【ゴードン】イレウス 入院2日目(0018)

ゴードン

本事例の要約

イレウスと診断され入院した88歳男性のA氏。腹痛と嘔吐を主訴に救急搬送され、腸閉塞と診断された。保存的治療目的で入院となり、現在はイレウス管による減圧治療中である。入院2日目の11月15日に介入するという事例。

この事例で勉強できること

この事例から学べることは、高齢イレウス患者の看護において、身体的苦痛の緩和と同時に心理的不安へのケアが重要であるということです。また、腎機能障害を伴うため水分・電解質バランスの慎重なモニタリングが必須であり、家族を含めた退院支援の早期計画が必要です。さらに、高齢者特有の複数の既往歴を考慮した全人的アプローチと、ADL低下予防のための早期離床計画の重要性も学べます。

今回の情報

基本情報

A氏は88歳の男性で、身長160cm、体重53kgである。妻と二人暮らしであり、キーパーソンは長男である。現在は無職で、元会社員として定年まで働いていた。性格は几帳面で、自分のことは自分でしようとする意志の強さがある。感染症はなく、アレルギーは花粉症がある。認知機能は年齢相応で日常会話に支障はなく、MMSE 27点である。

病名

病名はイレウス(腸閉塞)であり、現時点では手術は行われておらず、イレウス管による保存的治療が行われている。

既往歴と治療状況

既往歴としては、10年前に高血圧と診断され降圧剤を服用中である。また5年前に大腸ポリープ切除術の既往があり、定期的に大腸内視鏡検査を受けていた。3年前には腰椎圧迫骨折で3週間入院した経験がある。2年前に腹部手術(虫垂切除術)を受けており、これが現在のイレウスの原因と考えられている。すべての既往について現在も定期的に近医を受診し、治療を継続している。

入院から現在までの情報

A氏は11月13日朝から腹痛と嘔吐が出現し、症状が改善しないため同日午後に救急搬送された。来院時、腹部全体の膨満と圧痛を認め、CTにてイレウス(腸閉塞)と診断された。同日緊急入院となり、絶飲食の上、補液による電解質管理が開始された。入院当日(11月13日)の夕方にイレウス管を経鼻的に挿入し、腸管内容物の減圧を開始した。挿入直後から茶褐色の排液が認められた。

入院1日目(11月14日)は、イレウス管からの排液量が950mlと多く、腹部膨満感は軽減したものの、腹痛は持続していた。腸蠕動音は微弱であり、排ガスはなく、血液検査では白血球数とCRP値の軽度上昇が見られた。

入院2日目(11月15日、介入日)の朝までにイレウス管からの排液量は減少傾向にあり、500ml程度となった。腹部の張りは軽減してきているものの、時折腹痛を訴えている。医師からは引き続き絶飲食とイレウス管管理の継続が指示されている。ベッド上安静の指示があるが、体位変換や清潔ケアは許可されている。A氏は「早く良くなって帰りたい」と話し、不安な表情も見られる。

バイタルサイン

来院時(11月13日)のバイタルサインは、体温37.8℃、脈拍92回/分・整、血圧148/85mmHg、呼吸数22回/分、SpO2 97%(room air)であった。腹痛のため顔色不良で冷汗を認め、苦悶様表情であった。腹部は膨満しており、聴診では腸蠕動音の減弱を認めた。

現在(11月15日、入院2日目)のバイタルサインは、体温36.8℃、脈拍80回/分・整、血圧132/78mmHg、呼吸数18回/分、SpO2 98%(room air)である。腹部の膨満は軽減しているが、触診時に軽度の圧痛を認める。腸蠕動音は弱いが聴取可能となっている。疼痛スケール(NRS)は安静時3/10、体動時5/10である。疼痛に対しては医師の指示でペンタジン15mg筋注が頓用で使用可能となっており、昨日は2回使用した。今日はまだ使用していない。

食事と嚥下状態

入院前の食事は、妻が作る和食中心の食事を1日3食規則正しく摂取していた。嚥下機能に問題はなく、自力で食事摂取可能であった。食欲は良好で、水分も1日1500ml程度摂取していた。喫煙歴はなく、飲酒は晩酌として日本酒を1合程度、週に3~4回摂取していた。

現在は絶飲食の指示があり、経口摂取はしていない。点滴による水分・電解質管理が行われており、口渇感の訴えがある。口腔内は乾燥気味で、うがい水による口腔ケアを実施している。

排泄

入院前の排泄は1日1回、朝食後に自力でトイレにて排便があり、便秘傾向はなかった。排便コントロールのための下剤使用はなかった。排尿は日中5~6回、夜間1~2回であった。

現在はイレウスのため排便はなく、最終排便は入院前日である。腹部膨満感があり、排ガスも認められていない。排尿はベッド上で尿器を使用しており、1日の尿量は1200ml程度、黄褐色、混濁なしである。現在のところ下剤は使用していない。

睡眠

入院前の睡眠は良好で、午後10時頃就寝し、朝6時頃起床するという規則正しい生活を送っていた。眠剤の使用はなかった。

現在は病室の環境や腹部不快感のため入眠困難を訴えており、昨夜は断続的に3~4時間程度の睡眠であった。医師の指示でマイスリー5mgが頓用で処方されており、昨夜1錠使用した。「病院だと落ち着いて眠れない」と話している。

視力・聴力・知覚・コミュニケーション・信仰

視力は老眼があり、近くを見る際には老眼鏡を使用している。遠くの視力は問題なく、日常生活に支障はない。聴力は軽度の難聴があり、特に騒がしい環境では聞き返すことがあるが、通常の会話は支障なく行える。補聴器の使用はしていない。

知覚に関しては、両下肢に軽度のしびれ感を自覚しているが、触覚・痛覚・温度覚に異常はない。現在、腹部の痛みと不快感を訴えているが、部位を明確に指し示すことができる。

コミュニケーションは良好で、質問に対して適切に応答でき、自分の意思や希望を明確に伝えることができる。言語障害はなく、発音も明瞭である。入院による不安から時折表情が硬くなることがあるが、全体的には穏やかで協力的である。

信仰は特になく、宗教的な儀式や習慣への配慮は必要としていない。

動作状況

入院前のA氏は日常生活動作は自立していたが、腰椎圧迫骨折の既往による軽度の腰痛があり、長距離歩行の際には杖を使用することがあった。自宅内での移動や屋外の短距離歩行は杖なしで可能であった。移乗動作は自立しており、問題なく行えていた。

排尿・排便は自力でトイレに行き行えていた。入浴は自宅の浴槽に手すりを設置し、週に3回程度自力で入浴していた。衣類の着脱も自分で行うことができていた。

現在は医師の指示によりベッド上安静となっており、歩行は禁止されている。体位変換や座位は看護師の介助により可能である。排尿はベッド上で尿器を使用しており、看護師の介助を要している。排便はイレウスのためなく、腹部膨満感を訴えている。清拭は看護師が行い、寝衣交換も看護師の介助を必要としている。

転倒歴については、3年前の腰椎圧迫骨折が自宅の玄関で滑って転倒したことによるものである。入院中の転倒はない。現在はイレウス管が挿入されており、体動時には管の牽引に注意が必要な状態である。ベッド柵を使用し、ナースコールを手の届く位置に配置して、安全に配慮している。

内服中の薬

内服中の薬:

  • アムロジピン 5mg 1日1回 朝食後
  • ロキソプロフェン 60mg 1日3回 毎食後(腰痛時)
  • センノシド 12mg 1日1回 就寝前(便秘時)
  • ファモチジン 20mg 1日2回 朝夕食後

服薬状況:入院前は自己管理で内服できていたが、現在は入院中で絶飲食のため、降圧剤のアムロジピンのみ粉砕して経管投与となっている。その他の内服薬は現在中止となっている。病棟では看護師管理となっており、内服薬の管理は看護師が行っている。

検査データ

A氏の検査データ

検査項目基準値入院時(11/13)最近(11/15)
<血算>
WBC3,500-9,000/μL12,800/μL11,500/μL
RBC4.00-5.50×10⁶/μL3.75×10⁶/μL3.60×10⁶/μL
Hb13.0-17.0g/dL11.8g/dL11.2g/dL
Ht40.0-50.0%37.5%36.2%
PLT15.0-35.0×10⁴/μL22.5×10⁴/μL23.0×10⁴/μL
<生化学>
TP6.5-8.2g/dL6.2g/dL5.9g/dL
Alb3.8-5.2g/dL3.2g/dL2.9g/dL
T-Bil0.2-1.2mg/dL0.9mg/dL1.1mg/dL
AST10-40U/L48U/L45U/L
ALT5-45U/L52U/L49U/L
LDH120-240U/L265U/L258U/L
ALP100-340U/L320U/L310U/L
γ-GTP0-79U/L85U/L82U/L
BUN8.0-20.0mg/dL25.5mg/dL28.5mg/dL
Cre0.6-1.1mg/dL1.3mg/dL1.4mg/dL
eGFR≧60mL/min/1.73㎡48mL/min/1.73㎡45mL/min/1.73㎡
Na135-145mEq/L132mEq/L130mEq/L
K3.5-5.0mEq/L5.2mEq/L5.3mEq/L
Cl98-108mEq/L95mEq/L93mEq/L
Ca8.5-10.5mg/dL8.2mg/dL8.0mg/dL
Glu70-110mg/dL138mg/dL145mg/dL
CRP0.00-0.30mg/dL6.85mg/dL8.20mg/dL
<凝固系>
PT-INR0.85-1.151.251.28
APTT25.0-40.0秒42.5秒43.8秒
<尿検査>
尿蛋白(−)(+)(++)
尿糖(−)(+)(+)
潜血(−)(−)(+)
ケトン体(−)(+)(+)
比重1.005-1.0301.0321.035
pH5.0-7.55.04.8
今後の治療方針と医師の指示

現在の治療方針としては、イレウス(腸閉塞)に対する保存的治療を継続する方針である。イレウス管による減圧を継続し、腸管の安静を保つために絶飲食を維持する。毎日の腹部単純X線検査と、血液検査を48時間ごとに実施して経過を観察する。イレウス管からの排液量と性状、腹部症状の変化を注意深く評価し、腸管減圧の効果を判断する。

医師からの指示は以下の通りである。現在の絶飲食を継続し、末梢静脈ラインから維持輸液(ソルデム3A 1000ml/日にビタミンB1添加)を投与する。電解質異常の補正のため、必要に応じて追加輸液を行う。イレウス管は持続吸引とし、6時間ごとの排液量と性状の観察、24時間の総排液量の測定を行う。腹部膨満感や疼痛の増強、バイタルサインの変化があれば速やかに報告する。

腎機能障害に対しては、輸液による脱水の補正と腎保護を図り、48時間ごとに腎機能の再評価を行う。高カリウム血症についても注意深く観察し、必要に応じて補正を行う。

今後の方針としては、イレウス管からの排液が減少し、腹部症状が改善すれば、腸管の蠕動運動の回復を期待して段階的に経口摂取を開始する予定である。ただし、保存的治療で改善が見られない場合や症状が悪化する場合には、外科的治療(癒着剥離術など)を検討する可能性もある。高齢であることと腎機能低下を考慮し、侵襲的な処置は慎重に判断する方針である。

A氏の全身状態、特に腎機能と電解質バランスに留意しながら、安全に治療を進めていくことが医師から指示されている。また、褥瘡予防のための体位変換と清潔ケアの継続も重要であるとの指示がある。

本人と家族の想いと言動

A氏は「早く家に帰りたい」と不安を訴え、イレウス管による不快感やベッド上の制限に対するストレスを感じている。「前の手術のように、また手術になるのでは」と心配している。夜間は特に「家の布団で寝たい」と落ち着かない様子である。

長男は仕事で面会時間は短いが、電話で頻繁に状況を確認している。「父の年齢を考えると心配」と話し、退院後の介護サービス利用も検討している。

妻は毎日面会に来て励ましているが、自身も76歳と高齢で「主人の世話ができるか心配」と看護師に不安を打ち明けている。特に自宅での食事管理や服薬について質問が多い。

A氏は「年には勝てないね」と冗談を言いながらも、「退院したら健康に気をつけよう」と前向きな発言もしている。

この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり

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