本事例の要約
定期的な乳がん検診により右乳がんStageⅡAと診断され、右乳房部分切除術およびセンチネルリンパ節生検を受けた45歳女性の術後10日目の事例。術後経過は良好だが、右上肢の可動域制限により日常生活動作に支障をきたしており、今後の抗がん剤治療への不安が強く、特に中学生の娘たちへの母親としての役割遂行に対する懸念を抱えている事例。
2.栄養-代謝
A氏の栄養状態について、身長158cm、術前体重55kgから現在52kgと、この10日間で3kgの体重減少が認められる。術前のBMIは22.0と標準範囲内であったが、現在は20.8まで低下している。45歳女性の基礎代謝量は概算で1,200kcal/日程度、術後の安静度と現在の活動量を考慮した身体活動レベルを1.3として計算すると、1日の必要エネルギー量は約1,560kcal程度と推定される。
食事摂取状況について、入院前は家族のために手作り料理を楽しむなど、規則正しい食生活を送っていた。しかし現在は術後のストレスによる食欲低下がみられ、食事摂取量は7割程度となっている。水分摂取は1日1000-1200ml程度を確保できており、脱水の危険性は低い。食物アレルギーの既往はない。好みの食べ物や食事の嗜好に関する具体的な情報は不足している。特に化学療法による味覚変化や食欲不振が予測されるため、現時点での食事の好み、よく食べる料理、苦手な食べ物、普段の食事の味付けの傾向(濃い味か薄味か)、冷たい食べ物や温かい食べ物の嗜好、普段の間食の内容など、詳細な情報収集が必要である。これらの情報は、化学療法中の食事管理や栄養状態維持のための具体的な支援策を立案する上で重要となる。また、家族の食事の好みについても把握することで、家族全体の食事管理の支援にも活用できる。
嚥下機能に問題はなく、むせや誤嚥の症状は認められない。現時点では嘔吐や悪心の訴えはないが、今後開始予定の化学療法(FEC療法およびドセタキセル)では高頻度で悪心・嘔吐が出現することが予測される。また口腔内の状態についても、化学療法による口内炎の発症リスクが高いため、事前の口腔ケア指導と定期的な観察が必要である。
血液データの分析では、血清アルブミン値は4.0g/dL(基準値4.1-5.1g/dL)と軽度低下しており、総タンパク値も6.8g/dL(基準値6.6-8.1g/dL)と基準値下限に近い。これは手術侵襲による影響と、食事摂取量低下による可能性が考えられる。貧血の指標である赤血球数395×10⁴/μL(基準値386-492×10⁴/μL)、ヘモグロビン値11.8g/dL(基準値11.6-14.8g/dL)、ヘマトクリット値35.8%(基準値35.1-44.4%)は、いずれも基準値下限に近い値を示している。電解質バランスについては、ナトリウム139mEq/L(基準値138-145mEq/L)、カリウム4.0mEq/L(基準値3.6-4.8mEq/L)と正常範囲内を維持している。トリグリセリド値、総コレステロール値、HbA1c値、血糖値については情報が不足しているため、追加の検査が望ましい。
皮膚の状態について、手術創部は術後10日目で治癒過程は良好である。創部周囲の発赤や腫脹はなく、排液や浸出液も認められない。褥瘡の発生はない。しかし今後の化学療法により、皮膚障害や爪の変化が起こる可能性が高いため、予防的なスキンケアの指導が必要である。
必要な看護介入として、まず栄養状態の改善が優先される。具体的には、食事摂取量の確保に向けて、少量頻回の食事提供や嗜好を考慮した食事内容の工夫が必要である。また、今後の化学療法による悪心・嘔吐、口内炎などの副作用に備えた予防的ケアと対処方法の指導も重要である。口腔ケアの方法、制吐剤の使用方法、食事の工夫など、具体的な指導内容を計画する必要がある。
継続的な観察が必要な項目として、体重の推移、食事摂取量の変化、血液データの推移、特にアルブミン値と貧血の指標となる値の変動を注意深く観察する必要がある。また、化学療法開始後は、悪心・嘔吐の程度、口内炎の有無、皮膚障害の出現など、副作用による症状を詳細に観察し、適切な対応を行う必要がある。
家族の支援体制についても、食事の準備や調理に関する具体的な協力方法を検討する必要がある。特に化学療法中の食事管理について、家族を含めた指導を行うことが重要である。
看護問題の明確化
#手術後のストレスと不安に関連した栄養摂取量の低下
#術後の化学療法に関連した不安
事例の目次
【ゴードン】乳癌 壮年期 入院10日目 (0012)| 今回の情報
1.健康知覚-健康管理
2.栄養-代謝
3.排泄
4.活動-運動
5.睡眠-休息
6.認知-知覚
7.自己知覚-自己概念
8.役割-関係
9.性-生殖
10.コーピング-ストレス耐性
11.価値-信念
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
看護の攻略部屋wiki
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