【腹痛】症状解説と看護の要点

症状解説

症状概要

定義

腹痛とは、腹部に感じる痛みや不快感の総称です。患者は「お腹が痛い」「お腹が張る」「キリキリする」「ズキズキする」「刺すような痛み」など様々な表現で訴えます。腹痛は日常的によく経験される症状ですが、その原因は消化器疾患だけでなく、循環器、泌尿器、婦人科、血管、代謝性疾患など多岐にわたります。中には急性腹症と呼ばれる緊急手術が必要な状態もあり、迅速な評価と適切な対応が求められます。

疫学

腹痛は救急外来を受診する理由の約10〜15%を占める非常に頻度の高い症状です。そのうち緊急手術が必要となる急性腹症は約10〜20%程度ですが、見逃すと生命に関わるため慎重な評価が必要です。年齢により原因疾患の頻度が異なり、小児では腸重積や虫垂炎、成人では虫垂炎や胆石症、高齢者では腸閉塞や虚血性腸疾患が多くなります。女性では婦人科疾患も重要な鑑別疾患となります。

原因

腹痛の原因は非常に多岐にわたります。消化器疾患では、急性虫垂炎、胆石症・胆嚢炎、急性膵炎、消化性潰瘍・穿孔、腸閉塞、腸炎、虚血性腸疾患、憩室炎、大腸がんなどがあります。泌尿器疾患では、尿路結石、腎盂腎炎、膀胱炎などが挙げられます。婦人科疾患では、子宮外妊娠、卵巣嚢腫茎捻転、骨盤内炎症性疾患などが重要です。血管性疾患では、腹部大動脈瘤破裂、上腸間膜動脈閉塞症などの緊急性の高い疾患があります。その他、心筋梗塞、糖尿病性ケトアシドーシス、帯状疱疹なども腹痛を引き起こします。

病態生理

腹痛は大きく内臓痛体性痛関連痛に分けられます。内臓痛は消化管や実質臓器の伸展、攣縮、虚血により生じ、鈍い痛みで部位が不明瞭なのが特徴です。上腹部痛は胃・十二指腸・肝胆膵系、臍周囲痛は小腸、下腹部痛は大腸・泌尿生殖器の疾患で多く見られます。体性痛は腹膜や後腹膜の炎症により生じ、鋭い痛みで部位が明確、体動で増悪するのが特徴です。関連痛は内臓の痛みが体表に投影されたもので、胆嚢炎の右肩痛や膵炎の背部痛などがあります。炎症が進行すると腹膜刺激症状(筋性防御、反跳痛)が出現し、急性腹症を示唆します。


原因疾患・評価・対応

主な原因疾患

緊急手術が必要な急性腹症として、急性虫垂炎(穿孔)、消化管穿孔、腸閉塞、絞扼性イレウス、腹部大動脈瘤破裂、上腸間膜動脈閉塞症、子宮外妊娠破裂、卵巣嚢腫茎捻転などがあります。緊急性は高いが保存的治療が可能な疾患として、急性膵炎、胆石症・胆嚢炎、尿路結石、腎盂腎炎などが挙げられます。比較的頻度が高く緊急性の低い疾患として、急性胃腸炎、便秘、過敏性腸症候群、機能性ディスペプシア、月経困難症などがあります。高齢者では非典型的症状を呈することが多く、重症でも痛みが軽度なこともあるため注意が必要です。

評価とアセスメント

腹痛の評価で最も重要なのは急性腹症の鑑別です。まずバイタルサイン(血圧、脈拍、呼吸数、体温、SpO2、意識レベル)を迅速に測定します。緊急性の高い危険なサインとして、ショック徴候(血圧低下、頻脈、冷汗、顔面蒼白)、腹膜刺激症状(筋性防御、反跳痛、板状硬)、腸蠕動音の消失、持続する激しい痛み、吐血・下血などがあれば緊急対応が必要です。腹痛の評価はOPQRSTに加えて腹部の視診・聴診・打診・触診を系統的に行います。痛みの部位は重要で、心窩部痛は胃・十二指腸・膵臓、右季肋部痛は肝胆道系、左下腹部痛は憩室炎や大腸疾患、右下腹部痛は虫垂炎や婦人科疾患を疑います。随伴症状として、悪心・嘔吐、発熱、下痢・便秘、血便、黄疸、排尿時痛、性器出血なども確認します。

対応と治療

腹痛への対応は原因により異なりますが、急性腹症が疑われる場合の初期対応として、まず絶飲食とし、静脈ルート確保バイタルサインの継続的モニタリングを行います。診断のために血液検査(白血球、CRP、アミラーゼ、肝機能、腎機能など)、尿検査腹部X線腹部超音波検査CT検査などを速やかに実施します。女性では妊娠反応検査も必須です。急性虫垂炎消化管穿孔では緊急手術が必要です。腸閉塞では保存的治療(絶飲食、経鼻胃管挿入、輸液)を行いますが、絞扼性の場合は緊急手術となります。急性膵炎胆石症では絶飲食、輸液、鎮痛薬投与が基本です。鎮痛薬は診断確定前に使用すると所見がマスクされるため慎重に判断します。


看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

  • 急性疼痛:炎症、虚血、閉塞などに関連した腹部の急性疼痛
  • 体液量不足:嘔吐、下痢、出血などによる体液量減少のリスク
  • 不安:突然の激しい痛みや緊急手術への不安

ゴードン機能的健康パターン

健康知覚-健康管理パターンでは、腹痛の発症状況、既往歴(腹部手術歴、消化器疾患、婦人科疾患など)、内服薬(抗凝固薬、NSAIDsなど)、最終月経(女性)を確認します。また、患者が痛みの重症度をどう認識しているかも評価します。栄養-代謝パターンでは、最終飲食時刻、食事内容、食欲不振、悪心・嘔吐の有無と程度、吐物の性状(胆汁性、血性、糞便臭)を評価します。絶飲食の必要性と期間、輸液管理が重要となります。排泄パターンでは、最終排便・排ガス時刻、便の性状(下痢、便秘、血便、黒色便)、排尿状況、尿の性状を確認します。腸閉塞では排便・排ガスの停止が重要なサインです。

ヘンダーソン14基本的ニード

食べる・飲むニードでは、急性腹症の多くは絶飲食が必要となるため、口渇への対応(含嗽、口腔ケア)と輸液管理が重要です。経鼻胃管が挿入される場合は、チューブ管理と患者の不快感への配慮が必要です。正常に排泄するニードでは、腹痛の原因疾患の多くが排泄と関連するため、排便・排ガス・排尿状況の観察が診断と治療評価に不可欠です。腸蠕動音の聴診も重要な観察項目です。安全なニードでは、急性腹症による突然のショックや意識レベル低下のリスク、転倒リスクを評価します。また、腹膜炎による敗血症への進行にも注意が必要です。

看護計画・介入の内容

  • 腹痛の継続的評価:疼痛の程度・性状・部位・放散痛の有無、増悪・軽快因子の確認、バイタルサインの継続的モニタリング、腹部の視診・聴診・触診(膨隆、腸蠕動音、圧痛、筋性防御、反跳痛)、随伴症状の観察(悪心・嘔吐、発熱、下痢・便秘、血便)
  • 疼痛緩和と安楽の提供:安静の保持(楽な体位の工夫)、処方された鎮痛薬の投与と効果判定、温罨法または冷罨法(疾患により適応が異なる)、環境調整(静かな環境、適温)、気分転換やリラクセーション法の提供
  • 合併症予防と早期発見:ショック徴候の監視、腹膜刺激症状の出現の観察、水分・電解質バランスの管理、経鼻胃管や尿道カテーテルの管理、感染徴候の観察

よくある疑問・Q&A

Q: 虫垂炎はどこが痛みますか?

A: 虫垂炎の典型的な経過は、まず心窩部から臍周囲に鈍い痛みが始まり(内臓痛)、数時間後に痛みが右下腹部(McBurney点)に移動します(体性痛)。これは炎症が虫垂から腹膜に波及したことを示します。右下腹部の限局した圧痛と反跳痛が特徴的ですが、虫垂の位置により症状が異なることもあります。

Q: 腹痛のときに鎮痛薬を使ってもよいですか?

A: 診断が確定する前に鎮痛薬を使用すると、腹部所見がマスクされ診断が困難になることがあります。このため、急性腹症が疑われる場合は医師の診察と評価が終わるまで鎮痛薬の使用を控えることが原則です。ただし、最近では診断の遅れよりも患者の苦痛軽減を優先する考え方もあり、状況により医師が判断します。

Q: 筋性防御と反跳痛の違いは何ですか?

A: 筋性防御は、腹部を触診したときに腹壁が板のように硬くなる現象で、腹膜刺激により反射的に腹筋が緊張することで起こります。反跳痛(Blumberg徴候)は、腹部をゆっくり押して急に手を離したときに痛みが増強する現象です。両者とも腹膜炎の重要な徴候であり、急性腹症を示唆します。

Q: 女性の下腹部痛で必ず確認すべきことは?

A: 最終月経日妊娠の可能性を必ず確認します。子宮外妊娠破裂は生命に関わる緊急疾患です。また、性交渉歴、性器出血、帯下の有無なども重要です。卵巣嚢腫茎捻転も突然の激しい痛みを伴う緊急疾患であり、婦人科疾患を常に鑑別に入れることが重要です。

Q: 高齢者の腹痛で注意すべき点は?

A: 高齢者は痛みの感受性が低下しているため、重症でも痛みが軽度なことがあります。また、非典型的な症状を呈することが多く、虚血性腸疾患や大動脈瘤などの血管性疾患、大腸がんの頻度が高くなります。発熱や白血球増加などの炎症反応も軽微なことがあるため、バイタルサインの変化や全身状態の悪化に注意が必要です。

Q: 腹痛で冷罨法と温罨法はどう使い分けますか?

A: 急性炎症(虫垂炎、胆嚢炎、膵炎など)では冷罨法を使用し、炎症の進行を抑えます。温罨法は炎症を悪化させる可能性があるため禁忌です。一方、慢性的な痛みや筋肉の緊張による痛み、月経困難症などでは温罨法が有効です。疾患が不明な段階では、温罨法は避け、医師の指示を仰ぎましょう。


まとめ

腹痛は非常に多様な原因により生じる頻度の高い症状であり、その中には急性腹症と呼ばれる緊急手術が必要な疾患も含まれます。看護師の最も重要な役割は、急性腹症を見逃さず迅速に対応することです。

腹痛のアセスメントでは、バイタルサインの評価腹部の系統的観察(視診・聴診・打診・触診)が基本となります。特に腹膜刺激症状(筋性防御、反跳痛)、ショック徴候腸蠕動音の異常は急性腹症の重要なサインであり、見逃してはいけません。

また、腹痛は消化器疾患だけでなく、婦人科疾患泌尿器疾患血管性疾患なども原因となるため、随伴症状を含めた包括的な評価が必要です。女性では必ず妊娠の可能性を確認し、高齢者では非典型的症状に注意しましょう。

実習では、腹痛患者に遭遇した際、まず緊急性の評価を最優先に行い、系統的な腹部診察の技術を習得することが大切です。また、急性腹症では絶飲食が原則であることを理解し、診断確定前の安易な鎮痛薬使用は避けるという基本原則を守りましょう。患者の訴えを丁寧に傾聴しながら、早期発見・早期対応に貢献できる観察力を養うことが重要です。


この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり


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