【ゴードン】大腸癌 術後急性期(0021)

ゴードン

本事例の要約

本事例は、65歳男性が下血とS状結腸癌StageⅡAと診断され、腹腔鏡下S状結腸切除術を受けた術後3日目の事例である。本日7月26日に術後合併症の予防と早期離床、ADL拡大に向けた看護介入を行う。

この事例で勉強できること

この事例からは、大腸癌術後患者の周術期看護について学べます。特に術後合併症(血栓症、肺炎、イレウス)の予防と早期発見、段階的な回復に合わせた疼痛管理、早期離床促進、食事再開、排泄機能回復の支援方法を理解できます。また、がん患者と家族の心理面への支援検査データの解釈と観察点の抽出社会的背景を考慮した個別的な看護計画立案の視点も身につけられます。

今回の情報

基本情報

A氏、65歳、男性。身長173cm、体重68kg(BMI:22.7)。家族構成は妻(62歳)と二人暮らしで、長男(38歳)と長女(36歳)は独立している。キーパーソンは妻であり、毎日面会に来ている。職業は定年まで高校教師として勤め、現在は週3日程度、母校で非常勤講師として数学を教えている。性格は几帳面で計画的、趣味は読書と囲碁である。感染症はなく、アレルギーは花粉症のみである。認知機能に問題はなく、会話は明瞭で理解力も良好である。入院前は地域の囲碁サークルの代表を務めるなど、社会的な活動も積極的に行っていた。

病名

S状結腸癌StageⅡA(T3N0M0)と診断され、腹腔鏡下S状結腸切除術、D3リンパ節郭清術、機能的端々吻合術を施行した。術中所見では腫瘍は漿膜下層まで浸潤していたが、周囲臓器への浸潤は認められなかった。また、腹水や腹膜播種、肝転移などの所見も認められなかった。郭清したリンパ節には転移を認めなかった。腫瘍マーカーCEAは術前5.3ng/mLと軽度上昇していた。

既往歴と治療状況

既往歴として60歳時に高血圧症と診断され、アムロジピン5mg/日を内服中で、血圧は概ね130/80mmHg前後でコントロールされている。62歳時に高コレステロール血症と診断され、ロスバスタチン2.5mg/日の内服を開始し、現在も継続中である。63歳時には痔核の治療歴があり、出血を繰り返していたため、近医で軟膏による保存的治療を行っていた。今回の大腸癌の診断前は、痔からの出血と思い、約2か月間様子を見ていたが症状が改善せず、妻の勧めで受診し、精密検査の結果、S状結腸癌と診断された。その他に特記すべき既往歴はないが、父親が大腸癌で70歳時に死亡しており、家族歴が認められる。

入院から現在までの情報

A氏は7月17日に術前検査入院となった。7月18日に造影CT検査、MRI検査、上部・下部内視鏡検査を施行し、S状結腸に2.8cm×3.5cmの2型腫瘍を認めた。生検の結果、中分化型腺癌と診断された。遠隔転移は認められず、StageⅡAと判断された。術前の腸管前処置として、7月22日から低残渣食に変更し、7月23日は絶食とした。また同日、ピコスルファートナトリウム内用液10mLと下剤内服による腸管洗浄を行った。

7月24日、腹腔鏡下S状結腸切除術を施行。手術時間は3時間15分、出血量は120mLであった。術後はICUに入室し、全身管理を行った。手術当日は創部痛に対してフェンタニルによるPCA(患者自己調節鎮痛法)が使用され、術後1日目の7月25日に一般病棟へ転棟した。

現在は術後3日目の7月26日であり、硬膜外麻酔は術後2日目に抜去し、疼痛コントロールはアセトアミノフェン静注製剤に切り替えている。術後1日目から経口摂取を開始し、現在は流動食を摂取中である。術直後から装着していた弾性ストッキングは継続中で、間欠的空気圧迫装置は術後2日目に終了した。

腹部の創部は5ヵ所であり、ドレーンはダグラス窩に1本留置されているが、排液は漿液性で悪臭はなく、量も徐々に減少している。術後の経過は良好で、腸蠕動音も聴取できるようになり、術後イレウスの所見はみられていない。腹部症状として軽度の腹部膨満感を訴えているが、嘔気はなく、排ガスも認められている。しかし、術後の腸管蠕動の回復に伴い、吻合部周辺の違和感を訴えることがある。

バイタルサイン

来院時のバイタルサインは、血圧138/82mmHg、脈拍76回/分・整、体温36.5℃、呼吸数18回/分、SpO2 98%(room air)であった。意識レベルはJCS 0、GCS 15点(E4V5M6)で清明であり、痛みの訴えはNRS(Numerical Rating Scale)で2/10程度であった。

現在(術後3日目)のバイタルサインは、血圧132/78mmHg脈拍84回/分・整体温37.2℃、呼吸数20回/分、SpO2 96%(room air)である。意識レベルはJCS 0、GCS 15点で清明。疼痛はNRSで安静時3/10、体動時5/10であり、特に創部周囲の痛みを訴えている。アセトアミノフェン静注後は安静時の疼痛はNRS 1/10程度まで軽減する。術後の発熱はなく、循環動態も安定している。心電図モニターは術後2日目に終了し、異常所見は認められなかった。

食事と嚥下状態

入院前は1日3食を規則正しく摂取していた。食事は妻が作る和食中心の献立で、野菜を多く取り入れるよう心がけていたが、趣味の囲碁の集まりでは月に2〜3回程度外食することもあった。嚥下状態は良好で問題はなかった。喫煙歴はなく、飲酒はビールを晩酌程度(350ml/日)であった。大腸癌の診断を受けてからは禁酒している。

現在は術後3日目で、術後1日目から流動食を開始している。徐々に食事量は増加しているが、腹部膨満感のため全量摂取は難しい状況である。1回の食事摂取量は約6割程度で、水分は1日1000ml程度摂取できている。嚥下状態は問題なく、食事時の姿勢は上半身を45度挙上して摂取している。

排泄

入院前の排便は1日1回の規則的な排便があり、便の性状は有形軟便であった。排尿は日中4〜5回、夜間0〜1回程度であった。便秘傾向があり、時々市販の酸化マグネシウムを服用することがあった。

現在は術後のため腸管蠕動の回復途上であり、術後2日目の夕方に初めて少量の排ガスが認められた。現在までに排便はなく、腹部は軽度膨満している。腹部X線検査では腸管ガスの貯留を認めるが、術後イレウスの所見はない。排尿はバルーンカテーテルが留置されており、1日の尿量は約1800mlで、尿は淡黄色透明である。術後3日目の本日、バルーンカテーテルの抜去を予定している。下剤は現在使用していないが、腸蠕動促進のため酸化マグネシウムの内服を検討中である。

睡眠

入院前は22時就寝、6時起床の規則正しい生活を送っていた。睡眠時間は7〜8時間で、眠剤の使用はなかった。読書をしてから就寝する習慣があった。

現在は術後の疼痛や環境の変化により睡眠の質が低下している。特に夜間の体位変換時に疼痛が増強し、断続的な睡眠となっている。睡眠時間は約5時間程度で、日中に30分程度の仮眠をとることもある。現在のところ眠剤は使用していないが、必要時にはゾルピデム5mgの内服が指示されている。

視力・聴力・知覚・コミュニケーション・信仰

視力は両眼とも良好だが、近視のため老眼鏡を使用している。新聞や書籍を読む際には常に眼鏡を使用するが、遠方を見る時には特に問題はない。聴力も良好で、通常の会話には支障がない。知覚に異常はなく、触覚・痛覚・温度覚とも正常である。術後の創部周囲には軽度の知覚鈍麻があるが、これは手術による一時的なものと考えられる。

コミュニケーション能力は高く、元教師という職業柄、論理的で分かりやすい話し方をする。質問に対しても的確に応答し、自分の状態や症状を詳細に説明することができる。医療者とのコミュニケーションも円滑で、治療方針や説明内容の理解も良好である。妻との関係も良好で、互いに支え合う姿勢が見られる。

信仰については特定の宗教は持っていないが、仏教的な考え方に共感しており、年に数回は家族の墓参りに行く習慣がある。病気になってからは「前向きに治療に取り組みたい」という強い意志を持っており、医療者の助言にも協力的である。

動作状況

入院前のA氏の動作状況は全て自立していた。歩行は安定しており、杖などの補助具は使用せず、日常的に近所を30分程度散歩することもあった。移乗動作も問題なく、排泄や入浴、衣類の着脱などの日常生活動作は全て自立していた。転倒歴はなく、身体機能は年齢相応に維持されていた。

現在(術後3日目)は手術による影響で動作制限がある。歩行については、術後2日目からリハビリテーションを開始し、看護師付き添いのもとでベッドサイドでの立位訓練病室内の短距離歩行(約5m)を1日2回実施している。移動時には創部痛を訴えるため、歩行前に鎮痛薬を使用している。移乗動作はベッドから車椅子への移乗が見守りで可能となっている。

排尿に関しては現在バルーンカテーテル留置中であるが、本日抜去予定である。排便はまだなく、排ガスが少量認められている状態である。入浴は現在制限されており、清拭による清潔ケアを行っている。手術創部のドレッシング材が濡れないよう注意が必要である。

衣類の着脱は上半身については自力で可能だが、下半身の着脱は腹部の創部痛のため、看護師の介助を必要としている。特に腹部を屈曲させる動作で痛みが増強するため注意が必要である。

腹部に5か所の創部があり、ダグラス窩にドレーン1本が留置されているため、チューブ類に注意しながらの移動が必要である。また術後の低血圧や立ちくらみのリスクもあるため、急な体位変換を避け、ゆっくりと動作するよう指導している。現在のところ、入院後の転倒はない。

内服中の薬

内服中の薬

  • アムロジピン5mg 1日1回 朝食後
  • ロスバスタチン2.5mg 1日1回 夕食後
  • アセトアミノフェン500mg 1日3回 毎食後(頓用)
  • 酸化マグネシウム330mg 1日3回 毎食後(今日から開始予定)
  • センノシド12mg 1日1回 就寝前(頓用)
  • ゾルピデム5mg 1日1回 就寝前(頓用)

服薬状況は現在看護師管理となっている。入院前は自己管理できていたが、術後であるため一時的に看護師管理としている。アムロジピンとロスバスタチンは入院前からの常用薬で、自宅では一包化されたものを内服していた。術後は経口摂取開始に伴い、術後2日目から再開している。アセトアミノフェンは疼痛時に使用し、酸化マグネシウムは術後の腸管蠕動促進のため本日から開始予定である。センノシドは便秘時、ゾルピデムは不眠時に使用する指示となっている。A氏は薬に関する知識も持っており、薬の名前や効果について理解している。状態が安定し、経口摂取が確立された後は自己管理に移行する予定である。

検査データ

検査データ比較表

血液検査

検査項目基準値入院時(7月17日)術後3日目(7月26日)
WBC3,500-9,000/μL7,200/μL12,800/μL
RBC4.00-5.50×10⁶/μL4.28×10⁶/μL3.82×10⁶/μL
Hb13.0-17.0g/dL13.2g/dL11.8g/dL
Ht40.0-50.0%40.1%36.2%
Plt15.0-35.0×10⁴/μL22.8×10⁴/μL21.2×10⁴/μL
TP6.5-8.2g/dL7.2g/dL6.6g/dL
Alb3.8-5.2g/dL4.1g/dL3.5g/dL
T-Bil0.2-1.2mg/dL0.8mg/dL0.9mg/dL
AST10-40U/L24U/L32U/L
ALT5-45U/L18U/L25U/L
LDH120-240U/L198U/L215U/L
ALP100-325U/L258U/L270U/L
γ-GTP0-75U/L34U/L42U/L
BUN8.0-20.0mg/dL15.2mg/dL16.8mg/dL
Cr0.6-1.1mg/dL0.82mg/dL0.78mg/dL
Na135-145mEq/L140mEq/L138mEq/L
K3.5-5.0mEq/L4.2mEq/L4.1mEq/L
Cl98-108mEq/L102mEq/L100mEq/L
CRP0.00-0.30mg/dL0.58mg/dL3.82mg/dL
CEA0.0-5.0ng/mL5.3ng/mL4.8ng/mL
CA19-90-37U/mL12.5U/mL11.8U/mL
血糖70-110mg/dL98mg/dL118mg/dL
HbA1c4.6-6.2%5.4%測定なし

凝固系検査

検査項目基準値入院時(7月17日)術後3日目(7月26日)
PT10.0-13.0秒11.8秒12.2秒
PT-INR0.85-1.151.021.05
APTT25.0-40.0秒32.6秒34.2秒
D-dimer0.0-1.0μg/mL0.5μg/mL1.8μg/mL

尿検査

検査項目基準値入院時(7月17日)術後3日目(7月26日)
尿比重1.005-1.0251.0181.012
尿pH5.0-7.56.06.5
尿蛋白(-)(-)(-)
尿糖(-)(-)(-)
尿潜血(-)(-)(-)
尿ケトン体(-)(-)(-)
尿ビリルビン(-)(-)(-)
尿ウロビリノーゲン(±)(±)(±)
尿亜硝酸塩(-)(-)(-)
尿白血球(-)(-)(-)
今後の治療方針と医師の指示

今後の治療方針としては、術後の回復を促進しながら合併症予防に努め、早期退院を目指している。医師からは、術後経過が良好であるため、本日(術後3日目)から食事を流動食から五分粥に変更し、順調に摂取できれば段階的に常食へ移行する指示が出ている。また本日バルーンカテーテルを抜去し、自然排尿を促すことになっている。排尿状態に問題がなければ、残尿測定を実施し、50ml以下であることを確認する。

腸管運動の促進のために、酸化マグネシウムの内服を開始し、排ガスや排便状況を観察する。腹部症状として膨満感が持続する場合は、腹部X線検査を再検討する。ダグラス窩ドレーンについては、排液量と性状を確認しながら、排液量が50ml/日以下になれば抜去する予定である。

疼痛管理については、アセトアミノフェンを定期内服から頓用へ切り替え、痛みの自己管理を促していく。活動度については、術後3日目である本日から、病棟内歩行を開始し、徐々に歩行距離を延長していく。歩行時の疼痛や倦怠感に注意し、無理のない範囲でのリハビリテーションを進める。

術後の合併症予防として、深部静脈血栓症(DVT)予防のための弾性ストッキングは継続し、早期離床を促進する。また、術後肺炎予防のための深呼吸や咳嗽練習も継続する。

検査データ上はWBCとCRPの上昇を認めるが、発熱はなく、創部の状態も良好であるため、現時点では感染兆候はないと判断されている。しかし、これらの炎症反応の推移を注意深く観察し、異常があれば速やかに報告するよう指示されている。

退院時期については、術後7日目頃を目標としており、それまでに経口摂取の確立、自排尿・自排便の確認、創部の治癒過程が良好であること、基本的なADLが自立していることが条件となっている。術後の病理結果によって今後の補助化学療法の必要性を検討するが、現時点ではStageⅡAであり、リンパ節転移が認められなかったことから、厳重な経過観察のみとなる可能性が高い。退院後は、2週間後に外来受診し、創部の状態確認と内服薬の調整を行う予定である。

本人と家族の想いと言動

A氏は、手術前は「父親も大腸癌だったので、自分もいつかなるかもしれないと思っていた」と話しており、診断を受けた際も冷静に受け止めていた。しかし、「もう少し早く受診すればよかった」と自分を責める様子も見られた。手術後は「思ったよりも痛みは我慢できる。早く回復して家に帰りたい」と前向きな発言が多くなっている。特に「囲碁の大会が2か月後にあるので、それまでには体力を回復させたい」と目標を持って療養に取り組む姿勢がみられる。

術後の食事制限については「食べられないのは辛いが、少しずつ良くなっているのが分かるから頑張れる」と話している。また、「手術で取り切れたなら、もう癌はないと考えていいのだろうか」と今後の見通しについて不安を抱えている様子もある。

妻は毎日面会に訪れ、「無理せずにゆっくり回復してほしい」とA氏を気遣っている。妻からは「夫は几帳面な性格なので、何でも自分でやろうとするところがある。家に帰ってからも無理をさせないようにしたい」という発言があった。また、「夫の父親も大腸癌だったので、子どもたちにも検診を受けるよう勧めています」と家族の健康管理についても関心を寄せている。

長男と長女は週末に面会に来ており、「父が元気になってまた囲碁を教えてくれるのを楽しみにしている」と話していた。家族全体としては、A氏の回復を支援する態勢ができており、特に妻は退院後の生活について「食事は野菜中心のものを心がけ、適度な運動も取り入れるようにしたい」と具体的な計画を立てている。

A氏自身は徐々に回復していることを実感しており、「手術をして本当に良かった。これからは定期的に検診も受けるつもりだ」と健康管理への意識が高まっている。また、「教師という仕事柄、生徒たちに健康の大切さを伝えていきたい」と自分の経験を活かす意欲も見られる。

この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり

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