本事例の要約
これは膵臓癌末期で緩和ケア病棟に入院中、痛みのコントロールが困難であり、食事摂取量の減少と体重減少が著しく、残された時間をできるだけ自宅で過ごしたいという本人の希望を尊重した在宅緩和ケアへの移行支援が必要な事例である。介入日は入院14日目の5月15日である。
5.睡眠-休息
A氏の睡眠状況は著しく障害されている。入院前は腹痛により中途覚醒があるものの、特に眠剤は使用せずに就寝していた。就寝時間は22時頃、起床時間は6時頃で、日中の活動性は比較的保たれていた。しかし、現在の睡眠状況は、疼痛や不安により入眠困難が著明である。また夜間の排尿や体位変換時の痛みで中途覚醒が頻回にあり、睡眠の質が著しく低下している。夜間に時折軽度の呼吸困難を訴えることがあり、この症状も睡眠を妨げる要因となっている。
睡眠導入剤については、就寝前にゾルピデム10mgを内服しているが、効果は十分でない状態である。また、夜間のせん妄対策としてリスペリドン0.5mgを頓用で使用することもある。オランザピン2.5mgも1日1回就寝前に服用しており、複数の向精神薬を使用している状況である。これらの薬剤は相互作用によって効果や副作用が複雑化する可能性があり、注意深い観察が必要である。特に高齢者においては薬剤の代謝や排泄が遅延する傾向にあり、日中の過鎮静や錯乱などの副作用のリスクが高まることに留意すべきである。
日中は傾眠がちであるが、断続的で浅い睡眠状態であり、熟眠感を得られていない状況である。日中の過ごし方や休日の過ごし方についての具体的な情報は不足しているが、Performance Status(PS)が3であり、日常生活全般において介助を要する状態であることから、日中のほとんどをベッド上や椅子で過ごしていると推測される。このような日中の不活発な状態は、サーカディアンリズムの乱れを引き起こし、夜間の睡眠障害をさらに悪化させる悪循環を形成している可能性がある。
A氏の睡眠障害の原因としては、複数の要因が複合的に関与していると考えられる。まず、疼痛コントロールが不十分であることが最も大きな要因であり、特に体動時には疼痛がNRS 6~7/10と強くなることから、夜間の体位変換時に疼痛が増強して覚醒を引き起こしていると考えられる。次に、頻尿による中途覚醒が問題となっており、腹水の影響で夜間3~4回のトイレ歩行が必要な状態である。さらに、入院12日目頃から夜間を中心に見当識障害がみられるようになり、せん妄状態を呈していることも睡眠障害を複雑化させている。せん妄の原因としては、オピオイドの使用、電解質異常(Na 132mEq/L、Ca 7.8mg/dL)、肝機能障害、環境変化など複数の要因が考えられる。
また、A氏は「家に帰りたい」という思いを度々表出しており、入院環境への適応困難や自宅での生活への強い希望が心理的ストレスとなり、不安感が増強していることも睡眠障害に影響していると考えられる。さらに、72歳という年齢を考慮すると、加齢に伴う睡眠構造の変化(深睡眠の減少、中途覚醒の増加、睡眠効率の低下など)も背景要因として存在していると推測される。
A氏の睡眠状態改善のためには、まず原因となっている要因への介入が必要である。疼痛コントロールの最適化は最優先事項であり、夜間の疼痛増強を予防するための定時の鎮痛薬投与や、就寝前の特別な疼痛対策(レスキュー薬の予防的投与など)を検討する必要がある。また、夜間の排尿回数を減らすための工夫(就寝前の水分制限、日中の計画的な水分摂取など)も重要である。
せん妄対策としては、見当識を維持するための環境調整(時計やカレンダーの設置、適切な照明、なじみのある物品の配置など)、日中の適度な活動と日光浴の促進、夜間の静かな環境の確保などの非薬物的介入が重要である。薬物療法については、現在使用している薬剤の効果と副作用を注意深く評価し、必要に応じて調整することが求められる。特に複数の向精神薬の併用による相互作用や副作用のリスクを考慮する必要がある。
日中の覚醒と活動を促進するための関わりも重要である。可能な範囲で日中の座位時間を確保し、窓からの自然光を取り入れる、家族との交流時間を設けるなど生活にリズムをつける工夫が必要である。また、A氏が自分らしく過ごせる時間を大切にするために、趣味や興味のあることを取り入れた日中の活動プログラムを検討することも有益である。
在宅療養への移行を希望していることから、家族(特に妻)に対して睡眠環境の整備方法や夜間の介護負担を軽減するための具体的な方法(体位変換の工夫、夜間の排泄介助方法など)についての指導も必要である。特に夜間のせん妄出現時の対応方法については、家族の不安が強いと予測されるため、具体的な対処法の指導と精神的なサポートが重要である。
A氏の睡眠状態については、睡眠時間、中途覚醒の頻度、せん妄の出現状況、睡眠薬の効果などを継続的に評価し、必要に応じて介入方法を修正していく必要がある。特に薬物療法については、効果と副作用のバランスを慎重に評価し、患者の全身状態や予後を考慮した適切な使用が求められる。また、在宅療養に移行した際には、自宅環境での睡眠状況を評価し、必要に応じて環境調整や介入方法の見直しを行うことが重要である。
看護問題の明確化
#疼痛と頻尿に関連した睡眠パターン障害
#夜間せん妄と入院環境に関連した睡眠の質低下
#多剤併用と疾患進行に関連した睡眠薬の効果不足
事例の目次
【ゴードン】膵臓癌 終末期の看護(0022)| 今回の情報
1.健康知覚-健康管理
2.栄養-代謝
3.排泄
4.活動-運動
5.睡眠-休息
6.認知-知覚
7.自己知覚-自己概念
8.役割-関係
9.性-生殖
10.コーピング-ストレス耐性
11.価値-信念
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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