本事例の要約
非小細胞肺癌(腺癌)Stage IIIBと診断され、化学放射線療法後に維持療法としてペムブロリズマブによる免疫チェックポイント阻害剤治療を受けている患者が、治療3クール目で間質性肺炎を発症し、ステロイドパルス療法を行った事例。11月15日介入(入院11日目)。
1.健康知覚-健康管理
A氏は右上葉原発非小細胞肺癌(腺癌)cT2aN2M0 Stage IIIBと診断されている。この疾患は原発巣が右上葉に存在し、縦隔リンパ節転移を伴うが遠隔転移のない進行肺癌である。手術適応外と判断され、6か月前に根治的化学放射線療法(シスプラチン+ペメトレキセド併用放射線療法60Gy/30fr)を完了し、その後ペムブロリズマブによる維持療法を行っていたが、3クール目投与後に薬剤性間質性肺炎を発症し現在治療中である。
薬剤性間質性肺炎は、薬剤によって引き起こされる肺胞壁と間質の炎症性疾患である。ペムブロリズマブのような免疫チェックポイント阻害剤では、過剰な免疫反応により肺組織が障害され、肺胞上皮細胞や毛細血管内皮細胞の損傷が生じる。これにより肺胞壁が肥厚し、ガス交換障害を引き起こす。A氏の場合、両側肺底部を中心としたすりガラス陰影が認められ、KL-6値(1250 U/mL)やSP-D値(245 ng/mL)の上昇があり、免疫関連有害事象(irAE)による間質性肺炎と診断された。この病態は進行すると肺線維症に至る可能性があり、早期の診断と治療が予後改善につながる重要な因子となる。治療の基本はステロイド療法であり、A氏に対しても高用量ステロイドパルス療法が実施されている。
A氏の現在の健康状態は、免疫チェックポイント阻害剤による重篤な有害事象である間質性肺炎を発症し、入院加療中である。入院時(11月5日)には乾性咳嗽、労作時呼吸困難、微熱(37.6℃)、SpO2 94%(室内気)と低酸素血症を呈していたが、ステロイドパルス療法とその後のプレドニゾロン内服により症状は改善傾向にある。入院11日目の現在は解熱し、安静時呼吸困難感はほぼ消失、SpO2も室内気で98%まで回復している。しかし、中等度以上の労作時にはSpO2低下(95%程度)を認め、完全な回復には至っていない。また、ステロイド治療に伴う高血糖のためインスリン療法が必要な状態であり、複数の健康問題を抱えている。
A氏の受診行動は適切であり、ペムブロリズマブ投与後に出現した呼吸器症状に対して速やかに医療機関を受診している。これは、A氏が几帳面で真面目な性格であり、自分の病気や治療について積極的に知識を得ようとする姿勢の表れである。疾患や治療に対する理解も良好で、現在の間質性肺炎の治療内容や今後の肺癌治療方針についても理解できている。一方で、ステロイド減量に伴い血糖コントロールが複雑になることや、肺癌治療の中断による今後の見通しについては不安を抱えている。
服薬状況については、入院前は全ての内服薬を自己管理しており、アドヒアランスは良好であった。几帳面な性格から、自宅ではピルケースを使用して計画的に服薬管理を行っていた。入院後はステロイド療法とインスリン治療の開始により、現在は看護師管理となっている。特に新たに導入されたインスリン療法については、「間違えたら危険だから、しっかり覚えてから自分でやりたい」と慎重な姿勢を示している。これは安全に対する意識の高さを示すと同時に、正確に行いたいという几帳面さの表れであり、退院に向けて自己管理能力を高めるための教育的介入が必要である。
インスリン自己注射の手技指導については、段階的なアプローチが必要である。具体的には、まず基本的な知識として、①インスリンの種類と作用時間(ランタスは持続型、ノボラピッドは超速効型)、②保存方法(冷蔵保存の必要性)、③低血糖症状と対処法について説明する。次に手技指導として、①血糖測定器の使用方法(穿刺部位の選択、測定手順、記録方法)、②インスリン注射手技(注射部位のローテーション、皮膚の消毒、空打ち確認、適切な注射角度、注射後の押さえ方、時計回りで注射部位を毎回変える必要性)の実践練習を行う。さらに③シリンジの操作やインスリンペンの取り扱い方、単位の合わせ方について具体的に指導する。実施は見学→指導下での実施→自立へと段階を踏み、毎回の実施状況を評価し、不安や疑問に丁寧に対応する。A氏の場合、血糖測定は看護師の見守りのもとできるようになりつつあるが、インスリン注射に対しては不安が強いため、特に注射手技に重点を置いた繰り返しの指導と、成功体験による自信の獲得を支援する必要がある。また、退院後の生活に合わせた注射時間や食事との関連についても指導し、実際の生活の中で継続できる自己管理方法を確立することが重要である。
身体状況として、身長170cm、体重58kg、BMI 20.1であり、標準体型を維持している。入院前は定期的に近所を30分程度散歩する習慣があり、筋力維持に努めていた。しかし現在は間質性肺炎の影響により、長距離歩行時や階段昇降時に息切れを認め、連続歩行は100m程度が限界である。間質性肺炎の改善とともに、段階的に運動耐容能を評価しながら活動量を増やしていく看護介入が必要である。
呼吸に関するアレルギーとして薬剤性の間質性肺炎を発症しているが、他の呼吸器系アレルギーの既往はない。ただし、薬剤アレルギーとしてペニシリン系抗生物質でじんましんの既往があり、薬剤選択の際には注意が必要である。飲酒歴については、以前はビール500ml/日程度の習慣があったが、アルコール性肝障害の既往から現在は完全に禁酒している。喫煙歴は40本/日×40年(ブリンクマンテスト1600)と重度であったが、肺癌診断時(約8ヶ月前)に禁煙し現在も継続している。この長期かつ重度の喫煙歴は肺癌発症のリスク因子となっており、また呼吸機能にも影響を与えている可能性が高い。入院時の呼吸機能検査では%VC 72%、FEV1.0% 65%と拘束性換気障害と閉塞性換気障害の混合パターンを示しており、これには長期の喫煙影響と間質性肺炎の両方が関与していると考えられる。
既往歴として、高血圧症(10年前から)と2型糖尿病(8年前から)があり、いずれも服薬加療中である。高血圧に対してはアムロジピン5mgを内服しており、血圧コントロールは良好である。2型糖尿病に対してはメトホルミン500mgを内服していたが、現在はステロイド誘発性高血糖のため中止され、インスリン療法に切り替わっている。また、アルコール性肝障害の既往もあるが、禁酒により肝機能は改善傾向である。これらの生活習慣病の存在は、65歳という加齢による代謝機能の変化と、これまでの生活習慣が複合的に影響している可能性がある。特に喫煙・飲酒習慣と、おそらく建設現場での不規則な食生活などが影響していると推測される。
A氏が受けた抗がん剤治療(シスプラチン+ペメトレキセド)と免疫チェックポイント阻害剤(ペムブロリズマブ)は多様な副作用を引き起こす可能性がある。シスプラチンによる副作用として、腎機能障害、末梢神経障害、聴覚障害、悪心・嘔吐、骨髄抑制などがあり、ペメトレキセドでは疲労感、粘膜障害、消化器症状、皮膚反応などが生じる可能性がある。特にA氏の場合、糖尿病と腎機能低下(eGFR 72 mL/min/1.73m²)があり、腎毒性のあるシスプラチンの影響を受けやすい状態であるため、腎機能の継続的な観察が重要である。また、化学放射線療法後の維持療法として使用されたペムブロリズマブは、免疫関連有害事象(irAE)として間質性肺炎、甲状腺機能異常、下垂体炎、1型糖尿病、皮膚障害、大腸炎など多様な自己免疫疾患様の副作用を引き起こす可能性がある。A氏は既にirAEとしての間質性肺炎を発症しているが、他のirAEの発症リスクもあるため、甲状腺機能検査や血糖値の定期的なモニタリングを継続する必要がある。
これら抗がん剤治療の副作用に対するケアとして、①末梢神経障害の有無と程度の評価(手指のしびれ、感覚異常の確認)、②腎機能保護のための十分な水分摂取の推奨と排泄状況の観察、③骨髄抑制に伴う感染予防策(手洗いの徹底、マスク着用、人混みの回避)、④口腔粘膜炎予防のための口腔ケア指導、⑤皮膚障害に対する保湿ケアの指導が重要である。また、今後再開される可能性のあるドセタキセル単剤療法についても、特徴的な副作用である浮腫、爪の変化、脱毛などについて事前に説明し、心理的準備と対処法の指導を行う必要がある。
A氏は現在、肺癌という生命を脅かす疾患と、その治療による重篤な副作用である間質性肺炎という二重の健康課題に直面している。間質性肺炎の改善とともに、今後の肺癌治療再開に向けた身体的・精神的準備が必要である。看護介入としては、呼吸状態の継続的なモニタリングと共に、血糖コントロールに関する自己管理能力の向上支援、そして疾患理解や不安軽減のための情報提供と精神的サポートが重要である。また、退院後も持続する可能性のある労作時呼吸困難に対する日常生活の工夫や、急性増悪時の対応について教育的介入を行う必要がある。さらに、長期的な視点では、禁煙継続支援と、再発防止のための定期受診の重要性について理解を促す関わりが求められる。
看護問題の明確化
#化学療法による間質性肺炎に関連した呼吸機能障害
#ステロイド療法に関連した高血糖状態
#抗がん剤治療の副作用とその観察に関連した健康管理知識の不足
#治療(ステロイド漸減とインスリン療法)に関連した自己管理能力の不足
#間質性肺炎の発症と肺癌治療の中断に関連した疾患理解の必要性
#抗癌剤治療と免疫抑制状態に関連した感染リスク
事例の目次
【ゴードン】肺癌 化学療法中に副作用(0020)| 今回の情報
1.健康知覚-健康管理
2.栄養-代謝
3.排泄
4.活動-運動
5.睡眠-休息
6.認知-知覚
7.自己知覚-自己概念
8.役割-関係
9.性-生殖
10.コーピング-ストレス耐性
11.価値-信念
看護計画
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
看護の攻略部屋wiki
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