【ゴードン】統合失調症 入院21日目 (0010)

ゴードン

本事例の要約

大手IT企業に勤務するシステムエンジニアが、重要なプロジェクトをきっかけに不眠と被害妄想が出現し、その後幻聴も伴うようになった。自宅での興奮行動がみられたため医療保護入院となり、薬物療法により徐々に症状が改善している統合失調症の事例。介入日は2月3日。

この事例で勉強できること

統合失調症のアセスメント

今回の情報

基本情報

基本情報として、患者はA氏、28歳の男性である。身長172cm、体重は入院前65kgから現在58kgと減少している。
父(58歳、会社役員)、母(55歳、専業主婦)との3人暮らしで、実家の一戸建てに居住している。妹(26歳)は結婚して別居しているが、定期的に面会に訪れている。キーパーソンは毎日面会に来ている父母である。
大手IT企業でシステムエンジニアとして勤務していたが、現在は休職中である。性格は完璧主義的で、仕事に対して強い責任感を持ち、同僚との関係は良好だが自分から積極的に交流することは少なかった。感染症の既往やアレルギー歴については情報がない。認知機能の低下は見られず、MMSE・HDSRの評価は実施されていない。

病名

統合失調症

既往歴と治療状況

既往歴についての情報は記載がなく、これまで特に大きな健康上の問題はなかった。

入院から現在までの情報

入院当初は強い興奮状態で「誰かが私を監視している」「考えを盗まれている」という訴えが頻繁にあり、隔離室での管理となった。リスペリドン2mg/日で治療を開始し、徐々に興奮状態は改善。入院8日目には一般病室への移動が可能となり、リスペリドン4mg/日に増量した。現在は幻聴は残存しているものの、「薬のおかげで声が小さくなってきた」と表現している。不眠対策としてブロチゾラム2.5mg/日、薬剤性錐体外路症状の予防としてビペリデン2mg/日を服用中である。採血データは基準値内で経過している。

バイタルサイン

入院時は体温37.2℃、脈拍98回/分、血圧142/88mmHg、SpO2 98%であった。現在は体温36.7℃、脈拍76回/分、血圧118/72mmHg、SpO2 99%と安定している。

食事と嚥下状態

入院前は母が作る食事を規則的に摂取しており、水分摂取量は1日1.5L程度で、嚥下機能に問題はなかった。飲酒は休日に友人と飲む程度で、喫煙歴はなかった。現在の食事摂取量は7割程度で、「毒が入っているかもしれない」という発言が残存している。水分摂取は声かけにより800ml程度確保できている。嚥下機能に問題はない。

排泄

入院前は排泄に関する問題はなく、自立していた。現在も排泄は自立しており、特に問題は見られていない。下剤の使用に関する情報はない。

睡眠

入院前は仕事が忙しい時期には夜遅くまで仕事をして、睡眠時間が平均4-5時間程度と不規則であった。入院の2ヶ月前からは重要なプロジェクトを任されたことをきっかけに不眠が続いていた。現在はブロチゾラム2.5mg/日の服用により6-7時間の睡眠が確保できている。

視力・聴力・知覚・コミュニケーション・信仰

視力・聴力についての特記事項はない。知覚面では幻聴が認められ、現在も残存しているが、「薬のおかげで声が小さくなってきた」と表現している。コミュニケーションについて、入院前は同僚との関係は良好だが自分から積極的に交流することは少なかった。現在は日中デイルームで過ごすことができ、他患者との簡単な会話も可能である。ただし、突然「誰かが私の考えを盗んでいる」と訴えることがある。両親面会時は穏やかに会話ができ、「仕事のことが心配」と現実的な内容の発言も見られるようになってきている。信仰に関する情報はない。

動作状況

入院前は全ての日常生活動作が自立していた。現在も歩行、移乗、排尿、排泄、入浴、衣類の着脱などの基本的な日常生活動作は自立しており、介助を必要としない。転倒歴に関する情報はない。

内服中の薬

・リスペリドン 4mg/日(朝食後2mg、夕食後2mg)
・ブロチゾラム 2.5mg/日(就寝前)
・ビペリデン 2mg/日(朝食後)

服薬状況について、入院前は服薬管理を適切に行うことができていた。現在は入院中の安全管理として看護師管理となっており、内服確認を行っている。

検査データ
検査項目基準値入院時最近
白血球数(WBC)3500-9000/µL82007600
赤血球数(RBC)435-555×10⁴/µL468472
ヘモグロビン(Hb)13.5-17.5g/dL14.214.0
ヘマトクリット(Ht)40-50%42.843.1
血小板数(PLT)15-35×10⁴/µL22.423.1
AST(GOT)10-40U/L2224
ALT(GPT)5-45U/L2528
γ-GTP16-73U/L3032
BUN8-20mg/dL15.214.8
Cr0.60-1.10mg/dL0.820.80
Na138-146mEq/L140141
K3.6-4.9mEq/L4.24.1
Cl98-108mEq/L102103
血糖70-110mg/dL9892
CRP0.3mg/dL以下0.080.05
今後の治療方針と医師の指示

現在の治療方針として、幻聴や妄想に対する薬物療法を継続しながら、日中の活動性を上げていく予定である。薬物療法ではリスペリドン4mg/日を中心に、不眠対策のブロチゾラム2.5mg/日、錐体外路症状予防のビペリデン2mg/日を継続する。また、作業療法への参加を検討しており、段階的に社会復帰に向けた支援を行っていく方針である。医師からは日中の活動量を増やすこと、水分摂取量の確保、規則正しい生活リズムの維持が指示されている。デイルームでの活動や他患者との交流を促進しながら、症状の安定を図ることが求められている。

本人と家族の想いと言動

本人は現在、「薬のおかげで声が小さくなってきた」と治療の効果を実感しており、「仕事のことが心配」と現実的な内容の発言も見られるようになってきている。一方で、「毒が入っているかもしれない」という発言や、突然「誰かが私の考えを盗んでいる」という訴えも残存している。

家族については、父は「息子の体調が落ち着いてきたら、会社と復職について相談したい」と前向きな姿勢を示している。母は「もっと早く気づいてあげられれば」と自責的な様子が見られ、毎日の面会で息子を気遣っている。妹は週末に面会に来て、「お兄ちゃんの好きなプログラミングの本を持ってきたよ」と支援的な態度を示している。家族全体として、積極的な支援の姿勢が見られ、特に両親は毎日面会に訪れ、回復に向けて協力的である。

この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり

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