本事例の要約
これは膵臓癌末期で緩和ケア病棟に入院中、痛みのコントロールが困難であり、食事摂取量の減少と体重減少が著しく、残された時間をできるだけ自宅で過ごしたいという本人の希望を尊重した在宅緩和ケアへの移行支援が必要な事例である。介入日は入院14日目の5月15日である。
3.排泄
A氏の排便状況は、オピオイド使用の影響もあり著明な便秘状態にある。入院前は1日1回の排便があるよう酸化マグネシウムを服用していたが、現在は便秘が著明となり3~4日に1回の排便となっている。排便のために酸化マグネシウム330mgを1日3回とセンノシド12mgを1日2回使用しているが、効果は十分でない状態である。排便の性状に関する具体的な記載はないが、オピオイド使用と水分摂取量の減少により硬便の可能性が高い。また、便量や色調に関する情報も不足しているため、癌の進行による消化管出血の徴候や胆道閉塞による白色便の有無についても評価が必要である。
排尿状況については、腹水の影響で頻尿がみられ、日中8~10回、夜間3~4回のトイレ歩行が必要となっている。入院前は排尿が日中5~6回、夜間1~2回であったことと比較すると、特に夜間の排尿回数が増加している。A氏は疼痛や倦怠感のため自力でのトイレ歩行が困難な状況であり、日中はポータブルトイレを使用し、夜間は尿器を使用している。排尿量に関する具体的な情報はないが、水分摂取量が1日500ml程度と少なく、また発熱(37.2℃)もあることから尿量減少の可能性がある。尿の性状については、検査データからは尿比重1.030、蛋白(++)、糖(++)、ウロビリノーゲン(+++)、潜血(+)と異常所見が多く、腎機能障害や肝機能障害を反映した尿所見が認められる。特に蛋白尿と尿比重上昇は腎機能の悪化を示唆している。
in-outバランスに関する具体的な情報はないが、水分摂取量は1日500ml程度と著しく少なく、末梢静脈栄養による輸液量も含めた総輸液量の情報が必要である。発熱や呼吸数の増加による不感蒸泄の増加も考慮すると、水分バランスが負に傾いている可能性がある。腹水貯留も認められており、腹水による第三空間への水分シフトも影響していると考えられる。入院5日目に腹水穿刺排液(800mL)を施行しているが、その後も腹水は再貯留傾向にあり、腹囲は入院時より2cm増加している。このことから、水分代謝異常が持続していると判断される。
排泄に関連した食事・水分摂取状況をみると、食事摂取量は1~2割程度と著しく低下しており、水分摂取もとろみをつけることで1日500ml程度と不足している。特に食物繊維の摂取不足は便秘を助長する要因となる。また、オピオイドによる腸管蠕動の低下と水分摂取不足の組み合わせは、重度の便秘を引き起こす主要な原因となっている。さらに、嘔気・嘔吐の出現や腫瘍の十二指腸浸潤による通過障害は消化管機能全体に影響を与えており、排便障害を複雑化している。
安静度についてはPerformance Status(PS)は3となっており、日常生活全般において介助を要する状態である。歩行は入院前は杖を使用して自宅内を移動していたが、入院後の全身状態の悪化に伴い、現在は病室内の移動でも看護師の介助が必要となっている。このような活動性の低下も腸蠕動を減少させ、便秘傾向を強める要因となっている。バルーンカテーテルの使用はなく、日中はポータブルトイレ、夜間は尿器を使用している状態である。排尿介助の必要性はあるものの、自然排尿は維持されている。しかし、全身状態の更なる悪化や在宅療養への移行を考慮すると、バルーンカテーテルの導入を検討する必要が生じる可能性がある。その場合、低栄養状態と免疫力低下を背景とした尿路感染症のリスクが高まるため、カテーテル関連尿路感染症(CAUTI)予防のための適切な管理が重要となる。特に、無菌操作によるカテーテル挿入、適切な固定方法、定期的なカテーテル交換、閉鎖式ドレナージシステムの維持、十分な水分摂取(可能な範囲で)によるカテーテル洗浄効果の促進などが必要である。また、カテーテル挿入部の清潔保持や尿の性状・量の観察も感染徴候の早期発見に重要である。在宅でのカテーテル管理については、家族への具体的な指導と定期的な訪問看護による評価が不可欠である。
腹部の状態としては、腹部膨満が著明であり、腹水貯留による腹囲の増加(入院時より2cm増加)が認められる。腸蠕動音に関する具体的な情報はないが、腫瘍の十二指腸浸潤による通過障害や嘔気・嘔吐の症状から、腸蠕動の低下や亢進など異常が予測される。腹部の詳細な評価(腸蠕動音の頻度や性質、腹部の張り具合、圧痛の有無など)を継続的に行う必要がある。
血液データからは腎機能障害の進行が確認できる。BUNは入院時18.5mg/dLから最近では28.6mg/dLへと上昇し、クレアチニンも0.82mg/dLから1.35mg/dLへと上昇している。腎機能障害は進行しており、推算糸球体濾過量(eGFR)も低下していると推測される。この腎機能障害は、脱水、低栄養、薬剤性(NSAIDsやオピオイドなど)、悪液質など複合的な要因が関与していると考えられる。腎機能障害の進行は薬物代謝にも影響を及ぼすため、オピオイドなどの投与量調整が必要となる可能性がある。
A氏の排泄状態改善のためには、便秘に対する積極的な介入が必要である。現在使用している下剤(酸化マグネシウム、センノシド)の効果が不十分であることから、浸透圧性下剤と刺激性下剤の併用や用量調整、必要に応じて坐薬や浣腸の使用も検討する必要がある。また、オピオイドによる便秘に対しては、ナルデメジンなどのオピオイド誘発性便秘症治療薬の使用も選択肢となる。水分摂取の増加も便秘改善に重要であるが、A氏の場合は全身状態や腎機能も考慮した適切な水分摂取目標の設定が必要である。
排尿に関しては、頻尿による夜間睡眠の中断や移動に伴う疼痛を考慮し、夜間の排尿回数を減らす工夫が求められる。例えば、就寝前の水分摂取を控えることや、日中の活動時間帯に計画的に水分摂取を促すなどの介入が考えられる。また、転倒リスクを考慮した安全な排泄環境の整備も重要である。A氏は入院10日目に夜間トイレに行こうとして転倒した経験があるため、特に夜間の排泄援助には注意が必要である。
排泄状態の継続的なモニタリングとして、排便・排尿の回数、量、性状、腹部状態(腹囲測定、腸蠕動音の評価)、in-outバランスの記録を継続する必要がある。また、腎機能検査値の定期的な評価も重要である。在宅療養への移行を見据えると、家族が管理可能な排泄ケア方法の指導と、自宅での排泄環境の整備についても計画的に進める必要がある。
看護問題の明確化
#オピオイド使用と活動低下に関連した便秘
#全身状態の悪化と腎機能低下に関連した排泄パターンの変調
事例の目次
【ゴードン】膵臓癌 終末期の看護(0022)| 今回の情報
1.健康知覚-健康管理
2.栄養-代謝
3.排泄
4.活動-運動
5.睡眠-休息
6.認知-知覚
7.自己知覚-自己概念
8.役割-関係
9.性-生殖
10.コーピング-ストレス耐性
11.価値-信念
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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