本事例の要約
定期的な乳がん検診により右乳がんStageⅡAと診断され、右乳房部分切除術およびセンチネルリンパ節生検を受けた45歳女性の術後10日目の事例。術後経過は良好だが、右上肢の可動域制限により日常生活動作に支障をきたしており、今後の抗がん剤治療への不安が強く、特に中学生の娘たちへの母親としての役割遂行に対する懸念を抱えている事例。
10.コーピング-ストレス耐性
A氏は45歳の女性で、右乳がんStageⅡAの診断を受け、現在は術後10日目である。入院環境への適応について、医療者や他患者とのコミュニケーションは良好であり、積極的な関わりを持つことができている。しかし、術後の創部痛や右上肢の可動域制限により、特に洗髪や着衣に介助を要する状況が、自立していた患者にとって新たなストレス要因となっている。
入院前の生活において、A氏は週3日のパート事務職と家事の両立、PTAや学校行事への参加など、充実した生活を送っていた。趣味の料理を活かし、家族のために手作り料理を楽しむなど、家族を中心とした生活を大切にしてきた。ストレス発散方法として、近所の友人とのウォーキングを行うなど、適度な運動と社会的交流を通じて心身の健康を保持してきた経緯がある。
現在のストレス状況として、今後の抗がん剤治療への不安が強く、特に中学生の娘たちの受験や進学を控え、母親としての役割が果たせないことへの懸念が顕著である。また、術後のボディイメージの変化に対する適応も課題となっており、「傷跡を見るのが怖い」という発言が多くみられる。これらの不安は夜間の睡眠にも影響を及ぼし、睡眠時間は4-5時間程度と減少している。
家族のサポート状況について、夫は47歳でシステムエンジニアとして働きながら、「治療に専念して」と精神的支援を提供している。中学3年生の長女と中学1年生の次女も母親の病気を理解し、早期の回復を願っている。家族の支援体制は良好であるが、A氏自身が「家族に負担をかけたくない」という思いを強く持っており、このことが新たなストレス要因となっている可能性がある。
生活の支えとなるものとして、家族との絆が最も重要な要素となっている。また、医療者との良好な関係性も入院生活における重要な支援となっている。しかし、入院に伴い、これまでの友人とのウォーキングなどのストレス発散方法が制限されている状況である。
必要な看護介入として、以下の対応が重要である。まず、術後のリハビリテーションを通じて、段階的に日常生活動作の自立を支援することで、自己効力感の回復を図る。また、抗がん剤治療に対する具体的な説明と対処方法の指導を行い、治療への不安軽減を図る。ボディイメージの変化に対しては、患者の気持ちに寄り添いながら、徐々に創部を受容できるよう支援する。
さらに、家族を含めた支援体制の強化として、夫や娘たちと共に今後の生活について具体的な計画を立てる機会を設け、役割分担や協力体制について話し合うことが重要である。退院後の生活を見据え、新たなストレス発散方法の確立や、可能な範囲での社会活動の継続について検討する必要がある。
今後も継続的な観察が必要な点として、睡眠状態の変化、疼痛の程度、右上肢の可動域改善状況、ボディイメージの受容過程、そして家族関係の変化などが挙げられる。特に、抗がん剤治療開始後の身体的・精神的変化に対する対処能力を注意深く観察し、必要に応じて支援を強化していく必要がある。また、退院後の外来受診時には、家庭での役割遂行状況や新たなストレス要因の有無について継続的に確認していくことが重要である。
アセスメントの結果、A氏は家族の支援という強みを持つ一方で、母親役割の制限や治療への不安、ボディイメージの変化など、複数のストレス要因を抱えている状況にある。これらのストレスに対する効果的な対処方法の確立と、家族を含めた包括的な支援体制の構築が、今後の看護介入において重要だと考える。
看護問題の明確化
#疾患に伴う役割変化に関連したストレス対処効果の低下
事例の目次
【ゴードン】乳癌 壮年期 入院10日目 (0012)| 今回の情報
1.健康知覚-健康管理
2.栄養-代謝
3.排泄
4.活動-運動
5.睡眠-休息
6.認知-知覚
7.自己知覚-自己概念
8.役割-関係
9.性-生殖
10.コーピング-ストレス耐性
11.価値-信念
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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