【意識障害】症状解説と看護の要点

症状解説

症状概要

定義

意識障害とは、覚醒レベルや認識能力が正常な状態から低下している状態です。意識は「覚醒」と「認識」の2つの要素から成り、覚醒は目を開けている状態、認識は自分や周囲の状況を正しく理解している状態を指します。意識障害は傾眠、昏迷、昏睡など様々な程度があり、生命に直結する緊急性の高い症状です。脳機能の障害を示唆し、迅速な評価と原因の特定、適切な治療が患者の予後を大きく左右します。

疫学

意識障害は救急外来を受診する理由の約5〜10%を占め、そのうち約30〜40%が脳血管障害、20〜30%が代謝性疾患、10〜20%が薬物中毒・アルコールによるものです。高齢化に伴い、脳梗塞や脳出血による意識障害が増加しています。また、ICUや一般病棟でもせん妄(意識変容の一種)が高頻度に発生し、術後患者では約15〜50%、ICU患者では約60〜80%に認められます。意識障害は死亡率が高く、特に深昏睡状態では約50〜70%の死亡率となります。

原因

意識障害の原因はAIUEOTIPSという語呂合わせで覚えると便利です。Alcohol(アルコール中毒)、Insulin(低血糖・高血糖)、Uremia(尿毒症)、Encephalopathy/Endocrine(脳症・内分泌異常)、Opiates/Overdose(薬物中毒)、Trauma(頭部外傷)、Infection(感染症:髄膜炎・脳炎・敗血症)、Psychiatric(精神疾患)、Stroke/Seizure(脳卒中・痙攣)です。その他、低酸素血症、電解質異常、肝性脳症、心原性ショック、熱中症なども原因となります。高齢者では複数の原因が重なることも多いです。

病態生理

意識は脳幹網様体賦活系大脳皮質の正常な機能により維持されます。意識障害は、①脳幹網様体賦活系の障害(脳幹病変、頭蓋内圧亢進)、②両側大脳半球の広範な障害、③代謝性または中毒性の全般的脳機能障害により生じます。脳血管障害では脳組織の虚血や出血により、頭蓋内圧亢進では脳幹の圧迫により、代謝性疾患では神経伝達物質の異常や脳のエネルギー代謝障害により意識レベルが低下します。重度の意識障害では気道確保困難呼吸抑制嘔吐による誤嚥のリスクが高く、生命維持に直結します。


原因疾患・評価・対応

主な原因疾患

緊急対応が必要な疾患として、脳血管障害(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)、頭部外傷(急性硬膜外血腫、急性硬膜下血腫、脳挫傷)、低血糖、髄膜炎・脳炎、てんかん重積状態、心原性ショック、重症敗血症、薬物中毒などがあります。代謝性疾患として、糖尿病性ケトアシドーシス、高浸透圧高血糖状態、低ナトリウム血症、高カルシウム血症、肝性脳症、尿毒症、甲状腺機能異常などが挙げられます。その他の原因として、低酸素血症、高二酸化炭素血症、アルコール中毒、熱中症、低体温症、精神疾患(転換性障害、統合失調症)などがあります。

評価とアセスメント

意識障害の評価で最も重要なのは迅速な意識レベルの評価原因の特定です。意識レベルはJapan Coma Scale(JCS)またはGlasgow Coma Scale(GCS)を用いて客観的に評価します。JCSは、覚醒している(1桁)、刺激で覚醒する(2桁)、刺激しても覚醒しない(3桁)の3段階に分け、数字が大きいほど重症です。GCSは開眼反応(E)、言語反応(V)、運動反応(M)の3要素を点数化し、合計15点満点で評価します。バイタルサイン(血圧、脈拍、呼吸数・パターン、SpO2、体温)、瞳孔(大きさ、左右差、対光反射)、神経学的所見(麻痺の有無、病的反射)を確認します。血糖値は必ず測定し、低血糖は即座に補正します。発症様式(突然か徐々にか)、既往歴、内服薬、最近の行動なども重要な情報です。

対応と治療

意識障害への対応は、まずABCDEアプローチに従います。Airway(気道確保):下顎挙上、エアウェイ挿入、必要に応じて気管挿管。Breathing(呼吸管理):SpO2モニタリング、酸素投与、必要に応じて人工呼吸。Circulation(循環管理):静脈ルート確保、輸液、血圧管理。Disability(神経学的評価):意識レベル、瞳孔、麻痺の評価。Exposure(全身観察):外傷、発疹、注射痕などの確認。原因疾患の治療として、低血糖ではブドウ糖静注、ナロキソン拮抗薬投与可能な薬物中毒では拮抗薬投与、脳血管障害では頭部CT/MRI後の血栓溶解療法や開頭手術、髄膜炎では抗菌薬投与などを行います。頭蓋内圧亢進には頭部挙上、過換気、浸透圧利尿薬を使用します。


看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

  • 非効果的脳組織灌流:脳血流低下や頭蓋内圧亢進による脳組織への酸素供給障害
  • 気道クリアランス低下:意識レベル低下による咳嗽反射減弱と気道閉塞リスク
  • 身体損傷リスク:意識障害による転落・転倒、褥瘡、拘縮のリスク

ゴードン機能的健康パターン

健康知覚-健康管理パターンでは、意識障害の発症状況、既往歴(糖尿病、脳血管障害、てんかん、肝疾患、腎疾患)、内服薬(インスリン、降圧薬、睡眠薬、向精神薬)、アルコール摂取歴、最近の外傷や感染症の有無を確認します。家族からの情報収集が重要です。栄養-代謝パターンでは、意識障害により経口摂取が不可能となるため、栄養・水分管理が課題となります。誤嚥リスクが高く、経管栄養や静脈栄養が必要となることが多いです。活動-運動パターンでは、意識障害により自力での体動が困難となり、褥瘡や拘縮、深部静脈血栓症のリスクが高まります。体位変換や関節可動域訓練が重要です。

ヘンダーソン14基本的ニード

正常に呼吸するニードが最も生命に直結します。意識レベル低下により気道閉塞、舌根沈下、誤嚥のリスクが高まるため、気道確保と呼吸状態の継続的観察が最優先です。SpO2モニタリング、呼吸音聴診、分泌物の吸引が必要です。安全なニードでは、転落・転倒リスク、痙攣発作時の外傷リスク、せん妄時の自己抜去(ライン類)や暴力行為のリスクを評価し、ベッド柵の使用、センサーマット設置、抑制の検討などを行います。清潔と皮膚の統合性を保つニードでは、自力での体動困難により褥瘡リスクが非常に高いため、2時間ごとの体位変換、圧迫部位の観察、スキンケアが重要です。

看護計画・介入の内容

  • 意識レベルと神経学的状態の継続的観察:意識レベル(JCSまたはGCS)の定期的評価と記録、バイタルサインの継続的モニタリング、瞳孔(大きさ、左右差、対光反射)の観察、運動麻痺の有無と程度の確認、痙攣発作の有無、異常な呼吸パターンの観察
  • 気道確保と呼吸管理:側臥位またはセミファーラー位の保持、気道開通性の確認、SpO2モニタリング、酸素投与、口腔内・気道内分泌物の吸引、誤嚥予防(経口摂取禁止、経鼻胃管からの栄養投与)
  • 安全管理と合併症予防:ベッド柵の使用、転落・転倒予防、痙攣発作時の安全確保(側臥位、舌咬傷予防)、2時間ごとの体位変換、関節可動域訓練、深部静脈血栓症予防(弾性ストッキング、間欠的空気圧迫法)、眼球保護(閉眼困難な場合の点眼や眼帯使用)

よくある疑問・Q&A

Q: JCSとGCSの違いは何ですか?

A: JCS(Japan Coma Scale)は日本で広く使われる評価法で、1桁(覚醒している)、2桁(刺激で覚醒する)、3桁(刺激しても覚醒しない)の3段階に分け、数字が大きいほど重症です。簡便で迅速に評価できます。GCS(Glasgow Coma Scale)は国際的に使用される評価法で、開眼反応(E:4点)、言語反応(V:5点)、運動反応(M:6点)の3要素を点数化し、合計15点満点(最低3点)で評価します。より詳細な評価が可能で、経時的変化の追跡に優れています。

Q: 意識障害患者の気道確保で注意することは?

A: 意識レベル低下により舌根沈下嘔吐物の誤嚥が起こりやすくなります。仰臥位では舌が喉頭を塞ぎ気道閉塞を起こすため、側臥位または下顎挙上により気道を確保します。頸椎損傷が疑われる場合は頭頸部を動かさず、下顎挙上法のみで対応します。意識レベルがGCS8点以下またはJCS200以上では気道保護反射が失われるため、気管挿管が必要となることが多いです。

Q: 瞳孔の観察はなぜ重要ですか?

A: 瞳孔所見は脳幹機能や頭蓋内圧亢進の状態を反映する重要な指標です。両側散大・対光反射消失は脳ヘルニアや重度の脳幹障害を示唆し、予後不良のサインです。片側散大は同側の脳ヘルニアや動眼神経麻痺を疑います。両側縮瞳は橋出血や麻薬中毒、左右不同は脳ヘルニアの初期徴候です。瞳孔径、左右差、対光反射の3点を必ず観察し、変化があれば即座に報告します。

Q: 低血糖による意識障害の特徴は?

A: 低血糖による意識障害は急激に発症し、冷汗、動悸、振戦、顔面蒼白などの交感神経症状を伴うことが多いです。糖尿病患者、インスリン使用者、長時間の絶食後などに多く見られます。血糖測定は意識障害患者の初期評価で必須であり、低血糖が判明すれば直ちにブドウ糖静注により速やかに意識が回復します。逆に、低血糖を見逃して時間が経過すると不可逆的な脳障害を起こす可能性があります。

Q: せん妄と意識障害の違いは何ですか?

A: せん妄は意識障害の一種ですが、意識レベルの変動、注意力の障害、見当識障害、幻覚・妄想を特徴とします。夜間に悪化しやすく(夕暮れ症候群)、興奮・多動型、低活動型、混合型があります。一方、一般的な意識障害は意識レベルの低下が持続的で、覚醒レベルそのものが低下しています。せん妄は術後や高齢者、ICU入室患者に多く、早期発見と環境調整、原因除去が重要です。

Q: 意識障害患者の家族へのケアで大切なことは?

A: 意識障害は家族にとって非常に大きな精神的ショックとなります。病状の正確な説明予測される経過実施している治療や看護について、専門用語を避けて分かりやすく説明することが重要です。また、家族の面会を促し、声かけや手を握るなどの関わりを勧めることで、家族の無力感を軽減できます。意識障害患者でも聴覚は最後まで残ると言われており、家族の声かけは患者にとっても有意義です。家族の不安や疑問を傾聴し、精神的サポートを提供することも看護師の重要な役割です。


まとめ

意識障害は生命に直結する緊急性の高い症状であり、脳機能の重大な障害を示唆します。看護師の最も重要な役割は、意識レベルの客観的評価(JCSまたはGCS)と継続的モニタリングにより、わずかな変化も見逃さず早期に医師へ報告することです。

特に、気道確保は生命維持の最優先事項であり、側臥位の保持、気道開通性の確認、誤嚥予防が基本的かつ重要な看護介入となります。また、瞳孔所見は脳ヘルニアなどの重篤な合併症の早期発見に不可欠な観察項目です。

意識障害患者は自己防衛能力が低下しているため、褥瘡拘縮深部静脈血栓症誤嚥性肺炎など多くの合併症リスクを抱えています。予防的ケアを徹底し、二次的な障害を最小限にすることが看護の重要な目標です。

実習では、意識障害患者に遭遇した際、まずABC(気道、呼吸、循環)の評価を最優先に行い、意識レベルと神経学的所見を正確に観察・記録する力を養いましょう。また、意識障害患者でも聴覚は残っていると考え、声かけや説明を行いながらケアを提供する姿勢が大切です。家族への精神的サポートも忘れずに、包括的な看護を心がけましょう。


この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり


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