事例の要約
70歳代男性の胃癌ステージⅢで幽門側胃切除術を受けた後、化学療法中に副作用による体重減少と倦怠感を呈している事例。介入日は5月10日である。
基本情報
A氏は75歳の男性で、身長168cm、体重は入院前65kgであったが現在は58kgに減少している。家族構成は妻(72歳)との二人暮らしで、長男家族は隣県に住んでいる。キーパーソンは妻である。定年まで中学校の教師として勤務していたが、現在は退職して自宅で趣味の園芸を楽しんでいた。性格は几帳面で物静かだが、家族や友人との時間を大切にする温和な人柄である。感染症はなく、アレルギーは花粉症がある。認知機能は正常で、日常生活に支障はない。
病名
胃癌ステージⅢ、幽門側胃切除術(Billroth-I法再建)施行
既往歴と治療状況
高血圧症で10年前から内服加療中。また5年前に胆石症で腹腔鏡下胆嚢摘出術の既往がある。高血圧は降圧剤でコントロール良好である。
入院から現在までの情報
A氏は3か月前に胃部不快感と食欲不振を主訴に受診し、精査の結果胃癌ステージⅢと診断された。2か月前に幽門側胃切除術(Billroth-I法再建)を施行し、術後経過は良好だった。術後2週間で退院し、1か月前から術後補助化学療法(S-1内服)を開始した。しかし、化学療法開始後より食欲不振と倦怠感が増強し、体重減少が進んだため外来受診し、栄養状態の改善と副作用管理を目的に再入院となった。
バイタルサイン
来院時(再入院時)は体温36.8℃、血圧124/76mmHg、脈拍78回/分、呼吸数18回/分、SpO2 97%(室内気)であった。軽度の倦怠感はあるものの、意識清明で呼吸・循環動態は安定していた。
現在は体温36.5℃、血圧118/72mmHg、脈拍72回/分、呼吸数16回/分、SpO2 98%(室内気)である。バイタルサインは安定しているが、立位でのめまい感を訴えることがあり、起立時の血圧低下(臥位118/72mmHg→立位100/65mmHg)が認められている。
食事と嚥下状態
入院前はほぼ毎食3食摂取していたが、胃癌診断の1か月ほど前から食欲低下があり、食事量は徐々に減少していた。嚥下状態に問題はなかった。喫煙歴は20歳から65歳まで1日20本程度であり、現在は禁煙している。飲酒は週に2〜3回、晩酌で日本酒を1合程度摂取していた。
現在は術後の胃容量減少により一度に摂取できる量が制限されている。また、化学療法の副作用として悪心があり、食事摂取量は1回量の3〜5割程度である。ダンピング症状(食後の動悸、発汗、めまい)も時折認められる。嚥下機能に問題はないが、口内炎がありやや痛みを伴う。現在は禁酒している。
排泄
入院前は排便は1日1回、普通便で規則的だった。排尿は日中4〜5回、夜間1回程度であった。
現在は便秘傾向があり、2〜3日に1回程度の排便である。腹部膨満感があり、マグミット錠330mg 3錠を就寝前に内服している。排尿は日中6〜7回、夜間1〜2回で、尿量減少がみられる。
睡眠
入院前は就寝時間21時、起床時間6時と規則正しい生活を送っていた。睡眠の質は良好で、眠剤等の使用はなかった。
現在は化学療法の副作用による倦怠感があるものの、夜間の疼痛や不安感から入眠困難を訴えている。また、夜間のトイレのために中途覚醒がある。リスミー錠1mg 1錠を状態に応じて就寝前に内服している。日中も倦怠感から傾眠傾向にある。
視力・聴力・知覚・コミュニケーション・信仰
視力は軽度の老眼があり、近距離の読書時には眼鏡を使用している。聴力は左右ともに良好。知覚は問題なし。コミュニケーションは言語理解、表出ともに良好で円滑にできる。特定の信仰はないが、家族との絆を大切にしている。
動作状況
歩行は術前までは自立していたが、現在は倦怠感と筋力低下により病棟内の移動はゆっくりとした歩行で、時に手すりや歩行器を使用している。移乗は自立しているが、立ち上がり時にめまい感がある。排尿・排泄は自立しているがトイレまでの移動に時間を要する。入浴は清拭に留まっており、シャワー浴は看護師の見守りが必要である。衣類の着脱は自立しているが、疲労感があり時間を要する。入院前の転倒歴はないが、入院後に立ちくらみによる転倒が1回あり、転倒リスク評価は中リスクとなっている。
内服中の薬
- S-1カプセル20mg 2カプセル 朝夕食後(4週間内服、2週間休薬)
- アムロジピン錠5mg 1錠 朝食後
- ファモチジン錠20mg 1錠 夕食後
- メトクロプラミド錠5mg 1錠 食前(悪心時)
- デキサメタゾン錠0.5mg 4錠 朝食後(化学療法当日と翌日のみ)
- マグミット錠330mg 3錠 就寝前
- リスミー錠1mg 1錠 就寝前(不眠時)
- ロキソプロフェン錠60mg 1錠 疼痛時(1日3回まで)
服薬状況:
入院前は自己管理していたが、現在は化学療法の副作用管理と正確な服薬確認のため、看護師管理となっている。特にS-1は抗がん剤であるため、服薬忘れや重複服用を防ぐ目的で、看護師が直接服薬確認を行っている。疼痛時や悪心時の頓服薬については、A氏からの訴えを確認した上で看護師が配薬している。内服への理解は良好で服薬への抵抗感はない。
検査データ
検査項目 | 基準値 | 入院時(2ヶ月前) | 最近(現在) |
---|---|---|---|
WBC | 3,500-9,000/μL | 5,800 | 3,200 |
RBC | 4.20-5.50×10⁶/μL | 4.30 | 3.78 |
Hb | 13.5-17.0g/dL | 13.8 | 10.2 |
Ht | 40.0-50.0% | 41.2 | 31.4 |
Plt | 14.0-34.0×10⁴/μL | 23.5 | 12.3 |
TP | 6.5-8.2g/dL | 6.8 | 5.8 |
Alb | 3.8-5.2g/dL | 3.9 | 2.8 |
T-Bil | 0.2-1.2mg/dL | 0.8 | 0.7 |
AST | 10-40U/L | 22 | 25 |
ALT | 5-45U/L | 18 | 22 |
LDH | 120-245U/L | 185 | 210 |
ALP | 100-325U/L | 220 | 245 |
γ-GTP | <70U/L | 35 | 32 |
BUN | 8.0-20.0mg/dL | 15.0 | 23.5 |
Cr | 0.6-1.1mg/dL | 0.8 | 1.0 |
Na | 135-145mEq/L | 140 | 138 |
K | 3.5-5.0mEq/L | 4.2 | 4.0 |
Cl | 98-108mEq/L | 102 | 100 |
CRP | <0.30mg/dL | 0.25 | 2.45 |
血糖 | 70-110mg/dL | 92 | 98 |
CEA | <5.0ng/mL | 8.2 | 6.5 |
CA19-9 | <37.0U/mL | 52.4 | 45.8 |
体重 | – | 65kg | 58kg |
BMI | 18.5-25.0 | 23.0 | 20.5 |
今後の治療方針と医師の指示
現在の入院では化学療法の副作用管理と栄養状態の改善が主な目的である。今後、S-1による術後補助化学療法を合計6コース(1年間)継続する予定である。しかし、現在の骨髄抑制と低アルブミン血症の状態から、次回の化学療法は1週間延期することになった。医師からは、NST(栄養サポートチーム)の介入依頼があり、栄養状態の評価と改善策の提案が行われている。また、輸液療法による水分・電解質の補正と、必要に応じてアルブミン製剤の投与が指示されている。栄養状態が改善するまでは高カロリー輸液を継続し、経口摂取量が増加してきたら段階的に輸液量を減らしていく方針である。退院基準としては、経口摂取が1回量の7割以上となること、体重減少の進行がとまること、骨髄抑制が回復することである。退院後は2週間ごとの外来通院で血液検査と状態確認を行い、化学療法を継続する予定である。また、自宅での栄養管理について栄養士による指導が計画されている。
本人と家族の想いと言動
A氏は「こんなに食べられなくなるなんて思わなかった」「体重がどんどん減って、このままやせ細ってしまうのではないか」と不安を表出している。また、「治療は続けたいけれど、この副作用はつらい」と治療継続への葛藤も見られる。しかし一方で、「孫の成長をもっと見たい」という希望も語っており、治療への前向きな姿勢も持ち合わせている。日中は横になっていることが多いが、「少しでも体力をつけたい」と毎日短時間のリハビリには積極的に参加している。
妻は毎日面会に訪れ、A氏の好みそうな手作りのゼリーやスープを持参することが多い。「夫の体重が減っていくのを見るのはつらい」と看護師に打ち明けることもあるが、A氏の前では明るく振る舞い、励ましている。また、「家に帰ってきたら、少しでも食べられるものを工夫して作りたい」と前向きな発言も見られる。長男夫婦は週末に面会に来ることが多く、「父の病状について詳しく知りたい」と医療者に質問する場面も見られる。家族全体としては、A氏の治療と回復を最優先に考えており、医療者との協力関係は良好である。
アセスメント
疾患の簡単な説明
A氏は胃癌ステージⅢと診断され、幽門側胃切除術(Billroth-I法再建)を施行した75歳の男性である。胃癌は胃の粘膜から発生する悪性腫瘍であり、ステージⅢは局所進行癌で、所属リンパ節転移を伴っているが遠隔転移はない状態である。幽門側胃切除術は胃の下部(幽門側)を切除し、残った胃と十二指腸を直接吻合する手術(Billroth-I法)であり、摂食・消化機能の変化をもたらす。術後は補助化学療法としてS-1内服を開始しているが、副作用により栄養状態が悪化し再入院となっている。
健康状態
A氏の現在の健康状態は、胃癌の手術後および化学療法による副作用の影響を強く受けている。バイタルサインは体温36.5℃、血圧118/72mmHg、脈拍72回/分、呼吸数16回/分、SpO2 98%(室内気)と安定しているが、立位での血圧低下(臥位118/72mmHg→立位100/65mmHg)があり、めまい感を訴えることがある。また、化学療法の副作用として食欲不振、倦怠感、口内炎がみられ、これらが栄養摂取の障害となっている。血液検査では貧血(Hb 10.2g/dL)、白血球減少(WBC 3,200/μL)、血小板減少(Plt 12.3×10⁴/μL)と骨髄抑制の所見があり、低アルブミン血症(Alb 2.8g/dL)も認められる。これらの検査値は化学療法の副作用と栄養不良状態を示唆している。また、BUN値の上昇(23.5mg/dL)は脱水傾向を示している可能性がある。CEAとCA19-9の腫瘍マーカーは手術前に比べて低下しているものの、依然として基準値より高値であり、経過観察が必要である。
受診行動、疾患や治療への理解、服薬状況
A氏は胃部不快感と食欲不振を自覚して受診しており、健康の変化に対する認識と適切な受診行動がとれていたといえる。疾患と治療に対する理解は良好であり、治療継続への意欲も「孫の成長をもっと見たい」という発言からうかがえる。一方で「こんなに食べられなくなるなんて思わなかった」「治療は続けたいけれど、この副作用はつらい」との発言から、治療の現実と向き合う中での葛藤も生じている。
服薬状況については、入院前は自己管理できていたが、現在は化学療法の副作用管理と正確な服薬確認のため看護師管理となっている。特にS-1(抗がん剤)については服薬忘れや重複服用を防ぐ目的で看護師が直接服薬確認を行っている。内服への理解は良好で抵抗感はない。治療に対する高い理解力と自己管理能力を持っているが、現在の体調不良のため一時的に管理を委ねている状態と考えられる。
身長、体重、BMI、運動習慣
A氏の身長は168cm、体重は入院前65kgであったが現在は58kgに減少しており、7kgの体重減少(約10.8%)を認める。BMIは入院前の23.0から現在は20.5へと低下しており、標準範囲内ではあるものの減少傾向にある。この体重減少は胃癌による食欲不振と手術による胃容量減少、さらに化学療法の副作用が複合的に影響していると考えられる。75歳という高齢であることを考慮すると、低栄養リスクが高い状態である。
運動習慣については詳細な情報がないが、入院前は趣味の園芸を楽しむなど活動的な生活を送っていたことがうかがえる。現在は倦怠感と筋力低下により病棟内の移動はゆっくりとした歩行で、時に手すりや歩行器を使用している状態である。「少しでも体力をつけたい」との発言から、リハビリには積極的に参加している姿勢が見られる。高齢者の身体機能は使わなければ急速に低下するため、この積極性は回復に向けて重要な要素である。
呼吸に関するアレルギー、飲酒、喫煙の有無
アレルギーについては花粉症があるが、呼吸に直接影響するようなアレルギー(喘息など)の情報はない。飲酒歴は週に2〜3回、晩酌で日本酒を1合程度であり、適量の飲酒習慣であったが現在は禁酒している。喫煙歴は20歳から65歳まで1日20本程度(45年間、約45箱・年)と長期にわたる喫煙歴があるが、現在は禁煙している。この長期の喫煙歴は肺機能に影響を与えている可能性があり、術後の呼吸器合併症のリスク因子となる。現在の呼吸状態は安定しているが(呼吸数16回/分、SpO2 98%)、加齢による呼吸機能の低下と長期喫煙歴を考慮すると、活動量増加に伴う呼吸状態の変化に注意が必要である。
既往歴
A氏は高血圧症で10年前から内服加療中であり、現在はアムロジピン錠5mgを内服してコントロールは良好である。また5年前に胆石症で腹腔鏡下胆嚢摘出術の既往がある。これらの既往は現在の治療に大きな影響を与えるものではないが、高血圧は長期的な血管障害のリスク因子であり、また術後の循環動態に影響を与える可能性がある。実際に現在、立位での血圧低下が認められており、これには高血圧治療薬の影響も考えられるため、降圧剤の用量調整を検討する必要があるかもしれない。胆嚢摘出後は脂質の消化吸収に影響があることがあり、現在の低栄養状態と関連している可能性もある。
健康管理上の課題と看護介入
A氏の健康管理上の主な課題は、化学療法による副作用管理と栄養状態の改善である。具体的な看護介入として以下が考えられる。
まず、栄養状態の改善については、少量頻回の食事提供や食事形態の工夫、栄養補助食品の活用が有効である。また、妻が持参する手作りのゼリーやスープなど、A氏の嗜好に合った食品の摂取を促進する。NST(栄養サポートチーム)と連携し、個別の栄養計画を立案・実施する。食事摂取量、体重、アルブミン値などの栄養指標を定期的に評価し、改善状況を把握する。
副作用管理については、口内炎に対する口腔ケア指導や疼痛管理、悪心・嘔吐に対する制吐剤の効果的な使用と環境調整、倦怠感に対する活動と休息のバランスの指導が重要である。立位でのめまい感については、急な体位変換を避ける、起立時はゆっくり動作するなどの指導と、転倒予防策の実施が必要である。輸液療法による水分・電解質バランスの管理と、骨髄抑制に伴う感染予防対策も重要な介入となる。
また、A氏と家族の心理的支援も重要な課題である。「体重がどんどん減って、このままやせ細ってしまうのではないか」という不安や「治療は続けたいけれど、この副作用はつらい」という葛藤に対して、傾聴し情緒的サポートを提供するとともに、具体的な対処方法を一緒に考える関わりが必要である。家族の支援体制を強化するために、栄養士による家族への指導や、退院後の生活についての情報提供も行う。
今後も継続して観察すべき点として、栄養状態の変化(食事摂取量、体重、血液検査値など)、副作用の程度(骨髄抑制、消化器症状、倦怠感など)、バイタルサインの変動(特に立位時の血圧低下)、活動耐性の変化、心理状態の変化などがある。また、退院に向けて、自宅での栄養管理や副作用対策について、本人と家族の理解度と実践能力を評価することも重要である。
食事と水分の摂取量と摂取方法
A氏は入院前はほぼ毎食3食摂取できていたが、胃癌診断の1か月ほど前から食欲低下があり、食事量は徐々に減少していた。現在は術後の胃容量減少と化学療法の副作用により、食事摂取量は1回量の3~5割程度に留まっている。摂取方法は経口摂取であるが、一度に摂取できる量が制限されている状態である。水分摂取量についての詳細な情報はないが、BUN値の上昇(23.5mg/dL)や尿量減少から判断すると不十分である可能性が高い。また現在、高カロリー輸液による栄養・水分補給が行われており、経口摂取だけでは必要量を確保できていない状況である。75歳という年齢を考慮すると、加齢に伴う口渇中枢の機能低下により脱水のリスクが高まっていることも考慮する必要がある。
好きな食べ物/食事に関するアレルギー
A氏の好きな食べ物についての具体的な情報はないが、妻が面会時に好みそうな手作りのゼリーやスープを持参していることから、これらの食品がA氏の嗜好に合っていると考えられる。食事に関するアレルギーについての情報はないが、アレルギーとしては花粉症があることが確認されている。今後の栄養状態の改善に向けて、より詳細な食の嗜好や食習慣、アレルギーの有無について情報収集が必要である。
身長・体重・BMI・必要栄養量・身体活動レベル
A氏の身長は168cm、入院前の体重は65kgであったが、現在は58kgまで減少している。**体重減少は7kg(約10.8%)**であり、短期間でのこの減少率は栄養状態の悪化を示している。BMIは入院前の23.0から現在は20.5へと低下しており、標準範囲内ではあるが減少傾向にある。
必要栄養量については具体的な情報がないが、ハリス-ベネディクト式を用いて基礎エネルギー消費量を推定すると、男性、75歳、身長168cm、体重58kgの条件で約1,250kcal/日となる。身体活動レベルは現在の状態から「低い(1.3)」と考えられ、1日の推定必要エネルギー量は約1,625kcal/日程度である。また、がん患者の場合、異化亢進状態にあることが多く、通常より高いタンパク質摂取(1.2-1.5g/kg/日)が推奨される。A氏の場合、70-87gのタンパク質摂取が必要と推定される。しかし、現在の食事摂取量(1回量の3~5割程度)では、これらの必要量を経口摂取のみで満たすことは困難である。
食欲・嚥下機能・口腔内の状態
A氏の食欲は化学療法の副作用として著しく低下している。また、ダンピング症状(食後の動悸、発汗、めまい)も時折認められ、これが食事への恐怖感や不安を引き起こし、さらなる食欲低下につながっている可能性がある。嚥下機能に問題はないが、口内炎があり、やや痛みを伴う状態である。口内炎は化学療法(S-1)の一般的な副作用であり、摂食時の痛みにより食事量の減少を招いている。高齢者では唾液分泌量の減少や口腔内の自浄作用の低下があり、口内炎が治癒しにくく長期化することがあるため、積極的なケアが必要である。
嘔吐・吐気
A氏は化学療法の副作用として悪心があり、必要時にメトクロプラミド錠5mgを服用している。嘔吐の有無についての詳細な情報はないが、悪心は食事摂取量の減少に直接関与している主要な因子である。悪心の程度や頻度、悪心を誘発・増悪させる要因、メトクロプラミドの効果などについて、より詳細な情報収集が必要である。
皮膚の状態、褥創の有無
A氏の皮膚の状態や褥創の有無についての直接的な情報はないが、低アルブミン血症(Alb 2.8g/dL)のため皮膚の脆弱性が増している可能性が高い。また、体重減少に伴う皮下脂肪の減少も皮膚トラブルのリスク因子となる。倦怠感から活動量が減少しており、同一体位での長時間の臥床があれば褥創のリスクが高まる。加齢による皮膚の乾燥や弾力性の低下も考慮すべきである。皮膚の状態についての詳細な評価が必要である。
血液データ(Alb、TP、RBC、Ht、Hb、Na.K、TG、TC、HbA1C、BS)
血液データからみるとA氏の栄養状態は大きく低下している。特にアルブミン値は2.8g/dLと著明に低下しており、総蛋白も5.8g/dLと基準値を下回っている。これらは低栄養状態を反映している。また、赤血球数3.78×10⁶/μL、ヘモグロビン10.2g/dL、**ヘマトクリット31.4%**と貧血を呈しており、これは術後の回復過程における鉄分などの微量栄養素の不足や化学療法による骨髄抑制の影響と考えられる。
電解質については、ナトリウム138mEq/L、カリウム4.0mEq/Lと基準値内であるが、BUNの上昇(23.5mg/dL)とあわせて考えると軽度の脱水状態の可能性がある。血糖値は98mg/dLと正常範囲内であり、HbA1Cの情報はないが、現時点で糖代謝異常を示唆する所見はない。トリグリセリド、総コレステロールについての情報もないが、体重減少が著しいことから低値である可能性が高い。
CRPは2.45mg/dLと上昇しており、炎症反応の存在を示している。これは手術後の炎症反応の残存や化学療法による粘膜障害などが原因と考えられるが、感染症の存在も否定できない。
栄養-代謝に関する課題と看護介入
A氏の栄養-代謝に関する最も重要な課題は、手術後の消化吸収機能の変化と化学療法による副作用に起因する栄養摂取不足である。これに対する看護介入として以下が考えられる。
まず、食事摂取量の改善のために、少量頻回の食事提供の調整が必要である。A氏は胃切除後であり胃容量が減少しているため、1回の食事量を減らし、回数を増やす工夫が有効である。また、高カロリー、高タンパクの栄養補助食品の活用も検討する。ダンピング症状に対しては、食事中の水分摂取を避ける、食後30分程度は横になる、糖質の多い食品を控えるなどの指導が有効である。
口内炎に対しては、食前の鎮痛薬の使用、口腔内の保清、刺激の少ない食事内容の工夫などが重要である。悪心に対しては、食事と抗がん剤服用のタイミングの調整、制吐剤の定期的な使用、リラクゼーション法の指導などが有効である。
水分摂取量の確保も重要な課題である。A氏は高齢であり口渇感が低下している可能性があるため、意識的な水分摂取を促す必要がある。脱水の徴候(皮膚ツルゴール低下、口腔粘膜乾燥、尿量減少など)を定期的に観察し、必要に応じて輸液療法の調整を検討する。
低アルブミン血症と貧血に対しては、医師と連携しながら必要に応じてアルブミン製剤の投与や鉄剤の補充を検討する。また、NSTとの連携による専門的な栄養評価と介入計画の立案も重要である。
皮膚のケアについては、低栄養状態による皮膚トラブルを予防するため、定期的な体位変換、皮膚の保湿、適切な清潔ケアを行う。特に骨突出部や圧迫を受けやすい部位の観察を強化する。
退院に向けては、A氏と妻に対して、退院後の栄養管理について教育・指導を行う。特に、少量頻回の食事、栄養価の高い食品の選択、ダンピング症状への対処法などについて具体的に指導する。妻がすでに手作りのゼリーやスープを持参していることは、自宅での栄養管理に対する前向きな姿勢を示しており、この強みを活かした指導が効果的である。
継続的に観察が必要な項目としては、食事摂取量の変化、体重の推移、口内炎や悪心などの症状の変化、血液検査値(特にアルブミン、ヘモグロビン、電解質など)の推移、皮膚の状態などが挙げられる。また、A氏自身の栄養状態に対する認識や食事に対する意欲の変化も重要な観察点である。
排便と排尿の回数と量と性状
A氏は入院前、排便は1日1回、普通便で規則的であったが、現在は便秘傾向があり、2~3日に1回程度の排便となっている。便の性状についての具体的な情報はないが、便秘傾向であることから硬便の可能性が考えられる。排便量についての情報も不足しているため、今後詳細な評価が必要である。
排尿については、入院前は日中4~5回、夜間1回程度であったが、現在は日中6~7回、夜間1~2回と頻尿の傾向にあり、尿量減少がみられる。尿の性状についての具体的な情報はないが、尿量減少と頻尿の組み合わせは、尿濃縮を示唆する所見であり、脱水状態の可能性を考慮する必要がある。また、夜間の排尿回数が増加していることは、安眠を妨げる要因となっている。75歳という年齢を考慮すると、加齢に伴う膀胱容量の減少や夜間多尿の影響も考えられる。
下剤使用の有無
A氏は現在の便秘傾向に対して、マグミット錠330mg 3錠を就寝前に内服している。マグミット(酸化マグネシウム)は浸透圧性下剤であり、腸管内に水分を引き込むことで便を軟化させる作用がある。しかし、A氏の場合、食事・水分摂取量の減少があり、下剤の効果が十分に発揮されていない可能性がある。また、マグミットの使用にはマグネシウムの腸管吸収による高マグネシウム血症のリスクがあり、特に腎機能が低下している高齢者では注意が必要である。現在のA氏のBUN、Cr値からは軽度の腎機能低下が疑われるため、下剤の選択と用量について再評価が必要である。
in-outバランス
A氏のin-outバランスについての具体的な情報はないが、尿量減少と頻尿、BUN値の上昇(23.5mg/dL)、立位時の血圧低下(臥位118/72mmHg→立位100/65mmHg)などから、体液バランスは負の状態である可能性が高い。食事摂取量が1回量の3~5割程度に減少していることも、体液バランスに影響を与えていると考えられる。現在、高カロリー輸液が投与されているが、投与量と尿量を詳細に評価し、適切な体液バランスを維持する必要がある。今後、正確なin-outバランスの評価のために、輸液量、経口摂取量、尿量、不感蒸泄などを考慮した水分出納の詳細な記録が必要である。
排泄に関連した食事・水分摂取状況
A氏の食事摂取量は術後の胃容量減少と化学療法の副作用により1回量の3~5割程度に留まっている。特に水分摂取量については具体的な情報がないが、尿量減少や頻尿の状況から十分な水分摂取ができていないと考えられる。また、食物繊維の摂取が不足している可能性があり、これが便秘傾向に影響している。胃切除後はダンピング症状により食事中の水分摂取を制限することが多いが、これが総水分摂取量の減少につながっている可能性もある。高齢者では口渇感が低下しているため、水分摂取の自覚的な必要性を感じにくく、特に体調不良時には意識的な水分摂取が必要である。
安静度・バルーンカテーテルの有無
A氏の安静度は病棟内を歩行器や手すりを使用しながらゆっくりと移動できる程度である。倦怠感と筋力低下があるものの、「少しでも体力をつけたい」との思いから毎日短時間のリハビリには積極的に参加している。バルーンカテーテルの使用に関する情報はないが、現状では排尿は自立しており、トイレまでの移動に時間を要するものの介助を必要としていない状況である。ただし、立ち上がり時にめまい感があり、入院後に立ちくらみによる転倒が1回あることから、排泄行動に伴う転倒リスクがある。加齢による筋力低下や平衡感覚の変化も考慮し、排泄行動の安全確保が重要である。
腹部膨満・腸蠕動音
A氏は腹部膨満感を訴えており、これが便秘傾向と関連していると考えられる。腸蠕動音については具体的な情報がないが、腹部膨満感の存在から腸蠕動の低下が疑われる。胃切除術後であることから、腸管の癒着や術後イレウスの可能性も考慮する必要があるが、現在の情報からは重篤な消化管閉塞を示唆する所見は認められない。腹部膨満感は食事摂取量の低下の一因となり、栄養状態の悪化につながるため、適切な対応が必要である。また、高齢者では腹筋力の低下により腹圧がかけにくく、これが排便困難の一因となることがある。腹部の詳細な評価(視診、聴診、触診)が必要である。
血液データ(BUN、Cr、GFR)
A氏の血液データでは、BUN 23.5mg/dL(基準値8.0-20.0mg/dL)と上昇しており、Cr 1.0mg/dL(基準値0.6-1.1mg/dL)は基準値内ではあるが、入院時の0.8mg/dLから上昇傾向にある。GFRについての具体的な情報はないが、75歳男性、体重58kg、Cr 1.0mg/dLの条件でクレアチニンクリアランスを推定するとおよそ51mL/分となり、軽度の腎機能低下が疑われる。BUNの上昇とBUN/Cr比の増加(23.5)は脱水状態を示唆する所見である。また、加齢に伴う腎機能の低下も考慮する必要がある。腎機能低下があると、薬物の排泄遅延や電解質バランスの乱れのリスクが高まるため、注意が必要である。
排泄に関する課題と看護介入
A氏の排泄に関する主な課題は、便秘傾向と脱水リスクである。これらの課題に対する看護介入として以下が考えられる。
便秘傾向に対しては、水分摂取量と食物繊維摂取量の増加を促進する必要がある。具体的には、脱水を改善するための計画的な水分摂取の指導(少量頻回の摂取、食間の水分摂取など)と、食物繊維を含む食品の積極的な摂取の促進が有効である。また、現在の下剤(マグミット錠)の効果を評価し、必要に応じて用量調整や別種類の下剤への変更を検討する。腹部マッサージや温罨法による腸蠕動の促進、可能な範囲での運動量の増加も便秘改善に有効である。排便習慣の確立(毎日決まった時間にトイレに座るなど)も重要である。
脱水リスクに対しては、水分出納のモニタリングを強化し、必要に応じて輸液量の調整を行う。バイタルサインの定期的な評価(特に立位時の血圧低下の有無)、皮膚・粘膜の湿潤状態の観察、尿量・尿比重のモニタリングも重要である。また、利尿作用のある飲料(カフェインを含む飲料など)の過剰摂取を避けるよう指導する。
排泄行動の安全確保も重要な課題である。転倒予防のために、ナースコールの適切な配置、トイレ環境の整備(手すりの設置、足元の照明など)、夜間のポータブルトイレの使用の検討などが必要である。また、排泄パターンを把握し、予測される排泄時間には事前に声かけやトイレ誘導を行うなどの配慮も有効である。
腎機能の軽度低下に伴い、薬物投与量の調整や腎毒性のある薬剤の使用制限についても医師と相談する必要がある。特に、マグミットの長期使用による高マグネシウム血症のリスクに注意が必要である。
継続的に観察すべき項目としては、排便の頻度と性状、腹部膨満感の変化、排尿パターンと尿量、水分摂取量、in-outバランス、バイタルサイン(特に立位時の血圧)、BUN・Cr値の推移などがある。また、退院に向けて、自宅での排便管理や水分摂取についての指導を行い、A氏と妻の理解度と実践能力を評価することも重要である。
ADLの状況、運動機能、運動歴、安静度、移動/移乗方法
A氏のADLは入院前は自立していたが、現在は化学療法の副作用による倦怠感と筋力低下により部分的に制限されている。歩行は術前までは自立していたが、現在は病棟内の移動はゆっくりとした歩行で、時に手すりや歩行器を使用している。移乗は自立しているが、立ち上がり時にめまい感がある。排泄は自立しているがトイレまでの移動に時間を要する状況である。入浴に関しては、現在は清拭に留まっており、シャワー浴は看護師の見守りが必要である。衣類の着脱は自立しているが、疲労感があり時間を要する。
運動歴については、定年まで中学校の教師として勤務し、定年後は自宅で趣味の園芸を楽しむなど、比較的活動的な生活を送っていたと推測される。しかし、胃癌診断の1か月前から食欲低下と共に活動量も徐々に低下していた可能性がある。現在の安静度は、病棟内歩行が許可されており、「少しでも体力をつけたい」との思いから毎日短時間のリハビリには積極的に参加している。この積極性はA氏の回復に向けた重要な強みである。
移動方法は主に歩行であるが、筋力低下と倦怠感、および立位でのめまい感のために歩行器や手すりを使用する場合がある。移乗に関しては自力で可能であるが、めまい感が出現することがあるため注意が必要である。75歳という年齢を考慮すると、加齢による筋力低下や関節の可動域制限、平衡感覚の変化なども活動制限の一因となっている可能性がある。
バイタルサイン、呼吸機能、職業、住居環境
A氏のバイタルサインは体温36.5℃、血圧118/72mmHg、脈拍72回/分、呼吸数16回/分、SpO2 98%(室内気)と安定している。しかし、立位での血圧低下(臥位118/72mmHg→立位100/65mmHg)が認められており、これが立ち上がり時のめまい感の原因となっている。この起立性低血圧は、化学療法による脱水や栄養状態の低下、長期臥床による循環調節機能の低下などが関与していると考えられる。また、高齢者では加齢に伴うバロレセプター反射の鈍化があり、体位変換時の血圧調節が遅延することも影響している可能性がある。
呼吸機能に関しては、現在のSpO2 98%(室内気)から判断すると良好であるが、20歳から65歳まで1日20本程度の喫煙歴(45年間、約45箱・年)があり、潜在的な呼吸機能の低下がある可能性がある。また、貧血(Hb 10.2g/dL)による酸素運搬能の低下も活動耐性に影響を与えていると考えられる。高齢者では肺の弾性低下や呼吸筋力の低下があり、特に活動時の呼吸機能の予備力が低下しているため、活動増加に伴う呼吸状態の変化に注意が必要である。
職業は定年まで中学校教師として勤務していたが、現在は退職しており、自宅で趣味の園芸を楽しんでいた。住居環境については具体的な情報がないが、妻(72歳)との二人暮らしであり、長男家族は隣県に住んでいる。住居の構造(階段の有無、手すりの設置状況など)、庭の広さや手入れの状況、近隣の医療機関へのアクセスなど、退院後の生活環境についての詳細な情報収集が必要である。
血液データ(RBC、Hb、Ht、CRP)
A氏の血液データでは、赤血球数(RBC)3.78×10⁶/μL(基準値4.20-5.50×10⁶/μL)、ヘモグロビン(Hb)10.2g/dL(基準値13.5-17.0g/dL)、ヘマトクリット(Ht)31.4%(基準値40.0-50.0%)と貧血の状態にある。この貧血は胃切除による鉄・ビタミンB12などの吸収低下や、化学療法による骨髄抑制の影響と考えられる。貧血は酸素運搬能の低下をもたらし、倦怠感や活動耐性の低下の原因となっている。現在の貧血の程度は中等度であるが、今後の化学療法の継続により悪化する可能性もあるため、注意深いモニタリングが必要である。
CRPは2.45mg/dL(基準値<0.30mg/dL)と上昇しており、炎症反応の存在を示している。この炎症反応は手術後の残存炎症や化学療法による粘膜障害などが原因として考えられるが、潜在的な感染症の可能性も否定できない。炎症反応の持続は異化作用を促進し、筋力低下や倦怠感を増強させる要因となるため、炎症の原因検索と適切な対応が必要である。
転倒転落のリスク
A氏の転倒リスクは中リスクと評価されている。実際に入院後に立ちくらみによる転倒が1回あった経験がある。転倒リスク因子としては、立位での血圧低下(起立性低血圧)、筋力低下、倦怠感、夜間トイレのための中途覚醒、貧血、75歳という高齢などが挙げられる。また、化学療法の副作用による症状(めまい、倦怠感など)も転倒リスクを高める要因である。入院前の転倒歴はなかったとされているが、現在の状態は術前と比較して明らかに転倒リスクが増加している。
高齢者では筋力や平衡感覚、反射能力の低下により、若年者と比較して転倒リスクが高い。特に、夜間のトイレ移動時には照明が不十分であったり、急いだりすることで転倒リスクがさらに増加する。A氏の場合、夜間のトイレのために中途覚醒があり、この際の転倒リスクに特に注意が必要である。
活動-運動に関する課題と看護介入
A氏の活動-運動に関する主な課題は、化学療法による倦怠感と筋力低下、貧血、立位での血圧低下、および転倒リスクである。これらの課題に対する看護介入として以下が考えられる。
倦怠感と筋力低下に対しては、活動と休息のバランスを考慮したスケジュール調整が重要である。具体的には、疲労が少ない時間帯に活動を計画し、活動と休息を適切に組み合わせることで過度の疲労を防ぐ。また、理学療法士と連携した個別のリハビリテーションプログラムの実施も効果的である。A氏は「少しでも体力をつけたい」と前向きであり、この意欲を支持しながら、無理のない範囲での活動を促進する。日常生活の中での筋力維持・向上のための簡単な運動(ベッド上での足上げ運動、座位での膝伸ばし運動など)の指導も有効である。
貧血に対しては、医師と連携しながら必要に応じて鉄剤の投与や輸血の検討を行う。また、鉄分を多く含む食品の摂取を促進する栄養指導も重要である。貧血の進行を早期に発見するために、活動時の自覚症状(息切れ、動悸、めまいなど)の変化に注意し、定期的な血液検査でHb値の推移をモニタリングする。
立位での血圧低下(起立性低血圧)に対しては、急激な体位変換を避ける指導が必要である。具体的には、臥位から座位、座位から立位へとゆっくりと段階的に姿勢を変えること、立ち上がり後はしばらくその場で安定してから歩き始めることなどを指導する。また、脱水予防のための適切な水分摂取も重要である。弾性ストッキングの使用も立位時の血圧低下防止に効果的である場合がある。
転倒リスク軽減のためには、環境整備が重要である。ベッドサイドやトイレ付近には手すりを設置し、通路には障害物を置かないようにする。夜間のトイレ移動時には適切な照明を確保し、必要に応じてポータブルトイレの使用も検討する。また、適切な履物の選択(滑りにくく、かかとのある靴など)や、必要に応じて歩行器や杖の使用も考慮する。転倒リスクについてA氏本人に理解してもらい、無理をせずに必要時にはナースコールで応援を求めるよう指導することも重要である。
退院に向けては、自宅での安全な活動方法や転倒予防策について、A氏と妻に対して具体的な指導を行う。特に、起立性低血圧によるめまい感への対処法、体力に応じた活動計画の立て方、自宅環境の整備(手すりの設置、段差の解消など)について指導する。また、地域の介護保険サービス(通所リハビリテーションなど)の利用も検討する。
継続的に観察が必要な項目としては、活動耐性の変化、筋力の変化、立位時の血圧変動、貧血の進行状況、転倒リスクの変化などが挙げられる。また、A氏自身の活動に対する意欲や自信の変化も重要な観察点である。
睡眠時間、熟眠感、睡眠導入剤使用の有無
A氏は入院前、就寝時間21時、起床時間6時と規則正しい生活を送っており、睡眠時間は約9時間確保できていた。睡眠の質も良好で、熟眠感が得られており、眠剤等の使用はなかった。このような規則正しい睡眠習慣は長年の教職生活で形成されたものと考えられ、A氏の健康維持に寄与していたと思われる。
しかし現在は、化学療法の副作用による倦怠感があるものの、夜間の疼痛や不安感から入眠困難を訴えている。また、夜間のトイレのために中途覚醒があり、睡眠の質が著しく低下している。これに対してリスミー錠1mg 1錠を状態に応じて就寝前に内服している。リスミー(メラトニン受容体作動薬)は自然な睡眠を誘発する薬剤であるが、その効果については情報がない。睡眠の質や睡眠時間、熟眠感についての具体的な評価が必要である。日中も倦怠感から傾眠傾向にあるとの情報があり、日中の覚醒と夜間の睡眠のリズムが乱れている可能性がある。
75歳という年齢を考慮すると、加齢に伴う睡眠の変化も影響していると思われる。高齢者では一般的に深い睡眠(徐波睡眠)の減少、中途覚醒の増加、総睡眠時間の減少などの変化がみられる。また、体内時計を調節する視交叉上核の機能低下により概日リズムが前進し、早寝早起きの傾向が強まることがある。A氏の場合、これらの加齢変化に加えて、疾患や治療に関連した症状(疼痛、不安、夜間頻尿など)が睡眠障害を悪化させていると考えられる。
夜間の疼痛についての具体的な情報(部位、性質、強度など)や、不安感の内容についての詳細な評価が必要である。また、睡眠環境(騒音、照明、室温など)や、入眠前の習慣(カフェイン摂取、電子機器の使用など)についても情報を収集する必要がある。
日中/休日の過ごし方
A氏の日中の過ごし方については、現在は倦怠感から横になっていることが多い状態である。しかし、「少しでも体力をつけたい」という思いから毎日短時間のリハビリには積極的に参加している。この積極性はA氏の回復への意欲を示しており、支持すべき強みである。
入院前の日中の過ごし方については、退職後は自宅で趣味の園芸を楽しんでいたとの情報がある。これはA氏が活動的で、趣味や興味のある活動に従事することで日常に充実感を得ていたことを示している。また、「家族や友人との時間を大切にする温和な人柄」との記述から、社会的交流も活発に行っていたと推測される。
現在の休日の過ごし方については具体的な情報がないが、入院中であり平日と休日の区別はあまりないと思われる。ただし、長男家族が週末に面会に来ることが多いとの情報があり、この家族との交流が週末の楽しみになっている可能性がある。また、妻が毎日面会に訪れることも、A氏の精神的な安定と日中の活動性維持に寄与していると考えられる。
日中の活動量や活動内容、気分の変化、対人交流の状況などについて、より詳細な情報収集が必要である。特に、以前楽しんでいた園芸などの趣味に対する現在の関心や、入院中に行っている余暇活動(読書、テレビ視聴など)についての情報は、睡眠-休息の評価において重要である。
睡眠-休息に関する課題と看護介入
A氏の睡眠-休息に関する主な課題は、夜間の疼痛や不安感による入眠困難、夜間頻尿による中途覚醒、日中の倦怠感と傾眠傾向である。これらの課題に対する看護介入として以下が考えられる。
夜間の疼痛に対しては、就寝前のロキソプロフェン錠の予防的服用を検討する。疼痛の部位や性質に応じて、温罨法や体位の工夫なども有効である。医師と相談し、必要に応じて疼痛管理計画の見直しを行う。
不安感に対しては、傾聴を通じて具体的な不安の内容を把握し、適切な情報提供や心理的サポートを行う。特に、病状や治療に関する不安が強い場合は、医師からの説明の機会を設けることも検討する。また、リラクセーション法(深呼吸、漸進的筋弛緩法など)の指導も有効である。
夜間頻尿による中途覚醒に対しては、夕方以降の水分摂取量を調整する(必要な水分摂取は日中に済ませるよう促す)。また、ベッドサイドにポータブルトイレを設置して移動の負担を軽減することも検討する。睡眠中の体位変換時にも覚醒しやすいため、快適な寝具や体位の工夫も重要である。
日中の活動性を高めるために、倦怠感の強さに応じた活動計画を立案する。具体的には、疲労が少ない時間帯に短時間の活動(散歩、軽い体操など)を取り入れ、徐々に活動量を増やしていく。また、趣味や関心のある活動(園芸に関する雑誌を読むなど)を取り入れることで、日中の覚醒維持と気分の向上を図る。家族との交流時間を積極的に活用し、精神的な活性化を促すことも有効である。
睡眠環境の整備も重要である。夜間の騒音や照明を最小限にし、快適な室温(約26℃程度)を維持する。就寝前のルーティンを確立し(温かい飲み物を飲む、軽いストレッチを行うなど)、自然な眠気を促進する。カフェインを含む飲食物や刺激の強いテレビ番組などは就寝前に避けるよう指導する。
薬物療法については、現在使用しているリスミー錠の効果を評価し、必要に応じて医師と相談して用量や種類の調整を検討する。ただし、高齢者では睡眠薬の副作用(ふらつき、認知機能低下など)のリスクが高いため、非薬物療法を優先して試みることが望ましい。
継続的に観察すべき項目としては、睡眠パターンの変化(入眠時間、中途覚醒の頻度、総睡眠時間など)、夜間の症状(疼痛、不安、頻尿など)の変化、日中の活動レベルと倦怠感の程度、睡眠薬の効果と副作用などがある。これらを定期的に評価し、睡眠-休息に関する介入計画を適宜修正することが重要である。
退院に向けては、自宅での良好な睡眠習慣の確立について指導を行う。特に、規則正しい就寝・起床時間の維持、適切な睡眠環境の整備、日中の適度な活動と休息のバランスなどについて具体的にアドバイスする。また、必要に応じて睡眠日誌をつけることで、睡眠パターンの自己管理を促すことも有効である。
意識レベル、認知機能
A氏の意識レベルは清明であり、軽度の倦怠感はあるものの、意識状態に問題はない。来院時(再入院時)も意識清明で呼吸・循環動態は安定していた。認知機能は正常で、日常生活に支障はないと記載されている。また、コミュニケーションは言語理解、表出ともに良好で円滑にできる状態である。医療者からの説明に対する理解力も良好であり、治療への協力的な姿勢がみられる。「孫の成長をもっと見たい」「少しでも体力をつけたい」などの発言は、将来への展望や目標を持つことができており、認知機能が保たれていることを示している。
A氏は75歳であり、高齢者では加齢に伴う認知機能の変化(処理速度の低下、作動記憶の容量減少など)が生じやすいが、長年中学校教師として知的活動に従事してきた経験が認知機能の維持に寄与していると考えられる。ただし、化学療法による副作用や低栄養状態、貧血などが一時的に認知機能に影響を与える可能性もある。特に疲労時やストレス状況下では情報処理能力が低下することがあるため、説明や指導を行う際の配慮が必要である。
認知機能の詳細な評価(記憶力、注意力、実行機能など)は情報がないため、必要に応じて簡易的な認知機能検査(MMSEなど)を実施することも検討する。また、治療や病状に関する理解度や、自己管理能力(服薬管理など)についても詳細な評価が必要である。
聴力、視力
A氏の聴力は左右ともに良好であると記載されている。会話によるコミュニケーションに支障はなく、医療者からの説明も聴覚を通じて適切に理解できていると考えられる。高齢者では加齢に伴う聴力低下(特に高音域)が生じやすいが、A氏の場合は顕著な問題はないようである。ただし、環境音が多い状況や複数の人が同時に話す場合には聞き取りにくさを感じる可能性があるため、説明や指導を行う際には静かな環境を確保することが望ましい。
視力については、軽度の老眼があり、近距離の読書時には眼鏡を使用している。これは水晶体の弾力性低下による調節力の減退という加齢に伴う生理的変化である。医療情報(服薬説明書、栄養指導資料など)の提供にあたっては、文字サイズや明るさに配慮し、必要に応じて眼鏡の使用を促す必要がある。また、入院環境では普段と異なる照明条件や距離感があり、視覚情報の認識に影響を与える可能性があるため、環境調整や補助具の活用が重要である。
視力・聴力以外の感覚(触覚、嗅覚、味覚など)についての情報は限られているが、知覚は問題なしと記載されている。ただし、化学療法の副作用として末梢神経障害が生じることがあり、これによる感覚異常(しびれ、痛覚・温度覚の低下など)が出現する可能性がある。また、加齢に伴う味覚・嗅覚の変化は食欲に影響を与えることがあるため、これらの感覚機能についても評価が必要である。
認知機能
A氏の認知機能は正常であると記載されているが、疾患や治療に対する具体的な理解度や、病状の受け止め方については詳細な情報が必要である。A氏は「こんなに食べられなくなるなんて思わなかった」「体重がどんどん減って、このままやせ細ってしまうのではないか」と不安を表出していることから、現在の状態と今後の見通しについての認識が形成されつつあるが、不確かさも感じていると考えられる。
A氏は几帳面で物静かな性格であると記載されており、このような性格特性は情報の処理や意思決定のプロセスに影響を与える。几帳面な性格は治療や生活管理において注意深く取り組む強みとなる一方で、状況の変化や予測できない事態に対してストレスを感じやすい側面もある。このため、治療の経過や副作用について十分な情報提供を行い、予測される変化について準備ができるよう支援することが重要である。
高齢者では新しい情報の学習や記憶の定着に時間を要することがあるため、重要な情報は繰り返し説明し、必要に応じて文書化することが有効である。また、A氏の教師としての経験は学習能力や問題解決能力の強みとなる可能性があり、これを活かした指導アプローチが効果的である。
不安の有無、表情
A氏は現在、複数の不安を表出している。具体的には、「こんなに食べられなくなるなんて思わなかった」「体重がどんどん減って、このままやせ細ってしまうのではないか」と栄養状態の悪化に対する不安や、「治療は続けたいけれど、この副作用はつらい」と治療継続への葛藤が見られる。これらの発言は、現在の身体状況の変化に対する戸惑いや将来への不確かさを反映しており、心理的ストレスの存在を示している。
一方で、「孫の成長をもっと見たい」という希望も語っており、治療への前向きな姿勢も持ち合わせている。このような将来への展望は心理的回復力(レジリエンス)の源泉となり得るものであり、支持すべき重要な側面である。
A氏の表情についての具体的な情報はないが、不安や葛藤を表出していることから、緊張や憂慮の表情が見られる可能性がある。また、倦怠感から日中は横になっていることが多いという状況から、活力の低下が表情にも表れていることが推測される。しかし、毎日短時間のリハビリには積極的に参加していることから、目標に向かう際には意欲的な表情も見られると考えられる。表情の変化は心理状態の重要な指標であるため、継続的な観察と評価が必要である。
A氏の妻は毎日面会に訪れ、好みそうな手作りのゼリーやスープを持参することが多いとの情報があり、このような家族からのサポートはA氏の精神的安定に寄与していると考えられる。妻の前では、A氏がどのような表情や態度を示すかについての観察も、心理状態を評価する上で重要である。
認知-知覚に関する課題と看護介入
A氏の認知-知覚に関する主な課題は、疾患と治療に関連した不安や葛藤、栄養状態の悪化に対する懸念、そして老眼による近距離視力の低下である。これらの課題に対する看護介入として以下が考えられる。
疾患と治療に関連した不安や葛藤に対しては、傾聴を通じて感情表出の機会を提供することが重要である。A氏の不安や心配を否定せず、共感的な態度で受け止め、適切な情報提供を行う。特に、化学療法の副作用とその対処法、治療の見通しなどについて、A氏の理解度に合わせた説明を行う。医師やその他の医療チームメンバーとの情報共有を促進し、一貫性のある説明と支援を提供する。また、「孫の成長をもっと見たい」という希望を支持し、治療の意義や目標を共有することで前向きな姿勢を強化する。
栄養状態の悪化に対する懸念については、現在の栄養状態と改善のための具体的な計画について説明し、A氏が状況を理解し管理に参加できるようにする。体重や食事摂取量の変化を可視化し(グラフ化するなど)、小さな改善も認識できるようにすることで自己効力感を高める。栄養士や医師と連携し、栄養状態改善のための具体的な目標と戦略について、A氏と家族が理解し実践できるよう支援する。
老眼による近距離視力の低下に対しては、説明や指導を行う際に適切な文字サイズと照明を確保し、必要に応じて眼鏡の使用を促す。重要な情報は文書化して提供し、後で確認できるようにする。また、視覚情報だけでなく、聴覚情報も併用することで理解を促進する(説明しながら文書を読み上げるなど)。
認知機能の維持・向上のためには、日常的な知的活動や社会的交流を促進する。具体的には、趣味(園芸など)に関連した話題や活動、家族との交流、簡単なパズルや読書などを取り入れることで認知的刺激を提供する。また、入院環境では時間や場所の見当識が低下することがあるため、カレンダーや時計の設置、日々の予定の説明などを通じて見当識の維持を支援する。
継続的に観察すべき項目としては、不安や葛藤の表出の変化、表情や態度の変化、認知機能の状態(特に疲労時や治療直後)、視力・聴力の変化、化学療法による感覚神経障害の出現(しびれなど)などがある。また、A氏の心理的適応過程を理解し、各段階に応じた支援を提供することが重要である。
退院に向けては、自宅での生活を想定した具体的な指導(服薬管理、栄養管理、症状モニタリングなど)を行い、A氏と家族が自信を持って管理できるよう支援する。特に、A氏の几帳面な性格を活かした自己管理方法の確立を促進し、必要な情報や連絡先を文書化して提供することで安心感を高める。また、外来通院の予定や方法についても具体的に説明し、継続的なケアの確保に努める。
性格
A氏は几帳面で物静かだが、家族や友人との時間を大切にする温和な人柄であると記載されている。この性格特性は長年の教師生活を通じて形成・強化されてきたものと推測され、日常生活の規律正しさや細部への注意深さに表れていると考えられる。几帳面な性格は治療や療養生活において指示を遵守し、自己管理に積極的に取り組む強みとなる一方で、思い通りにならない状況に対してストレスを感じやすい側面もある。現在の入院生活や体調の変化は、A氏の規則正しい生活習慣や自己管理能力に影響を与え、心理的な負担となっている可能性がある。
物静かな性格は、自分の感情や思いを表現することに控えめである可能性を示唆しており、不安や苦痛を積極的に表出しない傾向があるかもしれない。しかし、「こんなに食べられなくなるなんて思わなかった」「体重がどんどん減って、このままやせ細ってしまうのではないか」という不安の表出や、「治療は続けたいけれど、この副作用はつらい」という葛藤の表明からは、現在の状況においては自身の思いを言語化できていることがうかがえる。これは医療者との信頼関係が構築されつつあることを示している可能性がある。
家族や友人との時間を大切にする温和な人柄は、社会的つながりを重視し、対人関係を通じて心理的サポートを得ることができる強みである。妻が毎日面会に訪れ、長男家族も週末に面会に来るという家族の支援は、A氏の社会的結合の重要性を反映している。これらの関係性はA氏の精神的安定と回復への意欲を支える重要な資源となる。
75歳という年齢を考慮すると、長年培ってきた性格特性が安定した自己概念を形成している一方で、加齢に伴う役割や身体機能の変化に適応するプロセスにあると考えられる。特に退職後の生活への適応と新たな自己認識の形成は、現在の疾患体験によって再び挑戦を受けている状況にある。
ボディイメージ
A氏のボディイメージについての直接的な情報は限られているが、「体重がどんどん減って、このままやせ細ってしまうのではないか」という発言から、身体の変化に対する認識と懸念が表れている。入院前65kgであった体重が現在は58kgに減少しており、この7kg(約10.8%)の体重減少は、A氏の身体像に対する認識に大きな影響を与えていると考えられる。
胃癌の診断と幽門側胃切除術は、身体の完全性や機能に対する認識を変化させる体験である。術後の胃容量減少による食事摂取量の制限や、ダンピング症状の出現は、以前は当たり前に行えていた食事という基本的な行為にも影響を与えている。これらの変化はA氏の自己イメージや自己効力感に影響を及ぼしている可能性がある。
化学療法の副作用による倦怠感や筋力低下も、身体能力の低下として体験されており、「少しでも体力をつけたい」という発言からは、身体機能の回復への願望と、現在の状態を一時的なものとして捉える適応的な認識が表れている。
加齢に伴う身体変化と疾患による変化が重なることで、ボディイメージの調整はより複雑なプロセスとなる。高齢者においては、身体機能の低下や外見の変化に対する心理的適応が既に進行している場合もあるが、急激な疾患や治療による変化は新たな適応課題をもたらす。A氏のボディイメージに関するより詳細な評価(身体の変化に対する感情、自己認識の変化、対処方法など)が必要である。
疾患に対する認識
A氏の疾患に対する認識については、「治療は続けたいけれど、この副作用はつらい」という発言から、治療の必要性を理解しつつも、実際の体験に基づく葛藤が生じていることがうかがえる。また、「孫の成長をもっと見たい」という希望を語っていることから、治療を通じて生存期間を延長することへの前向きな意欲も持っていると考えられる。
胃癌ステージⅢという診断がA氏にどのように伝えられ、理解されているかについての詳細な情報は不足している。特に病期や予後に関する認識、治療計画(S-1による術後補助化学療法を合計6コース継続する予定)についての理解度、副作用と期待される効果のバランスに関する認識などについての評価が必要である。
疾患の受容過程は個人によって異なるが、一般的にはショック、否認、怒り、抑うつ、交渉、適応などの段階を経るとされる。A氏の場合、「こんなに食べられなくなるなんて思わなかった」という発言からは、現実の変化に直面する中での戸惑いがうかがえるが、同時に「少しでも体力をつけたい」という前向きな発言もあり、適応に向けたプロセスが進行していると考えられる。
高齢者においては、これまでの人生で培った対処能力や価値観が疾患体験の受け止め方に影響を与える。A氏の場合、教師としての経験や几帳面な性格が、情報の理解や治療への取り組み方に反映されている可能性がある。また、家族の存在は疾患に立ち向かう精神的支柱となっていると推測される。
自尊感情
A氏の自尊感情に関する直接的な情報は限られているが、定年まで中学校教師として勤務していたという職歴は、社会的役割や専門性を通じた自己価値の形成に寄与していたと考えられる。教師という職業は知識の伝達や次世代の育成に関わる重要な社会的役割であり、これまでの職業生活を通じて形成された自己価値感は、現在の疾患体験においても支えとなり得る。
現在の状況においては、体重減少や体力低下、食事摂取量の減少など、自立性や自己効力感に影響を与える変化が生じており、これらがA氏の自尊感情にどのような影響を与えているかについての評価が必要である。特に、日常生活動作における自立度の変化(歩行に手すりや歩行器を使用する、シャワー浴は看護師の見守りが必要になるなど)は、自己効力感に影響を与える可能性がある。
「少しでも体力をつけたい」という発言とリハビリへの積極的な参加は、自己の状態を改善したいという自律性と自己効力感の表れである。この自律的な動機づけを支持し、小さな達成感を積み重ねることで自尊感情を維持・向上させることが重要である。
高齢期には役割の喪失や身体機能の低下などが自尊感情に影響を与えることがあるが、A氏の場合は家族との関係性や趣味の園芸など、新たな価値や意義を見出す資源を持っていると考えられる。これらの資源を活かし、現在の状況においても自己価値を維持できるような支援が必要である。
育った文化や周囲の期待
A氏の育った文化的背景や価値観に関する具体的な情報は不足しているが、75歳という年齢から推測すると、戦後の復興期を青少年期に過ごし、高度経済成長期に社会人として活躍した世代である。この世代は勤勉さや忍耐強さ、集団への貢献などを重視する価値観が特徴的である場合が多い。
A氏が教師という職業を選択したことは、教育や知識の伝達を価値あるものとする文化的背景を示唆している。また、几帳面な性格特性も、規律正しさや精確さを重視する文化的価値観と関連している可能性がある。これらの価値観は治療や療養における態度(指示の遵守、自己管理への取り組みなど)にも反映されると考えられる。
周囲の期待については、妻や長男家族との関係性が重要な要素となる。妻は毎日面会に訪れ、A氏の好みそうな手作りのゼリーやスープを持参しており、A氏の回復を強く願っていることがうかがえる。また、「家に帰ってきたら、少しでも食べられるものを工夫して作りたい」との発言からは、妻の支援的な態度と期待が表れている。長男家族も週末に面会に来て「父の病状について詳しく知りたい」と医療者に質問しており、A氏の回復に対する関心と期待を示している。
家族からの期待はA氏にとって心理的サポートとなる一方で、期待に応えようとするプレッシャーとなる可能性もある。特に、「家族や友人との時間を大切にする」A氏にとって、家族の期待に応えることは重要な価値である可能性が高く、治療に前向きに取り組む動機づけとなっていると考えられる。
特定の信仰はないが、家族との絆を大切にしているとの情報からは、家族を中心とした関係性や責任を重視する価値観がうかがえる。これらの価値観や期待がA氏の治療への取り組みや意思決定にどのように影響しているかについての詳細な評価が必要である。
自己知覚-自己概念に関する課題と看護介入
A氏の自己知覚-自己概念に関する主な課題は、疾患と治療による身体的変化(体重減少、体力低下など)に伴うボディイメージの変化、治療の副作用と効果のバランスに関する葛藤、および自立性と自己効力感の維持である。これらの課題に対する看護介入として以下が考えられる。
ボディイメージの変化に対しては、A氏の感情表出を促し、変化に対する認識や感情を理解することが重要である。具体的には、体重減少や体力低下に対する不安を表出できる機会を提供し、これらの変化が治療過程の一部であり一時的なものであることを伝える。また、栄養状態の改善や体力回復に向けた具体的な計画を共有し、A氏が自身の状態の変化を客観的に把握できるよう支援する(体重や食事摂取量の記録など)。さらに、外見や機能の変化に適応するための実践的なアドバイス(少量頻回の食事方法、疲労時の活動調整など)を提供する。
治療の副作用と効果のバランスに関する葛藤に対しては、A氏の治療に対する理解度を評価し、必要に応じて追加の情報提供を行う。特に、術後補助化学療法の目的と期待される効果、副作用の種類と対処法、治療計画の全体像などについて、A氏の理解度に合わせた説明を提供する。また、「孫の成長をもっと見たい」という希望を支持し、治療の意義を個人的な目標と結びつけることで動機づけを強化する。治療に関する意思決定においてはA氏の自律性を尊重し、医療者との対話を通じて最適な選択ができるよう支援する。
自立性と自己効力感の維持に関しては、A氏のできることとできないことを明確にし、できる範囲での自己管理や意思決定への参加を促進する。具体的には、体調や疲労度に応じた活動計画の立案に参加してもらい、達成可能な目標設定と成功体験の積み重ねを通じて自己効力感を高める。また、治療や療養に関する情報提供を行い、A氏が状況を理解し管理に参加できるようにする。A氏の强みである几帳面さや教師としての経験を活かし、症状や食事内容などの記録を自己管理の一部として取り入れることも有効である。
社会的役割と価値の維持については、入院中でも家族や友人との交流を促進し、社会的つながりを維持できるよう支援する。妻や長男家族の面会時には、A氏が家族との時間を十分に楽しめるよう配慮する。また、A氏の趣味である園芸に関連した話題や活動(園芸雑誌を読む、窓辺で小さな植物を育てるなど)を取り入れることで、意義と楽しみを維持する。A氏の経験や知識を尊重する態度で接し、自己価値感を支持する。
継続的に観察すべき項目としては、ボディイメージの認識の変化、自己効力感や自尊感情の状態、治療に対する理解と認識の変化、家族との関係性と期待の影響などがある。特に、体重や体力の回復に伴う自己認識の変化や、治療の経過に応じた心理的適応の過程を評価することが重要である。
退院に向けては、A氏の自己管理能力と自信を高めるための準備を進める。具体的には、自宅での生活を想定した自己管理の練習(食事管理、副作用モニタリング、活動調整など)を行い、成功体験を積み重ねる。また、A氏と家族が利用できる社会的資源(訪問看護、通所リハビリなど)について情報提供し、必要に応じて連携を調整する。自宅での役割や日常的な楽しみ(園芸など)の再開についても計画し、意義ある生活の維持・再構築を支援する。
職業、社会役割
A氏は定年まで中学校の教師として勤務していたが、現在は退職して自宅で趣味の園芸を楽しんでいた。教師という職業は知識の伝達や人材育成という重要な社会的役割を担っており、A氏のアイデンティティ形成に大きく影響していると考えられる。長年にわたる教職経験は、規律正しい生活習慣や几帳面な性格特性の形成にも寄与している可能性がある。また、教師という職業は社会的な尊敬を受ける立場であり、A氏の自尊心や自己効力感の基盤となっていたと推測される。
退職後は趣味の園芸を通じて自己実現や創造的活動に取り組んでいたことが窺える。園芸は植物の成長を見守り育てるという点で、教師としての役割と共通する要素があり、退職後も生産的で意義ある活動を継続していたと考えられる。このような趣味活動は、高齢期における役割移行や社会的アイデンティティの再構築を支える重要な要素となる。
現在の入院生活においては、これらの社会的役割や趣味活動が制限されており、役割喪失感や無力感を感じる可能性がある。しかし、「少しでも体力をつけたい」との発言とリハビリへの積極的な参加からは、回復して以前の活動を再開したいという意欲が見られる。これはA氏が自分の役割や活動に対して価値を置いており、それらを取り戻すことを目標としていることを示している。
地域社会や友人関係における役割については具体的な情報がないが、「家族や友人との時間を大切にする温和な人柄」との記述から、社交的な関係性を維持してきたことが推測される。教師という職業柄、元生徒や同僚との関係も維持している可能性があり、これらの社会的ネットワークがA氏の心理的サポートとなっているかどうかについての情報収集が必要である。
家族の面会状況、キーパーソン
A氏の家族構成は妻(72歳)との二人暮らしで、長男家族は隣県に住んでいる。キーパーソンは妻である。妻は毎日面会に訪れ、A氏の好みそうな手作りのゼリーやスープを持参することが多い。この行動からは、妻がA氏の嗜好や好みを理解し、栄養状態の改善に積極的に協力しようとする姿勢が見られる。妻は「夫の体重が減っていくのを見るのはつらい」と看護師に打ち明けることもあるが、A氏の前では明るく振る舞い、励ましている。また、「家に帰ってきたら、少しでも食べられるものを工夫して作りたい」と前向きな発言も見られる。これらの言動から、妻はA氏の状況に対して心配や不安を感じながらも、積極的にサポートしようとする強い意欲を持っていることが分かる。
長男家族は週末に面会に来ることが多く、「父の病状について詳しく知りたい」と医療者に質問する場面も見られる。長男家族は隣県に住んでいるため毎日の面会は難しいが、週末という時間を確保して定期的に面会に訪れていることは、家族の結束力の強さを示している。また、病状について詳しく知りたいという姿勢は、A氏の治療や回復に対する関心と責任感を表している。
家族全体としては、A氏の治療と回復を最優先に考えており、医療者との協力関係は良好である。このような家族のサポート体制はA氏の心理的安定と回復意欲に大きく寄与している。特に妻の毎日の面会は、A氏にとって精神的な支えとなり、治療を継続する動機づけにもなっていると考えられる。
75歳という年齢を考慮すると、A氏と妻(72歳)はともに高齢であり、互いにサポートし合いながら生活している状況が想定される。妻自身の健康状態や介護負担については情報がないが、毎日の面会を継続できていることから、現時点では妻の体力や健康状態は比較的良好であると推測される。しかし、今後の治療継続や退院後の生活を考える上では、妻の負担や支援体制についても評価が必要である。
経済状況
A氏の経済状況についての具体的な情報は不足している。定年まで中学校教師として勤務していたことから、公的年金(厚生年金や共済年金)を受給している可能性が高く、ある程度の経済的基盤はあると推測される。また、胆石症で腹腔鏡下胆嚢摘出術の既往があることから、医療保険に加入していると考えられるが、具体的な保険の種類や適用範囲については情報がない。
現在の胃癌治療に関わる医療費や、その家計への影響についての情報も不足している。A氏の年齢(75歳)を考慮すると、後期高齢者医療制度の対象となっており、一定の医療費負担軽減が適用されると考えられるが、治療の長期化や高額な医療費の発生により、経済的な不安や負担が生じている可能性もある。
家族構成は妻との二人暮らしであり、妻(72歳)も年金受給年齢に達していると考えられるが、妻の就労状況や収入については情報がない。長男家族は隣県に住んでおり、経済的な支援関係についても情報が必要である。
A氏と妻の生活様式や住居環境、資産状況など、経済状態を把握するための情報が不足しているため、今後の治療継続や退院後の生活支援を計画する上で、経済状況についての詳細な情報収集が必要である。特に、今後予定されているS-1による術後補助化学療法(合計6コース、1年間)の治療費や、栄養状態改善のための食事療法に伴う費用、退院後の通院や介護サービス利用に関連する費用などについて、A氏と家族の経済的負担を評価し、必要に応じて社会資源の活用や経済的支援の検討が重要である。
役割-関係に関する課題と看護介入
A氏の役割-関係に関する主な課題は、疾患と治療による社会的役割や活動の制限、家族(特に妻)の介護負担と支援体制、および長期治療による経済的影響である。これらの課題に対する看護介入として以下が考えられる。
疾患と治療による社会的役割や活動の制限に対しては、入院中でも可能な役割や活動を維持・創出することが重要である。具体的には、A氏の経験や知識を活かした活動(読書や知的活動など)を促進し、病院内での小さな責任(植物の水やりなど)を担ってもらうことで、有用感を維持する。また、退院後の生活を見据えて、徐々に以前の役割や活動(園芸など)を再開するための計画を立案する。A氏の「少しでも体力をつけたい」という意欲を支持し、リハビリテーションや日常生活動作の改善を通じて自己効力感を高める。社会的交流を維持するために、家族や友人との交流時間を確保し、必要に応じて電話やオンラインでのコミュニケーションも支援する。
家族(特に妻)の介護負担と支援体制に関しては、まず妻の健康状態と負担感を評価し、適切なサポートを提供することが必要である。具体的には、妻が毎日面会に来ていることによる身体的・精神的負担を評価し、必要に応じて休息や自己ケアの重要性を伝える。妻の「夫の体重が減っていくのを見るのはつらい」という感情を受け止め、心理的サポートを提供する。また、A氏の栄養管理や症状対応について妻に適切な情報と技術を提供し、自信を持ってケアに参加できるよう支援する。長男家族との協力体制を強化するために、情報共有の機会を設け、退院後のサポート役割について家族間で話し合う機会を提供する。地域の介護保険サービスや医療サービス(訪問看護、通所リハビリなど)についての情報提供も重要である。
経済的影響に関しては、まずA氏と家族の経済状況を詳細に把握することが必要である。具体的には、収入源(年金など)、医療保険の種類と適用範囲、治療費の自己負担額、生活費などについての情報を収集する。必要に応じて医療ソーシャルワーカーと連携し、高額療養費制度や介護保険制度などの利用可能な社会保障制度についての情報提供と申請支援を行う。また、経済的な理由で治療や支援サービスの利用を控えることがないよう、費用対効果のバランスや優先順位について相談に応じる。
継続的に観察すべき項目としては、A氏の社会的役割意識の変化、家族関係の変化(特に妻のストレスや負担感)、経済状況の変化などがある。また、退院後の生活を見据えて、A氏と家族のニーズや課題を定期的に評価し、必要に応じて支援計画を修正することが重要である。
退院に向けては、A氏と家族が利用できる地域資源(医療機関、介護サービス、患者会など)についての情報提供を行い、必要に応じて連携を調整する。特に、治療を継続しながらの日常生活の再構築に向けて、具体的な計画と準備を支援する。A氏の強みである几帳面さや教育者としての経験を活かし、自己管理能力を育成するとともに、家族全体のレジリエンス(回復力)を強化する関わりが重要である。
年齢、家族構成、更年期症状の有無
A氏は75歳の男性であり、妻(72歳)との二人暮らしである。長男家族は隣県に住んでいる。A氏には孫がいることが「孫の成長をもっと見たい」という発言から推測される。家族構成からは、夫婦としての長い歴史があり、長男を育て上げ、現在は夫婦二人での生活を送っていると考えられる。長男家族は隣県に住んでおり、週末に面会に訪れるなど、一定の関係性を維持していることがうかがえる。
A氏の家族構成や家族関係は良好であることが情報から読み取れるが、性生活や性的関心、性に関する価値観などの情報は不足している。また、更年期症状の有無についての直接的な情報も記載されていない。男性の場合、加齢に伴って男性ホルモン(テストステロン)の分泌が徐々に減少する「加齢性男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)」が起こることがあるが、A氏にこのような症状があるかどうかについての情報は不足している。
75歳という年齢を考慮すると、加齢に伴う生理的変化として、性ホルモンの減少、性機能の変化(勃起力の低下、性欲の変化など)が生じている可能性がある。これらの変化は個人差が大きく、また文化的背景や価値観、健康状態、パートナーとの関係性などによっても大きく影響を受ける。A氏の場合、胃癌の診断と手術、化学療法などの治療過程は、身体的・心理的ストレスや倦怠感をもたらし、性的関心や機能に影響を与えている可能性がある。
現在のA氏は体重減少(入院前65kg、現在58kg)や貧血(Hb 10.2g/dL)、倦怠感、食欲不振などの症状があり、また化学療法による副作用も経験している。これらの身体的変化や症状は性機能や性的関心に影響を及ぼす可能性が高い。特に、全身状態の低下は性的活動への意欲や能力に大きく影響する。また、入院という環境も夫婦の親密さや性的表現の機会を制限する要因となる。
A氏の妻は72歳であり、女性の場合、閉経後の生理的変化として膣の乾燥や萎縮、性的反応の変化などが生じることがある。これらの変化が夫婦の性生活にどのような影響を与えているかについての情報も不足している。
性に関する話題は文化的に繊細であり、特に高齢者の場合は医療者側からの積極的な情報収集が行われにくい傾向がある。しかし、性は人間の基本的ニーズであり、年齢に関わらず重要な側面である。A氏と妻の関係性や親密さの表現方法、疾患や治療が夫婦関係に与える影響などについて、適切なタイミングと方法で情報収集を行うことが必要である。
また、A氏の性に関する価値観や信念、性的健康についての関心や懸念、疾患や治療が性生活に与える影響についての認識なども、アセスメントに含めることが望ましい。特に、「家族や友人との時間を大切にする温和な人柄」との情報から、A氏は対人関係を重視する傾向があると考えられ、妻との関係性や親密さも重要な価値である可能性が高い。
性-生殖に関する課題と看護介入
A氏の性-生殖に関する情報は限られているが、考えられる課題は、疾患と治療による身体的変化や症状が性機能や性的表現に与える影響、および入院環境における夫婦の親密さの維持である。これらの課題に対する看護介入として以下が考えられる。
まず、性に関する話題は文化的に繊細であり、特に高齢者の場合は自発的に話題にすることが少ない。そのため、適切なタイミングと環境を選んで、A氏が性や親密さに関する懸念や疑問を表出できる機会を提供することが重要である。特に、疾患や治療が性生活に与える影響について質問がある場合には、正確で具体的な情報を提供する。例えば、手術の影響や化学療法の副作用が性機能に与える影響、回復過程での注意点などについての情報は、A氏の不安軽減や適応を助けることができる。
また、入院環境においても夫婦の親密さを維持できるよう配慮することが重要である。具体的には、妻の面会時には可能な限りプライバシーを確保した環境を提供し、二人だけの時間を大切にできるよう配慮する。また、親密さの表現は性的行為だけでなく、会話や身体的接触(手を握る、抱擁するなど)、共に過ごす時間など多様であることを認識し、これらの表現方法を支援する。A氏の妻は毎日面会に訪れており、この時間が夫婦の絆やつながりを維持する重要な機会となっていると考えられる。
加齢に伴う性機能や性的反応の変化に適応するための情報提供や助言も有効である。個別性を重視しながら、年齢に関わらず親密さや性的表現は重要な人間のニーズであること、加齢に伴い性的表現の方法が変化することは自然であることなどを伝え、夫婦の関係性や価値観に合った親密さの表現方法を見出せるよう支援する。
また、A氏の全身状態の改善も性的健康に寄与する重要な要素である。栄養状態の改善、倦怠感の軽減、貧血の改善などは、性的活力や関心の回復にも影響を与える。治療の副作用管理や症状緩和、全身状態の回復を目指したケアは、間接的に性的健康の支援にもなり得る。
退院に向けては、自宅での生活再開に向けた準備の一環として、必要に応じて夫婦の親密さや性生活に関する相談に応じる姿勢を示す。特に、治療の継続(S-1による術後補助化学療法を合計6コース)が予定されている中で、副作用や症状が夫婦関係に与える影響を最小限にするための支援が重要である。
継続的に観察すべき項目としては、A氏と妻の関係性や交流の質、A氏の身体的・心理的状態の変化が性的健康や夫婦関係に与える影響、必要に応じて性や親密さに関する質問や懸念の表出などがある。これらの観察を通じて、A氏と妻の関係性や親密さを支える適切な支援を継続的に提供することが重要である。
性に関する話題はプライバシーに関わる繊細な領域であり、A氏の価値観や文化的背景、個別性を尊重した配慮ある関わりが必要である。情報収集や介入においては、A氏が心地よいと感じるペースや方法を優先し、不必要な侵襲性を避けることが重要である。看護者は、性的健康が全人的健康の一部であるという認識を持ちながらも、個々の患者にとっての意味や価値を尊重する姿勢で関わることが求められる。
入院環境
A氏の入院環境に関する具体的な情報(病室の種類、ベッドの位置、病室の快適さなど)は限られているが、現在は再入院の状況であり、栄養状態の改善と副作用管理を目的としている。一度退院を経験した後の再入院であるため、病院環境自体には一定の馴染みがあると考えられるが、再び入院となったことによる心理的負担も推測される。特に「こんなに食べられなくなるなんて思わなかった」「体重がどんどん減って、このままやせ細ってしまうのではないか」という不安の表出は、再入院に至った状況への戸惑いを反映している可能性がある。
入院環境は自宅とは異なる生活パターンや制約があり、特に中学校教師として規律正しい生活を送ってきたA氏にとっては、病院の日課やルールへの適応が求められる。入院中のA氏の日常は、倦怠感から横になっていることが多いものの、「少しでも体力をつけたい」という思いから毎日短時間のリハビリには積極的に参加している状況である。この積極性はA氏の回復への意欲と前向きな対処姿勢を示している。
入院環境で注目すべき点として、夜間の睡眠状況がある。A氏は夜間の疼痛や不安感から入眠困難を訴え、夜間のトイレのために中途覚醒があり、リスミー錠1mgを状態に応じて就寝前に内服している。入院前は就寝時間21時、起床時間6時と規則正しい生活を送っており、この睡眠パターンの変化はストレス要因となっている可能性がある。また、A氏は75歳と高齢であり、加齢による適応能力の変化も考慮する必要がある。高齢者は環境変化への適応に時間を要することがあり、病院という不慣れな環境でのストレスが増強されることがある。
入院環境における社会的交流としては、妻が毎日面会に訪れ、長男家族も週末に面会に来ることが多いという状況がある。この家族の訪問はA氏の精神的サポートとなり、入院環境におけるストレス緩和に寄与していると考えられる。
仕事や生活でのストレス状況、ストレス発散方法
A氏は定年まで中学校の教師として勤務し、現在は退職している。教師という職業は責任が重く、生徒や保護者、同僚との関係性など多面的なストレス要因がある仕事であり、長年のキャリアを通じてストレス対処能力を培ってきたと推測される。退職後は自宅で趣味の園芸を楽しんでいたことから、園芸がストレス発散や自己実現の手段となっていた可能性がある。植物の成長を見守り育てる園芸活動は、忍耐力や継続性を必要とするとともに、自然とのつながりや創造的活動を通じた満足感をもたらすものであり、A氏の精神的健康に寄与していたと考えられる。
現在の主なストレス要因としては、胃癌の診断と治療、化学療法の副作用(食欲不振、倦怠感、口内炎など)、体重減少(7kg、約10.8%)や体力低下による不安が挙げられる。特に「治療は続けたいけれど、この副作用はつらい」という発言からは、治療継続の必要性を理解しながらも、副作用による苦痛との葛藤を抱えていることがうかがえる。この葛藤はA氏にとって重大なストレス要因であり、心理的適応を必要とする課題である。
A氏のストレス対処スタイルについての直接的な情報は限られているが、「几帳面で物静かだが、家族や友人との時間を大切にする温和な人柄」という性格特性から、内省的でありながらも社会的支援を重視する傾向があると推測される。几帳面な性格は問題を体系的に分析し対処する強みとなる一方で、状況が制御不能と感じられる場合には不安やストレスが増強される可能性もある。
現在の入院環境におけるストレス発散方法についての具体的な情報は不足しているが、リハビリへの積極的な参加は身体活動を通じたストレス発散の一形態と捉えることができる。また、家族との交流も重要な精神的サポートとなっている。しかし、入院による制約の中では、以前のように園芸などの趣味活動を通じたストレス発散が難しい状況にあり、代替的なストレス対処法を見出す必要がある。
75歳という年齢を考慮すると、加齢に伴うストレス対処能力の変化も影響している可能性がある。高齢者は長年の人生経験を通じて培った知恵や対処法を持つ一方で、身体的な回復力や適応能力の低下により、ストレスからの回復に時間を要することがある。また、退職や子どもの独立など、ライフステージの変化に伴う役割の喪失や再定義も、ストレス対処のあり方に影響を与える要因である。
家族のサポート状況、生活の支えとなるもの
A氏の最も重要なサポート源は家族、特に妻である。妻は72歳でキーパーソンとなっており、毎日面会に訪れA氏の好みそうな手作りのゼリーやスープを持参することが多い。この行動は単なる食事の提供以上の意味を持ち、妻のA氏への深い思いやりと配慮を示している。妻は「夫の体重が減っていくのを見るのはつらい」と看護師に打ち明けることもあるが、A氏の前では明るく振る舞い、励ましている。また、「家に帰ってきたら、少しでも食べられるものを工夫して作りたい」と前向きな発言も見られる。これらの言動からは、妻がA氏の回復を強く願い、積極的にサポートしようとする姿勢がうかがえる。
長男家族も週末に面会に来ることが多く、「父の病状について詳しく知りたい」と医療者に質問するなど、A氏の状態に関心を持ち支援しようとしている。家族全体としては、A氏の治療と回復を最優先に考えており、医療者との協力関係も良好である。このような家族のサポートはA氏の心理的安定と回復意欲に大きく寄与していると考えられる。
A氏の生活の支えとなるものとしては、家族との関係性以外にも、「孫の成長をもっと見たい」という発言から推測されるように、孫の存在が重要な意味を持っていると考えられる。この発言は、A氏が将来への希望や目標を持っていることを示しており、治療を継続する動機づけともなっている。
また、趣味の園芸は退職後のA氏の生活に意義と楽しみをもたらしていたと推測される。園芸は生命を育む活動であり、日々の成長を見守る喜びや達成感、自然とのつながりを感じられる活動である。現在の入院環境では園芸活動を行うことは難しいが、回復後に再び趣味に取り組める展望が、A氏の回復意欲を支える要素となっている可能性がある。
特定の信仰はないが、家族との絆を大切にしていることが記載されており、これはA氏の価値観や生きがいの源泉を示している。「家族や友人との時間を大切にする温和な人柄」という特性は、A氏の対人関係を通じた精神的充足の重要性を示唆している。
A氏のストレス対処において、具体的にどのような思考パターンや行動様式を用いているか、精神的な支えとなる信念や価値観は何か、社会的支援ネットワーク(友人関係など)の状況はどうかなど、より詳細な情報収集が必要である。特に、現在の危機的状況にどのように対処しようとしているか、過去のストレス状況でどのように乗り越えてきたかなどの情報は、個別化されたサポート計画を立案する上で重要である。
コーピング-ストレス耐性に関する課題と看護介入
A氏のコーピング-ストレス耐性に関する主な課題は、疾患と治療による身体的・心理的ストレス、入院環境におけるストレス発散手段の制限、および今後の治療継続に伴う長期的な適応である。これらの課題に対する看護介入として以下が考えられる。
疾患と治療によるストレスに対しては、まずA氏の不安や懸念を表出できる機会を提供することが重要である。A氏の「こんなに食べられなくなるなんて思わなかった」「体重がどんどん減って、このままやせ細ってしまうのではないか」という不安や、「治療は続けたいけれど、この副作用はつらい」という葛藤に対して、傾聴と共感的理解を示し、感情表出を促進する。また、疾患や治療に関する正確な情報提供を行い、不確かさによる不安を軽減する。具体的には、治療の見通しや予想される副作用とその対処法、栄養状態改善のための具体的な計画などについて、A氏の理解度に合わせた説明を行う。認知的再構成法を用いて、状況に対するより適応的な見方や解釈を見出す手助けをすることも有効である。例えば、体重減少を一時的な治療過程の一部として捉え、徐々に改善していくことの見通しを持てるよう支援する。
入院環境におけるストレス発散手段の制限に対しては、病院内でも実施可能なストレス管理技法を紹介し実践を支援する。具体的には、リラクセーション法(深呼吸、漸進的筋弛緩法など)、気分転換となる活動(読書、音楽鑑賞、軽い手工芸など)、A氏の趣味である園芸に関連した活動(園芸雑誌を読む、窓辺で小さな植物を育てるなど)を取り入れる。また、家族との交流時間を大切にし、面会時間が充実したものとなるよう環境を整える。A氏が「少しでも体力をつけたい」と積極的にリハビリに参加していることを支持し、達成感や自己効力感を得られるよう支援する。短期的な目標設定と達成の確認を通じて、進歩を実感できるようにすることも重要である。
長期的な適応に向けては、段階的な目標設定と対処戦略の開発を支援する。S-1による術後補助化学療法は合計6コース(1年間)継続する予定であり、長期にわたる治療過程に適応していくための準備が必要である。具体的には、治療スケジュールの見通しを持てるようカレンダーを作成したり、各段階での目標や予想される課題について話し合ったりすることが有効である。また、A氏が持つ強み(几帳面さ、教師としての経験、家族のサポートなど)を活かした対処法を一緒に考え、自己効力感を高める。「孫の成長をもっと見たい」という希望を支持し、治療を継続する意義や動機づけを強化することも重要である。
家族を含めた支援体制の強化も重要な介入である。妻は毎日面会に訪れ、積極的にサポートしているが、この状況が妻自身の負担にならないよう配慮する必要がある。妻の「夫の体重が減っていくのを見るのはつらい」という感情を受け止め、妻自身のストレスケアも支援する。また、家族全体での協力体制を整えるため、長男家族も含めた情報共有や、役割分担の調整を支援する。退院後の生活を見据えた準備として、自宅での療養生活や外来通院の継続に関する具体的な計画を家族と共に立案する。
継続的に観察すべき項目としては、A氏のストレス反応の変化(不安や抑うつ症状の出現など)、対処行動の適応性、家族(特に妻)のストレスと対処状況、治療経過に応じた心理的適応の変化などがある。また、退院後の生活再開に向けて、自宅での対処資源や支援体制の整備状況も評価する必要がある。
A氏は75歳という高齢であり、加齢に伴う適応能力の変化も考慮した支援が必要である。高齢者は長年の人生経験を通じて培った知恵や強みを持つ一方で、新たなストレス状況への適応に時間を要することがある。焦らずに段階的な適応を支援し、個々のペースを尊重することが重要である。また、A氏の身体的回復(栄養状態の改善、副作用の軽減など)はストレス対処能力の向上にも寄与するため、身体的ケアと心理的支援を統合的に提供することが求められる。
信仰、意思決定を決める価値観/信念、目標
A氏の信仰については、「特定の信仰はないが、家族との絆を大切にしている」との記載がある。特定の宗教的信仰はないものの、家族との絆を重視する価値観が精神的支柱となっていることがうかがえる。このような価値観は日本の伝統的な家族観や集団主義的文化背景を反映しており、個人の健康や幸福を家族全体の文脈の中で捉える傾向を示している。A氏は75歳であり、戦後の日本社会で育ち、高度経済成長期を生きた世代として、勤勉さや責任感、家族への献身などの価値観が形成されてきたと推測される。
意思決定を決める価値観や信念については直接的な記載は少ないが、いくつかの言動から推測することができる。「治療は続けたいけれど、この副作用はつらい」という発言からは、健康回復への強い願望と苦痛との間での葛藤が見られる。ここからは、A氏が健康価値を重視しながらも、生活の質も同時に考慮している様子がうかがえる。また、「孫の成長をもっと見たい」という希望からは、家族との時間や関係性を重視する価値観が表れている。このような家族中心の価値観は、治療継続の重要な動機づけとなっていると考えられる。
A氏は「几帳面で物静かだが、家族や友人との時間を大切にする温和な人柄」と描写されている。几帳面な性格は秩序や規律、正確さを重視する価値観と関連しており、これは長年の教師としての職業経験とも結びついていると推測される。物静かでありながらも家族や友人との時間を大切にする姿勢からは、内省的であると同時に対人関係の質を重視する傾向がうかがえる。また、「少しでも体力をつけたい」との発言から、自立性や自己効力感を重視する価値観も持ち合わせていると考えられる。
目標については、短期的には「少しでも体力をつけたい」という身体機能の回復が挙げられる。中長期的には「孫の成長をもっと見たい」という家族との時間の共有が重要な目標として表れている。これらの目標は、身体的回復と家族との関係性継続という二つの重要な価値を反映している。特に「孫の成長をもっと見たい」という願望は、自分の人生の継続性や世代間のつながりを重視する価値観を示しており、治療を継続する強い動機づけとなっていると考えられる。
A氏は定年まで中学校の教師として勤務していた経歴を持ち、教育者としての価値観や信念も形成されていると推測される。教師という職業は、知識の伝達だけでなく、次世代の育成や社会的責任を担う役割であり、これらの経験がA氏の価値観形成に影響を与えていると考えられる。退職後は趣味の園芸を楽しんでいたことからは、自然とのつながりや創造的活動、育成という価値を大切にしている側面も見られる。
A氏が胃癌の診断と治療をどのように受け止め、意味づけているかについての詳細な情報は不足している。疾病体験は個人の価値観や人生観に大きな影響を与えることがあり、A氏が現在の状況をどのように意味づけ、何を学び、どのように成長しようとしているかについての評価が必要である。また、治療に関する意思決定(手術を受ける決断、化学療法を継続する決断など)においてどのような価値基準を重視しているか、家族の意見をどの程度参考にしているかなども重要な情報である。
高齢者の場合、長年の人生経験を通じて価値観や信念が確立されており、これらは比較的安定している傾向がある。一方で、重篤な疾患の診断や治療体験は、これまでの価値観や信念を再評価する契機ともなり得る。特に、有限性の認識や優先順位の変化などが生じることがある。A氏の場合、胃癌の診断と治療体験が価値観や人生観にどのような影響を与えているかについての詳細な評価が必要である。
また、A氏の死生観や人生の終末期に関する考え方、治療の目標や限界についての考え方などについての情報も不足している。これらの情報は、今後の治療方針決定や終末期ケアプランニングにおいて重要であり、適切なタイミングと方法で評価することが必要である。
価値-信念に関する課題と看護介入
A氏の価値-信念に関する主な課題は、疾病体験の意味づけと統合、治療の継続と生活の質のバランス、および将来への希望と現実的な見通しの調和である。これらの課題に対する看護介入として以下が考えられる。
疾病体験の意味づけと統合に関しては、A氏が自分の病いをどのように理解し、人生の文脈の中でどのように位置づけているかを探る対話の機会を提供することが重要である。具体的には、傾聴を通じてA氏の病気に対する認識や感情、これまでの人生観や価値観との関連性を理解する。A氏が「治療は続けたいけれど、この副作用はつらい」と表現している葛藤について、より深く探求し、どのような価値基準で判断しようとしているかを明らかにする。また、A氏が教師として培ってきた経験や知恵が、現在の困難にどのように活かされているかを認識し、強化することも有効である。必要に応じて、疾病体験を通じての意味や学び、成長の可能性を見出すナラティブアプローチを取り入れることも考えられる。
治療の継続と生活の質のバランスに関しては、A氏の価値観と優先順位を尊重した意思決定支援を行うことが重要である。具体的には、治療の目的や期待される効果、考えられるリスクや副作用について十分な情報提供を行い、A氏が自分の価値観に基づいた選択ができるよう支援する。特に、S-1による術後補助化学療法を合計6コース(1年間)継続する予定に対して、A氏がどのように感じ、何を重視しているかについて理解を深める。A氏の「孫の成長をもっと見たい」という願望は治療継続の重要な動機づけとなっており、この価値を支持しながらも、副作用による苦痛を最小限にする方策を共に考える。治療と日常生活のバランスを調整するための具体的な計画を立案し、A氏が重視する活動(家族との時間、可能であれば趣味の園芸など)を可能な限り継続できるよう工夫する。
将来への希望と現実的な見通しの調和に関しては、A氏の「孫の成長をもっと見たい」という希望を支持しながらも、病状や治療の現実に即した期待形成を支援することが重要である。具体的には、治療の見通しや回復過程について正確な情報を提供し、A氏が現実的な期待を形成できるよう支援する。同時に、今この瞬間の意味や価値を見出す支援も重要である。例えば、妻の面会時間を充実させる工夫、写真や手紙などを通じた孫とのつながりの維持、短期的な目標達成の喜びを共有するなどが考えられる。スピリチュアルケアの視点から、A氏の内的資源や強みを認識し、困難な状況の中でも希望や意味を見出せるよう支援する。
家族との絆を重視するA氏の価値観を踏まえ、家族全体を支援の対象として捉えることも重要である。妻や長男家族がA氏の価値観や希望を理解し、それを支えられるよう促進する。また、家族内でのオープンなコミュニケーションを奨励し、互いの価値観や期待を共有できる機会を提供する。特に、妻がA氏の前では明るく振る舞い、励ましている状況を考慮し、妻自身の感情表出や価値観の尊重も重要である。
75歳という年齢を考慮し、これまでの人生で培われた価値観や信念を尊重する姿勢で関わることが基本となる。高齢者の場合、長年の経験を通じて形成された価値観や対処戦略があり、これらを活かした支援が効果的である。同時に、疾病体験によって価値観や優先順位が変化する可能性もあるため、柔軟な対応と継続的な評価が必要である。
継続的に観察すべき項目としては、A氏の価値観や優先順位の変化、治療に対する認識や意味づけの変化、希望と現実のバランスの取り方、家族との関係性や役割の変化などがある。特に、治療の経過や病状の変化に伴って、A氏の価値観や信念がどのように影響を受け、適応していくかを評価することが重要である。
退院に向けては、A氏が大切にしている価値(家族との時間、自立性、趣味活動など)を自宅での生活でどのように実現していくかについて具体的な計画を立てる支援を行う。また、治療を継続しながらも生活の質を維持するための工夫や、必要時に利用できる社会資源についての情報提供も重要である。A氏の価値観に沿った生き方を支援するという視点で、医療者と家族が協力関係を築くことを促進する。
看護計画
看護問題
化学療法の副作用と術後の消化吸収機能低下に関連した栄養状態の低下
長期目標
退院までに体重が入院時より2kg以上増加し、アルブミン値が3.2g/dL以上に改善する。食事摂取量が1回量の7割以上となる。
短期目標
1週間以内に食事摂取量が1回量の5割以上に増加する。口内炎や悪心による食事摂取障害が軽減する。
≪O-P≫観察計画
・毎食の食事摂取量(割合と内容)を確認する
・食前、食中、食後の症状(悪心、腹部膨満感、ダンピング症状など)を観察する
・口内炎の状態(部位、程度、痛みの強さ)を毎日評価する
・毎日の体重測定を実施し、変化を記録する
・バイタルサインの変動、特に立位時の血圧低下を確認する
・腹部症状(膨満感、腹痛、便秘など)の有無と程度を観察する
・臨床検査値(アルブミン、総蛋白、ヘモグロビン、電解質など)の推移を確認する
・水分摂取量と尿量のバランスを観察する
・疲労感や倦怠感の程度と日内変動を評価する
・食事に関する嗜好や好み、摂取しやすい食品について情報収集する
・食事に対する意欲や関心の変化を観察する
・メトクロプラミドなどの制吐剤の効果を評価する
≪T-P≫援助計画
・少量頻回の食事提供(1日5〜6回)を調整する
・食事時の姿勢を工夫し、座位を30分以上保持できるよう支援する
・食事前に口腔ケアを実施し、口内環境を整える
・食事前30分に処方されたメトクロプラミド錠を提供する
・痛みを伴う口内炎がある場合は、食前に含嗽剤や局所麻酔薬を使用する
・食事の温度や硬さを調整し、刺激の少ない食事内容を提供する
・ダンピング症状予防のため、食事中の水分摂取を控え、食後30分は座位または右側臥位を保つよう支援する
・妻が持参する手作りのゼリーやスープを積極的に取り入れる
・高カロリー輸液の投与速度と時間を調整し、食事の妨げにならないようにする
・食事環境を整え、臭いや音などの不快刺激を減らす
・疲労感の少ない時間帯に食事を提供する
・NST(栄養サポートチーム)と連携し、個別の栄養計画を実施する
≪E-P≫教育・指導計画
・胃切除後の食事摂取方法(ゆっくり、よく噛んで食べることなど)について説明する
・少量頻回の食事が効果的である理由と具体的な摂取方法を指導する
・ダンピング症状の発生機序と対処法(食後の体位、水分摂取タイミングなど)を説明する
・高タンパク、高カロリーの食品選択について具体例を挙げて指導する
・制吐剤や口内炎治療薬の効果的な使用タイミングと方法を説明する
・自宅での栄養管理に向けて、妻にA氏の好む食品や調理法についての情報共有を行う
・体重や食事量などの自己モニタリング方法について指導する
・退院後の栄養管理で困った際の相談先や対処法について情報提供する
看護問題
貧血と倦怠感に関連した活動耐性の低下
長期目標
退院までに病棟内を自力で安全に歩行でき、日常生活動作を介助なく行えるようになる。
短期目標
1週間以内に休息と活動のバランスを取りながら、短距離の歩行を手すりを使用して安全に行えるようになる。
≪O-P≫観察計画
・活動前後のバイタルサインの変化(特に脈拍、血圧、呼吸数)を観察する
・立位時のめまい感や血圧低下の有無を確認する
・日内の倦怠感の変動パターンを評価する
・筋力や関節可動域の状態を観察する
・活動時の呼吸状態や酸素化の変化を観察する
・活動に対する意欲や積極性の程度を評価する
・睡眠の質や時間、夜間覚醒の頻度を確認する
・活動後の回復状況(心拍数、呼吸数の正常化までの時間)を観察する
・貧血の程度(ヘモグロビン値、赤血球数など)の変化を確認する
・転倒リスク要因(めまい、筋力低下など)の有無と程度を評価する
・ADL(食事、排泄、整容など)の自立度の変化を観察する
・リハビリテーションプログラムへの反応と耐性を評価する
≪T-P≫援助計画
・起床時や活動前の急激な体位変換を避け、ゆっくりと段階的に姿勢を変えるよう支援する
・活動と休息のバランスを考慮した1日のスケジュールを計画する
・倦怠感の少ない時間帯に活動を集中させる
・初めは短時間の活動から始め、徐々に時間や強度を増加させる
・ベッドサイドや廊下に手すりを設置し、安全な移動環境を整える
・必要に応じて歩行器や杖の使用を促進する
・転倒予防のため、環境整備(障害物の除去、適切な照明など)を行う
・夜間のトイレ移動時は付き添いや見守りを行う
・排泄や入浴などのADLに合わせて、エネルギー消費を最小限にする方法を工夫する
・活動時には弾性ストッキングの着用を促し、立位時の血圧低下を予防する
・適切な靴の選択(滑りにくく、安定性のあるもの)を支援する
・理学療法士と連携し、個別のリハビリテーションプログラムを実施する
≪E-P≫教育・指導計画
・倦怠感と貧血の関係、およびその対処法について説明する
・起立性低血圧の発生機序と予防策(ゆっくりと起き上がることなど)を指導する
・日常生活での省エネルギー技術(動作の効率化、休息の取り方など)を教える
・自宅でできる簡単な筋力維持・向上のための運動方法を指導する
・転倒予防のための環境整備や注意点について家族も含めて説明する
・活動と休息のバランスを取る重要性と具体的な計画の立て方を指導する
・症状(めまい、過度の倦怠感など)が出現した場合の対処法を説明する
・退院後の活動レベルの段階的な増加計画について指導する
看護問題
疾患・治療に関する不確かさと副作用に関連した不安
長期目標
退院までに疾患と治療に対する理解を深め、不安が軽減し、前向きな治療への姿勢を維持できる。
短期目標
1週間以内に治療の副作用と対処法について理解し、自分の感情や懸念を表出できるようになる。
≪O-P≫観察計画
・不安に関連する言動や表情の変化を観察する
・睡眠状態(入眠困難、中途覚醒など)と不安との関連を評価する
・「孫の成長をもっと見たい」などの希望や前向きな発言の頻度を確認する
・疾患や治療に関する理解度を評価する
・副作用症状(悪心、倦怠感、口内炎など)と不安の関連性を観察する
・家族との交流時の表情や態度の変化を観察する
・リラクセーション法実施前後の不安レベルの変化を評価する
・身体症状の訴え方や頻度と不安との関連を観察する
・日内の気分変動や不安レベルの変化を確認する
・不安に対する対処行動(情報収集、質問など)の種類と効果を評価する
・家族(特に妻)との関係性や支援状況を観察する
・治療継続への意欲や態度の変化を確認する
≪T-P≫援助計画
・不安や懸念を表出できる個別面談の時間を定期的に設ける
・傾聴と共感的理解を示し、感情表出を促進する
・治療の見通しや副作用対策について、理解しやすい言葉で説明する
・不安が強い時には、そばに寄り添い安心感を提供する
・成功体験(症状改善、食事摂取量増加など)を共有し、自己効力感を高める
・趣味(園芸)に関連した話題や活動を取り入れ、気分転換を図る
・リラクセーション法(深呼吸、漸進的筋弛緩法など)の実施を支援する
・夜間の不安軽減のため、就寝前の環境調整や安心できるルーティンを確立する
・家族(特に妻)の面会時間を大切にし、プライバシーを確保した環境を提供する
・医師や他の医療チームメンバーとの情報共有を促進し、一貫性のある説明と支援を提供する
・写真や手紙など、孫とのつながりを感じられるものを活用する
・短期的な目標達成の機会を設け、成功体験を積み重ねる
≪E-P≫教育・指導計画
・胃癌と治療(手術、化学療法)についての基本的な情報を提供する
・化学療法(S-1)の作用機序と予測される副作用について説明する
・副作用の対処法と症状の自己管理方法を指導する
・不安や心配事への対処法(リラクセーション法など)を教える
・治療経過や副作用に関する疑問点をいつでも質問できることを伝える
・家族(特に妻)に対して、不安を抱えるA氏への関わり方について助言する
・退院後も継続する治療計画と外来受診の重要性について説明する
・治療に関する情報源(信頼できる書籍やウェブサイトなど)を紹介する
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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