本事例の要約
イレウスと診断され入院した88歳男性のA氏。腹痛と嘔吐を主訴に救急搬送され、腸閉塞と診断された。保存的治療目的で入院となり、現在はイレウス管による減圧治療中である。入院2日目の11月15日に介入するという事例。
3.排泄
A氏(88歳男性)の排泄状況について、入院前は1日1回、朝食後に自力でトイレにて排便があり、便秘傾向はなかった。排尿は日中5~6回、夜間1~2回であった。しかし、現在はイレウス(腸閉塞)のため排便はなく、最終排便は入院前日である。腹部膨満感があり、排ガスも認められていない。排尿はベッド上で尿器を使用しており、1日の尿量は1200ml程度、黄褐色、混濁なしである。バルーンカテーテルは挿入されていない。
イレウスは腸管内容物の通過障害であり、A氏の場合は2年前の虫垂切除術による腹部の癒着が原因と考えられる。腸管内容物が停滞することにより、腸管内圧が上昇し、腸管壁の血流障害、腸管内容物の吸収障害、腸管内細菌の異常増殖などが生じる。これらの病態により腹部膨満、腹痛、嘔吐などの症状が出現し、腸管内容物や消化液の排出障害により体液・電解質異常を引き起こす。特に高齢者では、腸管の弾力性低下や腹筋力の低下により、腸閉塞の症状が重篤化しやすく、脱水や電解質異常のリスクが高まる。
下剤使用については、入院前は排便コントロールのための下剤使用はなかったとされており、現在もイレウスの治療中であるため使用していない。しかし、イレウスの改善後には腸管機能の回復を促すために、適切な下剤の使用が検討される可能性がある。
In-outバランスについては、現在は絶飲食の状態であり、水分摂取は点滴による輸液のみである。維持輸液としてソルデム3A 1000ml/日にビタミンB1添加が投与されている。排出としては尿量1200ml/日とイレウス管からの排液量(入院1日目は950ml、2日目は500ml程度と減少傾向)がある。体液バランスを正確に評価するためには、これらの輸液量と排出量の詳細な記録と比較が必要である。イレウスでは腸管内に体液が貯留することで相対的な循環血液量の減少が生じるため、適切な輸液管理が重要となる。しかし、過剰な輸液は腸管浮腫を悪化させイレウスを遷延させる可能性もあるため、慎重な評価が必要である。
排泄に関連した食事・水分摂取状況については、現在は医師の指示により絶飲食となっており、経口からの摂取はない。入院前は妻が作る和食中心の食事を1日3食規則正しく摂取し、水分も1日1500ml程度摂取していた。食物繊維の摂取量や具体的な食事内容についての詳細情報はないが、便秘傾向がなかったことから、消化管機能を維持するための食事摂取は適切であったと推測される。
安静度については、医師の指示によりベッド上安静となっており、歩行は禁止されている。体位変換や座位は看護師の介助により可能である。排尿はベッド上で尿器を使用しており、看護師の介助を要している。活動制限により腸蠕動運動が低下し、イレウスの改善を遅らせる可能性があるため、医師と相談しながら段階的に活動範囲を拡大していくことが重要である。
腹部症状については、入院時は腹部全体の膨満と圧痛を認め、聴診では腸蠕動音の減弱を認めた。現在(入院2日目)は腹部の膨満は軽減しているが、触診時に軽度の圧痛を認める。腸蠕動音は弱いが聴取可能となっている状態である。イレウス管からの排液量も減少傾向にあることから、徐々に腸管機能が回復してきていると考えられるが、排ガスがまだ認められていないことから、完全な改善には至っていない。腹部膨満や腸蠕動音の変化、排ガスの有無などは、イレウスの経過を判断する重要な指標となるため、継続的な観察が必要である。
血液データからは、BUN 28.5mg/dL、Cre 1.4mg/dL、eGFR 45mL/min/1.73㎡と腎機能低下が認められる。これは高齢による生理的な腎機能低下に加え、イレウスによる脱水や循環血液量減少の影響も考えられる。特にイレウスでは腸管内に体液が貯留することで、実質的な循環血液量が減少し、腎灌流が低下することがある。また、Na 130mEq/L、K 5.3mEq/Lと電解質異常も認められており、イレウスによる吸収障害と腎機能低下による排泄障害が複合的に影響していると考えられる。腎機能低下は薬物代謝にも影響するため、使用薬剤の選択や用量調整にも注意が必要である。
加齢の影響としては、88歳という高齢であることから、腎機能の生理的低下、膀胱容量の減少、括約筋の弱化などが考えられる。これらは排尿パターンの変化(頻尿や夜間排尿の増加)につながりやすい。また、腸管の蠕動運動の低下や腹筋力の減弱により、排便機能も低下しやすい。高齢者ではイレウスからの回復も遅延する傾向があり、腸管機能の回復に時間を要することが予測される。
必要な看護介入としては、まずイレウス管の適切な管理が重要である。排液量と性状の定期的な観察(6時間ごと)、24時間の総排液量の測定を行い、排液の変化から腸管機能の回復状況を評価する。また、腹部症状(膨満感、圧痛、腸蠕動音)の定期的な観察も必要である。排尿管理については、尿量と性状の観察、尿器使用時の介助と清潔保持が重要である。腎機能低下に対しては、輸液量と尿量のバランス評価、脱水や過剰輸液の徴候の観察が必要である。
特に注意が必要なのは、イレウス管からの排液減少と腹部症状の改善が見られた後の経口摂取再開時期である。医師の指示に基づき段階的に飲水から開始し、消化機能の回復に合わせて食事内容を調整していく必要がある。また、排便機能の回復を促すために、活動範囲の拡大や腹部マッサージなどの非薬物的介入も検討する。経口摂取再開後は、水分摂取量の確保と食物繊維を含む適切な食事内容の指導も重要となる。
継続的な観察が必要な項目としては、イレウス管からの排液量と性状の変化、腹部症状(膨満感、腸蠕動音、排ガスの有無)の変化、尿量と性状、腎機能検査値の推移、電解質バランスの変動などが挙げられる。特に高齢者では合併症のリスクが高いため、全身状態の変化にも注意を払う必要がある。
看護問題の明確化
#疾患に伴う腸管機能障害に関連した便秘
#疾患に伴う腸管癒着に関連したイレウス増悪のリスク
事例の目次
【ゴードン】イレウス 入院2日目(0018)| 今回の情報
1.健康知覚-健康管理
2.栄養-代謝
3.排泄
4.活動-運動
5.睡眠-休息
6.認知-知覚
7.自己知覚-自己概念
8.役割-関係
9.性-生殖
10.コーピング-ストレス耐性
11.価値-信念
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
看護の攻略部屋wiki
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