本事例の要約
78歳男性A氏の誤嚥性肺炎による入院で、発熱と呼吸困難を主訴に救急搬送され、入院後に重度の嚥下機能低下を認め経鼻経管栄養を開始した。今後はリハビリテーションをしながら経口摂取を進めていく予定。
1.健康知覚-健康管理
誤嚥性肺炎は、口腔内の細菌や食物残渣が気管内に流入することで発症する感染症である。高齢者では加齢に伴う嚥下反射の低下や咳反射の減弱により発症リスクが高まる。また、夜間の不顕性誤嚥も生じやすく、重症化することがある。早期発見と適切な治療、予防的介入が重要な疾患である。
A氏は第4病日に39.2℃の発熱と呼吸困難を主訴に入院となった。入院時のSpO2は室内気で92%と低値であったため、酸素投与を開始している。これは肺炎により肺胞での酸素交換が障害され、体内に十分な酸素が取り込めていない状態を示している。胸部画像所見で両肺下葉に浸潤影を認め、血液検査では炎症反応の著明な上昇(CRP 15.2mg/dL、白血球数12800/μL)を認めている。CRPと白血球数の上昇は、体内での細菌感染による炎症反応を示す重要な指標である。上昇は体が細菌感染に対して免疫応答を活発に行っていることを示している。抗生剤投与により第5病日では解熱し、炎症反応も低下傾向(CRP 8.4mg/dL、白血球数9200/μL)にあり、治療に対する反応は良好であると考えられる。しかしながら、第4病日夜間からせん妄症状が出現し、現在も継続している。また、嚥下機能の重度低下を認めており、誤嚥予防のため経鼻経管栄養(1500ml/日)を実施している。これらのことから、肺炎は改善傾向にあるものの、せん妄と嚥下機能低下という新たな課題が生じている状況である。
健康管理に関して、A氏は入院前から咀嚼力の低下や軽度の嚥下機能低下があり、月1-2回程度のむせこみを自覚していたが、受診行動に至っていない。性格は几帳面で社交的である一方、自己主張を控えめにする傾向があり、体調不良時でも周囲に相談せず無理をする特徴がある。この行動特性が早期受診の妨げとなり、今回の重症化につながった可能性がある。
身体状態について、身長165cm、体重は入院前62kgから入院後58kgまで減少しており、現在のBMIは21.3kg/m²である。入院による活動量低下や発熱による代謝亢進、経管栄養への移行が体重減少の要因と考えられる。入院前は毎朝30分程度の散歩を日課としており、適度な運動習慣を有していた。
呼吸器に関連する因子として、55歳まで1日20本、40年間の喫煙歴がある。禁煙後20年以上経過しているが、長期の喫煙歴は気道粘膜の損傷や繊毛運動の低下を引き起こし、誤嚥性肺炎のリスク因子となっている。飲酒は週1-2回の機会飲酒で過度ではない。アレルギー歴はない。
既往歴として高血圧症と胃潰瘍があり、それぞれアムロジピン5mgとラベプラゾール10mgを内服中である。入院前は自己管理で確実に服薬できていたが、現在は経鼻経管栄養チューブより粉砕投与されている。高血圧は現在安定しており、胃潰瘍の再発もみられていない。
A氏は入院当初、経鼻経管栄養の導入に対して「管を入れるのは嫌だが、早く良くなりたい」と治療の必要性を理解し、協力的な姿勢を示していた。しかし現在は夜間せん妄により「仕事に行かなければ」「会社の資料を作らないと」などの発言がみられ、現実認識が一時的に障害されている状態である。また、「息子たちは忙しいから、あまり頼りたくない」という発言からは、病状が改善しても家族への遠慮から必要な支援を求めることができない可能性がある。
必要な看護介入として、まず嚥下機能の改善に向けた言語聴覚士との協働が重要である。口腔ケアの徹底や嚥下体操の実施、姿勢調整など誤嚥予防のための具体的な介入を実施する。栄養管理については、現在実施中の経鼻経管栄養(1日1500ml)を安全かつ確実に実施する必要がある。注入前には必ずチューブの先端位置と胃内容物の残渣量を確認し誤嚥予防のため半坐位を保持して注入を開始すること、注入速度は患者の状態に応じて調整し注入中は嘔吐や腹部膨満感などの消化器症状の出現に注意を払うこと、注入後も30分程度は半坐位を保持し誤嚥予防に努めることが重要である。体重減少に対しては、栄養状態の観察と必要栄養量の継続的な検討を行う必要がある。
せん妄への対応としては、日中の覚醒を促し、夜間の良眠が得られるよう生活リズムを整える必要がある。不穏時にはハロペリドール0.75mgを医師の指示のもと適切に投与し、症状のコントロールを図る。また、理学療法士と協働し、患者の状態に応じた段階的な離床支援を実施することで、日中の活動性を高め、せん妄の改善を図る。
退院後の再発予防に向けては、本人や家族への教育的支援が重要となる。嚥下機能低下の早期発見と対処方法について具体的な指導を行うとともに、体調の変化や違和感を感じた際には早めに医療者に相談するよう促していく。特に本人の性格を考慮し、家族の支援を受け入れることへの抵抗感を軽減するための心理的支援も並行して行う必要がある。
経過観察としては、呼吸状態、体温、炎症反応の推移、せん妄症状の変化、体重の推移を継続的にモニタリングし、必要に応じて看護介入の方法を修正していく必要がある。
看護問題の明確化
#嚥下機能低下に関連した誤嚥性肺炎悪化のリスクがある
#誤嚥性肺炎予防の知識不足に関連した退院後に誤嚥性肺炎が再燃するリスクがある
事例の目次
【ゴードン】誤嚥性肺炎 入院5日目(0006)| 今回の情報
1.健康知覚-健康管理
2.栄養-代謝
3.排泄
4.活動-運動
5.睡眠-休息
6.認知-知覚
7.自己知覚-自己概念
8.役割-関係
9.性-生殖
10.コーピング-ストレス耐性
11.価値-信念
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
看護の攻略部屋wiki
看護学生をお助け | 看護過程の見本 | 完全無料でコピー&ペースト(コピペ)OK
コメント