本事例の要約
定期的な乳がん検診により右乳がんStageⅡAと診断され、右乳房部分切除術およびセンチネルリンパ節生検を受けた45歳女性の術後10日目の事例。術後経過は良好だが、右上肢の可動域制限により日常生活動作に支障をきたしており、今後の抗がん剤治療への不安が強く、特に中学生の娘たちへの母親としての役割遂行に対する懸念を抱えている事例。
1.健康知覚-健康管理
A氏は右乳がんStageⅡA(T2N0M0)と診断され、右乳房部分切除術およびセンチネルリンパ節生検を受けた45歳の女性である。腫瘍径は2.5cmで、術後の病理検査でセンチネルリンパ節への転移は認められず、トリプルネガティブタイプであることが判明している。この病期とサブタイプの特性から、術後補助化学療法が必要な状態である。
現在の健康状態として、術後10日目で全身状態は安定している。バイタルサインは体温36.7℃、脈拍76回/分、血圧124/78mmHg、SpO2 98%(room air)と正常範囲内で推移している。血液検査値も概ね基準値内であるが、炎症反応の指標である血中CRP値は術直後の2.8mg/dLから0.5mg/dLまで改善しているものの、まだ完全な正常化には至っていない状態である。このことから、創部の治癒過程は順調であるが、完全な回復までは継続的な観察が必要である。
健康管理に関する意識は高く、母親の乳がん罹患歴を背景に定期的な乳がん検診を欠かさず受診していた経緯がある。この予防的な健康行動により、比較的早期での発見につながったと考えられる。疾患や治療に対する理解も良好で、手術後の経過や今後の治療計画についても医療者からの説明を適切に理解している。服薬管理については、現在は看護師管理下で適切に実施されており、疼痛時指示薬の使用判断も適切である。退院後の自己管理に向けた理解も十分であると判断される。
身体状況として、身長158cm、体重は入院前の55kgから現在52kgへと減少している。入院前のBMIは22.0であったが、現在は20.8まで低下している。この体重減少は、術後のストレスによる食事摂取量の低下(現在7割程度)が主な要因と考えられる。入院前は近所の友人とウォーキングを行うなど活動的な生活を送っていたが、現在は術後の活動制限により運動量が著しく低下している状態である。今後の化学療法に向けて、適切な栄養状態と体力の維持が重要となるため、段階的な運動負荷の増加と栄養管理の支援が必要である。
呼吸器系に関して、アレルギー歴はなく、喫煙歴もない。飲酒は月1-2回程度の機会飲酒であり、健康に影響を及ぼすレベルではない。SpO2値も98%と良好で、呼吸器系の問題は認められない。
既往歴には特記事項はないが、45歳という年齢を考慮すると、今後は更年期症状の出現も予測される。化学療法による閉経誘発の可能性もあることから、ホルモン状態の変化に伴う症状の出現について注意深い観察が必要である。
必要な看護介入として、以下の点に焦点を当てる必要がある。まず、体重減少に対する栄養状態の改善支援である。食事内容の工夫や分割摂取の提案など、具体的な支援策を検討する。次に、術後のリハビリテーションプログラムの継続支援である。現在実施している上肢可動域訓練を確実に継続できるよう支援する。さらに、今後の化学療法に向けた心理的支援も重要である。特に子育てと治療の両立に対する不安が強いため、利用可能な社会資源の情報提供や、家族を含めた支援体制の構築が必要である。
継続的な観察が必要な項目として、創部の治癒状態、体重・栄養状態の推移、上肢可動域の改善状況、そして心理状態の変化が挙げられる。また、化学療法開始後は副作用の出現状況や対処行動の適切性についても注意深い観察が必要となる。特に予定されているFEC療法とドセタキセルによる化学療法では、様々な副作用が予測される。急性期の副作用として、悪心・嘔吐、食欲不振、口内炎、下痢、脱毛、倦怠感が高頻度で出現する。また、骨髄抑制による白血球減少、貧血、血小板減少も必発であり、感染予防の指導が重要となる。さらに、末梢神経障害、浮腫、爪の変化、皮膚症状なども起こりやすい。
これらの副作用に対する具体的な指導内容として、以下の点について詳細な説明と支援が必要である。まず、骨髄抑制に対しては、手洗い・うがいの徹底、マスク着用、人混みを避けることなどの感染予防行動の指導を行う。発熱時の受診基準についても明確に説明する。悪心・嘔吐に対しては、制吐剤の適切な使用方法と、少量頻回の食事摂取、冷たい食べ物の活用などの工夫を提案する。口内炎予防には、こまめな口腔ケアと保湿の重要性を説明する。脱毛に関しては、治療開始前からのウィッグの準備や、スカーフの使用方法などの情報提供を行う。末梢神経障害に対しては、転倒予防と症状悪化時の報告の必要性を説明する。
また、日常生活上の注意点として、適度な運動の継続、バランスの良い食事摂取、十分な休息の確保について指導する。体調の変化や気になる症状があった場合の連絡方法、緊急時の対応についても具体的に説明する必要がある。さらに、治療中の生活や家事の工夫、子どもたちへのサポート体制についても、家族を含めた具体的な対策を検討する必要がある。
なお、更年期症状の有無や月経状態については情報が不足しているため、追加の情報収集が必要である。また、家族の具体的なサポート体制や、利用可能な社会資源の有無についても詳細な情報収集が求められる。
看護問題の明確化
#手術による組織損傷に関連した急性疼痛
#乳房切除術に関連したボディイメージの障害
#悪性腫瘍の診断と化学療法に関連した不安
#乳房手術による右上肢の可動域制限に関連したセルフケア不足
事例の目次
【ゴードン】乳癌 壮年期 入院10日目 (0012)| 今回の情報
1.健康知覚-健康管理
2.栄養-代謝
3.排泄
4.活動-運動
5.睡眠-休息
6.認知-知覚
7.自己知覚-自己概念
8.役割-関係
9.性-生殖
10.コーピング-ストレス耐性
11.価値-信念
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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