本事例の要約
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の急性増悪により緊急入院となった72歳男性の入院4日目の事例である。長年の喫煙習慣があり、入院前から呼吸困難感の増強を認めていた。入院後、酸素療法と薬物療法により症状は改善傾向にあるが、禁煙への意欲は低く、ADLの低下と再発予防が課題となっている。妻は今後の介護に不安を抱えており、包括的な支援を必要としている事例である。
11.価値-信念
A氏は特定の宗教や信仰は持っていないことが確認されているが、72歳という人生経験から培われた独自の価値観や信念を持っている。65歳まで大工として勤務していた職歴からは、物作りや手仕事に対する誇りと価値観が形成されていることが推察される。また、几帳面で頑固な性格は、長年の職人としての経験を通じて培われた可能性が高く、その価値観は現在の生活態度にも強く影響を与えている。
意思決定の基準となる中核的な価値観として、「自分のことは自分でやりたい」という強い自立心が挙げられる。この価値観は、看護師による介助に対して時に消極的な態度を示すことにつながっているが、同時に呼吸リハビリテーションへの積極的な参加意欲という形でも表れている。自己決定と自律性を重視するこの価値観は、治療への主体的な参加を促進する要因となる一方で、必要な支援を受け入れることへの障壁ともなっている。
生活における重要な価値として、趣味の庭いじりや将棋を通じた自己表現や生きがいの追求が挙げられる。入院中も「庭の手入れが気になる」との発言があり、これらの活動に対して強い価値を見出していることが分かる。しかし、呼吸困難感による活動制限は、これらの価値ある活動の実現を妨げる要因となっている。
健康に関する価値観については、複雑な様相を呈している。「どうしたら楽に呼吸ができるようになるか」と積極的に質問する姿勢からは、健康回復への意欲が認められる。一方で、喫煙に関しては「こんな年になって今更」「どうせ長くない」という発言があり、健康管理の重要性と長年の習慣との間で価値の葛藤が生じていることが推察される。
家族関係における価値観としては、妻との良好な関係性を重視している様子が窺える。妻の不安そうな表情を見て「心配かけてすまない」とつぶやく場面があることから、家族への思いやりや配慮という価値観も持ち合わせていることが分かる。しかし、禁煙に関する家族からの助言に対しては話題を避けるような態度をとっており、この点においても価値観の葛藤が生じている。
将来に対する目標や展望については、直接的な発言は少なく、より詳細な情報収集が必要である。特に、「どうせ長くない」という発言に表れる諦めの感情と、実際の人生における目標や希望との関係性について、慎重に確認していく必要がある。また、退院後の生活における具体的な目標設定についても、本人の価値観を尊重しながら探っていく必要がある。
看護介入としては、まず本人の自立心と自己決定を尊重しながら、必要な支援をどのように組み込んでいくかを共に検討する必要がある。呼吸リハビリテーションや日常生活動作の援助においては、本人の価値観を考慮した目標設定を行い、できる限り自己決定の機会を確保する。また、趣味活動の制限に対しては、現在の状態でも実施可能な代替的な活動を提案し、生きがいの維持を支援する。
健康管理に関する価値観の葛藤に対しては、禁煙を含めた生活改善の意義を、本人の大切にする価値(家族との関係性や趣味活動の継続など)と結びつけて提示していく。その際、強制的な指導は避け、本人の人生観や価値観を受容しながら、前向きな変化を促していく姿勢が重要である。
継続的な観察項目としては、療養生活における自己決定の様子、家族との関係性における価値観の表れ、将来に対する目標や希望の変化、そして健康管理に対する価値観の変化などが挙げられる。特に、退院に向けて具体的な目標設定を行う際には、本人の価値観や信念を十分に考慮し、実現可能な計画を立案することが重要である。
看護問題の明確化
なし
事例の目次
【ゴードン】慢性閉塞性肺疾患”COPD” 入院4日目 (0008)| 今回の情報
1.健康知覚-健康管理
2.栄養-代謝
3.排泄
4.活動-運動
5.睡眠-休息
6.認知-知覚
7.自己知覚-自己概念
8.役割-関係
9.性-生殖
10.コーピング-ストレス耐性
11.価値-信念
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
看護の攻略部屋wiki
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