【ゴードン】大腿骨転子部骨折 在宅復帰を目指す(0004)| 10.コーピング-ストレス耐性

ゴードン

本事例の要約

右大腿骨転子部骨折後、γネイル固定術を施行し、術後3週間が経過した85歳女性の事例。骨粗鬆症、高血圧症、高脂血症の既往があり、術後のリハビリテーションは概ね順調に進んでいるものの、ADLに一部介助を要する状態。本人は早期の茶道教室再開を希望しているが、家族は安全な在宅復帰を重視しており、目標設定に違いがみられる事例。介入は術後3週間目である。

10.コーピング-ストレス耐性

A氏は緊急入院による環境の急激な変化に直面しており、独居から集団生活への移行、自宅での茶道教室運営から入院生活への転換という大きな生活変化を経験している。また、術後3週間が経過した現在、夜間の不眠や軽度の不安症状が出現しており、環境変化へのストレス反応が認められる。特に夜間は1-2回の排尿による中途覚醒があり、再入眠困難な状況が続いていることから、睡眠の質の低下がストレス耐性に影響を及ぼしている可能性がある。

ストレス対処方法として、これまで茶道教室の運営や週1回の読経会への参加が重要な役割を果たしてきた。特に茶道は教授資格を持ち、自己実現と社会的役割の両面で生活の支えとなっており、早期の教室再開への強い希望がリハビリテーションへの意欲につながっている。入院中も仏壇の写真を枕元に置き、毎朝読経の時間を設けることで、精神的な安定を図っている様子が見られる。このような信仰心は、ストレス対処における重要な内的資源となっている。

家族サポートについては、長女が週2回の面会を行い、次男も近隣市に在住していることから、物理的な支援体制は整っている。しかし、長女は仕事と介護の両立に不安を抱えており、「できるだけ母の希望に沿いたいが、私たちにできるサポートには限界がある」と発言していることから、家族の支援体制にも一定の限界があることが推察される。

A氏の性格特性として、温厚でありながら自己主張が強く、医療者の助言を受け入れにくい面があることは、ストレス対処方法の特徴として考慮する必要がある。「今までも自分のやり方でやってきた」という発言からは、自己の価値観や生活様式を重視する傾向が強いことがうかがえる。このような特性は、自己決定や自立への意欲として肯定的に作用する一方で、新しい環境への適応や医療者との協働に際して課題となる可能性がある。

看護介入としては、まず不眠に対する環境調整が重要である。夜間の排尿パターンに合わせた照明の工夫や、ポータブルトイレの適切な配置など、安全かつ安心できる睡眠環境の整備が必要である。また、日中の活動と休息のバランスを整え、生活リズムの安定を図ることで、夜間の睡眠の質の改善を目指す。

精神面へのサポートとして、読経の時間を確保し、信仰活動が継続できるよう配慮する。さらに、茶道に関する話題を傾聴し、教室再開に向けた具体的な計画を一緒に検討することで、回復への意欲を支持する。一方で、早期退院への焦りから無理な活動を行わないよう、適切な助言と支援を行う必要がある。

家族支援については、長女の介護負担感に配慮しながら、地域包括支援センターや介護支援専門員と連携し、利用可能な社会資源の情報提供と調整を行う。退院後の生活を見据えた具体的な支援計画を、本人と家族の意向を確認しながら多職種で検討していく必要がある。

継続的な観察が必要な点として、不眠や不安症状の推移、日中の活動状況、家族の負担感の変化などが挙げられる。特に退院が近づくにつれて新たなストレス要因が生じる可能性があるため、定期的な面談を通じて心理状態の評価を行い、必要に応じて支援内容の修正を検討する必要がある。

看護問題の明確化

# 入院による生活環境の変化に関連した不安

事例の目次

この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり

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