【呼吸不全(Ⅰ型・Ⅱ型)】症状解説と看護のポイント

症状解説

1. はじめに

呼吸不全は生命に直結する重要な病態であり、看護師として確実に理解しておくべき知識です。ICUや一般病棟を問わず遭遇する頻度が高く、適切な観察と早期対応により患者さんの予後が大きく左右されます。Ⅰ型とⅡ型では病態メカニズムが異なるため、それぞれの特徴を理解し、根拠に基づいた看護介入を行うことが重要です。実習では人工呼吸器管理や酸素療法の場面で学習する機会が多い病態です。

この記事で学べること

  • 実習で遭遇する呼吸器管理の観察ポイントと安全管理
  • 呼吸不全Ⅰ型・Ⅱ型の病態生理メカニズムの違いと特徴
  • ガス交換障害と換気障害の基本的な理解
  • 血液ガス分析値の読み方と臨床的意義
  • 病型別の治療アプローチと看護介入の根拠

2. 病態の基本情報

定義

呼吸不全とは、肺でのガス交換が障害され、動脈血酸素分圧(PaO2)が60mmHg以下になった病態です。Ⅰ型は酸素化のみの障害、Ⅱ型は酸素化と二酸化炭素排出の両方が障害された状態を指します。

疫学

日本では年間約15万人が呼吸不全で入院治療を受けており、そのうち約40%がⅠ型、約60%がⅡ型とされています。高齢化に伴い慢性閉塞性肺疾患(COPD)によるⅡ型呼吸不全が増加傾向にあり、急性期病院では約20-30%の患者が何らかの酸素療法を必要としています。人工呼吸器管理を要する重篤な呼吸不全の院内死亡率は約25-40%と高く、早期診断・早期治療の重要性が強調されています。

分類・病型

呼吸不全は血液ガス分析の結果によりⅠ型(酸素化障害型)とⅡ型(換気障害型)に分類されます。Ⅰ型呼吸不全は肺炎、肺水腫、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)などにより肺胞でのガス交換が障害されるタイプで、PaO2≤60mmHgかつPaCO2は正常または低下しています。Ⅱ型呼吸不全はCOPD、神経筋疾患、薬物中毒などにより換気量が不足するタイプで、PaO2≤60mmHgかつPaCO2≥45mmHgと二酸化炭素の蓄積を伴います。また、発症様式により急性呼吸不全(数時間から数日で発症)と慢性呼吸不全(数ヶ月から数年で進行)に分けられ、それぞれ治療戦略や看護ケアが異なります。


3. 病態生理

基本メカニズム

呼吸不全を理解するために、肺を「ガス交換工場」に例えて考えてみましょう。肺胞が工場の作業場、肺毛細血管が運搬トラック、気道が工場への道路です。Ⅰ型呼吸不全は作業場(肺胞)での機械故障で、酸素を血液に渡すことができない状態です。一方、Ⅱ型呼吸不全は工場への道路(気道)が渋滞したり、工場全体の換気扇(呼吸筋)が故障したりして、十分な空気が工場に入らず、さらに排気(CO2)もうまく出ていかない状態です。

進行過程

呼吸不全の進行は代償期→移行期→不全期の3段階で進行します。代償期では体は酸素不足を感知すると呼吸数増加、心拍数増加により代償しようとします。この段階では患者さんは「息が浅い感じ」「何となく息苦しい」と訴える程度です。移行期では代償機能の限界を超え、明らかな呼吸困難、チアノーゼ、意識レベル低下が現れます。不全期では呼吸筋疲労により自発呼吸が維持できなくなり、人工呼吸器による補助が必要となります。特にⅡ型では二酸化炭素ナルコーシス(CO2蓄積による意識障害)により、見た目上呼吸が楽そうに見えても実は重篤な状態であることがあります。

病型別の違い

  • Ⅰ型呼吸不全: 肺胞レベルのガス交換障害、PaO2↓・PaCO2→または↓、頻呼吸著明、酸素投与で改善
  • Ⅱ型呼吸不全: 肺胞換気不全、PaO2↓・PaCO2↑、呼吸数減少または正常、酸素投与で悪化リスク
  • 急性: 数時間~数日で発症、代償機能未発達、重篤な症状
  • 慢性: 数ヶ月~数年で進行、代償機能発達、症状は比較的軽度

合併症・併発する病態

呼吸不全では全身の臓器に酸素供給不足による影響が現れます。脳酸素不足による意識障害せん妄、心筋酸素不足による心不全不整脈が重要な合併症です。Ⅱ型では二酸化炭素蓄積によりCO2ナルコーシス(意識レベル低下、血管拡張)が生じます。また、長期臥床により肺炎深部静脈血栓症、呼吸筋疲労による人工呼吸器離脱困難なども重要な合併症として挙げられます。

看護に活かすポイント

なぜⅠ型とⅡ型で酸素療法のアプローチが異なるのでしょうか。Ⅰ型では高濃度酸素投与により酸素化改善を図りますが、Ⅱ型では高濃度酸素により呼吸ドライブが低下し、さらに換気不全が悪化する危険があります。そのため、Ⅱ型では低濃度酸素から開始し、血液ガス分析で効果を確認しながら慎重に調整する必要があります。


4. 症状・検査・治療

代表的な症状・徴候

代償期では患者さんから「息が浅い感じがする」「少し動くと息切れする」「なんとなく疲れやすい」といった軽微な訴えが聞かれます。移行期では「息が苦しい」「空気が足りない感じ」「胸が苦しい」といった明らかな呼吸困難の訴えが現れます。Ⅰ型では頻呼吸と努力性呼吸が著明で、「ハアハアと息が荒い」状態が特徴的です。Ⅱ型では「眠気が強い」「頭がぼーっとする」といったCO2ナルコーシスによる症状が特徴的で、呼吸困難感は比較的軽度であることが多いです。進行すると「話すのもしんどい」「座っていないと息ができない」といった重篤な症状を訴えるようになります。

主要な検査・診断

血液ガス分析が最も重要な検査で、PaO2≤60mmHgが呼吸不全の診断基準です。Ⅰ型ではPaCO2≤40mmHg(正常または低下)、Ⅱ型ではPaCO2≥45mmHg(上昇)が特徴です。A-aDO2(肺胞気動脈血酸素分圧較差)の拡大はガス交換障害の指標として重要で、正常15mmHg以下に対し、Ⅰ型では著明に拡大します。SpO2は90%以下(PaO2 60mmHgに相当)で呼吸不全を疑い、85%以下では重篤な状態と判断します。胸部X線やCTにより原因疾患の特定を行い、心電図で心負荷や不整脈の評価も重要です。

治療の基本

Ⅰ型呼吸不全では高濃度酸素療法(FiO2 0.6-1.0)により酸素化改善を最優先とし、必要に応じてNPPV(非侵襲的陽圧換気)や人工呼吸器管理を行います。原因疾患(肺炎、肺水腫など)の治療も並行して実施します。Ⅱ型呼吸不全では低濃度酸素療法(1-2L/分、FiO2 0.24-0.28)から開始し、CO2ナルコーシス回避に注意しながら調整します。NPPVは特にⅡ型で有効性が高く、気管挿管を回避できる可能性があります。薬物療法として気管支拡張薬、ステロイド、利尿薬などを原因疾患に応じて使用し、呼吸リハビリテーションも重要な治療選択肢です。


5. 看護のポイント

主な看護診断

  • ガス交換障害
  • 非効果的呼吸パターン
  • 活動耐性低下
  • 不安

ゴードンの機能的健康パターン別観察項目

活動・運動パターンが最も重要な観察対象です。呼吸回数、呼吸パターン(浅速呼吸、努力性呼吸)、呼吸音(ラ音、喘鳴、呼吸音減弱)を継続的に観察し、呼吸回数20回/分以上は呼吸不全の重要なサインです。循環状態として血圧、脈拍、心電図モニタリングも必須で、頻脈100回/分以上は酸素不足による代償反応として注意が必要です。認知・知覚パターンでは意識レベルの変化を詳細に観察し、GCSやJCSスケールによる客観的評価を行います。特にⅡ型ではCO2ナルコーシスによる段階的意識レベル低下(傾眠→昏迷→昏睡)に注意が必要です。栄養・代謝パターンでは皮膚色(チアノーゼの有無)、体温、血糖値の変化を観察し、睡眠・休息パターンでは睡眠時無呼吸や夜間の酸素飽和度低下、日中の眠気の評価を行います。

ヘンダーソンの基本的欲求からみた看護

呼吸の基本的欲求に対しては、病型に応じた適切な酸素療法の実施と効果判定が最も重要です。Ⅰ型ではSpO2 95%以上を目標とした高濃度酸素投与、Ⅱ型ではSpO2 88-92%を目標とした低濃度酸素投与を行い、血液ガス分析による定期的な評価を実施します。効果的な体位(半坐位、前傾坐位)により呼吸仕事量の軽減を図り、気道クリアランスの促進も重要です。循環の基本的欲求では酸素不足による心負荷を軽減するため、安静度の調整と心電図モニタリングを継続し、不整脈や心不全徴候の早期発見に努めます。身体の位置の保持と体位変換の基本的欲求に対しては、呼吸困難軽減のための最適な体位(起座位、前傾側臥位など)の選択と維持、定期的な体位変換による肺炎予防を行います。安全の基本的欲求では酸素療法や人工呼吸器の安全管理、転倒・転落防止、せん妄予防対策を徹底して実施します。

病態に応じた具体的な看護介入

最優先は呼吸状態の継続的観察と早期異常発見です。呼吸回数、呼吸パターン、SpO2、血液ガス分析値を定期的に評価し、変化を見逃さないよう記録とグラフ化を行います。第二に病型別の適切な酸素療法管理として、Ⅰ型では高濃度酸素による積極的酸素化改善、Ⅱ型では低濃度酸素によるCO2ナルコーシス回避を基本とし、医師と連携した流量調整を行います。第三に呼吸困難軽減のための体位管理で、半坐位30-45度を基本とし、前傾坐位や側臥位など患者さんが最も楽な体位を見つけて維持します。第四に気道クリアランスの促進として、適切な加湿、効果的な喀痰排出支援、必要時の気道吸引を実施し、肺炎予防に努めます。第五に全身状態の管理として、水分・電解質バランスの維持、栄養状態の評価、活動耐性に応じたADL支援を行い、合併症予防を図ります。

予防・悪化防止のポイント

呼吸不全の悪化を防ぐため、感染予防対策の徹底が最も重要です。手指衛生、マスク着用、環境清拭により肺炎などの続発感染を防ぎます。適切な水分管理により痰の粘稠度を調整し、気道クリアランスを促進します。禁煙指導や大気汚染の回避により呼吸器への刺激を最小限に抑え、定期的な運動療法により呼吸筋力の維持・向上を図ります。薬物の確実な服用により原因疾患の悪化を防ぎ、定期的な血液ガス分析により治療効果を評価し、必要に応じて治療方針の調整を行います。


6. よくある質問・Q&A

Q:Ⅰ型とⅡ型呼吸不全で酸素投与量が違う理由を教えてください

A: 最も重要な違いは呼吸ドライブのメカニズムです。健常人は血中CO2濃度上昇により呼吸が促されますが、慢性Ⅱ型呼吸不全患者では長期間のCO2蓄積により、低酸素血症が呼吸ドライブの主要因となっています。そのため高濃度酸素投与により血中酸素が改善すると呼吸ドライブが低下し、さらに換気不全が悪化してCO2ナルコーシスを引き起こす危険があります。Ⅰ型では酸素化障害が主体でCO2排出は正常なため、高濃度酸素投与により積極的に酸素化改善を図ります。

Q:SpO2値と血液ガス分析のPaO2値に違いがある場合の解釈方法は?

A: SpO2とPaO2の関係は酸素解離曲線に従い、SpO2 90%≒PaO2 60mmHgが基準となります。しかし、体温、pH、CO2分圧により曲線がシフトするため解離が生じます。発熱やアシドーシスでは曲線が右シフトし、SpO2に比べてPaO2が低くなります。また、一酸化炭素中毒や異常ヘモグロビン血症ではSpO2が高値でもPaO2は低値を示すため、血液ガス分析による正確な評価が重要です。臨床では両方の値を総合的に判断し、患者さんの全身状態と併せて評価します。

Q:人工呼吸器装着患者の観察で特に注意すべきポイントは?

A: 最も重要なのは人工呼吸器との同調性の観察です。患者さんが人工呼吸器と「けんか」している状態(ファイティング)では十分な換気ができず、血圧上昇や頻脈を引き起こします。回路の接続確認、気管チューブの位置確認、カフ圧の管理(20-25cmH2O)も必須です。また、鎮静レベルの評価(RASS、SASスケール)により適切な鎮静深度を維持し、せん妄予防と早期離脱を目指します。気道分泌物の管理、感染徴候の監視、皮膚統合性の維持も重要な観察ポイントです。

Q:在宅酸素療法の患者指導で重要なポイントを教えてください

A: まず安全管理が最重要で、酸素は燃焼を助ける性質があるため火気厳禁(タバコ、ストーブ、仏壇のろうそくなど)を徹底指導します。外出時の酸素ボンベの残量確認と予備ボンベの準備、機器の定期点検も重要です。適切な流量設定(医師指示通り)の遵守と、勝手な流量変更の危険性を説明します。日常生活では感染予防、適度な運動、栄養管理の重要性を指導し、緊急時の連絡先と受診基準(呼吸困難増悪、発熱、喀痰の性状変化など)を明確にしておきます。


7. まとめ

呼吸不全は生命に直結する重要な病態であり、Ⅰ型とⅡ型では病態メカニズムと治療アプローチが大きく異なります。血液ガス分析による正確な病型診断と、それに基づく適切な酸素療法の選択が患者さんの予後を決定します。継続的な観察と早期対応により、重篤な合併症を予防し、患者さんの回復を支援できます。

覚えるべき数値

  • 呼吸不全診断基準:PaO2≤60mmHg
  • Ⅰ型:PaCO2≤40mmHg(正常または低下)
  • Ⅱ型:PaCO2≥45mmHg(上昇)
  • SpO2目標値:Ⅰ型95%以上、Ⅱ型88-92%
  • 呼吸回数:20回/分以上で異常
  • A-aDO2正常値:15mmHg以下

実習・現場で活用できるポイント

血液ガス分析の結果から病型を正確に判断し、適切な酸素療法を選択する力を養います。「なぜⅠ型では高濃度酸素が必要なのか」「なぜⅡ型では低濃度酸素なのか」を病態生理と関連付けて理解し、根拠に基づいたケアを実践してください。呼吸パターンや意識レベルの変化を敏感に察知し、早期の医師報告につなげることが重要です。呼吸不全の看護経験は、ガス交換や酸塩基平衡の理解を深め、集中治療や慢性疾患看護など幅広い分野で活用できる貴重な学習機会となります。

免責事項

本記事は教育・学習目的の情報提供です。

・一般的な医学知識の解説であり、個別の患者への診断・治療の根拠ではありません

・実際の看護実践は、患者の個別性を考慮し、指導者の指導のもと行ってください

・記事の情報は公開時点のものであり、最新の医学的知見と異なる場合があります

・本記事を課題としてそのまま提出しないでください

正確な情報提供に努めていますが、内容の完全性・正確性を保証するものではありません。

コメント

タイトルとURLをコピーしました