本事例の要約
これは膵臓癌末期で緩和ケア病棟に入院中、痛みのコントロールが困難であり、食事摂取量の減少と体重減少が著しく、残された時間をできるだけ自宅で過ごしたいという本人の希望を尊重した在宅緩和ケアへの移行支援が必要な事例である。介入日は入院14日目の5月15日である。
2.栄養-代謝
A氏の食事と水分摂取状況は著しく不良である。入院前は3食とも妻が準備した食事を摂取していたが、摂取量は1/3~1/2程度と徐々に低下していた。現在は流動食~軟菜食を提供しているが、摂取量は1~2割程度と著しく減少している。水分摂取については、とろみをつけることで1日500ml程度摂取可能だが、これは必要水分量の1/3程度にしか相当せず、脱水のリスクが高い状態である。また入院10日目頃からは嘔気・嘔吐が出現し、CTにて腫瘍の十二指腸浸潤による通過障害が確認されている。このため一時的に経鼻胃管を挿入し減圧を行っていたが、本人の苦痛軽減のため入院12日目に抜去している。現在は経口摂取と末梢静脈栄養を併用している状態であるが、末梢静脈栄養のみでは十分な栄養を確保することが困難であり、カロリー不足の状態が続いている。
好きな食べ物や食事に関するアレルギーについての具体的な情報はないため、これらの情報収集が必要である。特に在宅療養に向けて、少量でも摂取可能な好みの食品を把握することは、限られた経口摂取の質を高めるために重要である。また、発症前は晩酒としてビールを1本程度毎日飲酒していたことから、アルコールへの嗜好があることがうかがえる。
A氏の身長は168cm、体重は現在42kg(発症前は65kg)と著しい体重減少がみられる。BMIは14.9kg/m²と重度の低体重状態である。発症前のBMIは23.0kg/m²と適正範囲内であったが、疾患の進行に伴い急激に減少している。体重減少率は約35%に達しており、高度の栄養不良状態である。必要栄養量について具体的な算出値は示されていないが、基礎代謝量(BMR)を推定すると約1,100kcal/日、ストレス係数や活動係数を考慮すると1日に必要なエネルギー量は約1,500~1,600kcal程度と推測される。しかし現在の食事摂取と末梢静脈栄養を合わせても、この必要量を大幅に下回っていると考えられる。身体活動レベルは著しく低下しており、Performance Status(PS)は3となっている。日常生活全般において介助を要する状態であり、Barthel Indexは40点と低い。
食欲は著しく低下しており、これは疾患の進行による消化管閉塞、腹水貯留、肝機能障害、オピオイド使用の副作用など複合的な要因が関与していると考えられる。嚥下機能自体は保たれているが、疲労感が強く、少量の摂取でもすぐに疲れる様子がみられる。口腔内の状態については具体的な記載がないが、オピオイド使用や水分摂取量の減少により口腔乾燥が生じている可能性があり、評価と適切なケアが必要である。
嘔気・嘔吐は入院10日目頃から出現しており、CTにて腫瘍の十二指腸浸潤による通過障害が原因と判明している。経鼻胃管による減圧で症状は軽減したが、本人の苦痛軽減のため抜去されている。現在は制吐剤としてメトクロプラミド5mgを1日3回服用しているが、その効果については継続的な評価が必要である。
皮膚の状態については具体的な記載がないが、著しい低栄養状態と低アルブミン血症により皮膚の脆弱性が増しており、褥瘡発生のリスクが高いと予測される。また、腹水による腹部皮膚の緊満や浮腫による皮膚の脆弱化の可能性もある。フェンタニル貼付剤の使用部位については皮膚トラブルに留意しているが、その他の皮膚状態の評価を継続的に行う必要がある。特に、体動制限と低栄養状態の組み合わせは褥瘡発生の高リスク要因であり、仙骨部や踵部などの好発部位を中心とした予防的ケアが重要である。
血液データからは複数の栄養代謝障害が確認できる。血清アルブミン値は入院時2.5g/dLから最近では2.0g/dLへとさらに低下しており、重度の低蛋白血症を示している。総蛋白も5.2g/dLと低値である。これらは肝機能障害と栄養摂取不足の双方が影響していると考えられる。貧血も進行しており、赤血球数は320万/μL、ヘモグロビン8.5g/dL、ヘマトクリット25.7%と低値を示している。この貧血は慢性疾患に伴う貧血や栄養障害性貧血の可能性が高く、酸素運搬能の低下により倦怠感や呼吸困難感を増強させている可能性がある。電解質では低ナトリウム血症(Na 132mEq/L)と低カルシウム血症(Ca 7.8mg/dL)を認める。これらの電解質異常はせん妄状態の一因となっている可能性があり、補正を検討する必要がある。
A氏は2型糖尿病の既往があり、グリメピリド0.5mgを服用しているが、現在の血糖値やHbA1cについての情報はない。膵癌の進行と食事摂取量の著しい低下により、低血糖のリスクも考慮した血糖管理が必要である。特に経口摂取が不安定な状況では、インスリン分泌促進薬の使用による低血糖リスクを評価することが重要である。トリグリセリドや総コレステロールの値についても情報がないが、肝機能障害や栄養状態の低下により脂質代謝も変化している可能性があり、評価が望ましい。
A氏の栄養状態改善のためには、現在の末梢静脈栄養の内容を評価し、可能な限り必要栄養素を充足させる工夫が必要である。しかし、終末期患者の栄養管理においては、生命維持よりもQOL向上や苦痛緩和を優先すべき段階にあり、A氏と家族の希望を中心に据えた栄養サポート計画が望ましい。特に在宅療養への移行を希望していることから、自宅での管理可能な栄養補給方法の検討が必要である。また、少量でも摂取可能な好みの食品を提供することや、嘔気・嘔吐を軽減するための薬物療法と非薬物療法の併用、口腔ケアの徹底により、経口摂取の快適さを向上させる工夫も重要である。
今後も食事摂取量や水分摂取量、体重変化、血液検査値(特にアルブミン、電解質、血糖値)、皮膚状態などを継続的にモニタリングし、状態変化に応じた栄養介入の見直しが必要である。特に在宅療養への移行を考慮すると、家族が管理可能な栄養ケア方法の指導と、医療者による定期的な評価体制の構築が重要である。
看護問題の明確化
#膵癌の進行および消化管閉塞に関連した栄養摂取不足
#疾患の進行に伴う代謝異常に関連した体重減少
#低栄養状態と活動低下に関連した皮膚統合性障害リスク
#消化管閉塞と薬物療法に関連した嘔気・嘔吐
事例の目次
【ゴードン】膵臓癌 終末期の看護(0022)| 今回の情報
1.健康知覚-健康管理
2.栄養-代謝
3.排泄
4.活動-運動
5.睡眠-休息
6.認知-知覚
7.自己知覚-自己概念
8.役割-関係
9.性-生殖
10.コーピング-ストレス耐性
11.価値-信念
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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