事例の要約
顔面と上肢に特徴的な蝶形紅斑が出現し、全身性エリテマトーデスの増悪による腎機能低下と関節痛のため入院となった40代女性A氏の事例。介入日は4月15日である。
基本情報
A氏は45歳の女性で、身長158cm、体重52kgである。家族構成は夫と高校生の娘の3人暮らしで、キーパーソンは夫である。職業は事務員として週5日勤務しており、几帳面で責任感が強い性格である。感染症はなく、薬剤アレルギーとして非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)でじんましんの既往がある。認知力は正常で日常生活に支障はない。
病名
病名は全身性エリテマトーデス(SLE)である。
既往歴と治療状況
既往歴として35歳時に全身性エリテマトーデスと診断され、ステロイド薬による治療を継続中であった。これまでに数回の増悪と寛解を繰り返しており、最近は症状が安定していたため外来でフォローアップ中であった。38歳時にループス腎炎を発症し、腎生検で診断され、免疫抑制薬の併用が開始されていた。
入院から現在までの情報
A氏は1週間前から両手関節痛と頬部の紅斑が出現し徐々に悪化、4日前から38℃台の発熱と全身倦怠感が強くなり、日常生活が困難になったため救急外来を受診した。血液検査と尿検査の結果、SLEの増悪とループス腎炎の悪化が認められたため入院となった。入院後、ステロイドパルス療法が3日間施行され、現在は後療法としてプレドニゾロン60mg/日の内服治療中である。
バイタルサイン
バイタルサインは、来院時、体温38.7℃、脈拍110回/分、血圧142/88mmHg、呼吸数24回/分とバイタルサインの異常を認めた。SpO2は96%(室内気)であり、呼吸状態は安定していた。現在は、体温36.8℃、脈拍78回/分、血圧128/76mmHg、呼吸数16回/分、SpO2 98%(室内気)と安定している。
食事と嚥下状態
入院前のA氏は3食規則正しく摂取し、特に食事制限はなかったが、ループス腎炎の診断後は減塩食(6g/日)を心がけていた。嚥下状態は問題なく、喫煙歴はなく、飲酒は月に1~2回程度の社交的な場面で少量のワインを飲む程度であった。現在はステロイド治療に伴う消化器症状予防のため、消化性潰瘍予防薬を併用しながら病院食(減塩食1600kcal)を摂取している。嚥下障害はなく、食欲は徐々に回復してきている。
排泄
入院前は1日1回の規則的な排便習慣があり、便の性状は普通便であった。下剤の使用はなかった。入院後はステロイド治療の影響と活動量の低下により便秘傾向にあり、現在は酸化マグネシウムを就寝前に内服し、排便コントロールを行っている。排便は2日に1回程度で、やや硬めの便が出ている。
睡眠
入院前は22時~6時まで8時間程度の睡眠をとっていたが、関節痛や発熱により睡眠の質が低下していた。眠剤の常用はなかった。入院後はステロイド治療の影響で不眠があり、就寝前にゾルピデム5mgを内服している。現在は薬の効果もあり、入眠は良好だが、早朝に覚醒することがある。
視力・聴力・知覚・コミュニケーション・信仰
視力は軽度の近視で普段は眼鏡を使用している。聴力は正常である。知覚障害はないが、関節痛が持続している。コミュニケーションは良好で意思疎通に問題はない。宗教的な信仰は特になく、信仰による治療上の制限はない。
動作状況
入院前は自立して歩行や日常生活動作を行っていたが、発症前1週間は関節痛により動作が緩慢になっていた。入院後は全身倦怠感と関節痛のため、病棟内の移動は看護師の見守りの下で歩行している。移乗は自立しているが、起き上がり動作時に両手関節の痛みを訴えることがある。排尿・排泄は自立して行えているが、トイレまでの移動に時間がかかるためポータブルトイレを使用している。入浴は現在はシャワー浴で、看護師の見守りの下で行っている。衣類の着脱は自立しているが、ボタンの操作など細かい動作が関節痛のため困難である。転倒歴はない。
内服中の薬
- プレドニゾロン 60mg/日 朝食後 1回
- タクロリムス 3mg/日 朝夕食後 2回に分けて
- ヒドロキシクロロキン 200mg/日 朝食後 1回
- ランソプラゾール 15mg/日 朝食後 1回(消化性潰瘍予防)
- 酸化マグネシウム 990mg/日 就寝前 1回(便秘予防)
- ゾルピデム 5mg/日 就寝前 1回(不眠時)
- 芍薬甘草湯 7.5g/日 頓服(筋痙攣時)
- カルシウム 1200mg/日 朝夕食後 2回に分けて(ステロイド性骨粗鬆症予防)
- アルファカルシドール 1.0μg/日 朝食後 1回(ステロイド性骨粗鬆症予防)
服薬状況は、入院前は自己管理で内服できていたが、入院後は高用量ステロイド治療中であること、また内服薬の増量と変更があったことから、現在は看護師管理となっている。A氏は薬に対する理解はあるが、ステロイドの副作用である眠気や倦怠感があるため、看護師が配薬し、確実に内服できているか確認している。自己管理への移行は、症状の改善や薬の減量と併せて検討していく予定である。薬のコンプライアンスは良好である。
検査データ
検査項目 | 基準値 | 入院時 | 最近(1週間後) |
---|---|---|---|
血液検査 | |||
WBC | 3,500-9,000/μL | 2,800/μL | 3,600/μL |
RBC | 380-500万/μL | 320万/μL | 350万/μL |
Hb | 11.5-15.0g/dL | 9.8g/dL | 10.2g/dL |
Ht | 35.0-45.0% | 31.0% | 33.0% |
Plt | 15-35万/μL | 8.5万/μL | 12.0万/μL |
生化学検査 | |||
TP | 6.5-8.2g/dL | 6.8g/dL | 6.7g/dL |
Alb | 3.8-5.2g/dL | 3.2g/dL | 3.5g/dL |
BUN | 8-20mg/dL | 28mg/dL | 22mg/dL |
Cr | 0.4-0.8mg/dL | 1.2mg/dL | 0.9mg/dL |
eGFR | ≧60mL/分/1.73m² | 48mL/分/1.73m² | 56mL/分/1.73m² |
Na | 135-145mEq/L | 138mEq/L | 140mEq/L |
K | 3.5-5.0mEq/L | 4.2mEq/L | 4.3mEq/L |
Cl | 98-108mEq/L | 103mEq/L | 102mEq/L |
CRP | ≦0.3mg/dL | 3.8mg/dL | 1.2mg/dL |
免疫学的検査 | |||
抗核抗体 | <40倍 | 1,280倍 | 640倍 |
抗ds-DNA抗体 | <12 IU/mL | 78 IU/mL | 42 IU/mL |
抗Sm抗体 | 陰性 | 陽性 | 陽性 |
CH50 | 30-45U/mL | 18U/mL | 24U/mL |
C3 | 65-135mg/dL | 42mg/dL | 58mg/dL |
C4 | 13-35mg/dL | 8mg/dL | 12mg/dL |
尿検査 | |||
尿蛋白 | 陰性 | 3+ | 2+ |
尿潜血 | 陰性 | 2+ | 1+ |
尿蛋白/Cr比 | <0.15g/gCr | 2.8g/gCr | 1.5g/gCr |
尿中赤血球 | <5/HPF | 20-25/HPF | 10-15/HPF |
尿中円柱 | なし | 顆粒円柱、赤血球円柱あり | 顆粒円柱少数 |
今後の治療方針と医師の指示
ステロイドパルス療法後のプレドニゾロン60mg/日を2週間継続し、臨床症状と検査データの改善を確認しながら4週間かけて漸減していく予定である。腎機能の改善傾向が見られるが、ループス腎炎の活動性が持続しているため、タクロリムスは現在の用量を維持する。ヒドロキシクロロキンは長期的な再燃予防のために継続する。また、尿蛋白/Cr比が1.5g/gCrと高値が継続しているため、腎臓内科との協議により今後の腎保護療法についてさらに検討する予定である。入院期間は約4週間を予定しており、ステロイドの減量に伴う疾患活動性の評価と同時に、ステロイドの副作用モニタリングを定期的に行う。日光曝露による症状悪化を防ぐため、退院後は紫外線対策の徹底と定期的な外来受診が指示されている。また、リハビリテーションを開始し、筋力低下の予防と日常生活動作の改善を図る方針である。
本人と家族の想いと言動
A氏は「今回も関節痛と発熱で入院するなんて、会社に迷惑をかけてしまう」と仕事への影響を気にしている。また、「ステロイドを増やすと太ったり顔が丸くなったりするから嫌だけど、早く良くなるためには仕方ないのかな」と治療に対して複雑な心境を抱えている。一方で「娘の高校卒業式には元気になっていたい」という強い希望を持っている。夫は「仕事のことは心配せず、今は治療に専念してほしい」と言い、頻繁に面会に訪れている。娘は母親の病状を心配しており、LINE通話で毎日連絡を取っている。家族は病気の理解に努め、A氏の精神的サポートを行っているが、夫からは「病気のことをもっと詳しく知りたい」との希望があり、医療スタッフによる疾患教育の機会を持つことが計画されている。A氏は「これまでの増悪時よりも症状が重いので不安」と話し、今後の生活や仕事への影響について具体的な見通しを持ちたいと考えている。
アセスメント
疾患の簡単な説明
全身性エリテマトーデス(SLE)は自己免疫疾患の一種であり、免疫システムが誤って自分自身の組織を攻撃することで、全身の様々な臓器に炎症を引き起こす疾患である。SLEは関節痛、皮膚発疹、光線過敏症、腎臓障害など多彩な症状を呈し、増悪と寛解を繰り返す慢性疾患である。A氏は35歳時にSLEと診断され、38歳時にループス腎炎を発症している。ループス腎炎はSLEの主要な合併症であり、腎機能障害を引き起こす可能性がある深刻な病態である。
健康状態
A氏は現在45歳の女性で、SLEとループス腎炎の増悪により入院している。入院前は症状が安定していたが、1週間前から両手関節痛と頬部の紅斑が出現し、4日前からは38℃台の発熱と全身倦怠感が強くなり、日常生活が困難となったため救急受診に至った。入院時の検査では、白血球数2,800/μL、血小板8.5万/μLと減少、抗核抗体1,280倍、抗ds-DNA抗体78 IU/mLと高値、補体価(CH50、C3、C4)は低下、尿蛋白3+、尿潜血2+、尿蛋白/Cr比2.8g/gCrとSLEの疾患活動性の上昇とループス腎炎の悪化が認められる。ステロイドパルス療法施行後は、体温36.8℃、脈拍78回/分、血圧128/76mmHg、呼吸数16回/分、SpO2 98%(室内気)とバイタルサインは安定してきているが、両手関節痛は持続している。また、1週間後の検査データでは、尿蛋白/Cr比1.5g/gCr、抗ds-DNA抗体42 IU/mLと改善傾向にあるものの、依然として基準値を上回っており、疾患の活動性が継続していると判断される。
受診行動、疾患や治療への理解、服薬状況
A氏は35歳でSLEと診断されて以降、定期的に通院し治療を継続していた。今回の増悪に対しても症状が悪化したことを認識し、適切なタイミングで受診しており、自己の健康状態の変化に対する認識と受診行動は適切である。疾患に対する理解はあるが、「今回も関節痛と発熱で入院するなんて、会社に迷惑をかけてしまう」「ステロイドを増やすと太ったり顔が丸くなったりするから嫌だ」という発言から、疾患の慢性的な経過や治療に伴う副作用に対する不安と葛藤が認められる。入院前は自己管理で内服できていたが、現在は高用量ステロイド治療中で内服薬の増量と変更があったことから看護師管理となっている。ステロイドの副作用である眠気や倦怠感はあるものの、薬のコンプライアンスは良好である。しかし、薬剤アレルギーとして非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)でじんましんの既往があるため、今後の疼痛コントロールにおいて注意が必要である。
身長、体重、BMI、運動習慣
A氏は身長158cm、体重52kgであり、BMIは20.8kg/m²と標準体重範囲内である。しかし、現在のステロイド大量療法により、今後の体重増加や体型変化のリスクがある。運動習慣に関する直接的な情報はないが、入院前は自立して歩行や日常生活動作を行っていたことから、一定の身体活動は維持できていたと推測される。しかし、入院後は全身倦怠感と関節痛のため、病棟内の移動は看護師の見守りの下で行っており、活動量の低下が認められる。また、ボタンの操作など細かい動作が関節痛のため困難となっている。これらの状況から、筋力低下や廃用症候群のリスクがあるため、リハビリテーションの導入が計画されている。
呼吸に関するアレルギー、飲酒、喫煙の有無
A氏は呼吸に関するアレルギーの情報は得られていないが、前述の通りNSAIDsによるじんましんの既往がある。喫煙歴はなく、飲酒は月に1~2回程度の社交的な場面で少量のワインを飲む程度である。呼吸状態は安定しており、SpO2は96%(入院時)から98%(現在)と良好である。SLEでは肺病変を合併することがあるため、今後も呼吸状態の観察は継続する必要がある。
既往歴
A氏は35歳時に全身性エリテマトーデスと診断され、38歳時にループス腎炎を発症し、腎生検で診断されている。これまでに数回の増悪と寛解を繰り返しており、ステロイド薬と免疫抑制薬による治療を継続中であった。腎機能障害は徐々に進行しており、入院時のeGFRは48mL/分/1.73m²、Crは1.2mg/dLと腎機能低下を認めたが、治療開始後は改善傾向(eGFR 56mL/分/1.73m²、Cr 0.9mg/dL)にある。しかし、依然として腎機能障害は持続しており、今後の腎保護療法の検討が必要である。
健康管理上の課題と看護介入
A氏の健康管理上の主な課題は、①SLEとループス腎炎の疾患活動性のコントロール、②ステロイド大量療法に伴う副作用の予防と早期発見、③関節痛による活動制限と筋力低下の予防、④疾患の慢性的経過に対する心理的適応の促進である。
これらの課題に対する看護介入として、以下が重要である。①疾患活動性のモニタリングのため、バイタルサイン、症状(関節痛、皮膚症状など)、検査データの定期的な評価と記録を行う。②ステロイド副作用の予防として、骨粗鬆症予防のためのカルシウムとビタミンD摂取の確認、消化器症状予防のための消化性潰瘍予防薬の確実な投与、感染予防のための手指衛生と環境整備、血糖値上昇の監視を行う。③活動と休息のバランスを考慮したリハビリテーション計画の実施と、日常生活動作の自立度に応じた援助を行う。④A氏と家族に対する疾患教育と心理的サポートを提供し、特に夫の「病気のことをもっと詳しく知りたい」という希望に応えるための情報提供を行う。
また、継続的に観察・確認すべき点として、症状の変化(特に関節痛、皮膚症状、浮腫)、腎機能の推移(尿量、尿検査結果、BUN、Cr、eGFR)、ステロイド減量に伴う疾患活動性の変化、薬物療法の副作用(感染兆候、消化器症状、精神症状、高血糖、電解質異常など)、活動量と筋力の変化が挙げられる。また、退院後の生活に向けて、A氏の「会社に迷惑をかけている」という思いや「娘の高校卒業式には元気になっていたい」という希望を考慮した支援計画の立案が必要である。さらに、紫外線がSLEの増悪因子となるため、退院後の紫外線対策についての教育も重要である。
A氏は45歳であり、加齢に伴う身体機能の変化は顕著ではないが、ステロイド療法による骨密度低下のリスクは閉経前の女性でも考慮すべき点である。また、長期的な疾患管理の視点から、A氏のセルフケア能力を高め、症状の自己モニタリングと適切な受診判断ができるよう支援することが重要である。
食事と水分の摂取量と摂取方法
A氏は入院前、3食規則正しく摂取しており、ループス腎炎の診断後は減塩食(6g/日)を心がけていた。入院後はステロイド治療に伴う消化器症状予防のため、消化性潰瘍予防薬を併用しながら病院食(減塩食1600kcal)を摂取している。食欲は疾患の増悪に伴い一時的に低下していたが、ステロイドパルス療法後は徐々に回復してきている。水分摂取量についての具体的な情報は得られていないが、腎機能障害があることから、水分出納のバランスに注意が必要である。現在の血清Na値は140mEq/Lと正常範囲内であることから、水分摂取と排泄のバランスは比較的保たれていると考えられる。しかし、ループス腎炎の活動性が持続しているため、今後も水分バランスの観察は継続する必要がある。
好きな食べ物/食事に関するアレルギー
A氏の好きな食べ物に関する具体的な情報は得られていないが、食事に関するアレルギーの情報も記載されていない。ただし、薬剤アレルギーとして非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)でじんましんの既往があることから、食物アレルギーの有無についても確認する必要がある。また、高用量ステロイド治療中であることから、血糖値上昇のリスクがあり、糖質の過剰摂取には注意が必要である。さらに、ステロイドの長期使用に伴う骨粗鬆症予防のため、カルシウムとビタミンDを含む食品の摂取状況についても評価が必要である。
身長・体重・BMI・必要栄養量・身体活動レベル
A氏は身長158cm、体重52kgであり、BMIは20.8kg/m²と標準体重範囲内である。ハリス・ベネディクト式を用いた基礎代謝量(BEE)は約1200kcalと推定され、現在の活動量の低下を考慮すると、必要エネルギー量は約1500-1600kcalと考えられる。現在提供されている病院食(減塩食1600kcal)はこの必要量を満たしているが、ステロイド大量療法により代謝が亢進している可能性があり、実際のエネルギー消費量は変動する可能性がある。また、入院前は自立して歩行や日常生活動作を行っていたが、現在は関節痛と全身倦怠感のため病棟内の移動は看護師の見守りの下で行っており、身体活動レベルは低下している。このため、エネルギー消費量も減少していると考えられるが、一方で筋力低下や廃用症候群のリスクもある。
食欲・嚥下機能・口腔内の状態
A氏の食欲は入院時には疾患の増悪に伴い低下していたが、ステロイド治療開始後は徐々に回復してきている。嚥下機能に問題はなく、経口摂取が可能である。口腔内の状態についての具体的な情報は得られていないが、SLE患者では口腔内潰瘍やシェーグレン症候群による口腔乾燥が合併することがあるため、口腔内の状態確認が必要である。また、高用量ステロイド治療中であることから、カンジダ症などの口腔内感染症のリスクもあり、定期的な口腔内の観察と清潔保持が重要である。
嘔吐・吐気
嘔吐や吐気に関する明確な情報は得られていないが、入院後はステロイド治療に伴う消化器症状予防のため、ランソプラゾール15mg/日を内服している。ステロイド大量療法では消化器症状(胃部不快感、嘔気、嘔吐など)が出現することがあるため、消化器症状の有無を定期的に観察する必要がある。また、腎機能障害があるため、尿毒症症状としての嘔気が出現する可能性もあり、注意深い観察が必要である。
皮膚の状態、褥創の有無
入院時、A氏は頬部の紅斑が認められており、これはSLEの典型的な皮膚症状である。現在の皮膚の詳細な状態についての情報は得られていないが、SLEでは光線過敏症や様々な皮膚病変を呈することがあるため、定期的な皮膚の観察が必要である。褥創については具体的な情報はないが、現在のA氏は自力で体位変換が可能であり、移乗も自立していることから、褥創のリスクは低いと考えられる。しかし、ステロイド大量療法による皮膚の脆弱化や易出血性のリスクがあるため、皮膚の保護と観察は重要である。また、ステロイドの副作用として浮腫が出現する可能性もあり、四肢や顔面の浮腫の有無を定期的に確認する必要がある。
血液データ(Alb、TP、RBC、Ht、Hb、Na.K、TG、TC、HbA1C、BS)
入院時の血液データでは、赤血球(RBC)320万/μL、ヘモグロビン(Hb)9.8g/dL、ヘマトクリット(Ht)31.0%と貧血が認められる。また、総蛋白(TP)は6.8g/dLと正常範囲だが、アルブミン(Alb)は3.2g/dLと低アルブミン血症を呈している。血清電解質については、ナトリウム(Na)138mEq/L、カリウム(K)4.2mEq/Lと正常範囲内である。一週間後の検査では、RBC 350万/μL、Hb 10.2g/dL、Ht 33.0%と貧血は若干改善傾向にあるが、依然として基準値を下回っている。Albも3.5g/dLとわずかに改善しているが、まだ低値である。これらの所見は、SLEの疾患活動性の上昇とループス腎炎による蛋白尿(尿蛋白/Cr比2.8g/gCr→1.5g/gCr)に伴う蛋白喪失によるものと考えられる。また、SLEでは自己免疫性溶血性貧血や慢性疾患に伴う貧血を合併することがあり、これも貧血の一因と考えられる。なお、中性脂肪(TG)、総コレステロール(TC)、ヘモグロビンA1c(HbA1C)、血糖値(BS)についての情報は得られていないが、ステロイド大量療法により脂質異常症や高血糖のリスクがあるため、これらの検査値の定期的なモニタリングが必要である。
栄養-代謝に関する課題と看護介入
A氏の栄養-代謝に関する主な課題は、①ループス腎炎による蛋白喪失と低アルブミン血症、②貧血、③ステロイド大量療法に伴う代謝異常のリスク(高血糖、脂質異常症)、④活動量低下に伴う筋力低下と廃用症候群のリスクである。
これらの課題に対する看護介入として、以下が重要である。①蛋白質摂取量の適正化とアルブミン値のモニタリングを行う。特に腎機能障害があるため、蛋白質制限が必要な場合もあるが、同時に低栄養状態を避けるバランスも考慮する必要がある。②貧血に対して、食事からの鉄分、葉酸、ビタミンB12の摂取を促進し、疲労や動悸などの貧血症状の観察を行う。③ステロイド治療に伴う代謝異常の予防として、定期的な血糖値、電解質、脂質プロファイルの測定と、食事内容の調整(糖質や脂質の過剰摂取を避ける)を行う。④リハビリテーションと栄養サポートを組み合わせ、筋力維持と適切な栄養状態の確保を図る。
また、継続的に観察・確認すべき点として、食事摂取量の変化、体重の推移、皮膚や粘膜の状態(紅斑、潰瘍、感染徴候など)、浮腫の有無と程度、消化器症状(嘔気、嘔吐、腹部不快感など)、口腔内の状態、血液検査値(特にAlb、Hb、血糖値、電解質、脂質)の変化が挙げられる。さらに、ステロイド減量に伴う症状の変化や、退院に向けての食事指導(減塩食の継続、カルシウムとビタミンDの摂取増加、適切な蛋白質摂取など)も重要である。
A氏は45歳であり、加齢に伴う代謝機能の低下は顕著ではないが、ステロイド治療による骨密度低下や筋力低下のリスクは考慮すべき点である。また、長期的な疾患管理の視点から、A氏の食事療法に対する理解と実践能力を高め、SLEとループス腎炎の管理に適した食生活を継続できるよう支援することが重要である。
排便と排尿の回数と量と性状
A氏は入院前、1日1回の規則的な排便習慣があり、便の性状は普通便であった。入院後はステロイド治療の影響と活動量の低下により便秘傾向となり、現在は酸化マグネシウムを就寝前に内服し、排便コントロールを行っている。排便は2日に1回程度で、やや硬めの便が出ている状態である。排尿に関しては明確な記載はないが、尿検査では尿蛋白3+(入院時)から2+(1週間後)、尿潜血2+から1+と改善傾向にあるものの、依然として蛋白尿と血尿が持続している。尿蛋白/Cr比も2.8g/gCrから1.5g/gCrへと改善しているが、基準値(<0.15g/gCr)を大きく上回っており、ループス腎炎の活動性が継続していることを示している。また、尿中赤血球数は20-25/HPFから10-15/HPFへと減少し、尿中円柱も顆粒円柱、赤血球円柱ありから顆粒円柱少数へと改善傾向にあるが、依然として腎障害を示す所見が認められる。排尿回数や1回排尿量、24時間尿量などの情報は得られていないため、より詳細な情報収集が必要である。
下剤使用の有無
入院前はA氏に下剤の使用はなかったが、入院後はステロイド治療の影響と活動量の低下により便秘傾向となったため、現在は酸化マグネシウム990mg/日を就寝前に内服している。この下剤使用により2日に1回程度の排便が得られているが、便の性状はやや硬めであることから、下剤の効果は十分とは言えない可能性がある。また、ループス腎炎による腎機能障害があるため、酸化マグネシウムの使用に際しては高マグネシウム血症のリスクに注意が必要である。腎機能低下患者では、マグネシウム製剤の排泄が遅延し血中濃度が上昇する可能性があるため、血清マグネシウム値のモニタリングが重要である。
in-outバランス
A氏のin-outバランスに関する具体的な情報は得られていない。しかし、ループス腎炎があり腎機能障害(入院時eGFR 48mL/分/1.73m²)を認めることから、水分出納バランスの評価は重要である。現在の血清電解質(Na 140mEq/L、K 4.3mEq/L、Cl 102mEq/L)は正常範囲内であることから、重篤な水分・電解質異常は生じていないと考えられるが、ステロイド大量療法により水分貯留や電解質異常が生じる可能性があるため、今後も定期的な評価が必要である。また、尿量や飲水量の記録がないため、これらの情報を収集し、正確なin-outバランスを評価する必要がある。
排泄に関連した食事・水分摂取状況
A氏は入院前、3食規則正しく摂取し、ループス腎炎の診断後は減塩食(6g/日)を心がけていた。現在は病院食(減塩食1600kcal)を摂取している。水分摂取量に関する具体的な情報は得られていないが、腎機能障害がある場合、過剰な水分摂取は避けるべきであり、適切な水分管理が必要である。また、便秘傾向にあることを考慮すると、食物繊維の摂取量や水分摂取のタイミングなど、排便促進に関連する食事内容についても評価が必要である。さらに、ループス腎炎による蛋白尿があるため、蛋白質摂取量についても考慮する必要がある。腎機能障害の程度に応じた蛋白質制限が必要な場合もあるが、低アルブミン血症(Alb 3.5g/dL)も認められるため、栄養状態を悪化させない範囲での調整が重要である。
安静度・バルーンカテーテルの有無
A氏の安静度は、入院後は全身倦怠感と関節痛のため、病棟内の移動は看護師の見守りの下で歩行している状態である。移乗は自立しているが、起き上がり動作時に両手関節の痛みを訴えることがある。排尿・排便は自立して行えているが、トイレまでの移動に時間がかかるためポータブルトイレを使用している。バルーンカテーテルの使用に関する記載はないことから、留置されていないと考えられる。関節痛による移動の困難さがあるため、排泄行為に関する負担や困難さについて評価する必要がある。特に、ポータブルトイレの使用は自宅とは異なる環境であり、プライバシーの確保や心理的影響についても考慮する必要がある。
腹部膨満・腸蠕動音
腹部膨満や腸蠕動音に関する具体的な情報は得られていない。しかし、便秘傾向にあることから、腹部膨満感や腸蠕動音の減弱が生じている可能性がある。また、ステロイド治療に伴う消化器症状予防のため消化性潰瘍予防薬(ランソプラゾール15mg/日)を内服していることから、消化器症状の有無や腹部の状態についての評価が必要である。さらに、腎炎により腹水が貯留する可能性もあるため、腹部の状態を定期的に観察する必要がある。
血液データ(BUN、Cr、GFR)
入院時の血液データでは、BUN 28mg/dL(基準値8-20mg/dL)、Cr 1.2mg/dL(基準値0.4-0.8mg/dL)、eGFR 48mL/分/1.73m²(基準値≧60mL/分/1.73m²)と腎機能障害が認められる。1週間後の検査では、BUN 22mg/dL、Cr 0.9mg/dL、eGFR 56mL/分/1.73m²と改善傾向にあるが、依然として基準値を外れており、腎機能障害が持続している状態である。これらの所見は、ループス腎炎による腎障害を反映しており、治療により改善傾向にあるものの、完全な回復には至っていないことを示している。また、尿検査結果(尿蛋白2+、尿潜血1+、尿蛋白/Cr比1.5g/gCr)からも腎炎の活動性が持続していることが確認できる。今後も腎機能の定期的な評価が必要であり、特に腎機能に影響を与える可能性のある薬剤(酸化マグネシウムなど)の使用に際しては注意が必要である。
排泄に関する課題と看護介入
A氏の排泄に関する主な課題は、①ループス腎炎による腎機能障害と蛋白尿、②ステロイド治療と活動量低下に伴う便秘、③関節痛による排泄行為の困難さである。
これらの課題に対する看護介入として、以下が重要である。①腎機能障害と蛋白尿に対しては、水分・電解質バランスの定期的な評価、尿量・尿性状の観察、腎機能検査値(BUN、Cr、eGFR)のモニタリング、尿検査(尿蛋白、尿潜血、尿沈渣)の定期的な評価を行う。また、食事内容(特に蛋白質、塩分摂取量)の調整と適切な水分摂取の指導も重要である。②便秘に対しては、現在使用中の下剤(酸化マグネシウム)の効果評価、食物繊維摂取の促進、適切な水分摂取の励行、可能な範囲での身体活動の増加を図る。特に、腎機能障害があるため、下剤の種類や用量には注意が必要である。③排泄行為の困難さに対しては、関節痛を考慮した排泄環境の整備(ポータブルトイレの適切な配置、補高便座の使用など)、プライバシーの確保、必要に応じた介助の提供を行う。また、関節痛の緩和策(温罨法、適切な姿勢保持など)も重要である。
また、継続的に観察・確認すべき点として、排尿回数と性状の変化、尿量の変動、浮腫の有無と程度、排便回数と性状の変化、腹部症状(膨満感、不快感など)の有無、水分摂取量と排泄量のバランス、体重の変化、腎機能検査値の推移、電解質バランスの変化が挙げられる。さらに、ステロイド減量に伴う症状の変化や、退院に向けての排泄管理(特に便秘予防と腎機能保護)に関する指導も重要である。
A氏は45歳であり、加齢に伴う排泄機能の変化は顕著ではないが、ループス腎炎という基礎疾患があることから、長期的な腎機能保護の視点が重要である。特に、蛋白尿の持続は腎機能悪化の危険因子となるため、蛋白尿の改善を目指した治療の継続と、塩分制限や適切な水分管理などの生活指導が必要である。また、関節痛による活動制限が長期化した場合の排泄パターンの変化にも注意し、便秘の慢性化を防ぐための支援も重要である。
ADLの状況、運動機能、運動歴、安静度、移動/移乗方法
A氏は入院前、自立して歩行や日常生活動作を行っていたが、発症前1週間は関節痛により動作が緩慢になっていた。入院後は全身倦怠感と関節痛のため、病棟内の移動は看護師の見守りの下で歩行している状態である。移乗は自立しているが、起き上がり動作時に両手関節の痛みを訴えることがある。排泄は自立して行えているが、トイレまでの移動に時間がかかるためポータブルトイレを使用している。入浴は現在はシャワー浴で、看護師の見守りの下で行っている。衣類の着脱は自立しているが、ボタンの操作など細かい動作が関節痛のため困難である。これらの状況から、基本的ADLは部分的に自立しているものの、関節痛による活動制限が認められる。運動歴に関する具体的な情報は得られていないが、事務員として週5日勤務していたことから、一定の身体活動は維持できていたと推測される。現在の安静度は病棟内フリーであるが、実際には関節痛と全身倦怠感により自発的な活動は制限されている。また、医師の指示によりリハビリテーションを開始し、筋力低下の予防と日常生活動作の改善を図る方針となっている。
バイタルサイン、呼吸機能、職業、住居環境
来院時のバイタルサインは、体温38.7℃、脈拍110回/分、血圧142/88mmHg、呼吸数24回/分とバイタルサインの異常を認めた。SpO2は96%(室内気)であり、呼吸状態は安定していた。現在は、体温36.8℃、脈拍78回/分、血圧128/76mmHg、呼吸数16回/分、SpO2 98%(室内気)とバイタルサインは安定している。呼吸機能に関する詳細な情報は得られていないが、SLE患者では間質性肺炎などの肺合併症を生じることがあるため、呼吸状態の継続的な観察が必要である。職業は事務員として週5日勤務しており、几帳面で責任感が強い性格である。「今回も関節痛と発熱で入院するなんて、会社に迷惑をかけてしまう」という発言から、仕事に対する強い責任感と入院による仕事への影響を心配していることがうかがえる。住居環境に関する具体的な情報は得られていないが、家族構成は夫と高校生の娘の3人暮らしであり、キーパーソンは夫である。退院後の生活環境や住居の状況(段差の有無、手すりの設置状況など)に関する情報収集が必要である。
血液データ(RBC、Hb、Ht、CRP)
入院時の血液データでは、赤血球(RBC)320万/μL(基準値380-500万/μL)、ヘモグロビン(Hb)9.8g/dL(基準値11.5-15.0g/dL)、ヘマトクリット(Ht)31.0%(基準値35.0-45.0%)と貧血が認められる。また、CRPは3.8mg/dL(基準値≦0.3mg/dL)と上昇しており、炎症反応の亢進を示している。1週間後の検査では、RBC 350万/μL、Hb 10.2g/dL、Ht 33.0%と貧血は若干改善傾向にあるが、依然として基準値を下回っている。CRPも1.2mg/dLと低下しているが、まだ基準値を上回っている状態である。これらの所見は、SLEの疾患活動性の上昇と関連しており、治療により改善傾向にあるものの、完全な回復には至っていないことを示している。貧血はSLEに伴う自己免疫性溶血性貧血や慢性疾患に伴う貧血、腎機能低下による造血障害などが原因と考えられ、これによる易疲労性や活動耐性の低下が生じている可能性がある。
転倒転落のリスク
A氏は関節痛と全身倦怠感があり、病棟内の移動は看護師の見守りの下で行っている状態である。また、貧血や入院による環境の変化、ステロイド治療に伴う筋力低下や不眠などの症状もあることから、転倒リスクは中等度~高度と評価される。しかし、これまでの転倒歴はなく、認知機能は正常で、指示の理解も良好である。また、移乗は自立しており、自身の身体状況を認識していることから、適切な支援があれば転倒予防は可能と考えられる。ステロイド治療による骨粗鬆症のリスクもあり、転倒した場合の骨折リスクも考慮する必要がある。ポータブルトイレの使用は転倒予防の一助となっているが、シャワー浴時には特に注意が必要である。
活動-運動に関する課題と看護介入
A氏の活動-運動に関する主な課題は、①関節痛による活動制限と日常生活動作の困難さ、②全身倦怠感と貧血による活動耐性の低下、③ステロイド治療による筋力低下と骨粗鬆症のリスク、④転倒リスクである。
これらの課題に対する看護介入として、以下が重要である。①関節痛に対しては、疼痛の定期的な評価と緩和策(温罨法、適切な姿勢保持、必要に応じた鎮痛薬の使用など)を行う。また、関節に負担をかけない動作方法の指導や、必要に応じた自助具の活用も有用である。②活動耐性の低下に対しては、貧血の改善を目指した治療の継続と、活動と休息のバランスを考慮した生活リズムの確立を支援する。また、段階的な活動強度の増加を図り、過度の疲労を避けるよう指導する。③筋力低下と骨粗鬆症予防のために、リハビリテーションの計画的な実施と、カルシウムとビタミンD摂取の継続を確認する。④転倒予防のために、環境整備(ベッド周囲の整理整頓、適切な照明、滑り止めマットの使用など)と、移動時の見守りや介助の提供を行う。また、転倒リスクの定期的な再評価と、リスクに応じた予防策の調整も重要である。
また、継続的に観察・確認すべき点として、関節痛の変化(部位、強度、持続時間など)、日常生活動作の自立度の変化、活動耐性の変化(疲労感、息切れの有無など)、バイタルサインの変動(特に活動前後の変化)、筋力や関節可動域の変化、転倒リスク因子の変化(めまい、ふらつき、視力低下など)が挙げられる。さらに、退院に向けての自宅環境の評価と調整(手すりの設置、段差の解消など)や、職場復帰に向けての活動計画の立案も重要である。特に、A氏は「娘の高校卒業式には元気になっていたい」という希望を持っていることから、この目標を考慮した活動計画を立てることで、リハビリテーションへの意欲を高めることが期待できる。
A氏は45歳であり、加齢に伴う身体機能の低下は顕著ではないが、SLEという慢性疾患を抱えていることから、長期的な疾患管理と身体機能維持の視点が重要である。特に、ステロイド治療による骨密度低下や筋力低下のリスクは、長期的な身体機能に影響を与える可能性があるため、早期からの予防的介入が必要である。また、関節症状はSLEの主要症状の一つであり、再燃時には同様の症状が出現する可能性があることから、症状の自己管理能力を高め、早期の対処ができるよう支援することも重要である。
睡眠時間、熟眠感、睡眠導入剤使用の有無
A氏は入院前、22時~6時まで8時間程度の睡眠をとっていたが、関節痛や発熱により睡眠の質が低下していた。通常は眠剤の常用はなかった。入院後はステロイド治療の影響で不眠があり、就寝前にゾルピデム5mgを内服している。現在は薬の効果もあり、入眠は良好だが、早朝に覚醒することがある。この早朝覚醒はステロイド大量療法による副作用の一つと考えられ、特に朝一回の投与法では夜間から早朝にかけてのステロイドの血中濃度低下に伴い、副腎皮質ホルモンの日内変動が影響している可能性がある。また、入院環境への適応や疾患に対する不安、関節痛の持続なども睡眠に影響を与えている可能性が考えられる。ゾルピデムは短時間作用型の非ベンゾジアゼピン系睡眠薬であり、入眠困難には効果的であるが、中途覚醒や早朝覚醒には十分な効果が得られないこともある。また、長期使用による依存性の問題や、高齢者では転倒リスクを高める可能性があることから、使用期間や用量について定期的な評価が必要である。A氏の熟眠感についての具体的な情報は得られていないため、主観的な睡眠の質や日中の疲労感との関連について評価する必要がある。
日中/休日の過ごし方
A氏の日中や休日の過ごし方に関する具体的な情報は得られていない。入院前は事務員として週5日勤務しており、几帳面で責任感が強い性格であることから、仕事に対する意識が高いことがうかがえる。「今回も関節痛と発熱で入院するなんて、会社に迷惑をかけてしまう」という発言からも、仕事への責任感が強いことが推測される。休日の過ごし方や趣味、リラクゼーション方法などについての情報収集が必要である。入院中の日中の過ごし方については、全身倦怠感と関節痛のため、活動量が制限されている状況である。リハビリテーションが開始される予定であるが、現在の日中の活動内容や休息パターン、気分転換の方法などについても評価が必要である。また、夫は頻繁に面会に訪れており、娘とはLINE通話で毎日連絡を取っているという情報から、家族とのコミュニケーションが日中の精神的な支えになっていると考えられる。特に「娘の高校卒業式には元気になっていたい」という希望を持っていることから、この目標が精神的な励みになっている可能性がある。
睡眠-休息に関する課題と看護介入
A氏の睡眠-休息に関する主な課題は、①ステロイド治療による不眠と早朝覚醒、②関節痛による睡眠の質の低下、③入院環境による生活リズムの変化、④日中の活動量低下と休息のバランスである。
これらの課題に対する看護介入として、以下が重要である。①ステロイド治療による不眠と早朝覚醒に対しては、ステロイドの投与時間の調整(医師と相談)、睡眠薬の効果と副作用の評価、睡眠環境の整備(適切な室温、湿度、照明の調整)を行う。特に高用量ステロイド治療では精神症状(不眠、興奮、抑うつなど)が出現することがあるため、これらの症状の有無も定期的に評価する。②関節痛による睡眠の質低下に対しては、就寝前の関節痛の評価と緩和策(温罨法、適切な体位の工夫、必要に応じた鎮痛薬の使用)を行う。また、筋緊張を緩和するリラクゼーション技法の指導も有用である。③入院環境による生活リズムの変化に対しては、可能な限り入院前の生活リズムに近づけるための支援と、入眠儀式(就寝前の決まった行動パターン)の確立を促す。④日中の活動量低下と休息のバランスに対しては、段階的な活動量の増加と適切な休息時間の確保、日中の気分転換活動(読書、テレビ視聴、家族との交流など)の提案を行う。
また、継続的に観察・確認すべき点として、睡眠パターンの変化(入眠時間、睡眠時間、中途覚醒や早朝覚醒の頻度)、睡眠薬の効果と副作用の有無、日中の眠気や疲労感の程度、関節痛の変化と睡眠への影響、日中の活動内容と活動耐性の変化、ステロイド減量に伴う睡眠状態の変化が挙げられる。さらに、退院に向けての睡眠管理(睡眠薬の適正使用、非薬物的な睡眠改善策)に関する指導も重要である。
A氏は45歳であり、加齢に伴う睡眠構造の変化(深睡眠の減少、中途覚醒の増加など)は顕著ではないと考えられるが、SLEという慢性疾患と、その治療に伴う症状が睡眠に影響を与えている。特に、ステロイド治療の長期化や漸減過程での睡眠障害の変化に注意が必要である。また、不眠の慢性化は疾患の管理にも悪影響を及ぼす可能性があるため、早期からの適切な介入が重要である。睡眠は疲労回復や免疫機能の維持に重要な役割を果たすことから、SLEの疾患管理においても良質な睡眠の確保は治療効果を高める上で重要な要素である。
意識レベル、認知機能
A氏の意識レベルは清明であり、認知機能は正常で日常生活に支障はないと記載されている。入院前は事務員として週5日勤務しており、几帳面で責任感が強い性格である。これらのことから、意識障害や認知機能低下は認められず、コミュニケーションや意思決定能力は保たれていると考えられる。しかし、全身性エリテマトーデス(SLE)の増悪時には中枢神経症状を呈することがあり、ループス脳症と呼ばれる病態では意識障害や精神症状、けいれん発作などが生じることがある。また、高用量ステロイド治療では精神症状(興奮、不安、抑うつ、精神病症状など)が副作用として出現することがあるため、認知機能や精神状態の変化に注意して観察する必要がある。現在のA氏はステロイドパルス療法後であり、プレドニゾロン60mg/日と高用量のステロイドを内服中であることから、ステロイド精神病のリスクがあり、気分の変動や思考の混乱、不眠などの症状が出現する可能性がある。
聴力、視力
A氏の聴力は正常である。視力は軽度の近視で普段は眼鏡を使用している。コミュニケーションは良好で意思疎通に問題はないことから、聴覚や視覚による情報処理能力は保たれていると考えられる。しかし、SLE患者では様々な眼合併症(乾性角結膜炎、上強膜炎、網膜血管炎など)を生じることがあり、視力低下や眼痛、羞明などの症状が出現する可能性がある。特にヒドロキシクロロキンを長期服用している患者では網膜症のリスクがあるため、定期的な眼科検査が推奨される。A氏はヒドロキシクロロキン200mg/日を内服中であり、今後も継続予定であることから、視力や視野の変化などに注意する必要がある。また、SLEでは中枢神経系の血管炎により、視神経炎や視神経症などの合併症を生じることもあり、突然の視力低下や視野欠損などの症状が出現した場合には、速やかに対応する必要がある。
認知機能
A氏の認知機能は正常で日常生活に支障はないと記載されている。コミュニケーションは良好で意思疎通に問題はなく、疾患や治療に対する理解もあると考えられる。A氏は「今回も関節痛と発熱で入院するなんて、会社に迷惑をかけてしまう」「ステロイドを増やすと太ったり顔が丸くなったりするから嫌だけど、早く良くなるためには仕方ないのかな」という発言から、自己の状況を適切に認識し、治療の必要性と副作用のバランスについても考慮していることがわかる。また、「娘の高校卒業式には元気になっていたい」という希望を持っており、将来の見通しや目標設定も行えていると考えられる。しかし、SLEの中枢神経系合併症やステロイド治療の副作用により、認知機能の変化が生じる可能性があるため、思考過程や判断力、記憶力などの変化に注意する必要がある。また、長期的な疾患管理においては、治療の複雑さや生活調整の必要性から、セルフケア能力やヘルスリテラシーが重要となるため、これらの側面についても評価が必要である。
不安の有無、表情
A氏は「これまでの増悪時よりも症状が重いので不安」と話しており、疾患の重症化に対する不安を抱えていることが明らかである。また、「今後の生活や仕事への影響について具体的な見通しを持ちたい」と考えており、将来に対する不確実性も不安要素となっている。表情に関する具体的な記載はないが、関節痛や全身倦怠感が持続していることから、苦痛や疲労が表情に表れている可能性がある。また、ステロイド治療による外見の変化(満月様顔貌、座瘡など)に対する懸念も表明しており、これらの変化が自己イメージや心理状態に影響を与える可能性がある。SLEは増悪と寛解を繰り返す慢性疾患であり、これまでにも数回の増悪を経験していることから、疾患の長期的な経過に対する心理的適応のプロセスにあると考えられる。夫は「仕事のことは心配せず、今は治療に専念してほしい」と言い、頻繁に面会に訪れていること、娘も母親の病状を心配しており、LINE通話で毎日連絡を取っていることから、家族からの情緒的サポートは得られていると評価される。しかし、夫からは「病気のことをもっと詳しく知りたい」との希望があることから、家族全体としての疾患理解や対処能力を高めるための支援も必要である。
認知-知覚に関する課題と看護介入
A氏の認知-知覚に関する主な課題は、①疾患の重症化と将来への不安、②ステロイド大量療法に伴う精神症状のリスク、③SLEの中枢神経系および視覚系合併症のリスク、④疾患の長期管理に必要な知識とセルフケア能力の向上である。
これらの課題に対する看護介入として、以下が重要である。①不安に対しては、傾聴と共感的理解を基盤とした心理的サポートの提供、疾患や治療に関する適切な情報提供、不安の程度や対処方法の定期的な評価を行う。特に「娘の高校卒業式には元気になっていたい」という希望を支持し、現実的な目標設定と段階的な回復過程の理解を促す。②ステロイド関連の精神症状に対しては、気分の変動、思考過程の変化、睡眠パターンの変化などの早期徴候の観察と評価、症状出現時の適切な対応(環境調整、医師との連携など)を行う。③中枢神経系および視覚系合併症に対しては、神経症状(頭痛、めまい、知覚異常など)や視覚症状(視力低下、視野異常、眼痛など)の定期的な評価、異常所見時の速やかな報告と対応を行う。④知識とセルフケア能力の向上に対しては、A氏と家族への疾患教育(病態、治療目標、症状管理、生活調整など)、セルフモニタリングの方法指導(症状の自己観察、治療効果と副作用の評価など)、利用可能な社会資源の情報提供を行う。
また、継続的に観察・確認すべき点として、認知機能の変化(見当識、記憶力、判断力など)、精神状態の変化(気分の変動、不安の程度、睡眠状態など)、神経症状の有無(頭痛、めまい、知覚異常など)、視覚症状の変化(視力、視野、眼痛、羞明など)、ステロイド減量に伴う症状や心理状態の変化が挙げられる。さらに、退院に向けての準備として、疾患管理に必要な知識とスキルの獲得状況、家族の理解と支援体制の評価、職場復帰に向けての心理的準備状況などの評価も重要である。
A氏は45歳であり、加齢に伴う認知機能や感覚機能の変化は顕著ではないと考えられるが、SLEという慢性疾患を抱え、その治療に伴う様々な身体的・心理的負担があることから、総合的な心理社会的支援が重要である。特に、慢性疾患の管理においては、疾患と共に生きるためのレジリエンス(回復力)の強化や、疾患体験の意味づけを支援することで、心理的適応を促進することが期待される。
性格
A氏は45歳の女性で、事務員として週5日勤務しており、几帳面で責任感が強い性格である。「今回も関節痛と発熱で入院するなんて、会社に迷惑をかけてしまう」という発言からは、仕事に対する強い責任感と周囲への配慮が表れている。また、「娘の高校卒業式には元気になっていたい」という希望を持っていることから、家族に対する強い思いと目標志向性も有していると考えられる。几帳面さは職場での役割遂行だけでなく、これまでの疾患管理においても活かされてきた可能性があり、入院前は自己管理で内服できていたことからも、自己管理能力の高さがうかがえる。一方で、このような几帳面さや責任感の強さは、完璧主義的な傾向や自分自身への厳しさにつながることもあり、疾患の増悪時には自責感や無力感を抱きやすい可能性もある。慢性疾患を抱える状況では、このような性格特性が自己管理に有利に働く一方で、心理的負担を増大させる要因ともなり得るため、バランスのとれた疾患への向き合い方を支援する必要がある。
ボディイメージ
A氏は「ステロイドを増やすと太ったり顔が丸くなったりするから嫌だけど、早く良くなるためには仕方ないのかな」と語っており、ステロイド治療による外見の変化に対する懸念を示している。現在、プレドニゾロン60mg/日と高用量のステロイドを内服中であり、今後4週間かけて漸減していく予定である。このような高用量ステロイドの長期使用では、満月様顔貌、中心性肥満、ざ瘡、多毛、皮膚線条などの身体的変化が生じる可能性があり、これらの変化は自己イメージや自尊心に大きな影響を与えることがある。また、SLEの症状として頬部の紅斑が認められており、この皮膚症状も外見の変化として心理的影響を与えている可能性がある。さらに、入院に伴う活動制限や食事療法により体型や筋力の変化も生じうる。これらの身体的変化に対するA氏の認識や受け止め方についてさらに詳細な情報収集が必要であるが、すでに治療の必要性と副作用のバランスについて葛藤している状態が認められる。特に女性にとって外見の変化は自己イメージや社会的関係に大きな影響を与えることがあり、A氏の場合も仕事や家族との関係の中でこれらの変化をどのように受け止め、適応していくかが重要な課題となる。
疾患に対する認識
A氏は35歳時に全身性エリテマトーデス(SLE)と診断され、38歳時にループス腎炎を発症している。これまでに数回の増悪と寛解を繰り返しており、現在の入院はSLEとループス腎炎の増悪によるものである。「これまでの増悪時よりも症状が重いので不安」「今後の生活や仕事への影響について具体的な見通しを持ちたい」という発言からは、疾患の重症化に対する認識と将来への不確実性に対する不安が表れている。SLEは増悪と寛解を繰り返す慢性疾患であり、A氏はこれまでの経験から疾患の性質をある程度理解していると考えられるが、今回の増悪が過去の経験よりも重症であると感じていることが、不安を増強させている要因となっている。また、ループス腎炎の合併は予後に影響を与える重要な因子であり、腎機能の低下に対する懸念も抱えている可能性がある。一方で、「早く良くなるためには仕方ないのかな」という表現からは、治療の必要性を理解し、受け入れようとする姿勢も見られる。疾患の慢性的な経過に対する理解と、増悪時の適切な対処法についての知識は、今後の疾患管理において重要な要素となる。特に、SLEの増悪因子(過労、ストレス、紫外線曝露など)や初期症状の認識、早期受診の重要性についての理解を深めることが、自己管理能力の向上につながると考えられる。
自尊感情
A氏の自尊感情に関する直接的な情報は限られているが、「会社に迷惑をかけてしまう」という発言からは、職業的役割の遂行が自己価値感の重要な源泉となっている可能性が考えられる。事務員として週5日勤務しており、仕事に対する責任感が強いことから、職場での役割や貢献が自己同一性の重要な部分を占めていると推測される。しかし、慢性疾患による活動制限や入院は、このような職業的役割の一時的な喪失をもたらし、自己価値感の低下につながる可能性がある。また、「娘の高校卒業式には元気になっていたい」という希望は、母親としての役割や家族内での存在意義が自尊感情を支える重要な要素であることを示唆している。SLEのような慢性疾患を抱えることは、身体的制限だけでなく、社会的役割の遂行や対人関係にも影響を与え、これらの変化が自尊感情に影響を及ぼすことがある。特に、外見の変化や活動制限が顕著な増悪期には、自己価値感の低下や無力感を経験しやすい。A氏の場合、職場や家族における役割の重要性と、疾患による制限のバランスをどのように取り、意味のある生活を維持していくかが重要な課題となる。自尊感情の維持・向上のためには、疾患があっても発揮できる能力や役割に焦点を当て、達成可能な目標設定を支援することが効果的である。
育った文化や周囲の期待
A氏の育った文化的背景や価値観に関する具体的な情報は得られていないため、これらの側面についての情報収集が必要である。家族構成は夫と高校生の娘の3人暮らしで、キーパーソンは夫である。夫は「仕事のことは心配せず、今は治療に専念してほしい」と言い、頻繁に面会に訪れていることから、家族からの理解とサポートが得られていると考えられる。また、娘も母親の病状を心配しており、LINE通話で毎日連絡を取っていることから、家族関係は良好であると推測される。一方、夫からは「病気のことをもっと詳しく知りたい」との希望があり、家族全体での疾患理解を深める必要性も認められる。職場環境や同僚との関係性、職場からの期待などについての情報は限られているが、A氏の「会社に迷惑をかけてしまう」という発言から、職場での責任を重く受け止めていることがうかがえる。日本の職場文化では、欠勤や病気休暇に対して罪悪感を抱きやすい傾向があり、特に几帳面で責任感の強いA氏の場合、このような文化的背景が心理的負担を増強している可能性がある。また、女性としての役割期待(家庭内役割など)と職業人としての役割期待のバランスをどのように取っているかも、自己認識や疾患管理に影響を与える要因として重要である。
自己知覚-自己概念に関する課題と看護介入
A氏の自己知覚-自己概念に関する主な課題は、①疾患の重症化と不確実な将来に対する不安、②ステロイド治療による外見の変化と自己イメージへの影響、③職業的役割の一時的喪失と自己価値感への影響、④疾患と共に生きるための自己概念の再構築である。
これらの課題に対する看護介入として、以下が重要である。①不安に対しては、傾聴と共感的理解を基盤とした心理的サポートの提供、疾患や治療の見通しに関する正確な情報提供、不確実性に対処するためのコーピングスキルの強化を行う。特に「娘の高校卒業式には元気になっていたい」という希望を支持し、現実的な目標設定と段階的な回復過程の理解を促す。②外見の変化に対しては、予想される変化とその一時性に関する説明、ボディイメージの変化に対する感情表出の促進、外見の変化に対処するための具体的な方法(髪型、服装、メイクなど)の提案を行う。③役割の変化に対しては、一時的な役割変更の必要性の理解促進、代替的な役割や活動の模索、家族や職場との調整支援を行う。④自己概念の再構築に対しては、疾患体験の意味づけを支援し、困難の中での成長や強みの発見を促進する。また、同様の疾患を持つ患者との交流機会の情報提供や、必要に応じて心理的支援(カウンセリングなど)へのアクセスを支援する。
また、継続的に観察・確認すべき点として、心理状態の変化(不安、抑うつ、怒りなどの感情反応)、ボディイメージの変化に対する認識と受容度、社会的役割(職場、家庭内)への復帰に関する考えや希望、ステロイド減量に伴う身体状態と心理状態の変化、家族との関係性や支援体制の変化が挙げられる。さらに、退院に向けての準備として、疾患と共に生きるための心理的準備状況、自己管理能力と自信の程度、利用可能なサポート資源(医療機関、患者会、地域資源など)の認識と活用意向についての評価も重要である。
A氏は45歳であり、加齢に伴う自己概念の変化よりも、慢性疾患という健康状態の変化が自己認識に大きな影響を与えていると考えられる。SLEは若年女性に多い疾患であり、A氏の場合も35歳で発症している。このような慢性疾患の中年期以降の経過においては、長期的な疾患管理と生活の質の維持のバランスが重要となる。特に、職業生活と家庭生活の両立、身体的変化への適応、将来への不確実性との共存などの課題に対して、レジリエンス(回復力)を高め、意味のある生活を維持できるよう支援することが重要である。
職業、社会役割
A氏は45歳の女性で、事務員として週5日勤務している。几帳面で責任感が強い性格であることから、職場での役割に対する責任感と使命感が強いことがうかがえる。「今回も関節痛と発熱で入院するなんて、会社に迷惑をかけてしまう」という発言からは、仕事への影響を気にしており、職業的役割が自己アイデンティティの重要な要素となっていることが推察される。全身性エリテマトーデス(SLE)と診断されてから10年が経過しており、これまでにも数回の増悪と寛解を繰り返している中で、仕事を継続してきたことは、A氏の強い意志と周囲のサポートがあったことを示唆している。しかし、今回の増悪は「これまでの増悪時よりも症状が重い」と認識しており、復職への不安や、復職後の業務遂行能力についての懸念を抱えている可能性がある。また、「今後の生活や仕事への影響について具体的な見通しを持ちたい」という希望からは、職業生活の継続に対する強い意志と不安が同時に存在していることがわかる。SLEは増悪と寛解を繰り返す慢性疾患であり、今後も疾患管理と職業生活の両立が継続的な課題となることが予想される。特に、ステロイド治療による副作用(外見の変化、気分の変動など)や、紫外線対策の必要性が職場環境でどのように対応可能かについても考慮する必要がある。
社会的役割としては、家族内では妻および母親としての役割を担っており、「娘の高校卒業式には元気になっていたい」という希望からは、母親としての役割遂行への強い思いが表れている。また、対人関係についての詳細な情報は限られているが、職場での人間関係や地域社会での役割、趣味活動や社会参加の状況などについての情報収集が必要である。特に、慢性疾患を抱えながら社会生活を送る上での支援ネットワークの有無や、ソーシャルサポートの質と量を評価することが重要である。
家族の面会状況、キーパーソン
A氏の家族構成は夫と高校生の娘の3人暮らしであり、キーパーソンは夫である。夫は「仕事のことは心配せず、今は治療に専念してほしい」と言い、頻繁に面会に訪れていることから、家族からの情緒的サポートが得られていると評価できる。また、娘は母親の病状を心配しており、LINE通話で毎日連絡を取っていることから、家族関係は良好であると推測される。このような家族からの支持的な関わりは、A氏の心理的安定と治療への前向きな取り組みを促進する重要な要素となっている。特に、慢性疾患の管理においては家族の理解とサポートが治療アドヒアランスや疾患の自己管理に大きく影響することが知られており、A氏の場合もこれらの家族サポートが疾患管理の基盤となっていると考えられる。
一方で、夫からは「病気のことをもっと詳しく知りたい」との希望があり、医療スタッフによる疾患教育の機会を持つことが計画されている。このことは、家族の疾患理解を深め、より効果的なサポート提供につながる可能性がある。特に、SLEのような複雑な自己免疫疾患では、症状の多様性や増悪因子、治療の目的と副作用などについての理解が重要であり、家族全体での疾患理解と対処能力の向上が長期的な疾患管理に貢献すると考えられる。また、娘は高校生であることから、母親の病気に対する理解や心理的影響、家庭内での役割変化などについても配慮が必要である。思春期の子どもにとって親の慢性疾患は心理的負担となることがあり、適切な情報提供と心理的サポートが重要である。
経済状況
A氏の経済状況に関する具体的な情報は得られていないため、この側面についての情報収集が必要である。A氏は事務員として週5日勤務しており、夫も就労していると推測されるが、具体的な収入状況や経済的負担、医療費の負担能力などについては不明である。SLEのような慢性疾患の場合、長期的な治療継続や定期的な通院、検査などによる医療費の負担が生じるため、経済的側面は治療継続や生活の質に大きく影響する要因となる。特に、今回の入院期間は約4週間を予定しており、その間の休業に伴う収入減少や、追加的な医療費負担が生じる可能性がある。また、退院後も継続的な通院や薬物療法が必要となることから、長期的な経済計画についても考慮する必要がある。
SLEは難病指定疾患であり、医療費助成制度の利用が可能であるが、A氏がこの制度を利用しているかどうかについても確認が必要である。また、高額療養費制度や傷病手当金などの社会保障制度の利用状況や、民間医療保険の加入状況についても情報収集が重要である。これらの制度を適切に活用することで、経済的負担を軽減し、治療の継続性を高めることが可能となる。さらに、職場復帰に向けての準備や、必要に応じた勤務調整(時短勤務、業務内容の調整など)についても、経済的側面を考慮した計画が必要である。
役割-関係に関する課題と看護介入
A氏の役割-関係に関する主な課題は、①職業生活と疾患管理の両立、②家族内役割の一時的変化への適応、③家族の疾患理解とサポート能力の向上、④経済的側面を含めた長期的な生活設計である。
これらの課題に対する看護介入として、以下が重要である。①職業生活と疾患管理の両立に対しては、疾患の見通しと職場復帰に向けての具体的な計画の提示、職場環境での疾患管理(服薬、症状モニタリング、紫外線対策など)に関する指導、必要に応じた産業医や産業看護職との連携支援を行う。また、障害者雇用制度や就労支援サービスなどの情報提供も有用である。②家族内役割の変化に対しては、入院中および回復期における役割調整の必要性の説明、家族間でのコミュニケーション促進、必要に応じた家事支援サービスなどの社会資源の情報提供を行う。③家族の疾患理解とサポート能力の向上に対しては、夫や娘への疾患教育(病態、治療目標、日常生活での注意点など)、家族としての対処法や支援方法の具体的な指導、家族自身のセルフケアの重要性の説明を行う。④経済的側面に対しては、医療費助成制度や社会保障制度に関する情報提供と申請支援、長期的な経済計画のための医療ソーシャルワーカーとの連携、必要に応じた経済的支援制度の紹介を行う。
また、継続的に観察・確認すべき点として、A氏の役割認識や役割変化に対する思いの変化、夫や娘との関係性の変化、家族のサポート状況の変化、経済的側面に関する不安や懸念の表出、職場復帰に向けての準備状況と不安の程度が挙げられる。さらに、退院に向けての準備として、家庭内役割の再調整、職場との調整(復職時期、業務内容など)、経済的支援制度の活用状況などの評価も重要である。
A氏は45歳であり、加齢による役割変化よりも、慢性疾患による役割制限や役割変化が大きな課題となっている。中年期は職業的にも家庭内でも重要な役割を担う時期であり、特に女性の場合は複数の役割(職業人、配偶者、親など)のバランスをとることが求められる。SLEのような慢性疾患を抱えながらこれらの役割を遂行していくためには、疾患管理と役割遂行のバランスを図り、必要に応じて役割の優先順位を調整する柔軟性が重要となる。また、役割期待と実際の能力とのギャップに対処するためのコーピングスキルを高め、自己効力感を維持することも重要である。長期的には、疾患と共に生きることを前提とした役割認識の再構築と、それに基づく生活設計を支援することが、QOL(生活の質)の維持・向上につながると考えられる。
年齢、家族構成、更年期症状の有無
A氏は45歳の女性で、家族構成は夫と高校生の娘の3人暮らしである。キーパーソンは夫である。更年期症状の有無に関する具体的な情報は得られていないが、45歳という年齢を考慮すると、閉経前または閉経移行期にある可能性があり、何らかの更年期症状を経験している可能性がある。一般的に日本人女性の平均閉経年齢は50~52歳頃とされているが、個人差が大きく、40代前半から後半にかけて閉経移行期に入る女性も少なくない。閉経移行期には月経周期の不規則化、月経量の変化、ホットフラッシュ、発汗、不眠、気分の変動などの症状が出現することがあるが、A氏についてはこれらの症状の有無や程度についての情報収集が必要である。
全身性エリテマトーデス(SLE)とその治療は、女性の生殖機能や性生活に様々な影響を与える可能性がある。SLEは若年女性に好発する疾患であり、A氏の場合も35歳時に診断されている。SLE自体が妊孕性に影響を与えることは少ないが、疾患活動性の高い時期には妊娠が避けられることが多い。また、治療薬の一部(シクロホスファミドなど)は卵巣機能に影響を与え、早期閉経のリスクを高める可能性があるが、A氏の治療内容からはこのような薬剤の使用は確認されていない。現在A氏は高用量のステロイド治療を受けているが、ステロイドも長期使用により性ホルモンバランスに影響を与える可能性がある。また、免疫抑制療法を受けている患者では避妊の重要性が高まるため、この点についての情報提供と評価も必要である。
SLEの増悪時には関節痛や全身倦怠感などの症状により、性生活に支障をきたす可能性がある。A氏は現在、両手関節痛が持続しており、全身倦怠感も認められることから、これらの症状が性生活に与える影響についても考慮する必要がある。また、ステロイド治療による外見の変化(満月様顔貌、座瘡、多毛など)は身体イメージの変化をもたらし、これが性的自己概念や性的関係性に影響を与えることもある。A氏は「ステロイドを増やすと太ったり顔が丸くなったりするから嫌だ」と発言しており、外見の変化に対する懸念を示していることから、このような変化が自己イメージや夫婦関係に与える影響についても敏感に観察する必要がある。
ループス腎炎を合併しているA氏では、腎機能障害と高血圧のリスクがあり、これらは妊娠時のリスク因子となる。また、SLEの増悪と寛解を繰り返す慢性的な経過は、将来的な妊娠計画やライフプランにも影響を与える可能性がある。A氏には高校生の娘がおり、すでに親としての役割を担っていることから、追加的な妊娠・出産の希望については不明であるが、今後のライフプランや家族計画についての思いを確認することも重要である。
A氏の性的指向や性的活動に関する具体的な情報は得られていないが、これらの側面は個人のプライバシーに深く関わる事項であり、信頼関係の構築とプライバシーへの配慮を基盤とした上で、必要に応じて情報収集を行うべきである。特に、SLEの疾患活動性や治療が性的機能や性的満足度に与える影響について、A氏自身が懸念や相談したい内容がある場合には、安心して話せる環境を整えることが重要である。
性-生殖に関する課題と看護介入
A氏の性-生殖に関する主な課題は、①SLEとその治療が性生活に与える影響、②更年期症状の可能性とその管理、③外見の変化が自己イメージや夫婦関係に与える影響、④免疫抑制療法中の避妊の必要性である。
これらの課題に対する看護介入として、以下が重要である。①性生活への影響に対しては、症状(特に関節痛)が性生活に与える影響についての評価と、必要に応じた対応策(体位の工夫、疼痛管理の最適化など)の提案を行う。また、夫婦間のコミュニケーションの促進と、必要に応じて性生活に関する具体的な相談に対応できる専門家(産婦人科医、性カウンセラーなど)の紹介も重要である。②更年期症状に対しては、症状の有無と程度の評価、SLEの症状との鑑別、更年期症状がある場合の対処法(生活習慣の調整、非ホルモン療法の検討など)の指導を行う。SLEを有する女性ではホルモン補充療法の適応が慎重に判断される必要があるため、産婦人科との連携も重要である。③外見の変化に対しては、予想される変化とその一時性に関する説明、外見の変化に対する感情表出の促進、夫婦間での思いの共有の支援を行う。④避妊の必要性に対しては、免疫抑制療法中の避妊の重要性の説明と、適切な避妊方法についての情報提供を行う。
また、継続的に観察・確認すべき点として、症状(特に関節痛、全身倦怠感)の変化と性生活への影響、更年期症状の出現や変化、外見の変化に対する受け止め方と夫婦関係への影響、ステロイド減量に伴う症状や身体変化、今後のライフプランや家族計画についての思いの変化が挙げられる。さらに、退院に向けての準備として、夫婦関係の維持・強化のための支援、必要に応じた性生活や避妊に関する具体的な相談への対応、今後の健康管理に関する総合的な指導も重要である。
A氏は45歳であり、加齢に伴う生殖機能の変化(閉経移行期から閉経へ)を経験する時期にある。この時期はホルモンバランスの変化により様々な身体的・心理的変化が生じ、特に女性のセクシュアリティにも影響を与えることがある。SLEという慢性疾患を抱えながらこのライフステージを経験することは、複合的な健康課題をもたらす可能性があり、包括的な支援が必要である。特に、女性の健康管理においては身体的側面だけでなく、心理的、社会的、スピリチュアルな側面を含めた全人的なアプローチが重要であり、A氏の価値観や希望を尊重した個別的な支援が求められる。
入院環境
A氏は全身性エリテマトーデス(SLE)とループス腎炎の増悪により入院している。入院期間は約4週間を予定しており、現在はステロイドパルス療法後にプレドニゾロン60mg/日を内服中である。入院環境に関する具体的な情報(病室の種類、同室者の有無、プライバシーの確保状況など)は得られていないが、入院環境は患者のストレスレベルや適応能力に大きく影響する要素である。A氏は排泄時にポータブルトイレを使用しており、入浴は看護師の見守りの下でシャワー浴を行っているなど、プライバシーが制限される状況にある。また、入院に伴う生活リズムの変化や環境音、照明などの環境要因もストレッサーとなる可能性がある。特に、ステロイド治療に伴う不眠があり、就寝前にゾルピデム5mgを内服しているが、早朝に覚醒することがあるという状況からは、睡眠環境や睡眠の質に関する課題がうかがえる。
入院環境への適応は個人の性格特性やこれまでの入院経験、現在の症状の程度、家族のサポート状況などによって影響を受ける。A氏は几帳面で責任感が強い性格であり、「今回も関節痛と発熱で入院するなんて、会社に迷惑をかけてしまう」という発言からは、入院に伴う職場への影響を心配しているようすがうかがえる。このような思いは入院環境への適応を妨げる要因となる可能性がある。一方で、夫は頻繁に面会に訪れており、娘とはLINE通話で毎日連絡を取っていることからは、家族との関係性が入院生活の支えとなっている可能性が高い。これまでにも数回の増悪と寛解を繰り返しており、過去にも入院経験があると推測されるが、「これまでの増悪時よりも症状が重いので不安」と話していることから、今回の症状の重症度が入院環境への適応をより困難にしている可能性がある。
仕事や生活でのストレス状況、ストレス発散方法
A氏は事務員として週5日勤務しており、几帳面で責任感が強い性格である。仕事に対する強い責任感を持ち、入院による仕事への影響を気にしていることから、職業生活がストレッサーとなっている可能性がある。特に、「会社に迷惑をかけてしまう」という発言からは、職場での役割や期待に応えられないことへの心理的負担がうかがえる。また、SLEという慢性疾患を抱えながらの就労継続には、症状管理と業務遂行のバランスをとる難しさがあり、これが日常的なストレス要因となっている可能性もある。
生活面では、SLEの症状(関節痛、皮膚症状など)や治療の副作用(ステロイドによる外見の変化など)が日常生活の質に影響を与え、ストレッサーとなっていることが推測される。特に、「ステロイドを増やすと太ったり顔が丸くなったりするから嫌だけど、早く良くなるためには仕方ないのかな」という発言からは、治療の必要性と副作用のバランスについての葛藤がうかがえる。また、ループス腎炎の診断後は減塩食(6g/日)を心がけているなど、疾患管理のための生活調整も日常的なストレス要因となる可能性がある。
ストレス発散方法については具体的な情報が得られていないため、A氏がどのようにストレスに対処し、リラクゼーションを図っているかについての情報収集が必要である。一般的なストレス対処法としては、趣味活動、運動、音楽鑑賞、読書、友人との交流などがあるが、A氏の場合、関節痛や全身倦怠感などの症状によって通常のストレス発散方法が制限されている可能性もある。また、飲酒は月に1~2回程度の社交的な場面で少量のワインを飲む程度であり、アルコールへの依存傾向はないと考えられる。今後、A氏の通常のストレス対処法と、入院中に可能なリラクゼーション方法についての評価と支援が重要である。
家族のサポート状況、生活の支えとなるもの
A氏の家族構成は夫と高校生の娘の3人暮らしで、キーパーソンは夫である。夫は「仕事のことは心配せず、今は治療に専念してほしい」と言い、頻繁に面会に訪れていることから、夫からの情緒的サポートが得られていると評価できる。また、娘は母親の病状を心配しており、LINE通話で毎日連絡を取っていることから、家族関係は良好であると推測される。このような家族からの支持的な関わりは、A氏の心理的安定と治療への前向きな取り組みを促進する重要な要素となっている。特に、慢性疾患の管理においては家族の理解とサポートが治療アドヒアランスや疾患の自己管理に大きく影響することが知られており、A氏の場合もこれらの家族サポートが疾患管理の基盤となっていると考えられる。
一方で、夫からは「病気のことをもっと詳しく知りたい」との希望があり、医療スタッフによる疾患教育の機会を持つことが計画されている。このことは、家族の疾患理解を深め、より効果的なサポート提供につながる可能性がある。特に、SLEのような複雑な自己免疫疾患では、症状の多様性や増悪因子、治療の目的と副作用などについての理解が重要であり、家族全体での疾患理解と対処能力の向上が長期的な疾患管理に貢献すると考えられる。
A氏にとって生活の支えとなるものについては、具体的な情報は限られているが、「娘の高校卒業式には元気になっていたい」という発言からは、家族との関係性や将来の目標が精神的な支えとなっていることがうかがえる。このような具体的な目標設定は、治療への意欲を高め、回復過程での精神的支えとなる重要な要素である。また、職業生活や社会的役割も自己アイデンティティの一部として重要であり、これらの役割遂行への復帰を見据えた支援も重要となる。さらに、信仰や価値観、人生観なども精神的な支えとなりうるが、A氏の場合、宗教的な信仰は特になく、信仰による治療上の制限はないとされている。A氏にとっての生きがいや価値観、人生における重要な要素についての理解を深めることで、より効果的な精神的サポートが可能になると考えられる。
コーピング-ストレス耐性に関する課題と看護介入
A氏のコーピング-ストレス耐性に関する主な課題は、①SLEの増悪とそれに伴う不安やストレス、②入院環境への適応と心理的安定の確保、③職業生活と疾患管理の両立に関する懸念、④家族の疾患理解とサポート能力の向上である。
これらの課題に対する看護介入として、以下が重要である。①疾患関連のストレスに対しては、A氏の疾患理解度の確認と必要に応じた補足説明、症状管理(特に関節痛や倦怠感)の最適化、治療の見通しと効果に関する情報提供を行う。特に、「これまでの増悪時よりも症状が重いので不安」という思いに対しては、現在の治療効果と今後の見通しについての具体的な説明が安心感につながる。②入院環境への適応に対しては、プライバシーの確保と快適な環境調整、睡眠環境の最適化、入院中のストレス軽減策(リラクゼーション技法、気分転換活動など)の提案を行う。③職業生活への懸念に対しては、復職に向けての具体的な計画と支援、必要に応じた職場との調整支援、疾患管理と職業生活の両立に関する助言を行う。④家族支援に対しては、夫や娘への疾患教育と支援方法の指導、家族との交流機会の確保、家族自身のストレス管理の重要性の説明を行う。
また、継続的に観察・確認すべき点として、ストレスレベルとその変化(言動、表情、睡眠状態などからの評価)、対処行動のパターンと効果、心理状態の変化(不安、抑うつ、怒りなど)、家族関係の変化と支援状況、ステロイド減量に伴う心理的変化(ステロイド精神症状の可能性を含む)が挙げられる。さらに、退院に向けての準備として、自宅環境でのストレス管理計画、再発予防のためのストレス軽減策、社会資源(患者会、相談窓口など)の情報提供も重要である。
A氏は45歳であり、加齢によるストレス対処能力の変化は顕著ではないと考えられるが、慢性疾患を抱えながらの中年期という発達段階特有の課題(仕事と家庭のバランス、親役割と自己実現など)に対処することが求められている。特に、SLEという慢性疾患を抱えながらこれらの発達課題に取り組むことは複雑な心理社会的課題をもたらす可能性があり、包括的な支援が必要である。長期的には、疾患と共に生きる中でのレジリエンス(回復力)の強化と、疾患体験を通じた人生の意味づけや価値観の再構築を支援することが、心理的適応と生活の質の向上につながると考えられる。
信仰、意思決定を決める価値観/信念、目標
A氏の信仰に関しては、「宗教的な信仰は特になく、信仰による治療上の制限はない」と記載されている。特定の宗教的価値観に基づく治療選択や生活習慣の制限はないと考えられるが、宗教的信仰がなくとも、個人の人生観や価値観は意思決定に大きな影響を与える。A氏の場合、いくつかの発言や行動から、その価値観や信念について推察することができる。
まず、A氏は「今回も関節痛と発熱で入院するなんて、会社に迷惑をかけてしまう」と発言しており、職業上の責任感と他者への配慮を重視する価値観が表れている。几帳面で責任感が強い性格であることからも、仕事に対する真摯な姿勢や職業的役割の遂行が自己価値の重要な源泉となっていることがうかがえる。また、「ステロイドを増やすと太ったり顔が丸くなったりするから嫌だけど、早く良くなるためには仕方ないのかな」という発言からは、外見の変化に対する懸念と同時に、健康回復のためには一定の犠牲を受け入れる現実的な判断力も持ち合わせていることがわかる。これは、健康価値と他の価値(例:外見的魅力)とのバランスを取ろうとする姿勢の表れと考えられる。
さらに、「娘の高校卒業式には元気になっていたい」という希望からは、家族との関係性や母親としての役割を重視する価値観が読み取れる。この発言は、A氏の回復に向けた具体的な目標として機能しており、治療への意欲を高める要素となっている。家族関係がA氏の生活の中心的価値となっていることが推測され、夫が頻繁に面会に訪れ、娘とはLINE通話で毎日連絡を取っていることからも、家族間の絆の強さがうかがえる。
意思決定に影響を与える価値観としては、A氏が35歳でSLEと診断されて以降、定期的に通院し治療を継続してきたことから、健康管理と医学的助言を尊重する姿勢が認められる。また、ループス腎炎の診断後は減塩食(6g/日)を心がけていたという情報からは、疾患管理のための生活調整にも積極的に取り組む姿勢が見られる。これらは、健康に対する責任感と自己管理能力の高さを示している。一方で、「これまでの増悪時よりも症状が重いので不安」「今後の生活や仕事への影響について具体的な見通しを持ちたい」という発言からは、将来に対する不確実性への不安と、計画性を重視する価値観が表れている。
A氏の目標については、短期的には現在の急性増悪からの回復が最優先であり、中期的には「娘の高校卒業式には元気になっていたい」という具体的な目標がある。長期的な目標や人生計画についての具体的な情報は得られていないが、職業生活の継続や家族関係の維持、健康管理と生活の質のバランスなどが重要な要素となる可能性がある。特に、SLEという慢性疾患を抱えながらの人生設計においては、疾患管理と個人的な目標達成のバランスをどのように取るかが重要な課題となる。A氏が45歳という年齢であることを考慮すると、今後のキャリア展望や家族のライフサイクルの変化(娘の自立など)、自身の健康状態の変化などを含めた人生の再構築が必要となる時期にある可能性がある。
A氏の価値観や信念に影響を与える可能性のある文化的背景や社会的文脈については具体的な情報が限られているため、これらの側面についての情報収集が必要である。特に、日本社会における慢性疾患患者の役割期待や、女性としての役割期待、職場環境における価値観などが、A氏の意思決定や目標設定に影響を与えている可能性がある。また、A氏自身がどのような人生の意味や目的を見出しているのか、何を生きがいとしているのかについての理解を深めることも重要である。
価値-信念に関する課題と看護介入
A氏の価値-信念に関する主な課題は、①慢性疾患と共に生きることの意味づけ、②職業的役割と健康管理のバランス、③家族関係の中での自己実現、④将来の不確実性への対処である。
これらの課題に対する看護介入として、以下が重要である。①疾患の意味づけに対しては、A氏の疾患体験や価値観についての対話の促進、疾患と共に生きることの意味を再構築するプロセスの支援、同様の疾患を持つ患者の体験談などの情報提供を行う。②職業と健康のバランスに対しては、A氏の仕事に対する価値観の尊重と、健康管理のための現実的な調整の提案、職場環境での疾患管理に関する具体的な戦略の検討を行う。③家族関係に対しては、家族としての役割と自己ケアのバランスについての対話の促進、家族との関係性を維持・強化するための支援、家族全体での疾患理解と対処法の向上を図る。④将来の不確実性に対しては、現実的な見通しと具体的な計画の提示、不確実性に対処するためのコーピングスキルの強化、将来の選択肢に関する情報提供と意思決定支援を行う。
また、継続的に観察・確認すべき点として、疾患体験の受け止め方や意味づけの変化、健康に関する価値観と他の価値観(職業、家族など)とのバランスの取り方、将来の目標や計画についての考えの変化、ステロイド減量に伴う症状や心理状態の変化に対する受け止め方などが挙げられる。さらに、退院に向けての準備として、疾患と共に生きるための現実的な生活計画の立案、再発予防と健康増進のための価値観に基づいた目標設定、利用可能な社会資源と患者自身の価値観の整合性の確認などの支援も重要である。
A氏は45歳であり、中年期という発達段階にある。この時期は自己の人生を振り返り、残された時間の中で何を大切にするかを再考する時期とされている。慢性疾患の診断と共に生きることは、このような生涯発達の文脈の中で理解する必要がある。特に、SLEが若年成人期に発症し、その後の人生計画や価値観形成に影響を与えてきた可能性を考慮することが重要である。また、中年期は次世代を育成する時期であり、A氏の場合も高校生の娘の成長と自立という発達課題に直面している。このような発達的文脈の中で、疾患体験をどのように意味づけ、価値あるものとして統合していくかが、心理的適応と生活の質の向上につながると考えられる。慢性疾患を抱えながらの人生を「制限されたもの」ではなく、「意味のある選択と可能性に満ちたもの」として再構築することを支援する姿勢が求められる。
看護計画
看護問題
SLEの増悪に関連した関節痛と活動耐性の低下
長期目標
退院までに日常生活動作が自立し、関節痛の自己管理ができるようになる。
短期目標
1週間以内に関節痛がNRS(数値評価スケール)で3以下に軽減し、病棟内を見守りなしで歩行できるようになる。
≪O-P≫観察計画
・関節痛の部位、性状、強度(NRSで評価)、持続時間を観察する
・日常生活動作(食事、排泄、更衣、整容、入浴)の自立度を評価する
・関節の腫脹、熱感、発赤、可動域制限の有無を観察する
・疼痛に対する非薬物的介入(温罨法、体位変換など)の効果を評価する
・睡眠状態(入眠、中途覚醒、早朝覚醒の有無)と疼痛との関連を観察する
・疼痛に伴う表情や行動の変化を観察する
・活動後の疲労度と回復に要する時間を評価する
・リハビリテーションへの参加状況と効果を観察する
・気分や意欲への影響を評価する
・歩行状態(安定性、速度、歩容)を観察する
≪T-P≫援助計画
・関節痛が増強する動作を避け、関節に負担をかけない動作方法を支援する
・適切な姿勢保持と体位変換を支援する
・温罨法を1日3回(朝・昼・夕)実施し、関節痛の緩和を図る
・疼痛増強時は医師に報告し、適切な鎮痛薬の使用を支援する
・必要に応じて日常生活動作を援助し、過度の疲労を防止する
・活動と休息のバランスを考慮したスケジュールを調整する
・リハビリテーション担当者と連携し、筋力維持・関節可動域訓練を支援する
・移動時は安全を確保し、必要に応じて歩行介助を行う
・入浴時はシャワーチェアを使用し、安全で疲労の少ない方法を支援する
・関節に負担をかけない環境調整(ベッドの高さ、ポータブルトイレの位置など)を行う
≪E-P≫教育・指導計画
・関節痛の原因とSLEとの関連について説明する
・関節を保護するための日常生活での工夫を指導する
・疼痛の自己評価方法とセルフモニタリングの方法を指導する
・非薬物的疼痛緩和法(温罨法、リラクセーション法など)の実施方法を指導する
・適切な休息の取り方と活動のペース配分について指導する
・自宅でできる関節可動域訓練と筋力維持運動を指導する
・薬物療法(ステロイド、免疫抑制薬)の効果と関節症状への影響について説明する
・日常生活動作を省力化する方法や自助具の使用法を指導する
看護問題
ステロイド大量療法に関連した副作用リスク
長期目標
退院までにステロイド治療の副作用に対する自己管理能力を獲得し、重篤な合併症なく経過する。
短期目標
1週間以内にステロイド治療の主な副作用について理解し、早期発見のためのセルフモニタリングができるようになる。
≪O-P≫観察計画
・バイタルサイン(特に血圧、脈拍、体温)の変動を観察する
・体重の変化と浮腫の有無・程度を観察する
・消化器症状(胃部不快感、嘔気、食欲不振など)の有無を観察する
・皮膚の変化(紅斑、色素沈着、皮膚の菲薄化、創傷治癒の遅延)を観察する
・感染兆候(発熱、局所の炎症所見、白血球数の変化)の有無を観察する
・精神症状(不眠、気分の変動、興奮、抑うつ)の有無を観察する
・高血糖症状(口渇、多飲、多尿)の有無を観察する
・電解質バランス(特にK値)の検査結果を確認する
・筋力低下や筋痙攣の有無を観察する
・骨密度検査の結果や骨粗鬆症リスク因子を評価する
・睡眠状態(入眠困難、早朝覚醒)を観察する
≪T-P≫援助計画
・ステロイド服用時間を規則的に設定し、確実な内服を支援する
・消化器症状予防のため、食後の内服を徹底する
・感染予防のため、手指衛生の徹底と清潔な環境整備を行う
・皮膚損傷予防のため、圧迫やずれを避ける体位変換と環境調整を行う
・浮腫予防のため、適切な体位と弾性ストッキングの使用を支援する
・睡眠環境を整え、不眠時は医師に相談して適切な睡眠薬の使用を支援する
・精神症状出現時は、安心できる環境を提供し、必要に応じて医師に報告する
・骨粗鬆症予防のため、カルシウムとビタミンD摂取の確認と服薬支援を行う
・定期的な体重測定と栄養バランスの良い食事摂取を支援する
・日々の水分出納のバランスを確認し、必要に応じて調整する
・筋力低下予防のためのリハビリテーションを支援する
≪E-P≫教育・指導計画
・ステロイド治療の目的とSLE治療における重要性について説明する
・主な副作用とその早期発見のためのセルフモニタリング方法を指導する
・服薬遵守の重要性と自己判断での中止・減量の危険性について説明する
・感染予防策(手洗い、環境衛生、人混みを避けるなど)を指導する
・皮膚ケアの方法(保湿、適切な洗浄法、外傷予防)を指導する
・食事管理(減塩食、カリウムの摂取、血糖値上昇予防)について指導する
・運動と休息のバランスについて指導する
・骨粗鬆症予防のための生活習慣について指導する
・ステロイド減量計画と副作用の変化について説明する
看護問題
SLEとループス腎炎の慢性的経過に関連した不安と将来への不確実性
長期目標
退院までにSLEとの共生に対する前向きな姿勢を持ち、具体的な生活調整計画を立てることができる。
短期目標
1週間以内に疾患や治療の見通しについて理解を深め、不安が軽減される。
≪O-P≫観察計画
・不安の内容、程度、状況(仕事、家庭、将来の健康状態など)を評価する
・表情や言動から心理状態の変化を観察する
・疾患や治療に対する理解度を評価する
・気分の変動(特に抑うつ状態)の有無を観察する
・不安と症状(特に関節痛、倦怠感)との関連を観察する
・睡眠状態と休息感を評価する
・家族との関わりや面会時の様子を観察する
・将来への希望や目標(「娘の高校卒業式には元気になっていたい」など)に関する発言を記録する
・ストレスへの対処行動のパターンを観察する
・治療への参加度や意欲を評価する
・疾患自己管理に対する自信や意欲の程度を観察する
≪T-P≫援助計画
・不安や疑問を表出できる信頼関係を構築し、傾聴の姿勢で接する
・個室や面談室など、プライバシーが保たれる環境で思いを表出できる機会を設ける
・治療の効果と見通しについて、医師からの説明の機会を調整する
・家族(特に夫と娘)との交流を促進し、面会や連絡を支援する
・症状の改善を共に確認し、小さな進歩も肯定的にフィードバックする
・リラクセーション技法(深呼吸、漸進的筋弛緩法など)を実施する
・気分転換となる活動(読書、音楽鑑賞など本人の好みに合わせた活動)を支援する
・夫への疾患教育の機会を設け、家族の理解と支援を促進する
・復職に向けての具体的な計画立案を支援する
・同様の疾患を持つ患者の体験談や患者会の情報を提供する
・退院後の生活について具体的にイメージできるよう支援する
≪E-P≫教育・指導計画
・SLEの病態と増悪・寛解を繰り返す特徴について説明する
・現在の治療計画と期待される効果について具体的に説明する
・増悪因子(紫外線曝露、過労、ストレスなど)と予防策について指導する
・症状の自己モニタリング方法と早期受診の目安を指導する
・投薬計画と服薬の重要性について指導する
・職場復帰に向けての段階的な計画と職場での注意点を指導する
・利用可能な社会資源(難病医療費助成制度、患者会など)について情報提供する
・ストレス管理技法と生活の中での実践方法を指導する
・疾患と共に生きるための長期的な生活調整について指導する
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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