【黄疸】症状解説と看護のポイント

症状解説

1. はじめに

「患者さんの目や皮膚が黄色くなっている…これってどういうこと?」実習でそんな疑問を持ったことはありませんか?黄疸は多くの疾患で見られる重要な症状の一つで、看護師として適切な観察とケアができることが求められます。

この記事で学べること

  • 患者・家族への説明で使える分かりやすい表現方法
  • 黄疸の基本的なメカニズムと分類
  • 病型別の症状の違いと観察ポイント
  • ゴードンとヘンダーソンの理論に基づいた看護アプローチ
  • 実習現場で活用できる具体的な看護介入

2. 病態の基本情報

定義

血液中のビリルビン値が上昇し、皮膚や眼球結膜が黄色に染まった状態

疫学

新生児では生後2-3日で約60%に生理的黄疸が現れ、成人では血清総ビリルビン値が2.0mg/dl以上になると肉眼的に黄疸が確認できるようになります。肝疾患患者の約70-80%で何らかの程度の黄疸が認められ、重篤な場合は30mg/dl以上に達することもあります。

分類・病型

黄疸は発生メカニズムによって大きく3つに分類されます。溶血性黄疸は赤血球の破壊が亢進することで起こり、主に脾臓での赤血球処理が追いつかない状態です。肝細胞性黄疸は肝臓でのビリルビン処理能力が低下することで発生し、肝炎や肝硬変でよく見られます。閉塞性黄疸は胆汁の流れが妨げられることで起こり、胆石や腫瘍による胆管閉塞が原因となります。新生児特有の生理的黄疸は、肝機能の未熟性により一時的にビリルビン処理が追いつかない状態で、通常は自然に改善します。


3. 病態生理

基本メカニズム

黄疸のメカニズムを家庭のゴミ処理システムで例えてみましょう。赤血球は約120日で寿命を迎え、脾臓という「ゴミ処理場」で分解されます。この時に出る「ゴミ」がビリルビンです。通常はこのビリルビンが血液で肝臓という「リサイクル工場」に運ばれ、胆汁として腸に排出されます。しかし、このどこかの過程で問題が起きると、ビリルビンが血液中に蓄積し、皮膚や目が黄色くなるのです。

進行過程

正常な状態では血清ビリルビン値は1.0mg/dl以下に保たれています。代償期では軽度の上昇(1.0-2.0mg/dl)が見られますが、まだ肉眼的な黄疸は確認できません。しかし、この時期から肝機能検査値の軽度異常や疲労感などの症状が現れ始めます。非代償期に入ると血清ビリルビン値が2.0mg/dl以上となり、まず眼球結膜から黄染が始まり、続いて皮膚全体に広がります。重篤な状態では10mg/dl以上に達し、全身の黄染とともに重篤な症状が現れます。

病型別の違い

• 溶血性黄疸:主に間接ビリルビンが上昇し、皮膚の黄染は比較的軽度でレモン色調 • 肝細胞性黄疸:直接・間接ビリルビン両方が上昇し、橙黄色の黄染 • 閉塞性黄疸:主に直接ビリルビンが上昇し、濃い緑黄色の黄染と強いかゆみ • 生理的黄疸:間接ビリルビンの軽度上昇で、淡い黄色調

合併症・併発する病態

高ビリルビン血症が持続すると、まず皮膚の強いかゆみが現れ、患者のQOLを大きく低下させます。特に閉塞性黄疸では胆汁酸の皮膚沈着により激しいかゆみが生じます。さらに進行すると、脂溶性ビタミン(A、D、E、K)の吸収障害により出血傾向や骨軟化症が現れる可能性があります。新生児では核黄疸という重篤な合併症があり、ビリルビンが脳に沈着して永続的な神経障害を引き起こす危険性があります。

看護に活かすポイント

黄疸の観察で最も重要なのは「なぜその色調なのか?」を理解することです。間接ビリルビン優位なら溶血や肝細胞での取り込み障害を、直接ビリルビン優位なら胆汁排出障害を疑います。また、黄疸の進行は眼球結膜→顔面→体幹→四肢の順で現れるため、早期発見には結膜の観察が欠かせません。さらに、ビリルビン値の変動は治療効果の重要な指標となるため、継続的な観察と記録が治療方針の決定に直結します。


4. 症状・検査・治療

代表的な症状・徴候

溶血性黄疸の患者さんは「何となく疲れやすくて、顔色が悪いと言われる」と訴えることが多く、貧血症状を伴います。肝細胞性黄疸では「食欲がなくて、右のお腹が重い感じがする」という消化器症状とともに全身倦怠感が顕著です。閉塞性黄疸の特徴的な症状は「夜も眠れないほど体中がかゆくて掻いてしまう」という強いかゆみで、患者さんの苦痛は計り知れません。また、「尿の色が濃くなった」「便が白っぽくなった」という排泄物の色調変化も重要な症状です。

主要な検査・診断

血清総ビリルビン値(正常値:0.3-1.0mg/dl)の上昇が診断の基本となります。直接ビリルビン(正常値:0.0-0.3mg/dl)と間接ビリルビンの比率から原因を推定できます。肝機能検査ではAST(正常値:10-35U/L)、ALT(正常値:5-30U/L)の上昇度合いから肝細胞障害の程度を、ALP(正常値:115-350U/L)、γ-GTP(正常値:男性10-50U/L、女性9-35U/L)から胆汁うっ滞の程度を評価します。看護師として注目すべきは、これらの数値の変動パターンで、急激な上昇は緊急性が高く、緩やかな変化でも継続的な観察が必要です。

治療の基本

溶血性黄疸では原因疾患の治療とともに、重篤な場合は交換輸血や血漿交換が行われます。肝細胞性黄疸では肝庇護療法と安静が基本で、栄養状態の改善も重要です。閉塞性黄疸では胆管ドレナージや外科的治療による閉塞解除が優先され、内視鏡的治療も選択されます。症状緩和では、かゆみに対する抗ヒスタミン薬の使用や、胆汁酸吸着剤の投与が行われます。


5. 看護のポイント

主な看護診断

• 皮膚統合性障害リスク状態(かゆみによる掻破行動) • 活動耐性低下(全身倦怠感、貧血) • 栄養摂取消費バランス異常:必要量以下(食欲不振、消化吸収障害) • 不安(症状の進行、外見の変化に対する心配)

ゴードンの機能的健康パターン別観察項目

栄養代謝パターンが最も重要な観察領域となります。食欲の変化、体重減少、悪心・嘔吐の有無を詳細に観察し、水分バランスも注意深く監視します。皮膚の色調変化は毎日同じ時間、同じ光源下で観察し、眼球結膜の黄染度合いを段階的に評価します。排泄パターンでは尿色の変化(濃黄色からコーラ色)と便色の変化(淡黄色から陶土色)を継続的に観察し、排泄量も正確に測定します。活動運動パターンでは疲労感の程度を段階的に評価し、日常生活活動への影響を具体的に把握します。

ヘンダーソンの基本的欲求からみた看護

適切な栄養と水分の摂取に関する欲求では、消化吸収機能の低下を考慮した食事指導が重要です。高蛋白質で消化しやすい食品を中心とし、脂溶性ビタミンの補給も必要に応じて行います。食欲不振に対しては、患者さんの嗜好を考慮した食事の工夫や、少量頻回摂取の提案などで自立を支援します。正常な排泄の欲求では、胆汁排泄障害による便秘や下痢に対する適切な対応と、排泄物の性状観察を患者・家族にも説明し、自己管理能力を高めます。皮膚を清潔に保つ欲求では、かゆみによる掻破を防ぐスキンケアの指導と、適切な清拭方法を患者に伝授します。

病態に応じた具体的な看護介入

軽度黄疸期では、症状の変化を見逃さないための観察ポイントを患者・家族に説明し、セルフモニタリング能力を向上させることが最優先です。中等度黄疸期になると、かゆみに対する具体的な対処法(冷却、保湿、爪切り)を指導し、掻破による二次感染を予防します。また、活動制限が必要な場合は、患者のライフスタイルに合わせた無理のない安静度を提案します。重度黄疸期では、全身状態の詳細な観察とともに、心理的サポートが欠かせません。外見の変化による患者の心理的負担を理解し、家族も含めた支援体制を構築します。

予防・悪化防止のポイント

黄疸の進行を防ぐためには、まず原因疾患の管理が最重要です。肝臓に負担をかけるアルコールや不要な薬剤の摂取を避け、十分な休息と適切な栄養摂取を継続することを指導します。また、感染症の予防も重要で、手洗いやうがいの徹底、人混みを避けるなどの日常的な感染対策を説明します。定期的な血液検査による経過観察の重要性を説明し、症状の変化があった場合の適切な受診タイミングを患者・家族と共有します。


6. よくある質問・Q&A

Q:黄疸の患者さんの皮膚が黄色いのはなぜですか?

A: 血液中にビリルビンという黄色い物質が増えすぎて、それが皮膚や白目に沈着するからです。ビリルビンは古くなった赤血球が分解される時にできる「老廃物」のようなもので、通常は肝臓で処理されて胆汁として排出されます。しかし、赤血球の破壊が増えすぎたり、肝臓の処理能力が落ちたり、胆汁の流れが悪くなったりすると、血液中にビリルビンが蓄積して黄疸が現れるのです。

Q:黄疸の観察で最も重要なポイントは何ですか?

A: 最も重要なのは眼球結膜の観察です。皮膚よりも結膜の方が早期から黄染が現れるため、軽度の黄疸も見逃しません。自然光の下で観察し、進行度合いを段階的に評価します。また、尿の色(濃黄色~コーラ色)と便の色(淡黄色~陶土色)の変化も重要な指標です。これらの変化は患者さんも気づきやすいため、セルフモニタリングの指導にも活用できます。

Q:黄疸の患者さんのかゆみにはどう対応すればよいですか?

A: かゆみは黄疸患者さんの最も辛い症状の一つです。まず皮膚を清潔に保ち、保湿剤でしっかりと保湿します。爪は短く切り、掻破による傷を防ぎます。冷たいタオルで患部を冷やすと一時的に楽になることが多いです。また、衣服は綿素材で通気性の良いものを選び、締め付けを避けます。医師の指示のもと、抗ヒスタミン薬や胆汁酸吸着剤が処方されることもあります。

Q:新生児の黄疸はいつ頃まで続きますか?

A: 生理的黄疸は生後2-3日頃から現れ、通常は生後1-2週間で自然に消失します。ただし、母乳栄養の場合は母乳性黄疸として1ヶ月程度続くことがあります。重要なのは病的黄疸との鑑別で、生後24時間以内に現れる黄疸、急激に進行する黄疸、3週間以上続く黄疸は病的な可能性があるため、必ず医師の診察が必要です。


7. まとめ

黄疸は単なる皮膚の色調変化ではなく、体内でのビリルビン代謝異常を示す重要なサインです。看護師として、黄疸の病型を理解し、適切な観察とケアを提供することで、患者さんの症状改善と合併症予防に大きく貢献できます。

覚えるべき数値 • 血清総ビリルビン正常値:0.3-1.0mg/dl • 肉眼的黄疸確認レベル:2.0mg/dl以上 • 重篤な黄疸:10mg/dl以上 • 核黄疸リスクレベル(新生児):20mg/dl以上

実習・現場で活用できるポイント

黄疸の観察は眼球結膜から始まり、自然光での継続的な評価が基本です。患者さんの訴え(かゆみ、疲労感、食欲不振)と客観的な観察所見を総合的に評価し、症状の変化を見逃さないことが重要です。また、黄疸は患者さんの外見に関わるため、心理的な配慮も欠かせません。家族も含めた教育指導により、患者さんの自己管理能力を高め、QOLの維持・向上を図ることが、質の高い看護実践につながります。

免責事項

本記事は教育・学習目的の情報提供です。

・一般的な医学知識の解説であり、個別の患者への診断・治療の根拠ではありません

・実際の看護実践は、患者の個別性を考慮し、指導者の指導のもと行ってください

・記事の情報は公開時点のものであり、最新の医学的知見と異なる場合があります

・本記事を課題としてそのまま提出しないでください

正確な情報提供に努めていますが、内容の完全性・正確性を保証するものではありません。

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