【ゴードン】膵臓癌 終末期の看護(0022)| 7.自己知覚-自己概念

ゴードン

本事例の要約

これは膵臓癌末期で緩和ケア病棟に入院中、痛みのコントロールが困難であり、食事摂取量の減少と体重減少が著しく、残された時間をできるだけ自宅で過ごしたいという本人の希望を尊重した在宅緩和ケアへの移行支援が必要な事例である。介入日は入院14日目5月15日である。

7.自己知覚-自己概念

A氏は72歳男性で、性格は几帳面で計画的であり、自分のことは自分でしたいという自立心が強いことが特徴である。高校教師として勤務していた経歴から、社会的地位や役割を重視し、自己規律を保つことに価値を置いていたと考えられる。現在は膵体尾部癌ステージⅣという終末期の状態にあり、身体的自立が徐々に失われる中で、自己概念の変容を余儀なくされている状況である。

ボディイメージについては、発症前の体重65kgから現在42kgへと著しい体重減少がみられ、身体的変化に伴うボディイメージの変容が生じていると推測される。腹水による腹部膨満や黄疸の出現、全身倦怠感の増強などの身体症状は、これまで自分自身が認識していた身体像との乖離を生じさせている可能性が高い。また、Performance Status(PS)が3と低下しており、日常生活全般において介助を要する状態となったことは、自立心の強いA氏にとって大きな精神的負担となっていると考えられる。特に「自分のことは自分でしたい」という思いと、実際に介助を受けなければならない現実との間にある葛藤が、自己概念に影響を及ぼしていると推察される。

疾患に対する認識については、A氏は「もう長くないことはわかっていた」と語っており、予後について一定の理解と受容がなされていると考えられる。主治医からの予後「週単位から月単位」という説明に対しても冷静に受け止めており、終末期であることを認識した上で、残された時間をどのように過ごすかという点に焦点が移行している。「学校の教え子たちに会いたい」「自宅の庭を最後にもう一度見たい」との希望からは、自己の人生を振り返りながら意味づけを行おうとする心理過程が読み取れる。このような状況下でA氏が自分の人生や存在意義について再評価する機会を提供することが看護的に重要である。

自尊感情については、「妻に迷惑をかけたくない」という言葉から、家族への負担感や申し訳なさを抱えていることが推測される。これは自立心の強いA氏にとって、他者に依存せざるを得ない状況が自尊感情の低下につながっている可能性を示唆している。同時に「病院で死ぬのは嫌だ」という強い意思表示は、最期の時を自分らしく過ごしたいという自律性の表れであり、残された自己決定権を重視していると考えられる。このような自律性の尊重は、A氏の自尊感情を支える重要な要素となっており、看護介入においても最大限に考慮する必要がある。

育った文化や周囲の期待については、直接的な情報は限られているが、高校教師という職業選択や几帳面で計画的な性格特性から、教育や知性を重視する環境で育った可能性が考えられる。また、現在の家族関係においては、妻が献身的に介護に関わっており、長男も「父の希望を叶えてあげたい」と支援的であることから、家族内での信頼関係や互いの期待が肯定的に機能していると考えられる。このような家族の支援は、A氏の自己価値感を維持するための重要な資源となっている。

A氏に対する看護介入としては、まず、残された自律性を最大限に尊重したケアを提供することが重要である。具体的には、日常生活の中で自己決定の機会を可能な限り確保し、A氏自身の意思や好みを反映したケア計画を立案する。また、教え子に会いたいという希望や庭を見たいという願いを実現するための支援を家族と協力して行うことで、A氏の自己実現を助けることができる。

ボディイメージの変化に対しては、身体的変化を自然に受け入れられるような支援が必要である。具体的には、清潔保持や外見の整容に対する援助、腹水による腹部膨満感の軽減のための体位の工夫などが考えられる。また、A氏の言動から身体変化に対する心理的反応を観察し、必要に応じて感情表出の機会を設けることも重要である。

自尊感情の維持・向上に向けては、A氏のこれまでの人生における成功体験や達成感を思い出す機会を提供することも有効である。高校教師としての経験や人生の転機などを振り返る会話を通じて、A氏が自己の人生を肯定的に再評価できるよう支援する。また、家族に対しても、A氏の自尊感情を支えるコミュニケーションのあり方について助言し、過度な同情や保護的態度ではなく、A氏の尊厳を尊重した関わりを促す。

在宅療養への移行を見据え、A氏が残された時間を自分らしく過ごせるための環境調整と家族支援も重要である。妻の「家で看られるか自信がない」という不安に対しては、具体的なケア方法の指導とともに、訪問看護や訪問診療など地域資源の活用方法について情報提供を行う。また、A氏のストレングスを家族と共有し、それを活かしたケアの方法を一緒に考えることで、A氏と家族双方の自己効力感を高めることが期待できる。

今後の経過観察としては、疾患の進行に伴う身体状態の変化がA氏の自己概念にどのような影響を与えるかを継続的に評価する必要がある。特に痛みのコントロール状況や倦怠感の程度がA氏の気分や自己認識に与える影響に注目し、適切な症状マネジメントを通じて精神的な安定を図ることが重要である。また、A氏の希望や価値観の変化にも敏感に対応し、その時々の状態に応じたケア計画の修正を行うことが求められる。

看護問題の明確化

#疾患の進行に伴う身体機能低下に関連した自己概念の混乱
#疾患の進行に伴う今後への不安

事例の目次

この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり

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