本事例の要約
右大腿骨転子部骨折後、γネイル固定術を施行し、術後3週間が経過した85歳女性の事例。骨粗鬆症、高血圧症、高脂血症の既往があり、術後のリハビリテーションは概ね順調に進んでいるものの、ADLに一部介助を要する状態。本人は早期の茶道教室再開を希望しているが、家族は安全な在宅復帰を重視しており、目標設定に違いがみられる事例。介入は術後3週間目である。
4.活動-運動
A氏の活動-運動の状況について、術後3週間が経過した現在、歩行器を使用して15m程度の歩行が可能な状態である。運動機能としては、右大腿骨転子部骨折の術後であることに加え、両側変形性膝関節症を有しており、立ち上がり動作時には手すりと軽介助を要する。安静時の疼痛はスケール1/10、運動時3/10と管理できているものの、下肢筋力低下と可動域制限により、基本的動作に制限がある状態である。
バイタルサインは血圧132/78mmHg、脈拍68回/分、体温36.5℃、呼吸数14回/分、経皮的動脈血酸素飽和度97%(室内気)と安定している。血液データでは赤血球数348万/μL、ヘモグロビン値11.2g/dL、ヘマトクリット値34.2%と軽度の貧血を認めており、活動時の疲労や息切れに注意が必要である。炎症反応は術後経過とともに改善し、現在のC反応性蛋白は0.4mg/dLまで低下している。
職業歴としては元会社員であり、定年後は自宅で茶道教室を開いていた。このことから、床座位での動作や正座など、和室での活動に慣れていたと考えられるが、術後の活動制限により、これらの動作の再獲得には段階的なアプローチが必要である。居住環境はマンション3階で、独居生活を送っていた。
転倒転落のリスク要因として、高齢、骨粗鬆症(T値-3.2)、両側変形性膝関節症、術後の下肢筋力低下、夜間の軽度頻尿、軽度の不眠、貧血があげられる。過去に変形性膝関節症による膝折れで2回の転倒歴があり、今回の骨折も転倒が原因である。このため、転倒予防は最重要課題だと考える。
日常生活動作については、ベッドから車椅子やポータブルトイレへの移乗時には手すりを使用し、必要時は軽介助を要する。排泄動作はポータブルトイレを使用して概ね自立しているが、立ち上がり時の安全確保のため見守りが必要である。入浴は週2回実施しており、浴室への移動は車椅子を使用し、洗体時には介助を要する。更衣動作については、上衣の着脱は自立しているが、下衣の着脱は疼痛と可動域制限により軽介助を必要としている。
必要な看護介入として、まず転倒予防のための環境整備が重要である。夜間のポータブルトイレ使用時はナースコールの活用を継続し、移動時には必ず手すりや歩行器を使用するよう指導する。また、リハビリテーションスタッフと連携し、下肢筋力強化と歩行訓練を継続する必要がある。大腿骨転子部骨折後は、患肢に荷重制限の指示が出ることがあり、医師にどの程度の力を加えてよいか確認する必要がある。
退院後の生活を見据え、自宅環境の評価と整備が必要である。特に浴室やトイレまでの動線の確保、手すりの設置位置、段差の解消など、具体的な環境調整について長女を含めた家族と相談する必要がある。また、茶道教室再開に向けて、床座位での動作訓練や和室での活動方法について、段階的な指導計画を立案する必要がある。
継続的な観察項目として、歩行時の姿勢やバランス、疼痛の程度、疲労度、バイタルサインの変動、貧血の進行度などをモニタリングする必要がある。また、本人の強い自己主張を考慮しながら、無理のない範囲での活動量の調整と、安全な動作方法の習得を支援していく必要がある。さらに、長女の介護負担も考慮し、必要に応じて社会資源の活用も検討する必要がある。
看護問題の明確化
# 右大腿骨転子部骨折術後の筋力低下と両側変形性膝関節症に関連した移動動作障害
# 大腿骨転子部骨折術後の活動制限・筋力低下・両側変形性膝関節症・夜間の軽度頻尿に関連した転倒リスク状態
# 軽度貧血と活動耐性低下に関連した疲労
事例の目次
【ゴードン】大腿骨転子部骨折 在宅復帰を目指す(0004) | 今回の情報
1.健康知覚-健康管理
2.栄養-代謝
3.排泄
4.活動-運動
5.睡眠-休息
6.認知-知覚
7.自己知覚-自己概念
8.役割-関係
9.性-生殖
10.コーピング-ストレス耐性
11.価値-信念
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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