本事例の要約
イレウスと診断され入院した88歳男性のA氏。腹痛と嘔吐を主訴に救急搬送され、腸閉塞と診断された。保存的治療目的で入院となり、現在はイレウス管による減圧治療中である。入院2日目の11月15日に介入するという事例。
4.活動-運動
A氏(88歳男性)の活動-運動状況について、入院前のADLは自立していたが、3年前の腰椎圧迫骨折の既往による軽度の腰痛があり、長距離歩行の際には杖を使用することがあった。自宅内での移動や屋外の短距離歩行は杖なしで可能であった。移乗動作は自立しており、排泄や入浴、衣類の着脱も問題なく行えていた。しかし、現在は医師の指示によりベッド上安静となっており、歩行は禁止されている。体位変換や座位は看護師の介助により可能な状態である。イレウス管が挿入されているため、体動時には管の牽引に注意が必要であり、安全面への配慮が必要である。
運動機能については、入院前は日常生活に必要な動作は自立していたものの、高齢に伴う筋力低下や腰椎圧迫骨折の影響により、長時間の立位や歩行には制限があったと考えられる。特に腰椎圧迫骨折後は、腰背部の筋力低下や疼痛による活動制限が生じやすく、これが長距離歩行時の杖使用につながっていると推測される。運動歴については詳細な情報がないため、日常的な運動習慣や趣味活動などについて追加の情報収集が必要である。
安静度は医師の指示によりベッド上安静となっているが、体位変換や清潔ケアは許可されている。これは、イレウスの治療として腸管の安静を保つためであるが、高齢者においては長期臥床による二次的な合併症(筋力低下、関節拘縮、褥瘡、肺炎など)のリスクが高いため、許容される範囲内での活動を維持することが重要である。移動・移乗方法については、現在はベッド上での体位変換や座位は看護師の介助により行われている。排尿はベッド上で尿器を使用しており、看護師の介助を要している状態である。
バイタルサインは、入院時(11月13日)は体温37.8℃、脈拍92回/分・整、血圧148/85mmHg、呼吸数22回/分、SpO2 97%(room air)と、発熱や頻脈、軽度の高血圧、頻呼吸が見られた。これはイレウスによる腹痛や炎症反応の影響と考えられる。現在(11月15日)は体温36.8℃、脈拍80回/分・整、血圧132/78mmHg、呼吸数18回/分、SpO2 98%(room air)と、バイタルサインは安定傾向にある。高齢者では感染症や炎症反応に対する発熱反応が乏しいことがあるため、体温が正常範囲であっても他の徴候(頻脈、血圧変動、意識状態の変化など)に注意が必要である。
呼吸機能については、SpO2は97-98%と維持できているが、イレウスに伴う腹部膨満が横隔膜を圧迫し、肺の拡張を制限する可能性がある。特に高齢者では肺の弾性収縮力の低下や胸郭の硬化により呼吸機能が低下していることが多く、臥床による無気肺や肺炎のリスクが高まる。深呼吸や体位変換を定期的に促し、呼吸機能を維持する介入が必要である。
職業については、A氏は元会社員で定年まで働いていたが、現在は無職である。住居環境については、妻と二人暮らしであるとの情報があるが、住居の構造(バリアフリー化の状況など)や環境的な障害物については詳細情報がないため、退院後の生活環境を考慮した情報収集が必要である。特に高齢者世帯であることから、住環境の安全性評価や必要な住環境整備の検討が重要である。
血液データについては、RBC 3.60×10⁶/μL、Hb 11.2g/dL、Ht 36.2%と、いずれも基準値を下回っており、軽度の貧血が認められる。これは高齢に伴う造血機能の低下や栄養状態の影響も考えられるが、活動耐性や酸素運搬能力の低下につながる可能性があるため、活動再開時には注意が必要である。CRP値は8.20mg/dLと上昇しており、炎症反応の持続が認められる。これはイレウスによる腸管の炎症や感染の可能性を示唆しており、全身状態に影響を与える可能性がある。
転倒転落のリスクについては、3年前に自宅の玄関で滑って転倒し腰椎圧迫骨折を負った既往がある。高齢であること、杖を使用することがあること、現在はイレウス管が挿入されていることによる活動制限があることなどから、転倒リスクは高いと評価される。現在はベッド柵を使用し、ナースコールを手の届く位置に配置するなどの安全対策が講じられているが、意識レベルの変動や夜間の覚醒時の混乱などにも注意が必要である。
加齢による影響としては、88歳という高齢であることから、筋力低下、バランス能力の低下、関節の可動域制限、骨密度の低下などが生じている可能性が高い。特に入院による臥床は、これらの加齢変化をさらに加速させる可能性があるため、早期からの廃用症候群予防策が重要である。また、感覚機能(視力・聴力)の低下も安全な活動に影響するため、老眼鏡の使用状況や、騒がしい環境では聞き返すことがあるという聴力の状況を考慮した環境調整や説明方法の工夫が必要である。
必要な看護介入としては、まず現在のベッド上安静中の体位変換を定期的(少なくとも2時間ごと)に行い、褥瘡予防と呼吸機能維持を図ることが重要である。許可される範囲内での関節可動域訓練や筋力維持のための軽度の運動を指導することも有効である。イレウス管の管理と安全な体位変換方法の工夫も必要であり、特に管の牽引による脱落や痛みを防ぐための注意点を常に意識することが大切である。また、環境整備としてベッド柵の使用、ナースコールの適切な配置、必要な物品を手の届く範囲に置くなどの配慮も重要である。
今後、イレウス症状が改善し活動制限が緩和された際には、段階的な離床計画を立て、筋力や耐久性の回復状況を評価しながら安全に活動範囲を拡大することが必要である。高齢者では回復に時間を要することが多いため、焦らず個別の状態に合わせた援助が重要である。また、退院に向けては、自宅環境の評価と必要な調整、転倒予防のための環境整備や自己管理方法の指導も重要となる。
継続的に観察が必要な項目としては、活動に伴うバイタルサインの変化、疼痛の有無や程度、筋力や関節可動域の変化、浮腫の有無、呼吸状態の変化などが挙げられる。特に高齢者では、わずかな活動でも疲労が蓄積しやすく、回復に時間を要するため、個別の耐久性に合わせた活動計画が必要である。
看護問題の明確化
#疾患に伴う治療処置(イレウス管挿入)に関連した活動制限
#疾患に伴う安静指示に関連した廃用症候群のリスク
#疾患に伴う腹部症状と治療に関連した転倒・転落リスク
#疾患に伴う炎症反応と貧血に関連した活動耐性低下
事例の目次
【ゴードン】イレウス 入院2日目(0018)| 今回の情報
1.健康知覚-健康管理
2.栄養-代謝
3.排泄
4.活動-運動
5.睡眠-休息
6.認知-知覚
7.自己知覚-自己概念
8.役割-関係
9.性-生殖
10.コーピング-ストレス耐性
11.価値-信念
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
看護の攻略部屋wiki
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