本事例の要約
本事例は、65歳男性が下血とS状結腸癌StageⅡAと診断され、腹腔鏡下S状結腸切除術を受けた術後3日目の事例である。本日7月26日に術後合併症の予防と早期離床、ADL拡大に向けた看護介入を行う。
7.自己知覚-自己概念
A氏は几帳面で計画的な性格であり、元高校教師として定年まで勤め上げ、現在も非常勤講師として数学を教えていることから、責任感が強く真面目な人物像がうかがえる。このような性格特性は、術後の療養においては治療計画に忠実に従う点でプラスに作用する可能性がある一方で、計画通りに回復が進まない場合には焦りや不安を感じやすいという側面もある。また、地域の囲碁サークルの代表を務めるなど社会的活動に積極的であることから、周囲との関わりを大切にし、リーダーシップを発揮できる人物であると考えられる。趣味の読書や囲碁からは、内省的で思考を深めることを好む傾向がうかがえる。
ボディイメージについては、腹腔鏡下S状結腸切除術を受け、腹部に5ヶ所の創部があり、ダグラス窩にドレーンが1本留置されている。これらが身体的完全性の喪失につながる可能性があるが、現時点ではボディイメージの変化に関する具体的な訴えは確認されていない。しかし、手術による身体の変化に対する受け止め方や感情については詳細な情報が不足しているため、今後の面談で確認する必要がある。特に術創やドレーン挿入部の見た目に対する反応、それらが日常生活に与える影響についての考えを把握することが重要である。
疾患に対する認識については、「父親も大腸癌だったので、自分もいつかなるかもしれないと思っていた」と話しており、家族歴を踏まえた疾患リスクを現実的に捉えていることがわかる。また、「もう少し早く受診すればよかった」という発言からは、自分の健康管理に対する自責の念を抱いていることが読み取れる。しかし同時に、「手術をして本当に良かった。これからは定期的に検診も受けるつもりだ」という前向きな発言もあり、今回の経験を今後の健康管理に活かそうという意識の高まりが見られる。「手術で取り切れたなら、もう癌はないと考えていいのだろうか」という問いからは、癌の再発や予後に対する不安を抱えていることがわかる。これらの認識は、今後の治療方針や退院後の生活設計において重要な影響を与えるため、医療者は正確な情報提供と心理的サポートを行う必要がある。
自尊感情については、A氏が長年教師として勤め、現在も非常勤講師を続けていることや、地域の囲碁サークルの代表を務めるなど社会的役割を担っていることから、一定の自尊感情を維持していると推測される。しかし、癌の診断や手術により、一時的に自分の身体や能力に対する自信が揺らいでいる可能性もある。特に「囲碁の大会が2か月後にあるので、それまでには体力を回復させたい」という発言は、自分の役割や目標を意識し、それを取り戻そうとする回復への意欲の表れであり、自尊感情の維持に寄与していると考えられる。また、術後の疼痛や活動制限により自己効力感が低下する可能性もあるため、小さな成功体験を積み重ねられるよう援助することが重要である。
育った文化や周囲の期待については、具体的な情報が不足している。しかし、家族の健康に対する意識の高さがうかがえ、妻からは「子どもたちにも検診を受けるよう勧めています」という発言があることから、健康管理を大切にする家庭環境であることが推測される。また、妻の「無理せずにゆっくり回復してほしい」という願いや、子どもたちの「父が元気になってまた囲碁を教えてくれるのを楽しみにしている」という期待は、A氏にとって回復への大きな励みとなる一方で、プレッシャーにもなり得る。家族の期待に応えようとするあまり、無理をしてしまう可能性もあるため、適切なペースでの回復を支援することが必要である。
加齢による変化としては、A氏は65歳であり、身体機能の低下や回復力の減弱が見られる可能性がある。これにより、若年者に比べて手術からの回復に時間を要することが予想され、そのことがA氏の自己イメージや自信に影響を与える可能性がある。特に、これまで活動的に過ごしてきた人にとって、加齢に伴う回復の遅れは受け入れがたい現実となる場合もあるため、現実的な回復目標の設定と段階的な活動拡大を支援することが重要である。
看護介入としては、まずA氏の性格特性を理解し、几帳面で計画的な面を活かした術後の回復計画を一緒に立てることが有効である。その際、無理のない目標設定を心がけ、達成感を得られるよう支援する。ボディイメージについては、創部やドレーンの管理方法を丁寧に説明し、自己管理能力を高めることで心理的適応を促す。疾患に対する認識や不安については、正確な情報提供と質問に答える機会を設け、誤解や過度な不安の軽減に努める。自尊感情の維持・向上のためには、日常生活動作の自立度を高める援助や、趣味や社会的活動の継続・再開に向けた支援を行う。また、家族の期待と本人の回復状況のバランスを図るため、家族も含めた情報共有と意思決定支援を行うことが重要である。
今後も継続的にA氏の言動や表情の変化を観察し、自己知覚や自己概念の変化を評価していく必要がある。特に、退院が近づくにつれて、社会復帰や役割遂行に対する不安が高まる可能性があるため、退院後の生活をイメージした支援を行うことが望ましい。また、定期的な外来受診や検査が必要となる大腸癌の特性を考慮し、長期的な健康管理への意欲を維持できるよう継続的な支援体制を整えることが重要である。
看護問題の明確化
#大腸癌の診断と手術に関連した自己概念の混乱リスク
事例の目次
【ゴードン】大腸癌 術後急性期(0021)| 今回の情報
1.健康知覚-健康管理
2.栄養-代謝
3.排泄
4.活動-運動
5.睡眠-休息
6.認知-知覚
7.自己知覚-自己概念
8.役割-関係
9.性-生殖
10.コーピング-ストレス耐性
11.価値-信念
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
看護の攻略部屋wiki
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