本事例の要約
本事例は、65歳男性が下血とS状結腸癌StageⅡAと診断され、腹腔鏡下S状結腸切除術を受けた術後3日目の事例である。本日7月26日に術後合併症の予防と早期離床、ADL拡大に向けた看護介入を行う。
1.健康知覚-健康管理
A氏は65歳男性で、S状結腸癌StageⅡA(T3N0M0)と診断され、腹腔鏡下S状結腸切除術、D3リンパ節郭清術、機能的端々吻合術が施行された。S状結腸癌は大腸癌の中でも比較的発生頻度が高く、A氏の場合は腫瘍が漿膜下層まで浸潤していたが、リンパ節転移や遠隔転移は認められなかった。大腸癌の主な危険因子として加齢、家族歴、食習慣などが挙げられるが、A氏は65歳であり、また父親が大腸癌で70歳時に死亡している家族歴があることから、遺伝的要因と加齢による発症リスクが高かったと考えられる。
現在の健康状態は術後3日目であり、バイタルサインは血圧132/78mmHg、脈拍84回/分・整、体温37.2℃、呼吸数20回/分、SpO2 96%(room air)と安定している。疼痛はNRSで安静時3/10、体動時5/10であるが、アセトアミノフェン静注後は安静時NRS 1/10程度まで軽減している。身体状態は概ね安定しているが、腹部症状として軽度の腹部膨満感があり、術後の腸管蠕動の回復途上にある。術後の回復経過としては良好であり、腸蠕動音も聴取でき、排ガスも認められている。しかし、術後の自然な経過として白血球数の上昇(12,800/μL)とCRP値の上昇(3.82mg/dL)が認められており、創部感染や縫合不全などの合併症がないか、継続的な観察が必要である。
A氏の受診行動に関しては、痔核からの出血と思い込み約2か月間様子を見ていたが改善せず、妻の勧めで受診し大腸癌と診断された経緯がある。この点から、健康問題の自己判断によって受診が遅れたことが懸念される。今後は定期的な検診の重要性を理解し、症状があれば速やかに受診するよう指導する必要がある。疾患や治療への理解は良好で、「手術で取り切れたなら、もう癌はないと考えていいのだろうか」という発言から、今後の経過や再発に対する適切な関心を持っていることがわかる。元教師という背景もあり、論理的思考能力が高く、説明内容の理解も良好であるため、疾患や治療に関する詳細な情報提供が可能である。服薬状況については、高血圧症に対するアムロジピン5mg/日と高コレステロール血症に対するロスバスタチン2.5mg/日を内服中であり、入院前は自己管理できていた。現在は術後のため看護師管理となっているが、状態が安定した後は自己管理に移行する予定である。薬に関する知識も持っており、薬の名前や効果について理解しているため、退院後の服薬遵守は期待できる。
A氏の身長は173cm、体重は68kg、BMIは22.7であり、標準体重範囲内である。入院前は近所を30分程度散歩することもあったが、特に計画的な運動習慣はなかった。術後のリハビリテーションとしては、術後2日目から開始し、現在は看護師付き添いのもとでベッドサイドでの立位訓練と病室内の短距離歩行(約5m)を1日2回実施している。今後の回復過程において、段階的に活動量を増やし、術前の身体機能レベルへの回復を目指す必要がある。65歳という年齢を考慮すると、術後の回復には若年者と比較してやや時間を要する可能性があるため、焦らず段階的に活動量を増やしていくよう指導することが重要である。
呼吸に関するアレルギーはなく、アレルギーとしては花粉症のみである。喫煙歴はないため、術後の呼吸器合併症のリスクは比較的低いと考えられる。飲酒に関しては、入院前はビールを晩酌程度(350ml/日)摂取していたが、大腸癌の診断後は禁酒している。大腸癌とアルコール摂取の関連性についてのエビデンスは明確ではないが、過度のアルコール摂取は避けるよう指導する必要がある。禁酒を継続するか、適量の飲酒に留めるかについては、A氏の嗜好も考慮しながら情報提供を行い、自己決定を支援することが望ましい。
既往歴としては、60歳時に高血圧症、62歳時に高コレステロール血症と診断されている。いずれも薬物療法によってコントロールされており、術前の血圧は概ね130/80mmHg前後と安定していた。また、63歳時には痔核の治療歴があり、出血を繰り返していたため、近医で軟膏による保存的治療を行っていた。高血圧症と高コレステロール血症は動脈硬化の危険因子であり、心血管系合併症のリスクがある。術後は一時的に内服を中断していたが、術後2日目から再開しており、血圧値や脂質プロファイルの推移を観察する必要がある。また、痔核の症状と大腸癌の症状を混同したことで受診が遅れた経緯があるため、今後は下部消化管症状(特に出血)がある場合は、痔核の症状と断定せず、医療機関を受診するよう指導することが重要である。
入院前の食生活は、妻が作る和食中心の献立で、野菜を多く取り入れるよう心がけていたとのことである。このようなバランスの良い食習慣を術後も継続することが、大腸癌の再発予防や全身状態の維持に寄与すると考えられる。術後の食事摂取に関しては、現在は流動食を摂取中であるが、腹部膨満感のため全量摂取は難しい状況である。今後は食事形態の調整や少量頻回摂取など、消化管手術後の特性を考慮した食事指導が必要である。また、退院後の食事内容についても、高繊維食の摂取や適切な水分摂取など、大腸癌術後の食事管理についての指導が重要である。
A氏は今回の疾患体験を通じて健康管理への意識が高まっており、「これからは定期的に検診も受けるつもりだ」という発言からも、疾患の再発予防に向けた姿勢がうかがえる。また、几帳面で計画的な性格であることから、退院後の健康管理行動も適切に実施できる可能性が高い。さらに、妻のサポートも期待できることから、家族を含めた健康管理支援が可能である。退院後は定期的な外来通院による経過観察が必要であり、大腸癌の再発兆候や合併症の早期発見に努めることが重要である。また、A氏は家族歴もあることから、子どもたちへの大腸癌検診の重要性についても情報提供することが望ましい。
看護問題の明確化
#疾患に伴う症状の誤認に関連した健康管理不足
#手術に関連した感染と縫合不全のリスク
事例の目次
【ゴードン】大腸癌 術後急性期(0021)| 今回の情報
1.健康知覚-健康管理
2.栄養-代謝
3.排泄
4.活動-運動
5.睡眠-休息
6.認知-知覚
7.自己知覚-自己概念
8.役割-関係
9.性-生殖
10.コーピング-ストレス耐性
11.価値-信念
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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