病態の概要
定義
低血圧は、血管内を流れる血液が血管壁に与える圧力が正常値よりも低い状態のことですね。一般的に、収縮期血圧が100mmHg未満の状態を指しますが、明確な診断基準は統一されていません。重要なのは数値だけでなく、症状の有無や日常生活への影響を総合的に評価することです。低血圧は高血圧ほど注目されませんが、めまいや失神などの症状により生活の質が大きく低下する場合があります。
原因
低血圧の原因は多岐にわたります。本態性低血圧は遺伝的要因や体質的なもので、特に若い女性に多く見られます。症候性低血圧では、心疾患(心不全、不整脈)、内分泌疾患(甲状腺機能低下症、副腎不全)、神経疾患、脱水、出血、薬剤の副作用(降圧薬、利尿薬、抗うつ薬など)が原因となります。また、起立性低血圧は立ち上がった際に血圧が急激に下がる状態で、高齢者や糖尿病患者によく見られます。妊娠中期にも生理的な血圧低下が起こることがあります。
病態生理
正常な状態
正常な血圧維持には、心拍出量と血管抵抗の適切なバランスが必要です。体位変換時には、重力により下半身に血液がプールされますが、圧受容器反射により交感神経が活性化し、心拍数の増加と血管収縮により血圧を維持します。また、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系やバソプレシンの分泌により、体液量の調節も行われています。これらの機能により、脳や重要臓器への血流が常に確保されているのです。
異常が起こる過程
低血圧の発症メカニズムは複数あります。心拍出量の低下では、心筋の収縮力低下や不整脈により心臓から送り出される血液量が減少します。血管拡張では、血管平滑筋の弛緩や血管内皮の機能異常により血管抵抗が低下し、血圧が下がります。循環血液量の減少では、脱水や出血により実際の血液量が不足します。自律神経機能の異常では、交感神経の反応が鈍くなり、体位変換時の血圧調節ができなくなります。これらの変化により、重要臓器、特に脳への血流が不足し、様々な症状が現れることになります。
症状
現れる症状とその理由
現れる症状とその理由 低血圧の症状は、主に脳血流の不足によって引き起こされます。最も多い症状はめまいやふらつきで、これは脳への酸素供給が不足するためです。立ちくらみは起立時に脳血流が急激に低下することで起こり、重度の場合は失神に至ることもあります。疲労感や倦怠感は、全身の組織への酸素や栄養素の供給が不十分になるためです。集中力の低下や記憶力の問題も、脳機能の低下を反映しています。その他の症状として、頭痛、肩こり、冷え性、動悸、息切れなどがあり、これらは血流不足に対する身体の代償反応として現れます。症状は午前中に強く現れることが多く、これは起床時の血圧調節機能の低下が関係しています。重要なのは、これらの症状が日常生活に与える影響を適切に評価することです。
看護アセスメント・介入
よくある看護診断・問題
・組織灌流低下
・転倒転落の危険性
・活動耐性低下
・急性混乱状態の危険性
・セルフケア不足
・社会的孤立の危険性
・不安
・知識不足(疾患管理に関連した)
・体液量不足の危険性
ゴードンのポイント
健康知覚-健康管理パターンでは、患者さんの症状に対する認識と対処方法を評価します。低血圧は軽視されがちですが、転倒や失神のリスクがあるため、症状の重要性を理解してもらう必要があります。
活動-運動パターンでは、日常生活動作への影響と活動制限の程度を詳細に聴取し、安全な活動レベルを設定します。特に起立や歩行時の症状出現パターンを把握することが重要です。
睡眠-休息パターンでは、朝の起床時症状と睡眠の質を評価し、起床時の血圧変動への対策を検討します。
認知-知覚パターンでは、めまいや集中力低下が学習や仕事に与える影響を評価します。
ヘンダーソンのポイント
正常な循環において、血圧、脈拍、体位変換時の症状観察が最も重要となります。起立性低血圧の評価では、臥位から立位への体位変換時の血圧・脈拍の変化を詳細に観察する必要があります。
適切な飲食では、水分摂取量と塩分摂取の調整が重要で、特に脱水予防と適度な塩分摂取による循環血液量の維持に注意します。
正常な排泄では、利尿薬使用時の過度な利尿による血圧低下を防ぐため、排尿量と体重変化の観察が必要です。
安全な環境の維持では、転倒や失神による外傷予防が最優先となり、環境整備と行動時の注意事項の指導が不可欠です。
看護計画・介入の内容
・体位変換時の血圧・脈拍測定と症状観察
・起立性低血圧の評価(臥位→座位→立位の段階的体位変換)
・転倒予防のための環境整備と安全指導
・水分摂取量の管理とモニタリング
・段階的な活動量増加の支援
・症状出現時の対処方法の指導
・薬剤使用時の副作用観察
・ゆっくりとした体位変換の指導と実践支援
・弾性ストッキングの着用指導
・症状日記の記録支援と評価
よくある疑問・Q&A
Q: 低血圧は治療が必要ないと言われましたが、症状がつらいです。どうすればよいでしょうか?
A: 低血圧自体は疾患ではありませんが、症状により生活の質が低下している場合は治療対象となります。生活習慣の改善(水分・塩分摂取、運動療法、弾性ストッキングの着用など)や、必要に応じて昇圧薬の使用も検討されます。症状の程度と日常生活への影響を医師に詳しく伝えることが大切です。
Q: 起立性低血圧を予防するにはどうしたらよいですか?
A: 急激な体位変換を避けることが最も重要です。ベッドから起き上がる時は、まず30秒程度座位を保ち、めまいがないことを確認してからゆっくりと立ち上がりましょう。また、十分な水分摂取、適度な塩分摂取、下肢の筋力強化、弾性ストッキングの着用も効果的です。
Q: 低血圧の人は運動しても大丈夫ですか?
A: 適切な運動は筋ポンプ作用により静脈還流を改善し、血圧上昇に効果的です。ただし、激しい運動や長時間の立位は症状を悪化させる可能性があるため、水中歩行や座位でできる運動から始めることをお勧めします。運動前後の血圧測定と症状確認も忘れずに行いましょう。
Q: 妊娠中の低血圧は赤ちゃんに影響しますか?
A: 妊娠中期の血圧低下は生理的な変化で、多くの場合問題ありません。しかし、症状が強い場合や母体の体調に影響する場合は、胎児への血流不足の可能性もあるため、定期的な妊婦健診で経過観察を行い、症状があれば早めに医師に相談することが重要です。
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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