本事例の要約
右大腿骨転子部骨折後、γネイル固定術を施行し、術後3週間が経過した85歳女性の事例。骨粗鬆症、高血圧症、高脂血症の既往があり、術後のリハビリテーションは概ね順調に進んでいるものの、ADLに一部介助を要する状態。本人は早期の茶道教室再開を希望しているが、家族は安全な在宅復帰を重視しており、目標設定に違いがみられる事例。介入は術後3週間目である。
7.自己知覚-自己概念
A氏は温厚な性格でありながら自己主張が強く、医療者の助言を受け入れにくい面がある。「今までも自分のやり方でやってきた」という発言からは、長年培ってきた生活様式や価値観を大切にする姿勢が伺える。この性格特性は、自立心の表れとして肯定的に捉えられる一方で、治療やリハビリテーションにおける指導の受け入れに影響を与える可能性がある。
社会的役割として、茶道の教授資格を持ち自宅で教室を開いていることは、A氏のアイデンティティの重要な部分を占めている。「早く教室に戻りたい。生徒たちが待っているから」という発言には、教室運営者としての責任感と、社会との繋がりを維持したいという強い思いが表れている。また、週1回の読経会への参加は、仏教信仰を通じた社会的交流の機会となっており、精神的な支えとなっている。
家族内の役割については、5年前に夫を亡くし独居生活を送っているが、長女や次男が近隣市に在住しており、特に長女が週2回訪問するなど、家族との関係性は良好に保たれている。ただし、長女は仕事と介護の両立に不安を抱えており、「できるだけ母の希望に沿いたいが、私たちにできるサポートには限界がある」という発言から、家族内での役割調整が必要な状況にある。
今後の疾患の見通しについては、骨折部の確実な癒合と基本的な日常生活動作の自立を目標に治療が継続されている。両側の変形性膝関節症による膝折れのリスクや、骨粗鬆症(T値-3.2)の存在は、再転倒・再骨折のリスク要因として重要である。このため、4週間後を目途とした退院時期の検討に加え、退院後も2週間毎の外来診察とリハビリテーション外来(週2回)が予定されている。
必要な看護介入として、まずA氏の自己決定を尊重しながら、安全性の確保という観点から必要な支援について理解を得ていく必要がある。特に茶道教室の再開に向けては、座位での動作など具体的な目標を設定し、段階的な達成を支援することで、自己効力感を高めていく関わりが重要である。
また、家族との関係性について、長女の介護負担感に配慮しながら、必要な社会資源の活用を含めた支援体制の構築を検討する必要がある。特に退院後の生活において、本人の自立心を尊重しつつ、必要な支援を受け入れられるよう、段階的な調整が必要である。
継続的な観察項目として、リハビリテーションの進捗に対する本人の受け止め方、家族との関係性の変化、社会活動再開への思いや不安の内容などをモニタリングする必要がある。また、骨粗鬆症や変形性膝関節症に対する本人の理解度を確認し、必要な生活指導を行っていく必要がある。
看護問題の明確化
# 大腿骨転子部骨折の手術による社会的役割の中断に関連した自己効力感の低下
事例の目次
【ゴードン】大腿骨転子部骨折 在宅復帰を目指す(0004) | 今回の情報
1.健康知覚-健康管理
2.栄養-代謝
3.排泄
4.活動-運動
5.睡眠-休息
6.認知-知覚
7.自己知覚-自己概念
8.役割-関係
9.性-生殖
10.コーピング-ストレス耐性
11.価値-信念
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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