【ゴードン】膵臓癌 終末期の看護(0022)| 8.役割-関係

ゴードン

本事例の要約

これは膵臓癌末期で緩和ケア病棟に入院中、痛みのコントロールが困難であり、食事摂取量の減少と体重減少が著しく、残された時間をできるだけ自宅で過ごしたいという本人の希望を尊重した在宅緩和ケアへの移行支援が必要な事例である。介入日は入院14日目5月15日である。

8.役割-関係

A氏は元高校教師であり、5年前に定年退職している。教育者としての社会的役割を長年担ってきた経歴があり、「学校の教え子たちに会いたい」との発言から、教師としての役割が自己アイデンティティの重要な部分を占めていると考えられる。退職後の社会的役割については詳細な情報がないため、地域活動や趣味のコミュニティでの役割など、退職後の社会参加状況について追加情報を収集する必要がある。高校教師という職業は社会的貢献度が高く、知識の伝達や人材育成に関わる重要な役割であり、A氏の几帳面で計画的な性格特性はこの職業適性と合致していると考えられる。現在、疾患の進行により社会的役割の喪失を経験している可能性があり、これがA氏の心理状態にどのような影響を与えているかを評価することが重要である。

家族関係においては、A氏は妻(70歳)と二人暮らしであり、長男(45歳)は近隣市に家族と居住している状況である。キーパーソンは妻であり、献身的に介護に関わっている。妻は面会時間のほとんどを病室で過ごしており、A氏の在宅療養への希望に対して「本人の望みなら叶えてあげたい」と前向きな姿勢を示しているが、同時に「家で看られるか自信がない」「痛みが強くなったらどうしたらいいか」という不安も抱えている。この状況から、妻はA氏の介護に強い責任感を持ちながらも、終末期ケアに対する不安や負担感を抱えていると判断される。長男家族は週末に面会に訪れ、「父の希望を叶えてあげたい」と妻をサポートする意向を示している。また、「子どもたちに最期の祖父の姿を見せたい」という発言から、世代間の絆を大切にする家族関係が構築されていると考えられる。

A氏と家族の関係性は良好であり、互いを思いやる気持ちが表出されている。A氏は「妻に迷惑をかけたくない」という思いを持ちながらも「病院で死ぬのは嫌だ」という気持ちが強く、家族もA氏の希望を尊重したいという思いを共有している。このような家族の協力関係は、在宅緩和ケアを成功させるための重要な資源となりうる。しかし、妻の年齢(70歳)を考慮すると、介護負担が過大になるリスクも存在する。高齢の配偶者が終末期患者の介護を担う場合、介護者自身の健康状態や疲労度を定期的に評価し、必要なサポート体制を構築することが重要である。

経済状況については具体的な情報が不足しているが、元高校教師であることから、公務員としての年金受給が考えられる。また、長期の治療や入院による経済的負担が生じている可能性がある。在宅療養への移行に際しては、訪問看護や訪問診療、福祉用具のレンタルなど、様々な医療・介護サービスの利用が想定されるため、経済面での準備状況や利用可能な社会保障制度(高額療養費制度、介護保険など)についての情報収集と支援が必要である。特に、オピオイド製剤などの高額な薬剤の継続使用や医療処置に関わる費用負担について、家族の懸念があるかどうかを確認することも重要である。

A氏の在宅緩和ケアへの移行に向けて、家族システムの機能強化と役割調整を支援する看護介入が求められる。具体的には、妻への具体的なケア技術の指導(疼痛評価やオピオイド管理、緊急時の対応など)を行うとともに、長男家族を含めた介護役割の分担について話し合いの機会を設ける。また、地域の訪問看護や訪問診療との連携体制を確立し、24時間対応可能な緊急時の連絡体制を整えることで、家族の不安軽減を図る。退院前カンファレンスでは、専門職からの支援があることで妻の「頑張れるかもしれない」という思いが表出されていることから、医療専門職の定期的な関わりが家族の安心感につながると考えられる。

家族のコミュニケーションパターンについても注目し、A氏の意思や希望が適切に家族間で共有され、尊重されるような支援を行うことが重要である。特に疾患の進行に伴い、A氏の意思表示が困難になる可能性を踏まえ、事前に希望するケアについて家族間で話し合う機会を設けることが望ましい。また、DNR(心肺蘇生を行わない)の方針については、すでに本人・家族の同意が得られているが、在宅での最期を迎える準備として、看取りの場面で家族が何をすべきか、どのような変化が起こりうるかなどの情報提供も必要である。

家族の悲嘆プロセスにも配慮し、A氏の状態変化に伴う家族の感情変化を観察しながら、適切な精神的サポートを提供することが求められる。特に妻は献身的な介護を行っており、自身の感情を抑制している可能性があるため、感情表出の機会を意図的に設けることも検討すべきである。長男家族を含めた家族カンファレンスを定期的に開催し、それぞれの思いや不安を共有する場を提供することで、家族の一体感と相互サポート体制を強化することができる。

在宅療養移行後も、訪問看護師やケアマネージャーを通じて、家族関係や役割遂行の状況を継続的に評価し、必要に応じてレスパイトケア(緩和ケア病棟への一時入院など)の利用を検討することが重要である。家族の疲労や負担感が限界に達する前に、適切な介入を行うことで、A氏の希望である「家で過ごす時間」を最大限に尊重しながら、家族全体のウェルビーイングを守ることができると考える。

看護問題の明確化

#疾患の進行に伴う身体機能低下に関連した家族の役割緊張

事例の目次

この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり

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