尿習慣の指導:排尿を我慢せず、尿意を感じたらすぐにトイレに行くよう指導する。2〜3時間ごとの定期的な排尿を促す。排尿後は残尿感があっても、少し時間をおいてから再度排尿を試みる(二回排尿法)ことも有効である
  • 外陰部の清潔保持の指導:排便後は前から後ろへ拭くよう指導し、大腸菌の尿道への侵入を防ぐ。毎日入浴またはシャワーで外陰部を清潔に保つ。ただし、洗いすぎや石鹸の過度な使用は膣内環境を乱すため、ぬるま湯で優しく洗う程度で十分であることを伝える
  • 性交後の排尿指導:性交後は速やかに排尿し、細菌を洗い流すよう指導する。性交前後のシャワーも予防に有効である
  • 服薬管理の支援:抗菌薬は症状が改善しても、処方された期間は必ず飲み切ることの重要性を説明する。自己判断で中止すると、再発や耐性菌の出現のリスクが高まることを伝える。服薬時間、服薬方法を確認し、飲み忘れがないよう支援する
  • 体温管理:腎盂腎炎では定期的な体温測定を行い、発熱の程度を評価する。高熱時は解熱薬を投与し、クーリング、水分補給により体温管理を行う。解熱の経過を観察し、抗菌薬の効果を判断する
  • バイタルサインのモニタリング:腎盂腎炎では敗血症のリスクがあるため、血圧、脈拍、呼吸数、SpO2を定期的に測定する。バイタルサインの異常、意識レベルの低下があれば速やかに医師に報告する
  • 安静と活動のバランス:腎盂腎炎では安静が必要であるが、過度の臥床は避ける。状態に応じて、トイレ歩行や病棟内歩行など、軽い活動を促す。全身状態が改善してきたら、徐々に活動範囲を広げる
  • カテーテル管理:留置カテーテルを使用している場合は、閉鎖式システムを維持し、細菌の侵入を防ぐ。カテーテルの固定を確認し、尿の逆流を防ぐため蓄尿バッグを膀胱より低い位置に保つ。カテーテル挿入部の清潔を保ち、感染徴候を観察する。可能な限り早期にカテーテルを抜去する
  • 再発予防の教育:尿路感染症は再発しやすいため、予防方法について十分に説明する。水分摂取、適切な排尿習慣、外陰部の清潔、性交後の排尿など、具体的な予防策を指導する。症状が再び出現した場合は、早期に受診するよう伝える
  • 心理的支援:再発を繰り返すことへの不安や、排泄に関する羞恥心に配慮する。患者の気持ちを傾聴し、安心感を提供する。プライバシーに配慮した環境で相談できるようにする

よくある疑問・Q&A

Q: 患者さんから「膀胱炎になったのですが、抗菌薬を飲んで1日で症状が良くなりました。もう飲まなくてもいいですか?」と聞かれました。どう答えればよいですか?

A: 症状が改善しても、抗菌薬は処方された期間、必ず飲み切ることが重要です。症状が良くなったのは、抗菌薬が効いて細菌が減少してきたためですが、まだ完全に除菌されているわけではありません。自己判断で服用を中止すると、残っている細菌が再び増殖し、症状が再発してしまいます。さらに、中途半端な治療により、細菌が抗菌薬に対する耐性を獲得してしまうリスクもあります。耐性菌が出現すると、次に感染した時に同じ抗菌薬が効かなくなり、治療が困難になります。処方された抗菌薬は、細菌を完全に除菌するために必要な期間が計算されていますので、症状が消失しても最後まできちんと飲み切ってください。もし副作用が辛いなどの理由があれば、自己判断で中止せず、必ず医師に相談してくださいね、と説明しましょう。

Q: 尿路感染症の患者さんから「水をたくさん飲んだ方がいいと言われましたが、トイレが近くなって困ります。どうすればいいですか?」と相談されました。どうアドバイスすればよいですか?

A: 水分摂取の増加により頻尿になることは理解できますが、これは実は治療に役立っているのです。水分をたくさん摂取すると尿量が増え、排尿のたびに膀胱内の細菌が洗い流されます。これが自然な治癒メカニズムを助けるのです。また、尿が濃縮されると膀胱粘膜への刺激が強くなりますが、水分を多く摂ることで尿が薄まり、排尿痛が軽減されることもあります。頻尿は一時的なもので、感染が治まれば通常の排尿回数に戻ります。ただし、外出時や就寝前などで困る場合は、飲むタイミングを工夫することも可能です。例えば、日中にしっかり水分を摂り、就寝前2〜3時間は控えめにするという方法もあります。また、頻尿があっても排尿を我慢することは避け、尿意を感じたらすぐにトイレに行くことが大切です。症状が改善してきたら、自然と排尿回数も減ってきますので、もう少し頑張って水分摂取を続けてくださいね、と励ましましょう。

Q: 女性の患者さんが恥ずかしそうに「性交渉の後に膀胱炎になることが多いのですが、何か予防方法はありますか?」と相談してきました。どう対応すればよいですか?

A: まず、この相談をしてくださったことに感謝の気持ちを伝え、決して恥ずかしいことではないことを伝えましょう。性交後の膀胱炎は、実は多くの女性が経験する一般的な問題です。性交渉により、会陰部や膣の常在菌が機械的に尿道に押し込まれることが原因です。予防方法として、最も効果的なのは性交後すぐに排尿することです。性交後30分以内、できれば直後に排尿することで、尿道に侵入した細菌を洗い流すことができます。また、性交前後にシャワーを浴びて外陰部を清潔に保つことも有効です。十分な水分摂取により尿量を確保しておくことも大切です。避妊方法も関係しており、殺精子剤やペッサリーは膣内環境を変化させて尿路感染症のリスクを高めるため、他の避妊方法を検討することも一つの選択肢です。再発を繰り返す場合は、医師に相談すれば、性交後に抗菌薬を1回だけ服用する予防法もあります。これらの対策を試してみてください、と具体的にアドバイスします。

Q: 高齢の患者さんで、発熱もなく排尿症状もはっきりしないのですが、意識がぼんやりしていて、食事もあまり摂れなくなっています。尿路感染症の可能性はありますか?

A: はい、高齢者では尿路感染症の症状が非典型的であることが多く、まさにご指摘のような症状で発見されることがあります。高齢者では免疫機能や体温調節機能が低下しているため、発熱が目立たないことがあります。また、認知機能の低下により、頻尿や排尿痛などの自覚症状を訴えることが困難です。そのため、意識レベルの低下、活動性の低下、食欲不振、転倒、せん妄などが、尿路感染症の唯一のサインとなることがあります。このような症状が見られた場合は、尿検査を行い、膿尿や細菌尿の有無を確認する必要があります。また、体温は微熱程度でも、普段の体温と比較して上昇していないかを確認します。高齢者の尿路感染症は重症化しやすく、敗血症に至ることもあるため、早期発見が重要です。普段と様子が違う、元気がないといった漠然とした変化も見逃さず、尿路感染症の可能性を念頭に置いてアセスメントすることが大切です。

Q: 留置カテーテルを使用している患者さんの尿路感染症予防で、特に注意すべきことは何ですか?

A: 留置カテーテルは尿路感染症の最大のリスク因子の一つです。カテーテル関連尿路感染症の予防には、いくつかの重要なポイントがあります。まず、そもそもカテーテルが本当に必要かを常に見直し、不要になったら速やかに抜去することが最も効果的な予防です。カテーテルを使用する場合は、閉鎖式システムを維持し、採尿時以外は接続部を開放しないことが重要です。接続部を外すたびに細菌が侵入するリスクが高まります。蓄尿バッグは常に膀胱より低い位置に保ち、尿の逆流を防ぎます。ただし、床には接触させず、スタンドやベッド柵に固定します。また、カテーテルの固定を確実に行い、カテーテルが動いて尿道粘膜を損傷しないようにします。カテーテル挿入部の清潔は、毎日石鹸と水で優しく洗浄する程度で十分で、消毒薬の使用は必要ありません。尿の性状(混濁、血尿、悪臭)を観察し、感染の徴候を早期に発見します。また、患者さんには十分な水分摂取を促し、尿量を確保します。定期的なカテーテル交換は感染予防には効果がないため、詰まりや破損がない限り交換は不要です。これらの基本的なケアを確実に行うことが、感染予防につながります。

Q: 患者さんから「クランベリージュースが膀胱炎の予防に良いと聞いたのですが、本当ですか?」と質問されました。どう答えればよいですか?

A: クランベリージュースには、尿路感染症の予防効果があると考えられています。クランベリーに含まれるプロアントシアニジンという成分が、大腸菌などの細菌が膀胱壁に付着するのを防ぐ作用があるとされています。いくつかの研究では、特に再発性の尿路感染症を持つ女性において、クランベリー製品の摂取が再発率を低下させたという報告があります。ただし、効果には個人差があり、すべての人に効果があるわけではありません。また、既に感染している膀胱炎を治療する効果はなく、あくまで予防目的です。クランベリージュースを飲む場合は、糖分の少ない100%ジュースを選ぶことをお勧めします。市販の加糖されたジュースは糖分が多く、かえって健康に悪影響を与える可能性があります。1日にコップ1〜2杯程度を目安に飲むと良いでしょう。クランベリージュースが苦手な場合は、サプリメントもあります。ただし、ワルファリンなどの抗凝固薬を服用している方は、クランベリーがその効果を増強する可能性があるため、医師に相談してから摂取してください。クランベリーはあくまで補助的な予防法であり、水分摂取、適切な排尿習慣、外陰部の清潔保持といった基本的な予防法をしっかり行うことが最も重要です、と説明しましょう。


まとめ

尿路感染症は、尿路に細菌が侵入して炎症を引き起こす非常に頻度の高い感染症です。特に女性に多く、生涯に約半数が経験するとされています。病態の核心は、上行性感染により細菌が尿道から膀胱、さらには腎盂へと進展することにあり、膀胱炎は局所症状のみですが、腎盂腎炎では全身症状を伴い重症化のリスクがあります。

看護の要点として、第一に症状の観察と評価が重要です。排尿痛、頻尿、残尿感などの膀胱刺激症状の程度を評価し、発熱や腰背部痛などの上部尿路感染症への進展の徴候を早期に発見します。尿の性状(混濁、血尿、悪臭)も重要な観察項目です。

第二に、治療の支援です。抗菌薬の確実な服薬管理を行い、症状が改善しても処方された期間は必ず飲み切ることの重要性を説明します。水分摂取を1日2L以上に促進し、排尿により細菌を洗い流す自然な治癒メカニズムを支援します。

第三に、再発予防の教育です。尿路感染症は再発しやすい疾患であり、適切な予防方法を患者さんが理解し実践できるよう支援することが重要です。水分摂取、排尿を我慢しない、外陰部の清潔保持、性交後の排尿など、具体的で実践可能な指導を行います。

患者教育のポイントとして、排泄や性に関する話題は羞恥心を伴うため、プライバシーに十分配慮し、患者さんが安心して相談できる雰囲気を作ることが大切です。「よくあることです」「恥ずかしいことではありません」といった言葉で、患者さんの不安や羞恥心を軽減します。

また、抗菌薬の適正使用の重要性を伝えます。症状改善後も完了まで服用することで耐性菌の出現を防ぎ、再発を予防できることを説明します。自己判断での中止は、治療失敗や耐性菌のリスクを高めることを理解してもらいます。

実習での心構えとして、尿路感染症は非常に頻度が高く、様々な年齢層、性別の患者さんで遭遇します。女性の単純性膀胱炎から、高齢者の複雑性感染症、カテーテル関連感染症まで、多様な病態があることを理解しましょう。特に高齢者では症状が非典型的であることを念頭に置き、意識レベルの変化や活動性の低下といった漠然とした症状にも注意を払います。

カテーテル管理では、閉鎖式システムの維持早期抜去の検討など、感染予防の基本を確実に実践することが重要です。小さなケアの積み重ねが、感染予防につながります。

患者さんとの関わりでは、排泄に関する相談は羞恥心を伴うため、プライバシーへの配慮共感的な態度を忘れずに。再発を繰り返す患者さんの不安や自責の念に寄り添い、前向きに予防に取り組めるよう支援しましょう。基本的な観察と患者教育を丁寧に行うことで、患者さんの回復と再発予防に大きく貢献できます。


免責事項

本記事は教育・学習目的の情報提供です。

  • 一般的な医学知識の解説であり、個別の患者への診断・治療の根拠ではありません
  • 実際の看護実践は、患者の個別性を考慮し、指導者の指導のもと行ってください
  • 記事の情報は公開時点のものであり、最新の医学的知見と異なる場合があります
  • 本記事を課題としてそのまま提出しないでください
  • 正確な情報提供に努めていますが、内容の完全性・正確性を保証するものではありません

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