【解説】母性_周産期_分娩期

疾患解説

概要

分娩期とは、陣痛の開始から胎盤娩出完了までの期間を指し、産婦とその胎児にとって最も重要で危険性の高い時期です。この期間は第1期(開口期)、第2期(娩出期)、第3期(後産期)の3つに分けられ、それぞれ異なる観察ポイントと看護介入が求められます。

分娩期における観察において重要な基礎知識として、分娩は自然な生理的過程でありながら、常に異常への転換可能性を秘めていることを理解しておく必要があります。産婦の全身状態は陣痛による疼痛とエネルギー消耗により大きく変動し、循環器系では血圧上昇や頻脈が、呼吸器系では過換気や呼吸困難が観察されることがあります。また、胎児も子宮収縮による胎盤血流の一時的減少や産道通過時の圧迫により、胎児機能不全のリスクが高まります。

現在、日本の分娩では約20%が帝王切開となっており、ハイリスク分娩の増加により分娩時の合併症リスクも高まっています。分娩期では、正常な分娩進行と異常の早期発見が最も重要な観察ポイントとなります。特に分娩第1期の遷延や胎児機能不全、産後出血などの重篤な合併症は、迅速な対応により母児の生命予後が大きく左右されるため、継続的で的確な観察と判断が求められます。

症状・診断・治療

身体変化・症状

分娩期の進行は分娩3期に分けて観察します。
分娩第1期(開口期)は陣痛開始から子宮口全開大までで、初産婦では10-20時間、経産婦では4-10時間を要します。この時期は潜伏期、活動期、移行期に細分され、それぞれ異なる特徴があります。潜伏期では軽度の陣痛が不規則に起こり、活動期では陣痛が強くなり子宮口開大が進行し、移行期では最も強い陣痛となり産婦の疲労も最大となります。

分娩第2期(娩出期)は子宮口全開大から胎児娩出までで、初産婦では1-3時間、経産婦では数分-1時間程度です。この時期は怒責感が強くなり、産婦は強い息みたい感覚を訴えます。胎児の先進部が見え始める発露から、胎児の最大径が娩出される発生まで、慎重な観察が必要です。

分娩第3期(後産期)は胎児娩出から胎盤娩出までで、通常30分以内に完了します。胎盤剥離徴候(子宮底の上昇、臍帯の延長、少量の出血)を確認し、完全娩出を確認します。この時期は産後出血のリスクが最も高い時期でもあります。

アセスメント・評価

分娩期のアセスメントは、産婦の全身状態、分娩進行、胎児の状態を総合的に評価します。産婦については、バイタルサイン(血圧、脈拍、体温、呼吸)の定期的測定、子宮収縮の強度・持続時間・間隔の観察、子宮口開大度・展退度・先進部下降度の内診による確認を行います。疼痛の程度や産婦の精神状態、水分摂取量と尿量のバランスも重要な評価項目です。

胎児の状態評価では、胎児心拍数モニタリング(CTG)による継続的観察が基本となります。基線細変動、一過性頻脈、一過性徐脈の有無を確認し、胎児機能不全の早期発見に努めます。羊水の性状(混濁の有無)、破水のタイミングと羊水量も重要な評価ポイントです。

分娩進行の評価では、ザラガラフ(子宮口開大曲線)を用いて正常な進行パターンと比較し、遷延分娩や急速遂娩の判断を行います。また、児頭骨盤不均衡の有無や胎位異常の確認も必要です。

ケア・管理

分娩期のケアは、産婦の安全・安楽と胎児の健康維持を目的として行われます。分娩第1期では、産婦の不安軽減のための精神的支援、適切な体位の指導(側臥位、立位、四つ這い位など)、呼吸法の指導による疼痛緩和を行います。水分・栄養補給と排泄の援助も重要で、脱水予防と膀胱充満の予防に努めます。

分娩第2期では、効果的な怒責の指導と会陰保護が中心となります。産婦の体力温存のため、陣痛に合わせた怒責のタイミングを指導し、無効な怒責を避けるよう支援します。会陰切開の準備と会陰裂傷の予防のための会陰保護手技も重要です。

分娩第3期では、胎盤剥離の観察と産後出血の予防・早期発見に重点を置きます。子宮収縮薬の適切な使用と、胎盤娩出後の子宮収縮状態の確認、会陰・腟壁の損傷の有無を詳細に観察します。

疼痛管理では、薬物療法(硬膜外麻酔、笑気ガスなど)と非薬物療法(マッサージ、温罨法、アロマテラピーなど)を組み合わせて、産婦の希望に応じた個別的なケアを提供します。

分娩室での観察の注意点

分娩室では継続的で集中的な観察が求められるため、優先順位を明確にした観察が重要です。まず入室時に産婦の全体的な状態を把握し、緊急度を判断します。陣痛の強度や間隔、産婦の表情や行動から分娩進行度を推測し、内診のタイミングを決定します。

胎児心拍数モニタリングは分娩室での最重要観察項目です。基線が110-160bpmの正常範囲にあるか、基線細変動が正常か、陣痛との関連で一過性変化があるかを継続的に評価します。特にvariable deceleration(臍帯圧迫による徐脈)やlate deceleration(胎盤機能不全による徐脈)は胎児機能不全の重要なサインのため、即座に医師への報告が必要です。

産婦の状態観察では、血圧150/100mmHg以上、脈拍120回/分以上、体温38℃以上は異常値として注意が必要です。また、産婦の訴える疼痛の性質の変化(持続的な腹痛、激烈な疼痛など)や、異常な出血量(300ml以上)、破水時の羊水混濁なども緊急対応が必要な所見です。

分娩進行の観察では、予定された進行パターンからの逸脱を早期に発見することが重要です。子宮口開大が2時間以上停止している場合や、第2期が初産婦で3時間、経産婦で2時間を超える場合は医師への報告が必要です。また、産婦の疲労度や精神状態の変化も分娩進行に大きく影響するため、継続的な観察とサポートが必要です。

看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

・陣痛に関連した急性疼痛
・分娩に対する不安と恐怖
・陣痛による体力消耗に関連した活動耐性低下
・分娩進行に関連した知識不足
・胎児の状態に関連した不安
・長時間の分娩に関連した脱水リスク状態
・会陰切開・裂傷に関連した感染リスク状態
・産後出血に関連した出血リスク状態
・初回分娩に関連した母親役割獲得の準備性低下
・分娩体験に関連した自尊心の変調

ゴードンのポイント

健康知覚-健康管理パターンでは、分娩という正常な生理的過程に対する理解度と、分娩中の協力行動の実践状況を詳細にアセスメントします。多くの初産婦は分娩の進行や疼痛に対する不安が強く、正確な情報提供と継続的な励ましが重要です。また、分娩中の医療処置(内診、会陰切開、吸引分娩など)についても、その必要性と安全性を説明し、産婦の理解と協力を得ることが大切です。

活動-運動パターンでは、陣痛の進行に伴う活動制限と体位変換の必要性をアセスメントします。分娩第1期では歩行や体位変換により分娩進行を促進できますが、第2期では安全な分娩体位の確保が重要となります。産婦の希望する体位と医学的に適切な体位のバランスを取りながら、最適な分娩環境を整えることが必要です。

認知-知覚パターンでは、疼痛の程度と性質の変化、および分娩進行に関する産婦の認識をアセスメントします。陣痛は生理的疼痛ですが、産婦にとっては耐え難い苦痛となることが多く、効果的な疼痛緩和方法の選択と実施が重要です。また、分娩の各段階で産婦が感じる感覚の変化を理解し、適切な指導とサポートを提供します。

ヘンダーソンのポイント

呼吸のニードでは、陣痛時の呼吸パターンの変化と酸素化状態をアセスメントします。陣痛時には過換気になりやすく、呼吸性アルカローシスを起こす可能性があるため、適切な呼吸法の指導(ラマーズ法、ソフロロジーなど)により、効果的な酸素化と疼痛緩和を図ります。

飲食のニードでは、分娩中の水分・栄養摂取の制限と必要性をアセスメントします。長時間の分娩では脱水や低血糖のリスクが高まるため、適切な輸液管理と経口摂取の調整が必要です。ただし、緊急帝王切開の可能性を考慮し、固形物の摂取は慎重に判断します。

排泄のニードでは、分娩中の膀胱充満と排尿困難をアセスメントします。膀胱充満は分娩進行を妨げるため、定期的な排尿を促し、必要に応じて導尿を行います。また、分娩中の失禁に対する羞恥心への配慮も重要です。

清潔・身だしなみのニードでは、分娩中の発汗や血液・羊水による汚染に対する清潔保持をアセスメントします。産婦の快適性向上と感染予防のため、適切な清拭と寝衣交換を行います。

看護計画・介入の内容

・陣痛の進行に応じた疼痛緩和方法の選択と実施
・分娩進行の説明と励ましによる精神的支援の提供
・効果的な呼吸法と怒責法の指導と実践支援
・適切な体位の選択と安全な分娩環境の整備
・胎児心拍数モニタリングによる胎児状態の継続的評価
・産婦と家族の希望に応じた個別的なケアの提供
・異常の早期発見と迅速な医師への報告
・会陰保護と産後出血予防のための観察と介入
・産婦の体力温存と脱水予防のための支援
・分娩体験の肯定的な受け止めを支援する関わり

よくある疑問・Q&A

Q: 陣痛が始まったらすぐに入院が必要ですか? A: 陣痛の間隔と強度によって判断します。初産婦では陣痛間隔が10分以内、経産婦では15分以内が入院の目安とされています。ただし、破水した場合や不正出血がある場合、胎動減少を感じる場合は、陣痛間隔に関係なくすぐに受診が必要です。また、経産婦は分娩進行が早いことが多いため、早めの受診をお勧めします。

Q: 分娩中に胎児の心拍数が下がると言われましたが、大丈夫でしょうか? A: 胎児心拍数の一時的な低下(一過性徐脈)は、陣痛時にしばしば観察される現象です。陣痛と関連した軽度で短時間の徐脈であれば、多くの場合は正常範囲内の変化です。ただし、陣痛後も続く徐脈や、基線が著明に低下する場合は胎児機能不全の可能性があるため、酸素投与や体位変換、場合によっては緊急帝王切開が必要になることがあります。

Q: 会陰切開は必ず必要ですか?痛くないですか? A: 会陰切開は会陰裂傷の予防や分娩時間の短縮が必要と判断される場合に行われます。すべての分娩で必要なわけではありません。切開時は陣痛のピーク時に行うため、多くの場合は陣痛の痛みで切開時の痛みは感じにくいとされています。また、局所麻酔を使用することもあります。切開後の縫合部の痛みについては、適切な疼痛管理を行います。

Q: 分娩が長引いているようですが、帝王切開になるのでしょうか? A: 分娩時間には個人差があり、必ずしも長時間=帝王切開ではありません。母児の状態が良好で分娩が進行している場合は、自然分娩を継続します。ただし、分娩停止(子宮口開大や児頭下降が2時間以上進まない)、胎児機能不全、産道異常などがある場合は帝王切開を検討します。医師は母児の安全を最優先に総合的に判断しますので、不安なことがあれば遠慮なく質問してください。

Q: 立会い分娩を希望していますが、どんなことに注意すべきですか? A: 立会い分娩は産婦にとって心強いサポートとなります。立会い者には感染予防のための手洗いや着衣の準備が必要です。また、分娩の進行や医療処置について事前に説明を受け、緊急時には医療スタッフの指示に従うことが大切です。立会い者自身の体調管理も重要で、貧血気味の方は長時間の立位を避け、適宜休憩を取ることをお勧めします。

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この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり

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