本事例の要約
本事例は、65歳男性が下血とS状結腸癌StageⅡAと診断され、腹腔鏡下S状結腸切除術を受けた術後3日目の事例である。本日7月26日に術後合併症の予防と早期離床、ADL拡大に向けた看護介入を行う。
4.活動-運動
A氏は腹腔鏡下S状結腸切除術後3日目であり、術前は全てのADLが自立していたが、現在は手術による影響で動作制限がある。入院前の日常生活動作は食事、排泄、入浴、衣類の着脱などすべて自立しており、移動も安定した歩行が可能で杖などの補助具は使用していなかった。近所を30分程度散歩することもあり、身体機能は年齢相応に維持されていた。しかし術後の現在は、上半身の着脱は自力で可能だが、腹部の創部痛のため下半身の着脱は看護師の介助を必要としている。特に腹部を屈曲させる動作で痛みが増強するため、動作に制限がある。
運動機能と安静度に関しては、術後2日目からリハビリテーションを開始し、看護師付き添いのもとでベッドサイドでの立位訓練と病室内の短距離歩行(約5m)を1日2回実施している。移動時には創部痛を訴えるため、歩行前に鎮痛薬を使用している状況である。移乗動作はベッドから車椅子への移乗が見守りで可能となっている。術後3日目である本日からは、病棟内歩行を開始し、徐々に歩行距離を延長していく予定である。腹部に5か所の創部があり、ダグラス窩にドレーン1本が留置されているため、チューブ類に注意しながらの移動が必要である。術後の早期離床は深部静脈血栓症や肺塞栓症、廃用症候群の予防、腸管蠕動の促進などに重要であるため、疼痛管理をしながら積極的に離床を促進する必要がある。
バイタルサインは、血圧132/78mmHg、脈拍84回/分・整、体温37.2℃、呼吸数20回/分、SpO2 96%(room air)であり、循環動態は安定している。心電図モニターは術後2日目に終了し、異常所見は認められていない。呼吸機能については具体的な検査値の記載はないが、SpO2が96%(room air)と保たれていることから、現時点では呼吸機能障害は認められないと考えられる。しかし、腹部手術後は呼吸の深さが制限されやすく、無気肺や肺炎などの呼吸器合併症のリスクがあるため、深呼吸や咳嗽練習の継続が重要である。また、活動量の増加に伴うバイタルサインの変化(特に血圧低下や頻脈、SpO2の低下など)に注意し、過度な負荷がかからないよう調整する必要がある。
血液データについては、赤血球数が入院時4.28×10⁶/μLから術後3日目3.82×10⁶/μLへ、ヘモグロビン値が13.2g/dLから11.8g/dLへ、ヘマトクリット値が40.1%から36.2%へとそれぞれ減少している。これは手術時の出血(120mL)によるものと考えられるが、現在の値はいずれも許容範囲内であり、輸血を要するほどの貧血は認められない。ただし、活動に伴う息切れや倦怠感、めまいなどの貧血症状の出現に注意する必要がある。CRP値は0.58mg/dLから3.82mg/dLへと上昇しており、これは手術侵襲による炎症反応として一般的に見られる変化である。炎症反応の推移を確認しながら、創部感染や縫合不全などの合併症の早期発見に努める必要がある。
職業については、A氏は定年まで高校教師として勤め、現在は週3日程度、母校で非常勤講師として数学を教えている。入院前は地域の囲碁サークルの代表を務めるなど、社会的な活動も積極的に行っていた。このような社会的役割や趣味活動は、退院後の生活の質や回復へのモチベーションに重要であるため、退院後の社会復帰を見据えたリハビリテーション計画が必要である。A氏自身も「囲碁の大会が2か月後にあるので、それまでには体力を回復させたい」と目標を持っており、この目標を活かした活動計画を立てることが効果的である。
住居環境に関する情報は限られているが、妻(62歳)と二人暮らしであり、長男(38歳)と長女(36歳)は独立していることが分かっている。退院後の生活環境を考慮したリハビリテーション計画や、必要に応じて住環境の調整(手すりの設置など)が必要である可能性があるため、自宅の間取りや段差の有無、浴室やトイレの構造などについて情報収集を行う必要がある。特に術後の活動制限期間中の生活動作の安全性を確保するための環境調整が重要である。
転倒転落のリスクとしては、術後の創部痛やドレーン類の存在、活動制限による筋力低下、術後の低血圧や立ちくらみの可能性などが挙げられる。現在のところ入院後の転倒はないが、特に初回歩行時や活動量増加時には転倒リスクが高まるため、歩行時の見守りや付き添いが必要である。また、急な体位変換を避け、ゆっくりと動作するよう指導することが重要である。夜間のトイレ移動時の転倒リスクも考慮し、ナースコールの適切な位置の確認や必要時のポータブルトイレの使用なども検討すべきである。
A氏は65歳であり、加齢に伴う生理的変化として、筋力や持久力の低下、バランス能力の軽度低下、骨密度の減少などが考えられる。しかし、術前のADLが自立しており、日常的に散歩などの活動も行っていたことから、加齢による顕著な機能低下はなかったと推測される。ただし、術後の回復過程においては、若年者と比較して時間を要する可能性があるため、焦らず段階的に活動量を増やしていくよう指導することが重要である。また、フレイルや廃用症候群の予防の観点から、早期からの適切な栄養管理と運動療法が重要である。
以上を総合すると、A氏の活動-運動状態は術後の一時的な制限はあるものの、回復段階にあると考えられる。今後は段階的な活動量の増加を図りながら、創部痛の管理、安全な移動の確保、早期離床の促進、呼吸器合併症の予防などを継続的に行う必要がある。また、退院に向けて、自宅での生活を想定した動作訓練や環境調整の準備を計画的に進めることが重要である。
看護問題の明確化
#疾患に伴う手術創部痛に関連した活動耐性低下
事例の目次
【ゴードン】大腸癌 術後急性期(0021)| 今回の情報
1.健康知覚-健康管理
2.栄養-代謝
3.排泄
4.活動-運動
5.睡眠-休息
6.認知-知覚
7.自己知覚-自己概念
8.役割-関係
9.性-生殖
10.コーピング-ストレス耐性
11.価値-信念
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
看護の攻略部屋wiki
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