【ゴードン】乳癌 壮年期 入院10日目 (0012)

ゴードン

本事例の要約

定期的な乳がん検診により右乳がんStageⅡAと診断され、右乳房部分切除術およびセンチネルリンパ節生検を受けた45歳女性の術後10日目の事例。術後経過は良好だが、右上肢の可動域制限により日常生活動作に支障をきたしており、今後の抗がん剤治療への不安が強く、特に中学生の娘たちへの母親としての役割遂行に対する懸念を抱えている事例。

この事例で勉強できること

乳癌・抗癌剤治療のアセスメント

今回の情報

基本情報

A氏は45歳の女性で、身長158cm、体重は入院前55kgから現在52kgに減少している。夫47歳(システムエンジニア)、中学3年生の長女15歳、中学1年生の次女12歳との4人暮らしで、キーパーソンは夫である。週3日のパート事務職として働きながら家計を支えている。性格は几帳面で明るく、常に家族を第一に考える母親である。感染症の既往はなく、食物アレルギーや薬剤アレルギーもない。認知機能は正常で、日常生活に支障はない。

病名

病名は右乳がんStageⅡA(T2N0M0)で、腫瘍径2.5cm、画像上リンパ節転移は認められなかった。術式は右乳房部分切除術+センチネルリンパ節生検を実施し、術後の病理検査でセンチネルリンパ節への転移は認められず、トリプルネガティブタイプであることが判明した。

既往歴と治療状況

既往歴は特記事項なし。家族歴として母親が40代後半で乳がんに罹患していた。そのため、定期的な乳がん検診を欠かさず受診していた。

入院から現在までの情報

2ヶ月前の定期乳がん検診で右乳房に腫瘤を指摘され、精密検査の結果、右乳がんStageⅡA(T2N0M0)と診断された。腫瘍径は2.5cmで、画像上リンパ節転移は認められなかった。入院時には「手術後も今まで通り仕事を続けたい」という強い意向を示していた。

手術は右乳房部分切除術+センチネルリンパ節生検が実施され、手術時間は2時間15分、出血量は少量であった。術後の病理検査では、センチネルリンパ節に転移は認められず、腫瘍はトリプルネガティブタイプであることが判明した。

術後経過として、術後3-5日目は創部痛に対して定期的に鎮痛剤を使用していた。この期間のドレーン排液量は徐々に減少し、術後6日目にドレーン抜去となった。ドレーン抜去時には「早く家に帰って家族の食事を作りたい」との発言があった。術後7-9日目からリハビリテーションを開始し、上肢可動域訓練を実施しているが、「傷跡を見るのが怖い」という発言が多く、ボディイメージの変化への適応に苦慮している状態である。

現在、術後10日目で、経過は良好であるものの、今後の抗がん剤治療への不安が強く、「子どもたちの世話ができなくなるのではないか」という不安を頻繁に口にしている。特に中学生の娘たちの受験や進学を控え、母親としての役割が果たせないことへの懸念が強く表れている。炎症所見は改善傾向にあり、全身状態は安定しているが、術後の右上肢の可動域制限により、特に洗髪や着衣に介助を要する状態となっている。

バイタルサイン

入院時は体温36.5℃、脈拍72回/分、血圧120/70mmHg、SpO2 99%(room air)と安定していた。

現在の状態は体温36.7℃、脈拍76回/分、血圧124/78mmHg、SpO2 98%(room air)であり、術後も安定した状態を維持している。

食事と嚥下状態

入院前は趣味の料理を活かし、家族のために手作り料理を楽しむなど、規則正しい食生活を送っていた。喫煙歴はなく、飲酒は月1-2回程度の機会飲酒であった。嚥下機能に問題はない。現在は術後のストレスによる食欲低下がみられ、食事摂取量は7割程度となっている。水分摂取は1日1000-1200ml程度を確保できている。

排泄

入院前は自立しており、排泄に関する問題はなかった。現在は術後の安静による活動量低下と、投薬の影響による便秘傾向がみられるため、センノシド12mgを1日1回就寝前に内服している。排尿は自立しているが、排便は術後から緩下剤の使用を必要としている。

睡眠

入院前は規則正しい生活を送っており、睡眠に関する問題はなかった。現在は「手術後の痛みと今後の抗がん剤治療のことが気になって眠れない」と不眠を訴えることが多い。眠剤の使用は希望せず、疼痛時の鎮痛剤使用で対応している。夜間の睡眠時間は4-5時間程度で、日中も断続的に傾眠がみられる状態である。

視力・聴力・知覚・コミュニケーション・信仰

視力・聴力について、視覚・聴覚の異常はなく、補助具の使用もない。日常生活やコミュニケーションに支障はない。

知覚については、術後の右上肢に軽度のしびれ感があるものの、重度の感覚障害は認めていない。手術創部周辺の痛みに対してはロキソプロフェン60mgやアセトアミノフェン400mgを疼痛時に使用している。

コミュニケーションは良好で、医療者や家族との意思疎通に問題はない。几帳面で明るい性格であり、自分の思いや不安を言語化して表現することができる。入院中も看護師や他患者とコミュニケーションを積極的に図っている。

特別な信仰は持っていない。宗教上の制限や希望する特別な配慮はない。

動作状況

入院前は全ての日常生活動作が自立しており、近所の友人とウォーキングを行うなど、活動的な生活を送っていた。転倒歴はない。PTA活動や子どもたちの学校行事にも欠かさず参加していた。

現在の動作状況として、歩行は術後の安静度制限が解除され、病棟内の自立歩行が可能である。移乗動作も自立している。排尿・排便に関する動作は自立しているが、術後の創部痛により、トイレでの前傾姿勢や後方への手の届く動作に軽度の困難さがある。

入浴については、創部の保護と右上肢の可動域制限により、現在はシャワー浴で介助を要する。特に洗髪動作は右上肢の挙上制限により困難で、看護師の介助を必要としている。衣類の着脱も右上肢の可動域制限により、特に上着の着脱やボタンの留め外しに介助を要する状態である。ブラジャーの着用は創部の保護のため現在は控えている。

内服中の薬
  • ロキソプロフェン 60mg 疼痛時
  • アセトアミノフェン 400mg 疼痛時
  • センノシド 12mg 1日1回 就寝前

服薬状況について、入院中は看護師管理とし、配薬車からの与薬を行っている。疼痛時指示薬については、患者の訴えに応じて看護師が評価を行い使用している。服薬への理解は良好で、内服の必要性を理解している。退院後の自己管理に向けて、薬剤の効果や副作用について説明を行っており、自己管理能力は十分にあると判断される。

検査データ
検査項目基準値入院時最近(術後10日目)
WBC3300-8600/μL7200/μL6800/μL
RBC386-492×10⁴/μL410×10⁴/μL395×10⁴/μL
Hb11.6-14.8g/dL12.3g/dL11.8g/dL
Ht35.1-44.4%37.2%35.8%
Plt15.8-34.8×10⁴/μL23.5×10⁴/μL22.8×10⁴/μL
TP6.6-8.1g/dL7.2g/dL6.8g/dL
Alb4.1-5.1g/dL4.3g/dL4.0g/dL
T-Bil0.4-1.5mg/dL0.8mg/dL0.7mg/dL
AST13-30IU/L22IU/L25IU/L
ALT7-23IU/L18IU/L20IU/L
BUN8-20mg/dL15mg/dL16mg/dL
Cre0.46-0.79mg/dL0.65mg/dL0.68mg/dL
Na138-145mEq/L140mEq/L139mEq/L
K3.6-4.8mEq/L4.2mEq/L4.0mEq/L
Cl101-108mEq/L104mEq/L103mEq/L
CRP0-0.14mg/dL2.8mg/dL0.5mg/dL
今後の治療方針と医師の指示

術後経過について、バイタルサインは安定しており、創部の治癒も良好であることから、術後14日目での退院が予定されている。退院後は2週間毎の外来フォローを予定している。

リハビリテーションに関して、術後7日目から開始した上肢可動域訓練は1日2回継続する。肩関節の外転・屈曲の角度制限(90度まで)があり、徐々に拡大していく方針である。リハビリ中の疼痛の訴えが強い場合は、適宜鎮痛剤の使用を検討する。

創部管理について、シャワー浴は許可されているが、創部は濡らさないよう保護し、入浴は抜糸後とする。創部の消毒は1日1回実施し、発赤・腫脹・疼痛の増強がないか観察する。

術後補助化学療法について、トリプルネガティブタイプであることから、退院2週間後から開始予定である。レジメンはFEC療法(5-FU、エピルビシン、シクロホスファミド)を4クール、その後にドセタキセルを4クール予定している。治療は3週間毎に外来で実施する計画である。

日常生活の制限について、徐々に活動範囲を広げていくが、当面の間は以下の制限が指示されている:

  • 重い物(3kg以上)の持ち上げ禁止
  • 患側上肢の過度な使用を控える
  • 運転は術後4週間は控える
  • 仕事復帰は抗がん剤治療開始後の経過をみて検討する
  • 疼痛時や体調不良時は無理をせず、適宜休息を取る

これらの指示内容について、患者本人と家族に説明し、理解を得ている。

本人と家族の想いと言動

A氏は入院時から「手術後も今まで通り仕事を続けたい」という強い意向を示していた。現在は今後の抗がん剤治療への不安が強く、特に「子どもたちの世話ができなくなるのではないか」という不安を頻繁に口にしている。中学3年生の長女と中学1年生の次女の受験や進学を控え、母親としての役割が果たせないことへの懸念が強く表れている。また、「傷跡を見るのが怖い」という発言が多く、ボディイメージの変化への適応に苦慮している状態である。

夫は仕事の都合で面会時間が限られているものの、毎日電話で連絡を取り合い、「私が家のことは引き受けるから、治療に専念して」と妻を励ましている。娘たちも母親の病気を理解し、「早く家に帰ってきてほしい」と話している。A氏は家族の支えに感謝しながらも、「早く家に帰って家族の食事を作りたい」「家族に負担をかけたくない」という思いを持っており、家族の中心としての役割を早期に取り戻したいという願いが強く表れている。

この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり

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