本事例の要約
定期的な乳がん検診により右乳がんStageⅡAと診断され、右乳房部分切除術およびセンチネルリンパ節生検を受けた45歳女性の術後10日目の事例。術後経過は良好だが、右上肢の可動域制限により日常生活動作に支障をきたしており、今後の抗がん剤治療への不安が強く、特に中学生の娘たちへの母親としての役割遂行に対する懸念を抱えている事例。
4.活動-運動
A氏の活動と運動の状況について、入院前は全ての日常生活動作が自立しており、近所の友人とウォーキングを行うなど活動的な生活を送っていた。週3日のパート事務職として働きながら、家事全般をこなし、PTA活動や子どもたちの学校行事にも欠かさず参加していた。現在は術後10日目であり、病棟内の歩行は自立している。しかし、右乳房部分切除術後の創部痛と右上肢の可動域制限により、特に上肢の動作に制限が生じている状態である。
日常生活動作の詳細として、基本動作である起居・移乗動作は自立している。歩行は術後の安静度制限が解除され、病棟内を自立して移動可能である。しかし、右上肢の可動域制限(肩関節の外転・屈曲が90度まで)により、洗髪や着衣に介助を要する状況である。特に上着の着脱やボタンの留め外しに困難さがあり、ブラジャーの着用は創部保護のため現在は控えている状態である。
バイタルサインは体温36.7℃、脈拍76回/分、血圧124/78mmHg、SpO2 98%(room air)と安定している。呼吸機能に問題はなく、術後の呼吸器合併症も認められていない。血液データでは、赤血球数395×10⁴/μL(基準値386-492×10⁴/μL)、ヘモグロビン値11.8g/dL(基準値11.6-14.8g/dL)、ヘマトクリット値35.8%(基準値35.1-44.4%)と、いずれも基準値下限に近い値を示している。炎症反応の指標である血中CRP値は0.5mg/dL(基準値0-0.14mg/dL)と、術後の回復過程として改善傾向にある。
職業環境として、週3日のパート事務職に従事している。仕事復帰については、抗がん剤治療開始後の経過をみて検討する方針となっている。住居環境に関する具体的な情報(住居形態、階段の有無、手すりの設置状況など)が不足しているため、退院に向けて追加の情報収集が必要である。
術後のリハビリテーションとして、術後7日目から上肢可動域訓練を1日2回実施している。肩関節の外転・屈曲の角度制限(90度まで)があるため、徐々に可動域を拡大していく計画である。リハビリ中の疼痛の訴えが強い場合は、適宜鎮痛剤を使用している。
転倒転落のリスク評価として、入院前の転倒歴はなく、意識は清明で認知機能も正常である。しかし、術後の創部痛や上肢の可動域制限により、バランスを崩した際の防御動作が制限される可能性がある。また、今後開始予定の化学療法による倦怠感や末梢神経障害の出現により、転倒リスクが高まることが予測される。
必要な看護介入として、まず上肢可動域訓練の継続支援が重要である。リハビリテーション実施時の疼痛管理と、自主訓練の指導を行う必要がある。疼痛に対しては、我慢せずに早期から頓服薬(ロキソプロフェン60mgやアセトアミノフェン400mg)を使用できるよう支援することが重要である。痛みが増強してから使用するのではなく、予防的な使用も含めて患者が適切なタイミングで服用できるよう指導する必要がある。また、日常生活動作の自立度向上に向けて、動作方法の工夫や必要な福祉用具の検討も必要である。特に洗髪や更衣動作については、具体的な代償動作の指導が求められる。
退院後の生活に向けて、住環境の評価と必要な環境調整の検討が必要である。特に浴室での転倒予防や、上肢の動きを補助する手すりの設置などについて、検討が必要である。また、今後の化学療法による副作用を考慮した活動・運動計画の立案も重要である。
継続的な観察が必要な項目として、右上肢の可動域の改善状況、疼痛の程度、日常生活動作の自立度の変化、バイタルサインの推移が挙げられる。また、化学療法開始後は、倦怠感や末梢神経障害の出現状況を注意深く観察し、転倒予防対策を強化する必要がある。
現時点で不足している情報として、自宅の住環境の詳細、仕事場の環境、普段の生活リズム、運動習慣の詳細(頻度、強度、時間など)がある。これらの情報を追加収集することで、より具体的な退院支援計画を立案することができる。
看護問題の明確化
#乳房手術による創部痛と右上肢の可動域制限に関連した身体可動性の障害
事例の目次
【ゴードン】乳癌 壮年期 入院10日目 (0012)| 今回の情報
1.健康知覚-健康管理
2.栄養-代謝
3.排泄
4.活動-運動
5.睡眠-休息
6.認知-知覚
7.自己知覚-自己概念
8.役割-関係
9.性-生殖
10.コーピング-ストレス耐性
11.価値-信念
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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