疾患概要
定義
慢性腎臓病(CKD: Chronic Kidney Disease)とは、腎臓の障害または腎機能低下が3ヶ月以上持続している状態を指します。具体的には、尿検査や画像診断で腎臓の障害が確認される場合、または糸球体濾過量(GFR)が60ml/分/1.73㎡未満に低下している場合に診断されます。CKDは進行性の疾患であり、放置すると末期腎不全に至り透析療法や腎移植が必要となります。また、心血管疾患のリスクも著しく高まるため、早期発見と進行抑制が極めて重要です。
疫学
日本におけるCKD患者数は約1,330万人と推定され、成人の約8人に1人が該当する国民病となっています。特に高齢者では有病率が高く、70歳以上では約40%がCKDを有しています。透析療法を受けている患者数は約35万人で、毎年約4万人が新たに透析導入されています。透析導入の原因疾患として最も多いのは糖尿病性腎症で約40%、次いで慢性糸球体腎炎、腎硬化症と続きます。高齢化や糖尿病患者の増加に伴い、CKD患者数は今後も増加すると予測されています。また、CKD患者は心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患による死亡リスクが健常者の2〜3倍高いことが明らかになっています。
原因
CKDの原因は多岐にわたりますが、主な原因疾患として以下が挙げられます。
糖尿病性腎症は、日本における透析導入原因の第1位です。長期間の高血糖により腎臓の細小血管が障害され、糸球体硬化が進行します。糖尿病発症後10〜15年程度で腎症が顕在化することが多いです。
慢性糸球体腎炎は、IgA腎症、膜性腎症、巣状糸球体硬化症などが含まれます。免疫学的機序により糸球体に炎症が生じ、徐々に腎機能が低下します。
腎硬化症は、高血圧の持続により腎臓の細動脈が硬化し、腎実質が障害される病態です。加齢とともに増加傾向にあります。
多発性嚢胞腎は、遺伝性疾患で腎臓に多数の嚢胞が形成され、正常な腎組織が圧迫・破壊されます。
その他、間質性腎炎、閉塞性腎症、薬剤性腎障害、自己免疫疾患に伴う腎障害なども原因となります。また、加齢そのものも腎機能低下の要因となります。
病態生理
CKDの病態生理は、ネフロンの不可逆的な喪失と残存ネフロンへの過負荷という悪循環により進行します。
健康な腎臓には約100万個のネフロンがありますが、何らかの原因でネフロンが障害されると、その機能は失われます。初期には残存する健常なネフロンが代償的に過剰濾過を行い、腎機能をある程度維持します。しかし、この代償機構により残存ネフロンにも負担がかかり、糸球体内圧が上昇します。
糸球体内圧の上昇は、糸球体硬化を促進させます。硬化した糸球体では濾過機能が失われ、さらに機能するネフロンの数が減少します。この結果、残存ネフロンへの負荷がさらに増大し、悪循環が形成されます。この過程を糸球体硬化の進行と呼びます。
腎機能の低下により、様々な代謝異常が生じます。
老廃物の蓄積として、尿素窒素、クレアチニン、尿酸などが体内に蓄積します。これらの蓄積により尿毒症症状が出現します。
水・電解質バランスの異常では、ナトリウムと水の排泄障害により体液貯留が生じ、浮腫や高血圧が悪化します。カリウムの排泄障害により高カリウム血症のリスクが高まります。また、リンの排泄障害により高リン血症となり、カルシウムとのバランスが崩れます。
カルシウム・リン代謝異常は、CKDの特徴的な病態です。腎臓での活性型ビタミンD産生が低下すると、腸管からのカルシウム吸収が減少し、低カルシウム血症となります。低カルシウム血症と高リン血症により副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌が亢進し、二次性副甲状腺機能亢進症が発症します。PTHは骨からカルシウムを動員するため、骨密度が低下し、腎性骨異栄養症を引き起こします。また、血管の石灰化も促進され、心血管疾患のリスクが高まります。
貧血は、腎臓でのエリスロポエチン産生低下により生じます。エリスロポエチンは赤血球の産生を促進するホルモンで、その不足により赤血球が十分に作られず、腎性貧血となります。
酸塩基平衡の異常として、酸の排泄障害により代謝性アシドーシスが進行します。アシドーシスは骨からのカルシウム溶出を促進し、骨病変を悪化させます。
心血管系への影響も重要です。CKDでは動脈硬化が促進され、心筋梗塞、脳卒中、心不全のリスクが著しく上昇します。高血圧、貧血、体液貯留、血管石灰化などが複合的に作用し、心血管疾患の発症につながります。
GFRが15ml/分/1.73㎡未満まで低下すると末期腎不全となり、透析療法や腎移植が必要となります。
症状・診断・治療
症状
CKDは初期にはほとんど無症状であることが特徴で、これが早期発見を困難にしています。健康診断での尿検査や血液検査で偶然発見されることが多いです。
早期(ステージ1〜2)では、自覚症状はほとんどありません。尿検査で蛋白尿や血尿が見られることがありますが、本人は気づいていないことが多いです。
中等度(ステージ3)になると、軽度の倦怠感や疲労感を感じることがありますが、日常生活に大きな支障はありません。夜間頻尿が出現することもあります。
進行期(ステージ4)では、より明確な症状が現れ始めます。全身倦怠感、易疲労感、食欲不振、悪心などが出現します。貧血により息切れや動悸を感じるようになります。むくみが目立ち始め、特に下肢や顔面に浮腫が見られます。高血圧のコントロールが困難になります。
末期腎不全(ステージ5)では、尿毒症症状が顕著となります。消化器症状として、強い悪心・嘔吐、食欲不振、口内炎、消化管出血が見られます。神経症状では、意識障害、集中力低下、不眠、末梢神経障害によるしびれや痛み、筋肉の痙攣やこむら返りが出現します。循環器症状として、息切れ、起坐呼吸、心膜炎による胸痛が現れます。皮膚症状では、掻痒感、皮膚の色素沈着、尿毒症性霜が見られることがあります。また、免疫機能低下により感染症にかかりやすくなります。
診断
CKDの診断は、腎機能の評価と腎障害の証明により行われます。
腎機能の評価には、血清クレアチニン値から算出される推算糸球体濾過量(eGFR)が用いられます。eGFRは年齢、性別、血清クレアチニン値から計算され、腎機能を数値化したものです。60ml/分/1.73㎡未満が3ヶ月以上持続する場合、CKDと診断されます。
腎障害の証明には、尿検査が重要です。蛋白尿の有無と程度を評価し、尿蛋白/クレアチニン比(UPCR)または尿アルブミン/クレアチニン比(UACR)を測定します。持続性の蛋白尿(0.15g/gCr以上)または持続性のアルブミン尿(30mg/gCr以上)があれば、腎障害と判断されます。血尿の有無も確認します。
画像検査では、超音波検査で腎臓のサイズや形態を評価します。CKDが進行すると腎臓が萎縮することが多いです。嚢胞や腫瘍の有無も確認します。
血液検査では、血清クレアチニン、BUN、電解質(ナトリウム、カリウム、カルシウム、リン)、副甲状腺ホルモン、ヘモグロビン、アルブミンなどを測定し、腎機能低下に伴う代謝異常を評価します。
CKDのステージ分類は、GFRの値により5段階に分けられます。
- ステージ1: GFR 90以上(腎障害は存在するが、GFRは正常または高値)
- ステージ2: GFR 60〜89(GFR軽度低下)
- ステージ3a: GFR 45〜59(GFR軽度〜中等度低下)
- ステージ3b: GFR 30〜44(GFR中等度〜高度低下)
- ステージ4: GFR 15〜29(GFR高度低下)
- ステージ5: GFR 15未満(末期腎不全)
また、原疾患や蛋白尿の程度も考慮し、総合的にリスク評価を行います。
治療
CKDの治療目標は、腎機能低下の進行を抑制することと心血管疾患などの合併症を予防することです。
原疾患の治療が最優先です。糖尿病性腎症では血糖コントロール、慢性糸球体腎炎では免疫抑制療法、腎硬化症では血圧管理が中心となります。
血圧管理は、CKDの進行抑制に最も重要です。目標血圧は130/80mmHg未満とされ、蛋白尿がある場合はさらに厳格な管理が推奨されます。降圧薬としては、ACE阻害薬やARBが第一選択となります。これらの薬剤は降圧効果に加えて、腎保護作用も有しています。
食事療法は、CKD治療の基本です。
- タンパク質制限: ステージ3以降では、タンパク質を0.6〜0.8g/kg/日に制限します。過剰なタンパク質は腎臓に負担をかけるため、適切な制限が必要です。ただし、低栄養にならないよう、エネルギーは十分に摂取します。
- 塩分制限: 1日6g未満を目標とします。塩分過多は高血圧や浮腫を悪化させます。
- カリウム制限: ステージ3b以降では、血清カリウム値に応じて制限します。高カリウム血症は不整脈のリスクとなります。
- リン制限: 血清リン値を正常範囲に保つため、リンを多く含む食品を制限します。
- 適切なエネルギー摂取: 25〜35kcal/kg/日を目標とし、低栄養を予防します。
薬物療法では、各種の薬剤を用いて合併症を管理します。
- 降圧薬: ACE阻害薬、ARB、カルシウム拮抗薬など
- 貧血治療: エリスロポエチン製剤と鉄剤を併用します。目標ヘモグロビン値は10〜12g/dl程度です。
- カルシウム・リン代謝異常の治療: リン吸着薬、活性型ビタミンD製剤、カルシウム受容体作動薬などを使用し、二次性副甲状腺機能亢進症を管理します。
- 脂質異常症の治療: スタチンなどを用いて、心血管疾患のリスクを低減します。
- 尿酸降下薬: 高尿酸血症がある場合に使用します。
生活習慣の改善も重要です。禁煙、適度な運動、適正体重の維持、ストレス管理などが推奨されます。
透析療法の準備として、ステージ4以降では透析療法について十分な説明を行い、患者・家族の意思決定を支援します。ブラッドアクセス(内シャント)の作成時期も検討します。
透析療法の開始時期は、GFRの値だけでなく、尿毒症症状の有無、栄養状態、心血管系の状態などを総合的に判断して決定します。一般的にはGFRが10〜15ml/分/1.73㎡未満になった時点で透析導入を検討します。
腎移植は、透析療法と並ぶ腎代替療法の選択肢です。条件が合えば、透析導入前に先行的腎移植を行うこともあります。
看護アセスメント・介入
よくある看護診断・問題
- 非効果的自己健康管理:長期にわたる食事制限や服薬管理の複雑さに関連した治療計画の実行困難
- 栄養摂取消費バランス異常:食欲不振、食事制限、尿毒症症状に関連した低栄養のリスク
- 活動耐性低下:貧血、倦怠感、心血管系の負担に関連した日常生活活動の制限
ゴードン機能的健康パターン
健康知覚-健康管理パターン
CKDは長期間の自己管理が必要な疾患であるため、患者さんが自身の病状をどの程度理解しているか、進行を抑制するための治療の重要性を認識しているかを確認します。服薬アドヒアランス、定期受診の状況、血圧測定などのセルフモニタリングの実施状況を評価します。また、透析療法への移行に対する心理的準備状態や、家族のサポート体制も重要です。
栄養-代謝パターン
食事療法はCKD治療の基盤ですが、多くの制限があり、患者さんにとって負担となります。現在の食事内容、制限食の理解度と実行度、食欲の状態、体重の変化を詳しく評価します。タンパク質、塩分、カリウム、リンの摂取状況を把握し、栄養指導の必要性をアセスメントします。また、尿毒症による食欲不振や悪心がある場合は、低栄養のリスクが高まるため注意が必要です。
排泄パターン
尿量の変化、尿の性状、夜間頻尿の有無を確認します。CKDの進行により尿濃縮能が低下し、夜間頻尿が出現することがあります。また、排便状況も重要で、便秘はカリウムの排泄を妨げるため、適切な排便管理が必要です。
活動-運動パターン
貧血や倦怠感により活動能力が低下します。日常生活動作の自立度、活動時の息切れや動悸の有無、運動習慣を評価します。適度な運動は心血管系の健康維持に有益ですが、過度な運動は避けるべきです。患者さんの活動能力に応じた個別的な運動指導が必要です。
睡眠-休息パターン
夜間頻尿、掻痒感、むずむず脚症候群、呼吸困難などにより睡眠が障害されやすいです。睡眠の質と量、日中の眠気や倦怠感の程度を確認します。睡眠障害は生活の質を大きく低下させるため、適切な対応が必要です。
認知-知覚パターン
尿毒症の進行により、集中力低下、記憶力低下、意識レベルの変化が生じることがあります。また、複雑な食事制限や服薬管理を理解し実践する認知機能があるかを評価します。高齢者では認知症を合併していることもあり、自己管理能力をアセスメントする必要があります。
自己知覚-自己概念パターン
長期にわたる疾患との付き合いや透析療法への移行により、患者さんは自己イメージの変化や喪失感を経験します。疾患による生活の変化をどう受け止めているか、治療への意欲やモチベーション、抑うつ傾向の有無を評価します。
役割-関係パターン
CKDは家族や社会生活にも影響を及ぼします。仕事や家庭での役割の変化、家族関係への影響、経済的負担、社会的サポートの有無を確認します。透析導入後は通院頻度が増え、就労継続が困難になることもあります。
コーピング-ストレス耐性パターン
長期にわたる疾患管理や将来への不安により、ストレスが蓄積します。患者さんのストレス対処方法、サポートシステムの有無、精神的健康状態を評価します。適切な対処ができていない場合は、心理的支援が必要です。
ヘンダーソン14基本的ニード
正常に呼吸する
貧血や体液過剰により呼吸困難が生じることがあります。呼吸数、呼吸音、SpO2を観察し、活動時の息切れの程度を評価します。心不全の徴候にも注意が必要です。
適切に飲食する
食事療法の実践が重要ですが、多くの制限により食事の楽しみが失われやすいです。制限食の中でも患者さんが楽しめる食事を一緒に考え、実践可能な方法を提案します。栄養士と連携し、個別的な食事指導を行います。
あらゆる排泄経路から排泄する
尿量の変化、浮腫の有無を観察します。利尿薬を使用している場合は、その効果と副作用を評価します。便秘予防のため、適切な排便コントロールを支援します。
身体の位置を動かし、またよい姿勢を保持する
貧血や倦怠感により活動能力が低下しますが、適度な運動は重要です。患者さんの状態に応じた活動レベルを設定し、無理のない範囲での運動を促します。
睡眠をとり休息する
夜間頻尿や掻痒感により睡眠が障害される場合は、その原因に応じた対策を講じます。就寝前の水分摂取を控える、皮膚の保湿を行うなどの工夫をします。
適当な衣類を選び、着脱する
浮腫がある場合は、締め付けの少ない衣類を選択します。また、透析導入後は内シャント側の腕に血圧測定や採血を行わないため、衣類の選択にも配慮が必要です。
体温を正常範囲に維持する
CKD患者は感染症のリスクが高いため、体温測定を定期的に行い、発熱の早期発見に努めます。予防接種(インフルエンザ、肺炎球菌など)の必要性も説明します。
身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する
尿毒症により皮膚の掻痒感が生じやすいです。清潔保持と保湿ケアを行います。透析導入後は内シャント部位の清潔管理も重要です。
危険を回避し、他者を傷害しないようにする
高カリウム血症による不整脈、転倒・骨折のリスク、薬剤の副作用などに注意します。また、腎機能に応じた薬剤の用量調整が適切に行われているかを確認します。
自分の感情、欲求、恐怖、あるいは”気分”を表現して他者とコミュニケーションをもつ
疾患の進行や透析療法への移行に対する不安や恐怖を傾聴します。患者さんが感情を表出できる機会を提供し、心理的支援を行います。同じ疾患を持つ患者同士の交流も有益です。
自分の信仰に従って礼拝する
長期にわたる疾患との付き合いの中で、精神的な支えとなるものを見つけることは重要です。患者さんの信仰や価値観を尊重します。
達成感をもたらすような仕事をする
CKDは就労に影響を与えることがあります。仕事の継続可能性、配置転換の必要性、経済的な不安などについて話し合い、必要に応じて医療ソーシャルワーカーと連携します。
遊び、あるいはさまざまな種類のレクリエーションに参加する
疾患があっても、生活の質を維持するためには趣味や楽しみが重要です。患者さんの状態に応じて可能なレクリエーション活動を一緒に考えます。
“正常”発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる
患者教育は継続的に行う必要があります。疾患や治療についての理解を深め、自己管理能力を高められるよう支援します。
看護計画・介入の内容
- 血圧管理の支援:家庭血圧測定の方法を指導し、測定記録をつけることを促す。目標血圧を患者さんと共有し、達成に向けた生活習慣の改善を支援する。降圧薬の服薬アドヒアランスを確認し、副作用の有無を評価する
- 食事療法の支援:タンパク質、塩分、カリウム、リンの制限について、具体的な食品名や調理方法を用いて分かりやすく説明する。栄養士と連携し、患者さんの嗜好や生活スタイルに合わせた個別的な食事プランを作成する。外食時の注意点や食品の選び方についても指導する
- 服薬管理の支援:多種類の薬剤を服用していることが多いため、服薬スケジュールを整理し、理解しやすい一覧表を作成する。薬剤の効果と副作用について説明し、自己判断で中止しないことの重要性を伝える。腎機能に応じた薬剤の調整が必要なことを説明する
- 体重・浮腫の観察:毎日同じ条件で体重を測定し、急激な増減に注意する。浮腫の部位と程度を観察し、体液貯留の徴候を早期に発見する。体重増加が見られる場合は、塩分摂取量や水分摂取量を見直す
- 貧血への対応:エリスロポエチン製剤や鉄剤の投与を確実に行い、効果を評価する。貧血による倦怠感や息切れに対し、活動と休息のバランスを調整する。転倒予防のため、ふらつきに注意する
- 高カリウム血症の予防:血清カリウム値を定期的にモニタリングし、上昇傾向があれば食事内容を見直す。カリウムを多く含む食品と、カリウムを減らす調理方法について指導する。便秘はカリウムの排泄を妨げるため、排便管理を行う
- 二次性副甲状腺機能亢進症の管理:リン吸着薬は食事と一緒に服用することで効果を発揮するため、服用タイミングを確認する。血清リン値、カルシウム値、PTH値をモニタリングし、治療効果を評価する。骨折予防のため、転倒に注意する
- 感染予防:CKD患者は免疫機能が低下しているため、感染予防が重要である。手洗い、うがいの励行、人混みを避ける、予防接種の推奨などを指導する。発熱や感染徴候があれば早期に受診するよう伝える
- 皮膚ケア:掻痒感に対し、保湿剤の使用、適切な室温・湿度の調整、爪を短く保つなどの対策を指導する。掻痒が強い場合は、医師に相談し抗ヒスタミン薬の使用を検討する
- 透析療法の準備と教育:ステージ4以降では、透析療法についての情報提供を開始する。血液透析と腹膜透析の違い、それぞれのメリット・デメリットを説明し、患者・家族の意思決定を支援する。内シャント作成のタイミングや術後管理についても説明する。透析施設の見学や、透析患者との交流の機会を提供することも有効である
- 心理的支援:疾患の進行や透析療法への移行に対する不安、抑うつ、喪失感などに寄り添う。患者さんの思いを傾聴し、感情を表出できる機会を提供する。必要に応じて臨床心理士や精神科医と連携する。患者会への参加を勧め、ピアサポートを促進する
- 運動療法の指導:適度な運動は心血管系の健康維持に有益であるが、過度な運動は避ける。ウォーキングなどの有酸素運動を1日30分程度、週3〜5回行うことを推奨する。貧血や倦怠感の程度に応じて、無理のない範囲で実施するよう指導する
- 生活習慣の改善支援:禁煙の重要性を説明し、禁煙外来の利用を勧める。適正体重の維持、ストレス管理、十分な睡眠などについても指導する。アルコールは腎臓に負担をかけるため、控えめにするよう伝える
- 定期受診の重要性の説明:CKDは症状が乏しいため、定期受診を怠りやすい。定期的な検査により腎機能の変化を把握し、治療方針を調整する必要性を説明する。受診中断は腎機能の急速な悪化につながることを伝える
- 家族への教育と支援:家族もCKDについて理解し、患者さんの療養生活を支えられるよう、家族への教育を行う。特に食事療法は家族の協力が不可欠であり、調理担当者への指導が重要である。家族の介護負担にも配慮し、必要に応じて社会資源の活用を提案する
- 経済的支援:CKDの治療は長期にわたり、医療費の負担が大きい。医療費助成制度(特定疾病療養受療証、障害年金など)について情報提供し、医療ソーシャルワーカーと連携して経済的支援を行う
よくある疑問・Q&A
Q: 患者さんから「腎臓が悪いのに、なぜタンパク質を制限するのですか? タンパク質は体に良いのではないですか?」と質問されました。どう説明すればよいですか?
A: 確かにタンパク質は体に必要な栄養素ですが、CKDでは適切に制限する必要があります。その理由を丁寧に説明しましょう。タンパク質は体内で代謝されると、尿素窒素などの老廃物が産生されます。健康な腎臓ならこれらを効率よく排泄できますが、腎機能が低下すると老廃物が体内に蓄積し、尿毒症症状を引き起こします。また、タンパク質の過剰摂取は、残存するネフロンに過剰な負荷をかけ、糸球体内圧を上昇させます。これが糸球体硬化を促進し、腎機能の低下を加速させてしまいます。適切にタンパク質を制限することで、腎臓への負担を軽減し、腎機能の低下を抑制できるのです。ただし、制限しすぎると低栄養になるため、適切な量を摂取することが重要です。具体的には、体重1kgあたり0.6〜0.8g程度が目安となります。また、タンパク質を制限する分、炭水化物や脂質からエネルギーをしっかり摂取し、全体のエネルギー不足にならないよう注意が必要です、と説明しましょう。
Q: 「カリウムを制限しなければいけないと言われましたが、野菜や果物は健康に良いと思っていました。食べてはいけないのですか?」と患者さんが不安そうにしています。どう答えればよいですか?
A: 野菜や果物を全く食べてはいけないわけではありません。工夫次第で安全に摂取できることを説明しましょう。カリウムは水に溶ける性質があるため、野菜は小さく切ってたっぷりのお湯で茹で、茹で汁は捨てることでカリウムを減らすことができます。また、水にさらす方法も有効です。生野菜サラダよりも、茹でた野菜の方がカリウムが少なくなります。果物については、缶詰のシロップ漬けはカリウムが減っているので、生の果物よりも安全です。ただし、バナナ、メロン、キウイ、アボカドなどは特にカリウムが多いため、避けた方が良いでしょう。比較的カリウムが少ない果物として、りんご(少量)や缶詰の桃などがあります。野菜の中では、きゅうり、レタス、キャベツ、もやしなどは比較的カリウムが少なめです。完全に制限するのではなく、調理方法を工夫し、量を考えながら楽しむことが大切です。栄養士と相談しながら、具体的な食事プランを立てることをお勧めします、と伝えましょう。
Q: CKDの患者さんが「最近、夜中に何度もトイレに起きるようになりました。水分を控えた方がいいですか?」と相談してきました。どうアドバイスすればよいですか?
A: 夜間頻尿はCKDでよく見られる症状です。これは、腎臓の尿濃縮能が低下し、夜間でも薄い尿が多く作られるためです。しかし、水分を極端に制限することは推奨されません。なぜなら、適切な水分摂取は腎臓への血流を維持し、腎機能を保護するために重要だからです。脱水は腎機能をさらに悪化させる可能性があります。夜間頻尿への対策として、まず就寝前2〜3時間は水分摂取を控えめにすることをお勧めします。日中に十分な水分を摂取し、夕方以降は少なめにするという時間配分が効果的です。また、カフェインやアルコールは利尿作用があるため、夕方以降は避けましょう。寝る前にトイレに行く習慣をつけることも大切です。それでも夜間頻尿が辛い場合は、医師に相談し、利尿薬の服用時間を調整するなどの対応も可能です。夜間頻尿による睡眠障害は生活の質を低下させるため、我慢せずに相談してくださいね、と伝えましょう。
Q: 「透析になるのが怖いです。できるだけ透析を避けたいのですが、どうすればいいですか?」と患者さんが訴えています。どう対応すればよいですか?
A: 透析への不安は、多くのCKD患者さんが抱える感情です。まずは、その気持ちを受け止め、共感することが大切です。透析を避けたいというお気持ちはよく分かります。実際、適切な治療と生活管理により、透析導入を遅らせることは可能です、と伝えましょう。具体的には、血圧を目標値内にコントロールすること、食事療法を継続すること、服薬をきちんと守ること、定期的に受診して腎機能をモニタリングすることが重要です。原疾患が糖尿病であれば、血糖コントロールも欠かせません。禁煙や適度な運動も腎機能の保護に役立ちます。これらの自己管理をしっかり行うことで、腎機能の低下を緩やかにし、透析導入の時期を遅らせることができます。ただし、いつかは透析が必要になる可能性もあることを、少しずつ受け入れていく心の準備も大切です。透析は決して怖いものではなく、腎臓の機能を代行して命を守る治療法です。透析をしながら元気に生活している方もたくさんいます。もし透析が必要になったときには、私たちがしっかりサポートしますので、一緒に頑張りましょう、と励まします。
Q: CKD患者さんの家族から「食事制限のメニューを考えるのが大変です。どうしたらいいですか?」と相談されました。どうアドバイスすればよいですか?
A: 食事療養を支える家族の負担は大きく、その大変さに共感することが大切です。まず、完璧を目指さなくても大丈夫だということを伝えましょう。少しずつできることから始め、徐々に慣れていけば良いのです。具体的なアドバイスとして、まず栄養士による食事指導を受け、具体的なメニュー例や調理方法を学ぶことをお勧めします。多くの病院では栄養指導を行っており、実際の食品サンプルを見ながら学べます。また、腎臓病食のレシピ本やウェブサイトも多数あるため、それらを活用すると便利です。調理の工夫として、野菜は茹でこぼしてカリウムを減らす、調味料は計量して塩分をコントロールする、出汁をしっかり取って塩分を減らしても美味しく仕上げる、などの方法があります。最初から家族全員が同じ食事を摂る必要はなく、患者さんの分だけを別に調理したり、味付けを薄めにして各自が調整するという方法もあります。また、腎臓病食の宅配サービスを利用することも選択肢の一つです。食事制限は長期にわたるため、家族の負担が大きい場合は、無理をせず外部のサービスを活用することも考えてください、と伝えましょう。
まとめ
慢性腎臓病(CKD)は、腎機能が3ヶ月以上にわたり低下し続ける進行性の疾患です。日本では成人の約8人に1人が該当する国民病であり、放置すると末期腎不全に至り透析療法が必要となります。病態の核心は、ネフロンの不可逆的な喪失と残存ネフロンへの過負荷による悪循環にあり、一度失われた腎機能は回復しません。
CKDの最大の特徴は、初期にはほとんど無症状であることです。これが早期発見を困難にし、気づいたときには既に進行していることが多いのです。そのため、健康診断での尿検査や血液検査による早期発見と、進行を抑制するための継続的な治療が極めて重要です。
看護の要点として、第一に患者教育と自己管理能力の向上が最重要です。CKDは長期にわたる自己管理が必要な疾患であり、血圧管理、食事療法、服薬管理を患者さん自身が継続できるよう支援します。特に食事療法は、タンパク質、塩分、カリウム、リンなど多くの制限があり、患者さんと家族の負担が大きいため、具体的で実践可能な指導が必要です。
第二に、合併症の予防と早期発見です。貧血、二次性副甲状腺機能亢進症、心血管疾患などの合併症を早期に発見し、適切に管理することで、患者さんの生活の質を維持します。定期的な検査データのモニタリングと、症状の観察が重要です。
第三に、心理的支援です。疾患の進行や透析療法への移行に対する不安、食事制限による生活の楽しみの喪失、将来への不安など、患者さんは多くの心理的負担を抱えています。患者さんの思いに寄り添い、感情を表出できる機会を提供し、前向きに治療に取り組めるよう支援します。
患者教育のポイントとして、腎機能低下の進行は抑制できることを強調します。適切な血圧管理と食事療法により、透析導入を遅らせることができます。患者さんが自己管理の重要性を理解し、モチベーションを維持できるよう、小さな成功体験を積み重ねることが大切です。また、透析療法は決して恐ろしいものではないことも伝えます。必要になった場合には、透析をしながらも充実した生活を送っている方が多くいることを知ってもらいます。
実習での心構えとして、CKD患者さんは長期にわたる疾患との付き合いの中で、様々な思いを抱えています。外見からは分かりにくい症状や制限があり、周囲の理解が得られにくいこともあります。患者さんの生活背景や価値観を理解し、個別性を重視した関わりを心がけましょう。また、食事療法や服薬管理など、継続が困難な治療も多いため、できていないことを責めるのではなく、できていることを認め、励ます姿勢が大切です。検査データの変化に注目し、腎機能の推移や合併症の出現を把握する習慣をつけましょう。CKDは症状が乏しいため、検査データが患者さんの状態を知る重要な手がかりとなります。患者さんが希望を持って治療に取り組めるよう、寄り添い、支える看護を実践してください。
免責事項
本記事は教育・学習目的の情報提供です。
- 一般的な医学知識の解説であり、個別の患者への診断・治療の根拠ではありません
- 実際の看護実践は、患者の個別性を考慮し、指導者の指導のもと行ってください
- 記事の情報は公開時点のものであり、最新の医学的知見と異なる場合があります
- 本記事を課題としてそのまま提出しないでください
- 正確な情報提供に努めていますが、内容の完全性・正確性を保証するものではありません


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