本事例の要約
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の急性増悪により緊急入院となった72歳男性の入院4日目の事例である。長年の喫煙習慣があり、入院前から呼吸困難感の増強を認めていた。入院後、酸素療法と薬物療法により症状は改善傾向にあるが、禁煙への意欲は低く、ADLの低下と再発予防が課題となっている。妻は今後の介護に不安を抱えており、包括的な支援を必要としている事例である。
4.活動-運動
A氏は慢性閉塞性肺疾患の急性増悪により入院加療中であり、現在の活動状況は疾患による呼吸機能の低下が大きく影響している。入院前まで自立していた日常生活動作は、呼吸困難感により制限されており、特に労作時の息切れが顕著である。現在の活動範囲は病棟内に限られ、歩行器を使用しての移動となっている。トイレまでの移動時には酸素ボンベに切り替えての移動が必要であり、看護師の付き添いのもと、適宜休憩を取りながら10mの距離を移動している。連続歩行可能距離は20m程度と制限されているが、これは呼吸困難感が主な要因となっている。
呼吸機能の状態は、入院時のバイタルサインでは、体温37.8℃、血圧148/88mmHg、脈拍98回/分、室内気でのSpO2が88%と著明な低下を認めていた。現在は酸素1L/分の投与下でSpO2 95%と改善傾向にあるものの、労作時の呼吸状態の観察を継続する必要がある。動脈血ガス分析では、PaO2 75mmHg、PaCO2 46mmHgと改善傾向にあるが、依然として呼吸機能の制限が認められる。
血液データからは、赤血球数448万/μL、ヘモグロビン13.9g/dL、ヘマトクリット41.5%と貧血は認められないが、炎症反応のCRPは1.2mg/dLと軽度上昇が継続している。これは呼吸器感染の回復過程を示唆していると考える。
職業歴として65歳まで大工として勤務していたことは、上肢の筋力維持に寄与していると考えられる。しかし、呼吸困難感の増強により退職を余儀なくされており、活動量の低下が体重減少にも影響している可能性がある。住居環境については2階建ての自宅で階段昇降を要する環境であることから、退院後の生活における負担が予測される。
転倒転落のリスク評価では、呼吸困難感による活動制限と筋力低下、また72歳という年齢による身体機能の低下が危険因子として挙げられる。特に、トイレ移動時の酸素ボンベの操作や歩行器の使用、疲労感による注意力の低下などが転倒リスクを高める要因となっている。転倒リスクの軽減のために、移動時にはナースコールでの介助要請を徹底するよう指導が必要である。特に、夜間のトイレ移動時は自己判断での移動を避け、必ずナースコールを使用するよう説明することが重要である。
必要な看護介入として、まず呼吸リハビリテーションの継続と段階的な運動負荷の増加が重要である。腹式呼吸や口すぼめ呼吸の習得支援、6分間歩行試験の実施による運動耐容能の評価を行う必要がある。また、活動時の酸素飽和度と呼吸状態の観察を継続し、過度な負荷を避けながら活動範囲の拡大を図ることが求められる。
移動時の安全確保に関しては、歩行器使用時の看護師による見守りを徹底し、呼吸状態と疲労度を評価しながら適切な休憩を促す必要がある。A氏の「自分のことは自分でやりたい」という思いを尊重しつつも、安全性を優先する必要性について理解を促すことが重要である。また、酸素ボンベの操作方法の指導や歩行器の適切な使用方法の確認、休憩を取るタイミングの自己管理能力の向上支援が必要である。さらに、明日から開始予定のシャワー浴に向けた入浴動作の評価と介助方法の検討、衣類の着脱時の呼吸困難感への対応など、日常生活動作全般における具体的な指導と支援が重要である。
今後の観察ポイントとして、労作時の呼吸状態の変化、疲労度、活動範囲の拡大に伴う身体反応の観察が必要である。特に自立志向の強いA氏の特性を考慮し、ナースコールの使用状況や介助要請のタイミング、自己判断での移動有無について慎重に観察を継続する必要がある。安全な移動のための介助の必要性については、A氏の理解度を確認しながら繰り返し説明することが重要である。また、体重減少に対する栄養状態の評価と介入、筋力低下予防のための運動プログラムの調整も継続して実施する必要がある。自宅退院に向けては、階段昇降を含めた実際の生活動作の評価と、必要な環境調整の検討が重要である。さらに、禁煙指導を通じて呼吸機能の改善と維持を図ることは、活動能力の向上において不可欠な要素となる。
看護問題の明確化
#疾患に伴う気道閉塞に関連した活動耐性の低下
#疾患に伴う呼吸機能の低下に関連した転倒・転落のリスク
事例の目次
【ゴードン】慢性閉塞性肺疾患”COPD” 入院4日目 (0008)| 今回の情報
1.健康知覚-健康管理
2.栄養-代謝
3.排泄
4.活動-運動
5.睡眠-休息
6.認知-知覚
7.自己知覚-自己概念
8.役割-関係
9.性-生殖
10.コーピング-ストレス耐性
11.価値-信念
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
看護の攻略部屋wiki
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