本事例の要約
右大腿骨転子部骨折後、γネイル固定術を施行し、術後3週間が経過した85歳女性の事例。骨粗鬆症、高血圧症、高脂血症の既往があり、術後のリハビリテーションは概ね順調に進んでいるものの、ADLに一部介助を要する状態。本人は早期の茶道教室再開を希望しているが、家族は安全な在宅復帰を重視しており、目標設定に違いがみられる事例。介入は術後3週間目である。
1.健康知覚-健康管理
大腿骨転子部骨折は、高齢者に多く見られる大腿骨近位部骨折の一つであり、骨粗鬆症を基盤として比較的軽微な外力で発生する脆弱性骨折である。転子部は血流が豊富で骨癒合は良好だが、受傷による痛みや機能障害により活動性が低下し、廃用症候群のリスクが高い。また、手術後の歩行能力の低下は生活の質に大きな影響を及ぼすため、早期のリハビリテーション介入が重要となる。
A氏は身長148cm、体重42kg、BMI19.2と、やや低体重傾向にある。これは高齢による筋肉量の減少が影響している可能性があり、今回の骨折を機に更なる筋力低下や体重減少が懸念される。現在、軽度の貧血(Hb11.2g/dL)と低アルブミン血症(Alb3.5g/dL)を認めており、栄養状態の改善が必要である。
既往歴として、70歳時に骨粗鬆症(T値-3.2)を指摘され、アレンドロン酸、カルシウム製剤、活性型ビタミンD3製剤による治療を継続している。また、68歳からの高血圧症に対してアムロジピン5mg/日、72歳からの高脂血症に対してロスバスタチン2.5mg/日を服用中である。両側変形性膝関節症も有しており、これらの慢性疾患の管理と転倒予防が重要である。特に骨粗鬆症については、現在のT値が-3.2と著明な骨量低下を示しており、再骨折予防の観点から治療内容の見直しが検討されている。
健康管理に対する意識は比較的高く、入院前は1日1500mLの水分摂取を意識的に行い、栄養バランスにも配慮していた。喫煙歴・飲酒歴はなく、茶道教室の運営を通じて適度な身体活動も維持できていた。しかし、変形性膝関節症による膝折れで2回の転倒歴があり、今回の骨折に至っている。
服薬管理については、入院前は曜日別の薬箱を使用して確実に内服できていたが、現在は看護師管理となっている。自己主張が強く医療者の助言を受け入れにくい面があるため、退院に向けた自己管理への移行時には、服薬の重要性を丁寧に説明し、理解を得ることが必要である。
必要な看護介入として、以下の点について本人と家族の協力を得ながら進めていく必要がある。
第一に、栄養状態の改善に向けて、週2回訪問する長女と連携し、タンパク質とカルシウムを意識した食事内容の確認と調整を行う。具体的には、長女の面会時に栄養指導を実施し、退院後の食事準備に関する相談や支援を行うとともに、定期的な体重・栄養指標のモニタリング方法について家族と共有する。特に、本人が重要視している茶道のお点前の際に提供される和菓子についても、栄養面での工夫や代替案を家族とともに検討する。
第二に、骨粗鬆症や変形性膝関節症の管理について、医師と連携しながら治療内容の見直しと生活指導を行う際には、長女・次男も同席する機会を設け、治療方針や服薬管理の重要性について理解を深めてもらう。特に長女が仕事と介護の両立に不安を感じていることから、服薬管理や通院の支援について具体的な役割分担を家族間で検討する機会を設ける。
第三に、転倒予防に向けた環境調整と運動継続について、自宅の具体的な環境を家族とともに確認し、必要な改修や福祉用具の導入を検討する。特に茶道教室再開に向けて、畳での座位や立ち上がり動作など、実際の生活場面を想定した動作訓練を行う際には、家族にも訓練場面に参加してもらい、安全な動作方法と見守りのポイントを共有する。また、長女・次男の生活リズムを考慮した上で、定期的な見守りや支援が可能な時間帯を確認し、茶道教室の開催時間の調整について家族間で話し合う機会を設ける。これにより、本人の希望を尊重しながらも、家族の負担が過度にならない支援体制を構築することができる。
今後も定期的な骨密度検査や血液検査による評価を継続し、体重や筋力の変化、服薬状況、転倒リスクについて注意深く観察していく必要がある。また、本人の自己管理能力を尊重しながら、必要な支援を段階的に導入することで、安全な在宅生活の継続を支援していくことが重要である。
看護問題の明確化
# 大腿骨転子部骨折術後の活動制限と骨粗鬆症に関連した転倒転落・再骨折のリスク状態
# 低体重と低アルブミン血症に関連した栄養状態低下
# 大腿骨転子部骨折伴う生活の変化に関連した退院後のセルフケア不足
事例の目次
【ゴードン】大腿骨転子部骨折 在宅復帰を目指す(0004) | 今回の情報
1.健康知覚-健康管理
2.栄養-代謝
3.排泄
4.活動-運動
5.睡眠-休息
6.認知-知覚
7.自己知覚-自己概念
8.役割-関係
9.性-生殖
10.コーピング-ストレス耐性
11.価値-信念
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
看護の攻略部屋wiki
看護学生をお助け | 看護過程の見本 | 完全無料でコピー&ペースト(コピペ)OK
コメント