本事例の要約
大手IT企業に勤務するシステムエンジニアが、重要なプロジェクトをきっかけに不眠と被害妄想が出現し、その後幻聴も伴うようになった。自宅での興奮行動がみられたため医療保護入院となり、薬物療法により徐々に症状が改善している統合失調症の事例。介入日は2月3日。
1.健康知覚-健康管理
統合失調症は、思考や知覚、感情、意欲などの精神機能に障害が生じる慢性疾患である。主な症状として幻覚や妄想などの陽性症状、感情の平板化や意欲低下などの陰性症状が現れる。発症は若年期に多く、特に10代後半から30代前半に好発する。本疾患は遺伝的要因とストレスなどの環境要因が複雑に関連して発症すると考えられている。
対象患者は28歳の男性で、システムエンジニアとして勤務していた際に発症している。入院前は仕事に対して強い責任感を持ち、完璧主義的な性格特性を有していた。重要なプロジェクトを任されたことをきっかけに不眠が続き、「誰かが監視している」「考えを盗まれている」という被害妄想や幻聴が出現し入院に至っている。現在の健康状態としては、リスペリドンによる薬物療法が奏功し、幻聴は残存しているものの「薬のおかげで声が小さくなってきた」と症状の改善を自覚している。しかし「毒が入っているかもしれない」という被害妄想は持続しており、完全な寛解には至っていない。
入院前の自己管理状況について、生活面では両親と同居しており、母親が作る食事を規則的に摂取し、水分摂取量も1日1.5L程度を確保できていた。しかし、仕事が忙しい時期には夜遅くまで仕事をして、睡眠時間が平均4-5時間程度と不規則であった。特に入院2ヶ月前からは重要なプロジェクトの責任者となり、睡眠時間が著しく減少していた。このように、仕事に対する強い責任感と完璧主義的な性格から、適切な休息を確保できない状況が続いていた。一方で、基本的な清潔行為や身だしなみの管理、排泄などの日常生活動作は自立して行えており、アルコールも休日に適度に摂取する程度で、喫煙習慣もなかった。
疾患や治療への理解については、薬物療法の効果を実感できており、服薬管理も看護師の確認のもと確実に行えている。また「仕事のことが心配」といった現実的な発言も見られるようになってきており、病識の芽生えが観察される。身体状態としては、身長172cm、体重が入院前の65kgから58kgへと減少しており、現在のBMIは19.6と低体重傾向にある。運動習慣に関する具体的な情報は得られていないが、現在は日中デイルームで過ごすことができており、基本的な日常生活動作は自立している。
呼吸器系のアレルギーについての情報は得られていない。飲酒は休日に友人と飲む程度で、喫煙歴はない。既往歴については特記すべき情報は得られていない。採血データは基準値内で経過しており、身体的な健康状態は維持できている。
以上のアセスメントから、以下の看護介入が必要である。まず、体重減少に対して、被害妄想による食事摂取量の低下が影響していると考えられるため、食事時の環境調整や摂取状況の観察を継続する必要がある。また、服薬の自己管理に向けた段階的な支援を行い、疾患理解を深めるための心理教育的介入も重要である。さらに、日中の活動性を高め、規則正しい生活リズムを確立するため、作業療法への参加を促進していく必要がある。加えて、被害妄想や幻聴の変化、現実検討力の回復過程について継続的な観察と評価が必要である。
特に、発症前の生活パターンから、仕事へのストレスや睡眠不足が症状悪化の誘因となった可能性が高いため、今後の自己管理能力の向上に向けて、ストレスマネジメントやワークライフバランスの重要性について、状態が安定した段階で教育的支援を行う必要がある。また、家族の支援を活用しながら、退院後の生活リズムの調整や服薬管理、ストレス対処について具体的な計画を立てていく必要がある。
不足している情報として、発症前の具体的な生活習慣や運動習慣、食生活の詳細、アレルギー歴などについて、本人や家族からの追加情報収集が必要である。また、体重減少の推移や食事摂取量の正確な記録を行い、栄養状態の評価を継続する必要がある。さらに、職場復帰に向けた本人の意向や準備性についても、状態が安定してきた段階で確認していく必要がある。加えて、これまでのストレス対処方法や休息の取り方、生活リズムの乱れに対する本人の認識についても、より詳細な情報収集が必要である。
看護問題の明確化
#精神症状(幻聴・妄想)に関連した自己管理能力の低下
#完璧主義的な性格傾向に関連した不適切なストレス対処
事例の目次
【ゴードン】統合失調症 入院21日目 (0010)| 今回の情報
1.健康知覚-健康管理
2.栄養-代謝
3.排泄
4.活動-運動
5.睡眠-休息
6.認知-知覚
7.自己知覚-自己概念
8.役割-関係
9.性-生殖
10.コーピング-ストレス耐性
11.価値-信念
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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