本事例の要約
大手IT企業に勤務するシステムエンジニアが、重要なプロジェクトをきっかけに不眠と被害妄想が出現し、その後幻聴も伴うようになった。自宅での興奮行動がみられたため医療保護入院となり、薬物療法により徐々に症状が改善している統合失調症の事例。介入日は2月3日。
7.自己知覚-自己概念
A氏は完璧主義的な性格特性を持ち、仕事に対して強い責任感を有している。このような性格特性は、システムエンジニアとしての職務遂行において高い成果を上げることに寄与していたと考えられる一方で、重要なプロジェクトを任されたことをきっかけに不眠が続き、現在の疾患発症の誘因となった可能性がある。同僚との関係は良好であったものの、自分から積極的に交流することは少なかったという情報からは、対人関係における慎重さや内向的な傾向が推察される。
社会的役割として、A氏は大手IT企業のシステムエンジニアという専門職に就いており、この職業的アイデンティティは本人の自己概念の重要な部分を構成していると考えられる。現在の休職状態は、この職業的アイデンティティの一時的な喪失を意味し、「仕事のことが心配」という発言に表れているように、将来への不安や自己価値の低下につながる可能性がある。家族内での役割については、28歳の長男として、両親と同居しながら家計を支える立場にあったと推測される。現在の疾患による休職は、この経済的貢献者としての役割にも影響を及ぼしている。
今後の疾患の見通しについては、薬物療法の効果により興奮状態は改善し、幻聴も「薬のおかげで声が小さくなってきた」と表現されるなど、症状の改善傾向が認められる。デイルームでの活動や他患者との簡単な会話が可能となっていることは、社会性の回復を示す肯定的な兆候である。また、両親の毎日の面会や妹の定期的な訪問による強力な家族支援は、リハビリテーションの促進要因となることが期待される。父親が復職について前向きな姿勢を示していることも、回復への動機付けとなる可能性がある。
しかし、「誰かが私の考えを盗んでいる」「毒が入っているかもしれない」といった妄想は残存しており、完全な症状の消退にはまだ時間を要すると考えられる。また、入院前の体重65kgから現在58kgへの減少は、疾患による心身への影響を示唆している。
必要な看護介入として、まず自己概念の回復を支援するため、現在の症状改善を本人と共に確認し、肯定的なフィードバックを提供することが重要である。デイルームでの活動や他患者との交流場面では、社会的な成功体験を積み重ねられるよう支援する。また、システムエンジニアとしての職業的アイデンティティを維持するため、妹が持参したプログラミングの本を活用した活動を検討することも有効である。
継続的な観察が必要な点として、妄想の内容や程度の変化、対人交流場面での行動パターン、自己評価に関する発言内容がある。特に、完璧主義的な性格特性が回復過程にどのような影響を与えるかについて注意深く観察する必要がある。また、家族との面会時の言動や表情の変化も、自己概念の回復を評価する重要な指標となる。
追加の情報収集が必要な点として、発症前の生活における具体的な役割行動や、対人関係のパターン、仕事における具体的な責任の範囲や業務内容がある。これらの情報は、より個別性の高い看護介入を計画する上で重要である。また、休職に至るまでの経緯や、職場での支援体制についても情報を収集し、職場復帰に向けた支援計画の立案に活用する必要がある。
体重減少に関しては、身体的な健康管理と共に、自己イメージへの影響についても評価が必要である。食事摂取量の改善と併せて、体重回復に向けた支援を行うことで、身体的健康の回復と自己概念の改善を図ることが重要である。
看護問題の明確化
#統合失調症の症状に関連した役割遂行能力と自己効力感の低下
事例の目次
【ゴードン】統合失調症 入院21日目 (0010)| 今回の情報
1.健康知覚-健康管理
2.栄養-代謝
3.排泄
4.活動-運動
5.睡眠-休息
6.認知-知覚
7.自己知覚-自己概念
8.役割-関係
9.性-生殖
10.コーピング-ストレス耐性
11.価値-信念
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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