本事例の要約
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の急性増悪により緊急入院となった72歳男性の入院4日目の事例である。長年の喫煙習慣があり、入院前から呼吸困難感の増強を認めていた。入院後、酸素療法と薬物療法により症状は改善傾向にあるが、禁煙への意欲は低く、ADLの低下と再発予防が課題となっている。妻は今後の介護に不安を抱えており、包括的な支援を必要としている事例である。
1.健康知覚-健康管理
慢性閉塞性肺疾患は、主に長期の喫煙習慣により引き起こされる慢性の呼吸器疾患である。気道と肺胞の持続的な炎症により気道が狭くなり、肺胞の不可逆的な破壊が進行することで、息切れや慢性の咳、痰の増加などの症状が現れる。この疾患は進行性であり、特に高齢者において日常生活活動の制限や生活の質の低下を引き起こす重大な健康問題となっている。症状の進行により運動耐容能が低下し、日常生活動作の制限や社会活動の縮小につながりやすい。
A氏は1日20本を52年間続けており、ブリンクマン指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)は1040と重度の喫煙歴を示している。ブリンクマン指数が600以上の場合、慢性閉塞性肺疾患の発症リスクが著しく上昇することが知られており、A氏の呼吸機能障害の主要な原因となっている。現在の入院は急性増悪によるものであり、入院時の動脈血ガス分析では、室内気でのPaO2が65mmHgと低酸素血症を呈している。この低酸素血症は気道の炎症と狭窄、肺胞の破壊による換気血流比の不均衡に起因しており、組織への酸素供給低下を引き起こす。また、PaCO2は48mmHgと上昇しており、二酸化炭素の貯留傾向がみられる。二酸化炭素の貯留は中枢神経系に直接作用し、意識レベルの低下やCO2ナルコーシスを引き起こす危険性がある。このため、意識状態の定期的な評価と、頭痛、傾眠、振戦などの症状出現の観察が重要である。酸素療法においては、高濃度酸素投与による呼吸抑制を避けるため、SpO2値を93-95%を目標として慎重な調整を行っている。
健康状態については、身長165cm、体重48kgとやせ型で、過去3ヶ月で7kgの体重減少がみられている。現在のBMIは17.6と低値であり、慢性閉塞性肺疾患の予後不良因子として懸念される栄養状態の悪化を示している。この体重減少は呼吸困難による食事摂取量の低下や、呼吸仕事量の増加による消費エネルギーの増大、炎症に伴う異化亢進が複合的に関連していると考えられる。また、高齢による消化吸収機能の低下も栄養状態に影響を及ぼしている可能性がある。
受診行動については、定期的な外来通院を継続しており、気管支拡張薬(ウノプロスト、テオドール)や吸入薬(スピリーバ、メプチン)による治療を受けている。薬物療法に対する理解は良好で、入院前は内服薬の自己管理も適切に行えていた。吸入手技も確実に習得しており、症状の変化に応じて適切に使用できている。しかし、複数回の禁煙指導にもかかわらず喫煙を継続しており、「こんな年になって今更」という発言からは、疾患の進行予防に対する諦めの気持ちが窺える。この背景には、長年の習慣化による依存性に加え、高齢期における行動変容の困難さが影響していると考えられる。
このアセスメントから、以下の看護介入が必要である。まず、急性増悪からの回復に向けて、呼吸状態の継続的なモニタリングと適切な酸素療法の実施が不可欠である。特に、動脈血ガス分析値の推移、意識状態、呼吸パターン、呼吸困難感の程度を定期的に評価し、二酸化炭素貯留の早期発見と対応に努める。次に、低栄養状態の改善に向けて、摂取カロリーと栄養バランスの評価、食事摂取時の呼吸困難感への対応、補助食品の活用などを含めた包括的な栄養支援を行う。また、禁煙支援については、本人の価値観や生活背景を考慮しながら、禁煙補助薬の活用や段階的な指導方法を検討する。さらに、運動耐容能の改善に向けて、理学療法士と連携しながら呼吸リハビリテーションを実施し、日常生活動作の拡大を図る。
高齢者における慢性閉塞性肺疾患の管理では、身体機能の維持と生活の質の向上を目指した包括的なアプローチが求められる。妻は毎日面会に訪れ、夫の回復を強く願っているものの、退院後の生活に不安を抱えている状況である。そのため、退院前に妻を含めた家族カンファレンスを開催し、症状悪化時の対応方法や医療機関への連絡体制、日常生活での注意点について具体的な指導を行う必要がある。特に、服薬管理や酸素療法の手順、呼吸困難時の対処方法について、妻と一緒に確認しながら実践的な指導を進めることが重要である。また、妻の介護負担を軽減するため、息切れによる活動制限が心身機能の低下を助長する悪循環を防ぐような具体的な支援方法を、家族とともに検討していく。さらに、地域の訪問看護サービスや介護保険サービスの活用について情報提供を行い、退院後の支援体制を整えることで、家族の不安軽減と継続的な健康管理体制の構築を目指す必要がある。
看護問題の明確化
#慢性閉塞性肺疾患に伴う気道クリアランスの低下に関連した非効果的な呼吸パターン
#慢性閉塞性肺疾患に伴う呼吸機能障害に関連した活動耐性の低下
#慢性閉塞性肺疾患に伴う呼吸困難に関連した栄養摂取不足
事例の目次
【ゴードン】慢性閉塞性肺疾患”COPD” 入院4日目 (0008)| 今回の情報
1.健康知覚-健康管理
2.栄養-代謝
3.排泄
4.活動-運動
5.睡眠-休息
6.認知-知覚
7.自己知覚-自己概念
8.役割-関係
9.性-生殖
10.コーピング-ストレス耐性
11.価値-信念
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
看護の攻略部屋wiki
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