本事例の要約
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の急性増悪により緊急入院となった72歳男性の入院4日目の事例である。長年の喫煙習慣があり、入院前から呼吸困難感の増強を認めていた。入院後、酸素療法と薬物療法により症状は改善傾向にあるが、禁煙への意欲は低く、ADLの低下と再発予防が課題となっている。妻は今後の介護に不安を抱えており、包括的な支援を必要としている事例である。
10.コーピング-ストレス耐性
A氏は慢性閉塞性肺疾患の急性増悪により緊急入院となり、現在の入院環境における適応過程にある。入院による活動制限や環境の変化に対してストレスを感じており、「早く家に帰りたい」「庭の手入れが気になる」という発言からは、自宅での日常生活や趣味活動への強い思いが表れている。
入院前の生活では、趣味の庭いじりや将棋を通じてストレス発散を図っていたが、呼吸困難感の増悪により活動が制限され、これらの楽しみが制限されていた。65歳まで大工として勤務していた職歴からは、手先を使う作業や物作りに価値を見出していたことが推察され、その活動制限は精神的なストレスとなっている可能性が高い。
性格的には几帳面で頑固であり、「自分のことは自分でやりたい」という強い自立心を持っている。この性格特性は、症状管理や治療への積極的な参加という点ではプラスに作用する一方で、援助を受け入れることへの抵抗感につながっている。特に、看護師の介助に対して時に消極的な態度を示すことは、自己効力感の低下や無力感につながる可能性がある。
家族的支援基盤としては、70歳の妻との2人暮らしであり、妻は毎日面会に訪れ、精神的な支えとなっている。しかし、妻自身も夫の健康状態や将来の介護に対する不安を抱えており、「このまま悪化したら介護が必要になるのでは」という発言からは、夫婦間での心理的な緊張状態の存在が示唆される。子供たちからのサポートも得られる環境にあるが、特に禁煙に関する助言に対しては「こんな年になって今更」「どうせ長くない」と投げやりな発言があり、家族との建設的なコミュニケーションが阻害されている面がある。
現在の入院生活における適応状況としては、呼吸状態の改善に伴い「少しずつ呼吸が楽になってきた」との発言があり、身体症状の改善が精神的な安定にも寄与している。夜間の睡眠も改善傾向にあり、日中の呼吸リハビリテーションや病棟内の活動による適度な疲労感が、生活リズムの維持に役立っている。医療者に対しては「どうしたら楽に呼吸ができるようになるか」と、呼吸法や運動について積極的に質問する姿勢もみられ、治療への前向きな取り組みが認められる。
一方で、長年の喫煙習慣に対する依存と、その継続への執着は重要な課題である。「退院したら吸いたい」という発言からは、疾患の重症化や家族の心配という認識がありながらも、喫煙という不適切なストレス対処行動を手放すことへの抵抗が強いことが窺える。
看護介入としては、まず入院環境への適応を促進するため、可能な範囲での自己決定の機会を確保し、自尊心を保ちながら必要な援助を受け入れられるよう支援する必要がある。呼吸リハビリテーションの進行に合わせて、できることを段階的に拡大していくことで、自己効力感の回復を図る。また、病室内でも実施可能な趣味活動や気分転換の方法を一緒に検討し、ストレス解消の新たな手段を見出すことが重要である。
家族支援としては、妻の不安や負担感に対する傾聴と支持的な関わりを継続し、夫婦で将来の生活について前向きに話し合える環境を整える。禁煙に関しては、強制的な指導を避け、本人の価値観や生活習慣を尊重しながら、健康管理の動機付けを図っていく。
継続的な観察項目としては、入院生活へのストレス反応、睡眠状態の変化、家族との関係性の変化、そして新たなストレス対処行動の獲得状況などが挙げられる。特に、禁煙の継続に関する思いの変化や、将来の生活に対する受け止め方については、慎重に観察を続ける必要がある。また、退院後の生活を見据えて、自宅での活動再開に向けた具体的な計画立案と、それに伴う不安やストレスへの対処方法についても、入院中から準備を進めていく必要がある。
看護問題の明確化
#入院による活動制限と疾患の進行への不安に関連したストレス状態
事例の目次
【ゴードン】慢性閉塞性肺疾患”COPD” 入院4日目 (0008)| 今回の情報
1.健康知覚-健康管理
2.栄養-代謝
3.排泄
4.活動-運動
5.睡眠-休息
6.認知-知覚
7.自己知覚-自己概念
8.役割-関係
9.性-生殖
10.コーピング-ストレス耐性
11.価値-信念
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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