本事例の要約
本事例は、65歳男性が下血とS状結腸癌StageⅡAと診断され、腹腔鏡下S状結腸切除術を受けた術後3日目の事例である。本日7月26日に術後合併症の予防と早期離床、ADL拡大に向けた看護介入を行う。
11.価値-信念
A氏は特定の宗教は持っていないが、仏教的な考え方に共感しており、年に数回は家族の墓参りに行く習慣がある。これは日本の一般的な文化的背景に沿った行動であり、A氏の人生観や死生観に影響を与えている可能性がある。特に父親が大腸がんで亡くなっているという家族歴を持つA氏にとって、自身の病気と父親の経験を結びつけて考える傾向があり、「父親も大腸癌だったので、自分もいつかなるかもしれないと思っていた」という発言からも、疾患の受容に対する準備性があったことが伺える。
A氏の価値観は、几帳面で計画的な性格が基盤となっており、元高校教師として長年勤めてきた経験から、論理的な思考と自己管理能力の高さが特徴である。また、現在も週3日程度母校で非常勤講師として数学を教えていることから、教育に対する情熱と社会貢献の意識が強いと考えられる。これらの価値観は、治療過程においても、医療者の指示を理解し協力的な姿勢として表れている。「前向きに治療に取り組みたい」という強い意志を持っていることは、回復に向けた積極的な取り組みの原動力となっている。
A氏の意思決定においては、妻の存在が大きく影響している。「妻の勧めで受診し」たことで大腸がんの診断に至ったことや、妻が毎日面会に来ていることから、夫婦間の絆の強さと相互支援の関係性が伺える。また、長男、長女との関係も良好であり、家族の支援が意思決定の過程で重要な役割を果たしている。このような家族との関係性は、A氏の回復意欲を支え、退院後の生活においても重要な支援基盤となる。
A氏の目標としては、「囲碁の大会が2か月後にあるので、それまでには体力を回復させたい」という具体的な短期目標を持っている。この目標設定は、回復に向けた動機づけとなっており、リハビリテーションや日常生活動作の改善に積極的に取り組む姿勢につながっている。また、「教師という仕事柄、生徒たちに健康の大切さを伝えていきたい」という発言からは、自身の病気体験を教育現場で活かそうとする長期的な目標も見出せる。
一方で、「手術で取り切れたなら、もう癌はないと考えていいのだろうか」という発言には、今後の予後に対する不安が表れている。StageⅡAの大腸がんであり、術後の病理結果によって補助化学療法の必要性が検討される段階であるため、この不安は当然のものである。また、「もう少し早く受診すればよかった」と自己を責める発言からは、自分の判断に対する後悔の念も伺える。
看護介入としては、まずA氏の価値観や目標を尊重し、回復過程における自己効力感を高める支援が重要である。具体的には、日々の回復状況を可視化し、進歩を実感できるようなフィードバックを行うことが効果的である。また、囲碁の大会参加という目標に向けて、段階的なリハビリテーション計画を共に立て、実行可能な小さな目標を設定することで、達成感を積み重ねていくアプローチが有効である。
さらに、今後の予後や治療方針に関する不安に対しては、適切な情報提供と質問に答える機会を設けることが重要である。特に、退院後の生活上の注意点や、定期的な検診の重要性について説明し、不安の軽減と健康管理への自信を持てるよう支援する必要がある。
家族との関係性については、妻を中心とした支援体制を強化するため、退院に向けた指導の際には妻も含めて行い、家庭での役割分担や支援方法について話し合う機会を設けるべきである。特に、A氏の「何でも自分でやろうとする」性格を考慮し、無理のない範囲での自立を促しつつ、必要な支援を受け入れられるような関係性の構築を支援する。
今後も継続的に、A氏の価値観や目標の変化を観察し、回復過程に応じた支援を行うことが必要である。特に、退院が近づくにつれて、社会復帰や趣味活動の再開に関する具体的なイメージを共有し、現実的な計画立案を支援することが重要である。また、退院後の定期的な外来受診においても、A氏の価値観に基づいた生活スタイルの維持と、健康管理への取り組みを評価し、必要に応じた助言を行うことが望ましい。
看護問題の明確化
なし
事例の目次
【ゴードン】大腸癌 術後急性期(0021)| 今回の情報
1.健康知覚-健康管理
2.栄養-代謝
3.排泄
4.活動-運動
5.睡眠-休息
6.認知-知覚
7.自己知覚-自己概念
8.役割-関係
9.性-生殖
10.コーピング-ストレス耐性
11.価値-信念
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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